姫百合姉妹とイルファさんと

 

 

 

今日も学校が終わり俺は家への帰路を歩いていた。

「たかあき〜!待ってや〜」

後ろからぽやーんとした声が聞こえた。俺の知り合いでこんな声の持ち主は一人しかいない。

「ふう〜、やっと追いついたわ〜」

案の定振り返ると珊瑚ちゃんと瑠璃ちゃんがいた。

「たかあき、もう帰った言うんで、急いで追いかけてきたんや。あ〜しんどかった」

「貴明のあほ!さんちゃんを困らすなー!」

「うちも瑠璃ちゃんもたかあきと帰りたかったのに〜、黙って帰ってまうなんてひどいで?」

「そうやー!ってうちは別に……」

「なんで?瑠璃ちゃん貴明と一緒にいたくないん?」

「うう……」

「ほら、瑠璃ちゃんも貴明と帰りたかったいうとる」

な!さんちゃん!うちまだなんにも……」

「瑠璃ちゃんたかあきにらぶらぶ〜なのに。瑠璃ちゃん傷ついたで?」

「さんちゃん、最近うちの話聞いてくれへん……」

ガクッと肩を落とす瑠璃ちゃん

「貴明、瑠璃ちゃんにごめんなさいは?」

なにがなんだかよくわからないがこの場は謝っておいたほうがよさそうだ。

「ごめんなさい」

「うちには?」

「すいませんでした」

二人に向かって頭を下げる。なにやってるんだろう俺?

「うん、わかってくれればええんや。な、瑠璃ちゃん」

「うん、そうやね……」

瑠璃ちゃん少し諦めモード。

「で、わざわざ追いかけてきてくれたって事はなにか用事があるのかな?」

今日は別になんの約束もしていない筈だったけど。

「あ!そうやった、たかあきに言うことがあったんや!」

「言うこと?」

「あんな〜たかあき、今日うちに来てくれへん?」

「二人の家に?別にいいけど、それが言うこと?」

「ううん、ちゃうねん」

首を振る珊瑚ちゃん。

「用があるのはいっちゃんやねん」

「イルファさんが?」

「いっちゃん最近、瑠璃ちゃんから料理習っとるんや。ほら、たかあきにお弁当わたしたことあったやろ?」

確かに、イルファさんからだと言って、珊瑚ちゃん達から貰ったことがある。

「でな、その時よりも上達したから食べてほしいんやと」

これは嬉しい申し出だ。

「そういうことか。うん、ぜひ行かせてもらうよ」

「ほんまに?」

「あたり前じゃないか。イルファさんが俺の為に料理を作ってくれるんだろ?行かないと罰があたっちゃうよ」

特に雄二あたりから。

「じゃあ、たかあき。瑠璃ちゃんにありがとう言わんとな」

「へ?」

急に自分の名前が出てきて驚く瑠璃ちゃん。

「だって、いっちゃんに料理おしえたの瑠璃ちゃんやん」

「でも、うちは別に、そんなつもりじゃ……」

一理ある。瑠璃ちゃんの教えがあってこその上達だもんな。

「うん、そうだね。瑠璃ちゃんありがとう」

「ううう……」

俯く瑠璃ちゃん。

「瑠璃ちゃん照れてる。顔真っ赤や」

「ううっ最近さんちゃんいじわるになっとる〜〜」

相変わらず仲のお宜しいことで。

「じゃあ、出発や〜」

こうして俺達は姫百合家に向かって行った。

 

ほどなくして姫百合家に到着。夕飯にはいい頃あいだ。

「いっちゃん、ただいま〜」

「ただいま」

「お邪魔します」

少しして奥からイルファさんがやってきた。

「瑠璃様、珊瑚さまお帰りなさい。貴明さんもよくおいで下さいました」

ニコッと笑うイルファさん。この人、本当にメイドロボなのだろうか?俺には人間にしか見えないんだけど……。

「……あの、私の顔になにかついてますか?」

おっと、つい見入ってたらしい。

「い、いや別になにも」

「たかあき、いっちゃんともらぶらぶや〜」

「む〜〜〜〜」

珊瑚ちゃんは笑い、瑠璃ちゃんはこっちを睨んでくる。

「そ、それより今日はお招きありがとう。夕食楽しみだよ」

「はい!腕によりをかけてつくりますね」

うん、前回の弁当も上手かったし期待できる。

「じゃあ、早速お邪魔を……」

「あ、たかあき、ちょっとまって!」

家の中に入ろうとしたら珊瑚ちゃんに止められてしまった。

「どうしたの?」

珊瑚ちゃんは答えず、瑠璃ちゃんの手を引っ張って俺の前に立つ。今、俺の目の前には珊瑚ちゃん、瑠璃ちゃん、イルファさんがならんでいる。

「はい、もうええよ」

「?」

「もう、たかあきは鈍いな〜。家に入る前に言うことがあるやろ?」

「え、それはさっきお邪魔しますって…」

「それ嫌や」

嫌ってなにが嫌なんだろう?

「そんな他人行儀じゃなくて、ただいまって言うほしいんや」

あ、そういうことか。

「瑠璃ちゃんも、いっちゃんもそう思ってるで、な」

「そうですね。確かに私もその方が嬉しいです」

「……。」

イルファさんは笑い、瑠璃ちゃんは少し顔を赤くして俯いてる。

「そういうことなら」

ちょっと恥ずかしいけどここで期待を裏切るわけにはいかない。

「ただいま、みんな」

「おかえり〜」

「おかえりなさきませ」

「……おかえり」

うん、お帰りって言われるのもいいもんだな。

「では、すぐ準備致しますので、居間で待っていてくださいね」

その言葉に俺達は居間で待つことにした。

 

しばらくテレビを見ていると、イルファさんの声がした。

「ご飯ができましたよー」

テーブルに着くと目の前にはすでに料理が並べてあった。ふむ、カレーか。

「瑠璃様に教えていただき、一生懸命作りました。さぁ、ご賞味下さい。」

「「「いただきます」」」

ぱく、もぐもぐもぐ。うん?これは……

「おお、イルファさん、旨い。これは旨いよ」

まだ瑠璃ちゃんに及ばないものの、かなりのレベルだ。

「本当ですか!」

「ああ、こんなことで嘘つかないよ。それにしてもすごいな。こんな短期間で腕をあげるなんて」

実際弁当を貰ってからそんなに日はたっていない。

「ふふ、それはきっと瑠璃様の愛の指導の賜物ですよ」

その言葉に黙々と食べていた瑠璃ちゃんが反応した。

「イルファ、変なこというなー!愛ってなんやー!」

「そ、そんな!瑠璃様は私を愛して下さっていないのですか?」

よよよっと泣き真似をするイルファさん。

「瑠璃ちゃん、いっちゃんに意地悪したらあかんで?」

「いじわるやない!それにうちらは女同士や!」

「あら、愛があれば性別は関係ありませんわ」

「大有りやー!」

でも、瑠璃ちゃん。そう言う君も珊瑚ちゃんのこと好きって言ってたぞ?しかし俺はそう思っても言わない。巻き込まれるのはごめんだ。カレーがうまいからな。

「貴明もなんとか言い!」

「え、う〜ん」

なにか無難な言葉は……

「あ、よかったね瑠璃ちゃん。もてもてだ」

親指をぐいっと上げる俺。

「よくない!貴明のあほー!」

どうやら御気にめさなかったようだ。

「いいじゃないですか。瑠璃様は私にもてもてですよ?」

「瑠璃ちゃんはもてもてや〜」

「あーっ、もう!うちの味方はおらんのかー!」

もくもくもく。あー、やっぱりこのカレーは旨いな。

 

楽しい(?)夕食の時間も終わり、俺達はみんなで居間でゲームをやることにした。

「今日はたかあきがおるから、いつもと違うのをやるで〜」

と言って珊瑚ちゃんが持ってきたのは某ゾンビ撃ち殺しまくりゲーム。

「一人でやってもつまらんし、瑠璃ちゃんは一緒にやってくれへんしな」

瑠璃ちゃんは怖がりなのだ。仕方がない。

「イルファさんは?」

「いっちゃんあんまりゲーム好きやないねん」

と言うが、この場所には瑠璃ちゃんもイルファさんもいる。なぜ?

「貴明がさんちゃんにエッチぃことしないか見張る!」

「いいの?瑠璃ちゃん怖いのダメでしょ?」

「ダ、ダメやない!ちょ、ちょっと苦手なだけや!」

体が震えているので説得力がない。

「私は役と……ゲフン、ゲフン。いえ、瑠璃様の付き添いということで」

なんだ、今変な言葉が聞こえた気が……。

「それじゃ〜始めるで〜」

ゲームスタート。

 

「うぎゃー!!」

「て、手が吹き飛んだー!!」

「か、顔がないのに動いとるー!!!

この悲鳴は全部瑠璃ちゃん。テレビでゾンビが撃たれる度に悲鳴を上げている。

「ふふふ、大丈夫ですよー。瑠璃様」

すごくいい笑顔のイルファさん。それもそのはず、瑠璃ちゃんは悲鳴を上げる度にイルファさんに抱きついているのだ。

……もしかしてイルファさん、このためにゲーム嫌いなんて言ってるんじゃあないのか?

「たかあき〜、なにぼ〜っとしとるん?やられるで?」

おっとそうだそうだ。ゲームに集中しないと。

「うわーん!もういややー!!!」

……集中なんてできねーよな。

 

ゲームが終わった頃にはもう十時。そろそろ帰らないとな。

「あ、俺そろそろ帰るよ」

「え〜」

あからさまに不満の声が聞こえてきた。

「たかあき。今日は泊まっていって〜」

上目遣いにこちらを見てくる珊瑚ちゃん。

「そうですよ、折角ですから泊まっていってくださいな」

「え、でも……」

「なぁ、ええやろ〜」

「お願いします」

く、断り辛い。こんな時に瑠璃ちゃんは何をやってるんだ!

「く〜」

こっくりこっくり船をこいでいる。悲鳴を上げすぎたからなー。疲れたんだろう。これでは当てにできない。

「な〜」

「貴明さん」

二人して俺を見つめてくる。

「……わかったよ」

結局俺は白旗をあげてしまった。

 

風呂に入ってもう寝ようとしたとき、珊瑚ちゃんが一言。

「折角たかあきがおるんやから、今日はみんなで雑魚寝や〜」

なんですと!

「いや、ちょっとさすがにそれは……」

いくらなんでも不味過ぎる。これがたま姉に知られたらどんな目にあうことやら。

「ダメですよ貴明さん!」

イルファさんが俺の肩を掴む。かなり力を入れているようで肩が痛い。

「な、なんで?」

「珊瑚様の言葉を聴かなかったのですか?みんなで雑魚寝ですよ。『みんな』で」

「は、はぁ」

「と、言うことはですよ……」

「と、いうことは?」

「私が瑠璃様と一緒に寝られるってことじゃないですか!!」

うわー、私欲丸出し。あんたホントにメイドロボか?

「こんなチャンスめったにないんですよ!了承してくれないと……」

「俺が了承しないと?」

「気は進みませんが、あの事を瑠璃さま、珊瑚さまに報告させていただきます!」

!!

「…あのことって『あのこと』ですか」

「はい、『あのこと』です」

やばい、ジョーカーを切ってきやがった。俺の手札でこれに勝てるカードはない。

「くっ、しかたない。……了承します」

「さすがは貴明さん。きっとわかってくださると思ってました」

スゴイいい笑顔だ。

「なあ、貴明。あのことってなんや?」

「い、いやそれは……」

「気にしないで下さい珊瑚様。さぁ、お布団の準備をします。手伝っていただけますか?」

「あ、うん!了解や〜」

珊瑚ちゃん人から頼りにされるの好きだからな。うまい逃げ方だ。というかいいのか?仮にも生みの親だろ?イルファさんてもしかして、目的の為には手段を選ばないタイプなのだろうか?ちょっと怖い。

 

そして俺達は布団に入った。が、

……眠れねー。目が冴えちまってる。だって、俺の両側に珊瑚ちゃんと瑠璃ちゃんがいるんだぜ?このみならまだしも、これでは眠れるはずがない。でも、二人はもう寝てるし。配置替えの為に起こすのは気が引ける。

「はぁ〜」

溜息が出てしまった。

「貴明さん、まだ起きてらしたのですか?」

イルファさんの声が聞こえた。

「イルファさんこそ起きてたの?」

「私はメイドロボなので別に寝なくても平気なんです。それよりもこの幸せをかみ締めることのほうが大切です」

そう言って腕のなかの瑠璃ちゃんを抱きしめる。……やりたい放題だなー。

「でも、貴明さん、ありがとうございました」

「まぁ、イルファさんが瑠璃ちゃんのことを大好きなのはよく知ってるから」

「いえ、そのことではなくて」

じゃあ、なんのことだろう?

「今日はお出で頂きありがとうございました」

「え?」

「貴明さんがいらしてくれたおかげで、瑠璃様も珊瑚様もとても楽しそうでした。……そして私も」

「そ、そう?」

「ええ、貴明さんご自身は気づいていらっしゃらないかもしれませんが、私たちにとって貴明さんはとても必要な方なんですよ?」

「そんな、買いかぶりすぎだよ」

「いいえ。そんな事はありません。現に今私がこうしてこのお家にいられるのもあなたのおかげです。感謝しきれません」

「い、いやー、そんなことを言われたら照れるというかなんというか……」

「だから、私達の家族になって下さいませんか?」

「へ?家族」

「私言いましたよね。旦那さまにするのは貴明さんがいいと」

確かにそんなことを言われた記憶がある。

「え、でもあれは冗談じゃないの?」

「とんでもない!冗談ではありません。それともやはり私ではダメですか?」

イルファさんの声が少し沈む。

「い、いやダメじゃない。だめじゃないけど……」

俺は次に何を言ってよいか解らず沈黙してしまった。

「…ふふっ、すいません、ちょっと困らせてしまいましたか?」

「なんだ冗談かよ」

人が悪いぜイルファさん。

「いいえ。全くもって大真面目ですが」

まじですか?

「でも、答えを焦りすぎましたね。こういうことはやはりもっと慎重に事を運ばないと」

イルファさんて策士?

「覚悟してくださいね?いつか貴明さんを必ず私達の家族にしてみせますから。それではお休みなさい」

そう言ってイルファさんは黙ってしまった。

ちきしょう!余計眠れなくなっちまった。

 

その後

結局その日俺は一睡もできなかった。その上たま姉にも気づかれ、泊まったことがばれてしまい、そして……。その時の事は恐ろしくて思い出したくも無い。一ついえる事は俺のトラウマが増えたということだけである。雄二と少しわかりあえた気がした、そんな一日だった。

 

 

 

あとがき

今回は作るのが大変でした。何回書き直したことか。長さも過去最高ですし、ちょっと疲れました。そんな作品ですがいかがでしたでしょうか?

私的には瑠璃が上手くかけなかったなと思います。もう少し出番もあげたかった。イルファは……どうでしょう?今回初登場なんですが、キャラを掴めているかの自身がありません。腹黒さがでていればよいのですが。

さて、橘花さんどうですか?姫百合姉妹を書いたのですが、期待に答える事ができましたか?いつも感想有難うございますね。

次はseiさんの好きなキャラ、このみ嬢の作品を作りたいと思っています。いつもどうり期待しないでお待ちください。

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送