由真ちゃんと雄二君と

 

 

 

今日の授業も終わり、帰りの仕度をしている俺に雄二が声を掛けてきた。

「よう、貴明。暇だろ?一緒に帰ろうぜ」

今日は特に用事も無いし雄二に付き合うのもいいだろう。

「そうだな。帰るか」

「おっし、そうこなくっちゃな」

雄二がニカっと笑う。

「で、どこに寄っていくつもりなんだ?」

こいつと帰る=どこかに寄り道をするということだ。

「そうだな、ゲーセンなんてどうだ?最近行ってないし」

ゲーセンか……。由真にぼろ負けしたときのリベンジがまだだったな。丁度いい、雄二に練習台になってもらおう。

「偶には格ゲーでもどうだ?」

「お、いいね。もちろんヤックを賭けるよな」

「当然」

緊張感があった方が練習になるし、なにより盛り上がるしな。

「んじゃあ今日はゲーセンに決定ってことでOKだな?」

「ああ、望むところだ」

「よし、では出発」

そうして俺たち二人は教室を後にするのだった。

 

現在校門を少し出た辺り。

「なぁ、貴明?」

「なんだよ」

「やっぱりメイドロボっていいよな〜」

夢見るような表情の雄二。つーか男がそんな顔するな。気持ち悪い。

「そうか?俺にはよくわかんないけど」

「かー!これだからもてもて君は!ふっ、仕方ない。今日はそんなお前の為にこの俺が特別にメイドロボについて語ってやろう」

ふぁさーっと髪をかき上げる。全然にあってない。

「いや、いい。全力で拒否する」

「まぁ、そう言うなって。メイドロボの魅力を知らないようじゃ人生の八割を損してるようなもんだぜ?ん?」

俺の肩に手を置きながら雄二が目を瞑りながら言う。八割って殆どじゃねーか。つーかお前の人生の八割はメイドロボなのか?

「いいか、メイドロボといえば御主人様を朝起こしに来てくれるものなのだ。想像してみろ?可愛いメイドロボの顔を朝一で見られるんだぞ?それだけでその日が輝いてくるってもんじゃないか!」

「でも、おまえメイドさんに起こしてもらってるじゃないか」

タマ姉が帰ってきた今でも確かまだ向坂家で働いていたと思うんだが。

「馬鹿野郎!あれはお手伝いさんだって何度言わせれば気が済むんだよ!あんなのをメイドなんて言った日には全国のメイドさん愛好家の人たちに刺されるぞ?!」

こちらに向かって凄い剣幕で言ってくる。俺は今雄二に刺されるかもしれない。

「まったく、これだから素人は困る。でも、まぁいい。続きだ。起こしてもらった後はメイドロボお手製の朝食を食べ、学校に行く。そして行く前は『いってらっしゃい』と言ってもらうんだ。もちろん弁当を貰う事を忘れちゃいけない。だけどわざと忘れて学校に持ってきてもらうのもなかなか通好みなシチュエーションだ」

通好みって……。なんだかメイドロボについて語っている雄二は遠い人に見えますな。

「そして意欲満点で学校の授業に挑むって訳だ。なぜかって?そんなの決まっている。その方が弁当をより上手く食べれるからだ」

「ということは、もしおまえの家にメイドロボがいてさっき言ったような事をやってくれればお前は毎日授業を真面目に受けると?」

「何当たり前の事言ってるんだ、貴明?当然だろ」

腰に手を当てて胸を張る。

「本当か?だってお前ほとんど真面目に授業なんて聞いてないだろ?」

「折角メイドロボが俺の為に作ってくれた弁当だぞ?なんの苦労もしないで食べたら罰が当たっちまう」

罰って……。そんなの誰から来るんだよ?もしかして全国にいるメイド愛好家の人たちからか?

「それで家に帰ったら『おかえりなさい』と言ってもらう。これで一日の疲れなんて吹き飛ぶね!これだけで飯が三杯はいける」

「……」

「その後は勉強するのもいいかもな。マンツーマンで教えてもらえば、俺は学年トップを取る自信もあるぜ?……ってどうしたよ?黙っちゃって」

「いや、お前ってメイドロボに凄い入れ込んでるんだなーっと思ってさ」

「そう、その通りなんだ」

拳をググッと握り締めて力説する。

「俺はこれ程メイドロボの事を思っているのに姉貴は俺の言う事を全然聞いてくれないんだ」

ああ、タマ姉って機械関係にかなり疎いからな。メイドロボにもきっと偏見をもってるんだろう。

「なぁ、貴明からも言ってやってくれねぇか?今の時代一家に一台はメイドロボが必要だって。姉貴もお前が言えば聞いてくれるかもしれないだろ?」

「お前、それを言うためにこの話をふってきたな?」

「おう、当たり前だ」

なんの気後れも無くそう言い切る。ここまでこられると、清清しさを感じてしまう。

「お前な、タマ姉が俺ごときの意見で自分の考えを曲げると思うか?」

「思うから言ってるんじゃないか。あの姉貴でもお前が説得すればなんとかなるって」

そうか?あのタマ姉だぞ?絶対無理だと思うんだけど。

「な、な?頼む!この通りだ。上手く買ってもらえたらお前にも恩恵をやるから!」

胸の前で手を合わせ、拝むように頭を下げてくる。さて、どうしたものか……。

「ふん、メイドロボにそんな夢見てるなんてあんた、全然わかってないわね」

俺が返答に困っていると後ろから声が聞こえてきた。

「なに!誰だ!……ってお前は!」

「由真か」

振り向くと俺たちのすぐ後ろに由真が立っていた。

「向坂雄二!あんたは間違ってる!」

「な!俺の何処が間違ってるって言うんだ!」

雄二に向かいビシッと指を突きつける由真。それに対し即座に雄二が反論する。

「あんたはメイドロボに偏見を持ってるっていうのよ」

「この俺がメイドロボに偏見を持ってるだと?お前!言っていい事と悪い事があるぞ!」

雄二が由真を怒鳴りつける。しかし由真は怯まない。

「どうせあんたの事だからメイドロボってみんな可愛くて、素直で優しく自分の言う事を何でも聞いてくれるとか思ってるんでしょ?」

いや、さすがの雄二もそこまで自分に都合よく考えては……。

「おう!当たり前じゃないか!」

ええ!思ってるのかよ?!それは確かにちょっと偏見かもしれない。

「ふん、やっぱりね。確かにそういうメイドロボもいるかもしれない。でも中には凄く性格の悪い奴もいるのよ!

「嘘だ!メイドロボは俺たちの夢、希望なんだ!性格の悪い奴なんているわきゃねぇ!」

「いいわ。じゃあ話してあげる」

そう言うと由真は大きく息を吸い込む。

「だいたいねメイドロボに夢を持つ事自体間違ってるのよ家にいるメイドロボなんて性格の悪さが並じゃないわご飯を作る時だってね好き嫌いをなくす為ですって言ってテーブルの上の料理全部あたしの嫌いなもの並べてくるのよ?信じられる?こっちが何食べたいって言っても全く聞かないしさしかもそれ食べ終わるまで席を立っちゃいけないなんてこっちは小学生じゃないのよ?いい加減にしてほしいわそれだけじゃないわ勉強だってね教えてくれるのは良いんだけど何を教えてくれると思う?帝王学とか経済学よ!今のあたしに必要ないじゃないしかもわからないって言うとあなたは馬鹿ですかみたいなこと言われるしちょっとでも寝ると頭はたくしメイドロボが人の頭はたくのよ?ここだけでもあんたの想像とは違うわよねおっと話がそれたわねつまりあいつがあたしに教える事といったら使わない事ばかりなのよ?この前宿題を聞いたときなんかそんなものは自分で考えて下さいってつっかえされたわいらんこと教わるより宿題を教えてもらった方がよっぽどあたしの為になるっていうのになんて頭の固い奴なのかしらしかも役に立たないような勉強を十時間近くやらされる時もあるのよ?一種の拷問かと思ったわホントもう斬刑に処すってかんじよねいつか仕返ししてや……」

 

十数分後……

「……っというわけであんたの夢なんて幻想でしかないの、わかった?」

ようやく話し終えた由真。心なしかスッキリとした表情になっている。これは由真の言ってた事がほとんど愚痴だからだ。よっぽどストレスが溜まってたんだな。

「わかったうんぬんより由真、お前話が長すぎ」

思わず呆れたような声が出てしまった。こいついったいどこで息継ぎしてたんだ?

「え、そう?これでも少なく纏めたほうなんだけど」

首を傾げ戸惑い気味に言う。

「まぁとにかく、世の中あんたの考えてるようなメイドロボばかりじゃないってこれでわかったでしょ?」

腰に手をあて雄二をみる。

「いや、そんな事はない!」

きっぱりと断言する雄二。つーかこいつ全部聞いてたんだな。なかなか凄い。

「そんな事で俺は全メイドロボに絶望しない!そしてお前程結論を焦ってもいない!」

おい、雄二。なかなかカッコいいセリフだがパクリはいかんぞパクリは。

「あたしが結論を急いでるって?」

「そうだ!結局そのメイドロボは全部お前の為にやってくれるてるんだろ?く〜!なんて羨ましい!お前は自分の幸福さがわかってねぇ!」

由真を指差す雄二。

「ふん、あんたはあいつの事をまだよく知らないからそんな事が言えるのよ。いいわ、もっと話してやろうじゃないの」

鼻で笑い、再び息を吸い込む。

「いい、よく……」

ベシっ!!

由真が喋ろうとする寸前、由真の頭に何者かからのチョップが炸裂した。

「った〜、誰よこんなことするのは!……ってミルファ!!

由真の後ろには無表情のミルファが立っていた。由真を止めたのもこいつだ。

「ちょっと何するのよ!痛いじゃない!」

ミルファに由真が詰め寄る。

「すみません。お嬢様の行動があまりにも目に余ったものでして、つい」

シレっと言い放つミルファ。本当に悪く思っているのか怪しいところだ。というかお前、聞いてたな?

「ほら、見たでしょ!あたしの言ってた事が本当だってこれでわかったんじゃないの!」

頭を抑えながら雄二に向かって叫ぶ。しかし雄二はぽーっとミルファを見つめたままだ。

「ん?どうしたんだ、雄二?」

「……なぁ貴明、あの人は本当にメイドロボなのか?」

「ああ、そうだけど」

まぁ信じられないのも仕方が無いと思うけどな。

「あら、そちらの方は初めてお会いしますね」

ミルファが雄二の視線に気づきそちらを向いた。

「初めまして。現在、由真お嬢様のお家で稼動テストを行っているHMX-17bミルファと申します。以後お見知りおきを」

そう言って優雅に一礼するミルファ。

「……いい」

「は?」

そんなミルファをみて雄二がボソッと呟いた。

「いい、最高!もろ好みだ!」

そう言うと、凄い速さでミルファの所まで行き、その手を掴む。

「俺、向坂雄二!よろしく!なぁミルファさん、さっき稼動テストって言ってたよな?テストが終わったらどうするんだ?」

「その後は一応どなたかにお仕えするということになってますが、それがなにか?」

うーん、さすがミルファ。雄二の奇抜な行動にも全く動じなくて冷静に返すとは。

「その時は是非うちに!ミルファさんのようなメイドロボを俺は必要としてるんだ!」

まるでプロポーズをするかの様に言う雄二。目も何時に無く真剣である。

「……その申し出はメイドロボとしては嬉しいのですが、私の御主人様は既に決まっているのです」

そう言うと目線をこちらに向けてくる。ああ、なーんかそんな事を聞いた覚えがあるようなないような……。

「ま、まさか……」

「はい、私はもう貴明様に売却済みなのです」

「な、なにー!!」

雄二が高速でこちらに近づき俺の胸ぐらを掴んで揺らす。

「おい!貴明!これはいったいどういうことなんだ!せ・つ・め・い・し・ろ!!

「あ!それあたしも聞きたい!ミルファに聞いても全然教えてくれなくてさ」

「説明しろって言われてもな……」

俺がそう言うと雄二はさらに激しく俺を揺らす。

「この野郎!!まさか口では言えない様な事をやったんじゃないだろうな!」

「ええ、貴明!あんた、なんて事を!いくらミルファが凶暴だからってやって良い事と悪い事はさすがにあるのよ!」

雄二の戯言に由真が乗ってくる。なにげに由真は酷いこといってるよな。

「さぁ、吐け!何をやったか吐くんだ!貴明!!」

そうしてもっと激しく俺を揺らす。い、いい加減、く、首が!

「ほら貴明さっさと……」

そこで雄二のセリフがピタリと止まり、俺を揺するのも止まった。

「向坂様」

雄二の後ろにはいつのまにかミルファが立っており、その手は雄二の頭を掴んでいた。

「は、はい!!」

「あまり、私の未来の御主人様に無礼を働くと、潰しますよ?

その言葉に反応したのか雄二は俺から手を放し、ぶらーんと下に下げた。

「よろしい。以後、気をつけて下さいね」

そう言って雄二の頭から手を放し、離れていった。

「さ、お嬢様。もう時間です。お戯れはこれぐらいにして、帰りますよ?」

「う、うん」

さっきのミルファの迫力に少し怯え気味の由真。

「では貴明様に向坂さま。失礼いたします」

「じゃ、じゃあね。そいつが元に戻ったらよろしく言っといて」

そう言って二人は行ってしまった。そして残されたのは俺と、固まったままの雄二だけだ。

「雄二?」

「……なぁ、貴明」

あ、ようやく喋った。

「さっきのミルファさんから姉貴がまじギレしたときと同じ気配を感じた……」

ああ、それで固まったんだな。

「で、もう動けそうか?」

「……すまん。まだ無理だ」

結局俺たちがその場を後にしたのは30分後ぐらいだった。恐るべし、ミルファ。

 

次の日……

「……雄二、お前何してるんだ?」

なんと雄二が本を読んでいたのだ。

「何ってプログラムの勉強」

「プログラムの勉強?!いったいなんのために?」

俺がそう言うと雄二は読んでいた本をパタンと閉じ、フッと息を吐いた。

「ちょっと昨日の事でメイドロボに対する見方が変わっちまってさ」

ああ、さもあらん。

「やっぱり待ってるだけじゃ駄目だってことがわかったってわけよ」

「で、それとプログラムの勉強と何の関係があるんだ?」

「決まってるだろ!将来自分でメイドロボを創るために、だ!」

「……」

「いつか来栖川エレクトロニクスに入って俺好みのメイドロボを自分の手で開発するんだよ!」

そう言って雄二は拳を握り締める。

「……ああ、そうか。頑張ってくれ」

「おう!まかせとけ!」

そういい残して俺は雄二のから離れた。ぶっちゃけ付き合いきれない。

 

自分の席に着き俺は少し考えた。

「自分で開発する、か……」

馬鹿の一念なんとやらって言うな。いつか雄二が本当にメイドロボを開発するかもしれない。と俺は思うのだった。

 

 

              おわり

 

 

 

あとがき

はい、由真ちゃんと雄二君とをお送りしました。如何でしたでしょうか?

久しぶりに由真を書きました。いいですね由真。とっても書き易い。そして雄二も書き易かった。あまりにも書き易かったため約三分の一くらいは雄二のメイド語りです。ああ、なにやってるんだろ、私。でもとっても楽しく書けました。

さてさてリクエストをくださった方々如何でしたか?個人的には今回結構気に入ってるネタなのですが。喜んでいただけたら幸いです。

短いですが今回はこの辺で。次回作はまだ未定です。何にしようかなーと現在考え中です。ではでは。

 

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