ピンポーン

家の中に玄関からの呼び出し音が鳴り響く。

ピンポンダッシュ等の悪戯でもない限り、これは来客者が来たというサインである。なので、

「はいよっと」

手に持っていたゲームのコントローラーを床に置き、俺はトットットと廊下を走る。

お客様の出向かいは迅速にしないとな、うん。

決して以前に対応が遅いとタマ姉に怒られたわけじゃないぜ?

などと自分に言い訳をしているうちに玄関に到着。ドアノブを握り、

「はーい」

玄関のドアを押してみると

「よっ」

そこには何故だか由真が片手を挙げて立っていた。

 

 

由真ちゃんと貴明くんと

 

 

「……」

……

カチャ

「ちょ、ちょっとなんでしめちゃうのよ!!」

そう言ってドアノブに手をかけがちゃがちゃと動かす。

「開けなさいよー!!」

がちゃがちゃがちゃがちゃ

更に激しさが増した。
……。

カチャ

「……止めろ由真。人の家のドアを破壊す気か?」

「あんたが勝手に閉めちゃうから悪いんでしょ!!」

いつもの調子で怒鳴る由真。

ふん、よく考えてみろ?こんな平穏を絵に描いたような休日に騒音公害の元が玄関先に突っ立っていたんだ。

そりゃ誰でも見なかった事にしたくもなるだろうが?

「誰が騒音公害だ!!」

地団駄を踏みながらカナキリ声を上げる。

だから騒音公害だっていうんだよ。

まったく、自覚が無いのは本人だけとはよく言ったもんだな。

しかしこのままほっとくわけにもいかないか。ご近所様からへんな目で見られたくはないからな。

何かこいつを止めるいい方法は……。

「ちょっと人の話を聞いてんの!!」

暫し思考する。

……。

はぁ。

溜息一つ。

そんな方法など存在していないのだ。残念ながら。

だったら俺が出来る事は一つだけ。

「わかったわかった」

クイクイっと家の中を指してやる。

「とりあえずあがっとけ」

そう、こいつの被害を俺へと集中させることである。

もしこのまま騒ぎ続けてタマ姉が飛んできたらそれこそ大事だからな。被害は最小限にくいとめないと。

「ふん、最初から素直にそうしていればいいのよ」

俺の心境も知らず、ふふーんと胸を張りながら偉そうにズカズカと家の中に侵入していく由真。

遠慮のかけらも無い奴だ。せめてお邪魔しますぐらいは言っとけ。

「いいじゃないのよ、あんたの家なんだから」

理由になっていない言葉を吐きながら奥に進んでいく。

そんな奴の背中を見ながら俺はあきらめるように首を振る。

「やれやれ、折角の休日もこれで終いか」

……溜息が出てくるぜ、まったく。

 

「あ、あんたこのゲーム買ったんだ」

まるで自分の家かのように居間へ入ってきた奴は、目ざとく俺が先程までプレイしていたゲームに目を付けた。

「ふーん、どれどれ……」

勝手にポーズをとき、色々といじくりまわす。もちろん俺への使用許可は出されていない。まぁ、もし出されたとしても即却下だけどな。

「ふふーん」

色々といじくりまわした後、こちらに顔を向け、ニンマリと笑う由真。

「あたしの方が進んでるわね」

「……」

……またくだらない事を。

俺はRPGはじっくりやるタイプなんだよ。早解きは趣味じゃないんでね。

「ふん、負け惜しみを」

悪いがそういう気持ちはプランクトンの大きさ程度も持ち合わせていない。

「ま、いいわ。はい」

奴の右手には2Pのコントローラーが握られている。

これを俺にとれというのか?

「当たり前でしょ。折角あたしが進めてあげようって言ってんだから少しは協力しなさい」

そんな事を言っていたなんて初耳だな。つーかおまえ、ガキのころ人に迷惑をかけちゃいけませんよって教えてもらわなかったのか?

「いいから、早く取る!!あたし一人で進めちゃってもいいわけ?」

「……はいはい」

なけなしの小遣いをはたいて買ったゲームを勝手に進められたらかなわないので、俺は素直にコントローラーを手に取った。

にしても由真の奴、このゲームは一応2プレイらしきものができるからいいが、純粋に一人用のゲームだった場合はどうしたんだろうか。

そんな事を思い横に顔を向けてみると、

「ん、なによ?あ、あんたは呪文使う奴を操作してね。前衛はあたし一人で十分だから」

……考えるまでもなかったか。

こうして俺は低いモチベーションのまま、由真とゲームを始めるのだった。

 

数十分後……

「なあ由真」

「あん、なによ。もうすぐボス戦なんだから気合いれなさいよね」

ゲームで気合いれてもしかたないと思うが、今言うべき事はそれではない。

俺はこいつが玄関に立っていた頃から気になっていた質問をぶつける。

「なんで今日はうちにきたんだ?」

ピクッ

俺の問いかけで由真の活動が一瞬停止する。

「え、えーと……」

「まさか泊まりに来たなんて言わないよな」

「な、なんでわかったの?!……はっ!!」

しまったという感じに口を押さえる由真。

やっぱりな。

というかこいつは俺がわかっていないと本気で思っていたのだろうか

こんな大きめのバックを俺が見える位置に晒して置いて。

「ふ、ふん!なかなかやるわね貴明。ばれてしまっては……」

「泊めないぞ」

「なんでよ!!」

俺は付き合っていられないといった感じで首を振り、

「あのなー、なんで自分から厄介ごとを抱え込まなければいけないんだよ」

勝手に女の子を家に泊め、もしそれがタマ姉にばれたら天罰決定である。

こいつのくだらない理由でそんなリスクを負うなんてとてもとても。

「くだらなくなんかないわよ!!いい、よく聞きなさいよ!!」

「……どうせミルファがらみだろ」

「ギクッ!!」

俺がボソッと吐いた一言に明らかな動揺を示す由真。

相変わらず解り易すぎる奴である。

そんな由真を哀れむような眼差しで見ながら、

「お前もいい加減あきらめろよ、な」

ポンポンと肩を叩いてやる。

「う〜、だって〜」

うん、なんだ?理由ぐらいは聞いてやる。言ってみろ。

「ミルファったら……」

ピンポーン

またもや玄関からの呼び出しがかかった。

「……ちょっと待ってろ」

とりあえず由真の事は切り上げて玄関に向かう俺。

ガチャ

玄関の先にいた人物は……。

 

「由真、お前に客だぞ」

そう言って俺は来客者を居間に通す。

「げ、ミルファ」

そう、そこには由真の家でテストを行っている珊瑚ちゃん製作のメイドロボが立っていた。

「なんでここがわかったのよ」

「……お嬢様の行動など予測済みです」

そう言って辺りを見渡した後、溜息一つ。

……溜息をつくっていうメイドロボも珍しいよな。

「まさか本当に家を飛び出してしまうとは……」

「あん?どういうことだ」

「実は……」

 

「おまえさ、本気でアホだよな」

ミルファからの説明を聞いた後俺は凄い脱力感に襲われた。

なんでもこいつ、新作ゲームを買ってから空いている時間はずーっとゲームをしっぱなしだったそうだ。

そんなにやっていた所為で寝不足に陥り、ミルファの授業にも身が入らなくなったため、ゲーム抑制令が発行されたらしい。

で、それに不満を覚えた由真は家を飛び出したというわけだ。

まぁ、ミルファの授業によってストレスが溜まっていた所為もあると思うが、何もこんな事でそれを爆発させなくてもよいだろう。

「あんですとー!!」

アホな子は無視し、

「ミルファ、お前も色々大変だな」

苦労者に労いの言葉をかけてやった。

「いえ、もう慣れました」

首を振り、あきらめの表情をつくるミルファ。

関係ないが珊瑚ちゃん製作のロボットはなんでこんなに人間臭いんだろう?ダイコンなんとかの影響か?

「ですが、今回は私の方にも落ち度がありますので……」

いや、今回は全面的に由真が悪いと思うんだがな。

「何、ゲームしてもいいの?」

いえ、と首を横に振り、

「お嬢様のストレス解消のためにも、こちらへのしばらくの滞在を希望したいのですが」

……はぁ?

イキナリナニヲイッテイルノデスカ。

「よろしいでしょうか、貴明様?」

よろしいでしょうか、ってミルファ。俺には全然わけがわからないんだけど。

「環境を変えることは時としてストレス発散の効果がある、と私はメモリーしているのですが」

いや、まぁ、確かにそうだけどさ。ほら、仮にもこいつ生物学上は女だろ?それが一人暮らしの男の家に泊まるなんて、あの爺さんが許さないだろ。

「あんた、失礼な事をサラッといってくれるわね」

で、そこんところはどうなんだ?

「無視か!!」

「その事でしたらご心配なく。名目は執事の研修だと既に話は通してきましたから」

……準備いいな、お前。

「お褒めに預かり光栄です」

いや、どちらかというとその用意周到さにあきれているのだが。

「ん、でも研修ってことは……」

「はい、私もこちらに泊まらせていただきます」

至極辺り前のように言い放つメイドロボ。

ってお前も泊まる?!

「ええ。しっかり執事の心得を叩き込んでやってくれとご命令を受けたので。それに私も一緒でしたら、お嬢様を泊めても何も問題はないはずですが」

「いや、でも、しかし……」

俺が返答に困っていると、

「私は女性型ですが、ロボットなのですよ?貴明様」

そう言って黒い瞳で俺を見つめるミルファ。

……由真と二人っきりの状況は道徳上問題があるが、そこにロボットである自分が監視役として入れば問題はない。

きっとこいつはそう言いたいんだろう。

さすがはイルファさんの妹。上手い言い回しだ。

しかしここで頷こうものなら俺の平穏が……。

「それとも……」

そう言うとミルファは俺に顔と顔が触れるくらいに急接近し、

「姉さんは泊められて、私は駄目と貴明様はおっしゃるのですか」

ギクッ!!

俺にしか聞こえないくらいの小さな声にドキリとする。

な、なんでこいつがあの事を知っているんだ?

俺が狼狽している隙にミルファは一歩下がり、

「では、お返事を頂きたいのですが」

「……許可します」

切られたカードに抵抗する術はあるはずもなく、俺はギブアップを宣言した。

「さすがはミルファ……強い

……お前は黙っていろ。

 

数日後……。

こうして由真&ミルファが俺の家に滞在する事になったのだが、問題が一つ。

「お前らいつまでいるんだ?」

「ん?適当に」

「私はお嬢様の気が済むまでです」

ソファーに寝ながら答える由真と、食器を洗いながら答えるミルファ。

ああ、じゃあ当分先だな。

ミルファの奴、家に来てから授業らしい授業なんてほとんどやらず、家事ばっかりしてやがる。

お陰で由真は遊びたい放題だ。こんな状況をそうそう切り上げるとは思えない。

ミルファがいてくれて俺の生活は大助かりなのだが、やはり一人暮らしの気ままさも恋しいものである。

そんな事を考えているうちにミルファが俺の近くにやってきて、

「私はずっとこのままでもいいのですけれどね」

貴重な笑みを見せてくれたりするのだった。

 

 

終わり

 

 

 

あとがき

久々にミルファの登場です。どうだったでしょうか?

個人的には……普通?

ですが久しぶりにミルファを書けて満足です。

次回は、次回は……。

すんませんまだ未定。ネタの整理がついていないんですよ。

なので出来てからのお楽しみってことで。

ではでは

 

 

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送