由真ちゃんと郁乃ちゃんと

 

注:この話しは由真ちゃんと○○○○さんとを読んだ後に読む事をお薦めします。

 

「それじゃあな」

「おう、また明日」

俺は級友に挨拶を済ませ、下駄箱にやってきた。するとそこには最近、ここで会う事の多い人物が、昇降口付近を行ったり来たりしている最中だった。

……由真、またこんな所でうろうろしているのか?」

声を掛けるとビクっと反応した後由真はこちらに振り向いた。

「な、なんだ。貴明か」

「おう、貴明だ。それよりもだ、こんな所でうろうろしているなんて、またミルファから逃げてるのか?」

ミルファというのは、現在由真の家で家庭教師のような事をしているメイドロボのことだ。俺ともある事情から知り合いである。

話しを聞く所によると、ミルファの授業はかなり厳しいらしい。それが嫌で由真が逃亡を企てる現場を俺は目撃したことがある。結局は連れて行かれたけどな。

「ち、違うわよ!ただ、ちょーっと今日は乗り気がしないかなー、とか思ってるだけなんだから!」

慌てて手を顔の前でブンブン振って否定しようとする。

「そんなに慌てなくてもいいだろ?」

「だ、誰が慌ててるって言うのよ!変な誤解しないでよね!」

腕を組み、フン!っとそっぽを向く。

「でも、おまえ、前は逃げようとしていたじゃないか」

「それはそうなんだけど……」

俺の言葉に由真は下を向き、困ったような顔になる。

「だけど?」

「ほら、理由はどうであってもさ、あいつも私の為に色々と教えてくれてるでしょ?それを邪険にするのはあんまり良くないんじゃないかなーって思い始めてきたのよ」

「なるほど。良心の呵責ってやつか」

「そんな感じ。でも実際受ける方となるときつくてさ」

「尻込みしてこんなところでうろうろしてるんだな?」

「そうなのよ。あいつももう少しレベルを落としてくれればねー」

頬に手を当てふぅっと溜息を吐く。なんだかんだ言っても由真は基本的に優しい奴だからな。人の誠意を蔑ろにするような行動をとれるようにはできていない。

そう思うと、なんだか微笑ましくて思わず笑顔になってしまう。

「ちょっと、なに人をニヤニヤ見てるのよ?」

「いや、なんでもないよ」

こちらを不振そうに見ているが、本当の事は言えない。ここで由真は優しいなとか言ったら、あいつ照れて何をするか分らないからな。

「そんな事より行かなくていいのか?ミルファ、また門の所で待ってるんだろ?」

「そうだけど、まだ決心が着いてないのよ」

「時間を掛けても仕方が無いだろ?ぐずぐずしてるとまたあいつ、迎えに来るぞ?」

「分ってはいるんだけど体が動かないのよ〜」

「お前なー」

体が自然に拒否する程キツイのだろうか?しかしこんな所にいても何も変らない。

 

俺が由真の扱いに困っていると、

「あ、お兄ちゃん」

不意にそんな声が聞こえてきた。この学校で俺をお兄ちゃんなんて呼ぶ奴は一人だけである。

「郁乃か」

振り向くと郁乃がいた。大分体の方も良くなってきたようで、もう車椅子には乗っていない。その郁乃の声に由真が反応した。

「ちょっと貴明、あんた妹いたの?」

「そんなわけあるか!よく見てみろ。似ても似つかんだろ!」

「あたしもこんな奴の妹なんかまっぴらごめんよ」

へっと鼻で笑う郁乃。皮肉屋は相変わらずだ。

「な、なんか毒の強い娘ね」

「ああ、愛佳の妹とは思えないだろ?」

「えっ!そうなの?」

郁乃をじーっと見つめる。

「ああ、確かに。似てるわね」

「というか、お姉さんは誰よ?」

じっと見られたのが不快だったのか少し機嫌悪そうに言う。

「え、あたし?」

「そうよ。他に誰がいるって言うのよ?」

さすがは郁乃。初対面の相手にも全然物怖じしない。

「あ、あたしは長瀬由真。愛佳の友達よ」

「ふーん、長瀬先輩ねー」

今度は郁乃が由真のことをじーっと見る。

「あ、思い出した。将来の夢が可愛いお嫁さんの人か」

「なっ!!!」

「なんで知ってるかって?そんなの姉が喋ったに決まってるじゃない。結構口が軽いのよねうちの姉」

「あ、愛佳……。信じていたのに……。」

ガックリと肩を落とす。いや、愛佳に口の堅さを期待してはいけないと俺は思うぞ?

「ん?あれ、そういえば愛佳は一緒じゃないのか?」

「一緒だったけど途中で知らない人に頼まれ事されてどこかに行ったわ。下駄箱で待っててくれって言ってね」

「でも、そうするとお前……」

「ええ、当分来ないわね。あの姉だもの。それが終わったらまた次の頼みごとを引き受けるに決まってる。お人よしなんだから」

やれやれと首を振る。

「ま、確かに愛佳は類稀なる人のよさを持ってるわね」

あ、復活した。

「次から次へと厄介ごと引き受けて、いつも大変な思いをして、自分が損をしてるって解っているのになんで止めないんだろう。みんな利用しているだけなのに。本当、バカみたい……」

「郁乃……」

―――――この言葉は郁乃の気持ちの裏返しだ。いつも姉のことを大事に思っている妹の素直になれない気持ちの表れなのだ。

「愛佳はバカじゃないわ」

その郁乃の言葉に由真が反論した。

「おい!由真!」

「わかってるわよ。この娘が愛佳の事を大事に思っていることなんて」

「じゃあ!」

「でも、愛佳はバカじゃない」

キッパリそう言い、郁乃の目をみる。

「ふん、あんたに姉の何が解るっていうのよ!」

「解るわよ。友達だもの」

強い意志を込めて由真が断言する。

「!!」

――――――愛佳はね、空を見上げることができるの」

……空を?」

「そう、空を。苦しくないって嘘をついても、自分に圧し掛かってくる期待に震えても、愛佳はそこから逃げずに空を見上げることができる人なのよ。逃げるのは簡単だわ。でも、逃げずに空を見続けるには強い意志が必要になる。愛佳はそれを持ってる。」

……。」

「昔はね、どこか無理している節もあった。よくは知らないけれど人の役に立たなきゃっていう強迫観念みたいなものがあったと思うの」

――――――そう、確かに愛佳には郁乃に対する負い目から、他人のために尽くすことでしか自分の価値観を見出すことが出来なくなってしまった。妹を喜ばせたいという思いが、いつしか喜ばせなきゃに変り、喜ばせる対象が他人をも含むまでそう時間はかからなかった。そして喜ばせることが出来ない自分には意味が無いと思うのにも……。

「でもね、今の愛佳は違う。本当に、純粋に人の役に立てれば良いと思ってる。妹なんだから解ってるんでしょ?」

今の愛佳は何でも一人で抱え込もうとはしなくなった。自分に出来ること、出来ないこと、それを認める事も必要だと解っている。そのほうが人の助けになる事も、だ。

「それは……」

「解っていても、愛佳が大事だから、愛佳の大変な姿は見たくない、愛佳が利用されている姿は見たくないと思っている。でも見たくないじゃ駄目」

郁乃は俯いている。図星だからな。こいつ表には出さないが、本当に愛佳の事を大事に思っているのを俺は知っている。

「愛佳が上を向いている。なら、あなたも上を向かなきゃ。可哀相っていう気持ちより、すごい、尊敬するとかの気持ちの方があたしは大事だと思うんだ。それともあなたのお姉さんは尊敬出来ない?」

「そんなことある訳ないでしょ!お姉ちゃんはあたしの自慢のお姉ちゃ……っつ!!」

郁乃の顔が真っ赤になる。その反応を見た由真のはニコッと笑う。

「なんだ、出来るじゃない。その気持ちがあるなら解るわよね?愛佳はバカじゃないって」

……。」

「ね?」

……ふん、そういうことにしといてあげるわ」

ソッポを向いて応える。顔が若干赤い。

「そう、ならこの話しはお終い」

ぽんっと手を叩き、その手を郁乃の方に差し出す。

「改めて、長瀬由真よ。よろしくね」

しばらく由真の手を眺めるが、やがてその手を握った

……小牧郁乃。よろしく」

 

由真と郁乃の言い争いから十数分後、俺たちは話をしていた。

「それでね、あの時貴明ったら……」

「へえ、やっぱりお兄ちゃんって……」

「ふん、おまえこそあの時……」

そう、主に俺と由真のこれまであったことを話題にして。しかし由真の奴が嘘、誇張をしまくる。

「おい、由真!自分の事だけ美化して郁乃にはなすんじゃねえ!」

あまりの内容に俺は抗議の声を上げる。

「なによ!事実をありのままに伝えてるだけじゃない!」

嘘つけ嘘を。誇張100%だ!はん、さっきの格好良かった由真さんは何処にいったんだか」

「なっ!!」

「あまりにも格好良過ぎて、本物かどうか疑っちゃったよ」

へっと鼻で笑ってやる。

「そうなの?」

「ああ、普段はかなり情けないぞ。物凄い自爆体質だしな」

「へー」

冷ややかな目で由真を見つめる郁乃。もしかしてさっき言い包められたこと、根に持ってるのだろうか?

「まさにその通りですね」

「「「おおっ!!」」」

気がつくと由真の後ろにミルファが立っていた。

「なっ!ミルファどうして!」

「愚問ですね。いつまで待ってもいらっしゃらないお嬢様を迎えに来た以外に何があるのですか?さ、帰りましょう」

「ううっ……」

一歩後ろに下がる由真。

「なに、これどういうこと?」

「ああ。あいつは由真の家庭教師のようなもんでな、由真はその授業が受けたくなくて家に帰るのを渋っていたんだ」

「へー」

また由真を見る郁乃。

「さっきあれ程の事を仰ってたのに、もうその様な態度を取るのですか?」

「あ、あんた!聞いてたの?」

「ええ、それはもうしっかりと記憶させていただきました」

―――!!」

声にならない悲鳴とはこのような事を言うんだろう

「で、どうするんです?あまりにも情けない態度を取る様では口だけの人間と思われてしまいますよ?」

由真に向かってそう告げる。

「長瀬先輩って口だけなんだ」

「まあ、由真だし仕方がないよな」

俺と郁乃にも非難されて由真がプルプル震える。

「わかったわよ!やってやるわよ!いつもの二倍の量でもかまわないわ!」

あーあー、やっちまった。

「では、それで」

「えっ……?」

「ですから今日はいつもの二倍の量を実施します」

「えっ?えっ?」

「まさか御自分の言葉を曲げるなんて仰ったりしませんよね?」

ミルファが由真に近づき顔を覗き込む。

「と、当然じゃない。あたしはやる時はやる人間よ?」

思いっきり虚勢を張ってるのがばればれである。

「さすがはお嬢様。では、時間もありませんので、帰りましょう」

……わかったわよ。じゃあね、二人とも」

「それでは失礼させていただきます」

そういうと二人は帰っていった。大変だなー、由真。ま、身から出た錆だけどな。

……なるほど、だから自爆体質なのね」

「まぁ、な。でも悪い奴じゃないだろ?」

「そうね、そこは認めてあげるわ」

 

「お〜い!郁乃〜」

それから暫くして愛佳がやってきた。

「ごめんね〜遅くなっちゃって」

「いいわよ、別に予想してた事だし」

「本当にごめんね〜」

平謝りをする愛佳。顔を上げたとき俺と目があった。

「あ、たかあきくんも居たんだ」

とってつけたように言う。ってもしかして今まで気づかなかったのか?!いや、さすがにそれはないと思いたい。

「居たんだって、おい。なかなか失礼だな」

「や、や、別にそんなつもりはないですよ〜」

「別にいいけどさ」

今更こんなことで怒る気はさらさらない。

「じゃあ、帰るとするか」

「えー、お兄ちゃんも一緒ー」

「えらく不満そうだな。ええ?」

「べっつにー」

白々しくソッポを向く。

「まあまあ、みんなで一緒に帰った方が楽しいよ〜。旅は道連れっていうしね」

「「旅じゃない、旅じゃ」」

ただ帰るだけだっつーの!

「はう!郁乃とたかあきくん仲良しだよ〜」

「だ、誰がこんな奴と!」

「でも、郁乃、顔が赤いよ?」

「う、うるさい!!さ、帰ろう」

「は〜い、郁乃は照れ屋さんだね〜」

「照れてない!!」

二人はじゃれ合いながら外に出て行った。

「やっぱり仲いいよなー」

うんうん、仲良き事は美しきかなってな。

「ほら、たかあきくんも早く早く〜」

おっと呼ばれてるな。

「了ー解ー」

そうして俺は二人のもとに駆けて行くのだった。

 

                      

                                                        おわり

 

 

あとがき

由真ちゃんと郁乃ちゃんとをお送りしました。如何でしたか……って聞くまでもないか。自分でも出来が悪いと思ってます。

今回反省点多すぎ。途中で由真のキャラが変っちゃったし、へんなシリアスモドキも入ってしまいました。郁乃のキャラもイマイチですしね。本当、慣れない事はするもんじゃない。

次で挽回したいです。でも、できるかなー?いや、頑張ります。なのでまたご暇があれば読みに来て下さい。待っています。

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