ピンポーン

「ん?」

玄関から響いてくる呼び出し音に反応し、貴明が手に持っていたゲーム機のコントローラーを机におく。

ピンポーンピンポピンポーン

「ああ、はいはい。いまいきますよっと」

ドタドタと乱暴に階段を降り、玄関に到着。ドアロックを外し、扉を開く。

「はい、どちらさ……ま?」

視界に飛び込んできた光景に、意図せずに体を固めてしまう貴明。

それも仕方が無いだろう。なぜなら、今、彼の目の前には……

「「トリックアンドトリート!!」

妙な衣装に身を包んだ幼馴染二人が、にこやかに立っていたからである。

 

 

 

Trick and Treat

 

 

 

……。

……。

バタン

「……ふぅ。さて、ゲームの続きをするか」

硬直状態から復帰した貴明はとりあえず現実逃避する事にしたが、この二人を相手にしてそう簡単に物事は進まない。

ドンドンドン!!!

「こら、ちょっと、タカ坊!!なんで閉めるのよ!!」

「たか君、開けてよー」

間を置かず、ピーチクパーチク喚きだす二人。

「……」

声量が大きいので近所迷惑この上ないためしぶしぶ貴明がドアを開く。

「……なんの御用でしょうか」

「あら、私たちの格好見てわからないの?」

「今日はハロウィンでありますよ、タカ君!!」

この世の春が来たといわんばかりに、嬉しそうな表情を浮かべるこのみ。

「うん、それはわかってるんだ。だがこのみ。流石にその格好はどうだろう?」

「えー、このみは似合ってると思うんだけどなー」

「そうよ、タカ坊。このみの格好のどこに不満があるというの?」

「不満があるとかそういうんじゃなくて、もっとこう、根本的に何かが違うと俺は思うんだけど」 

このみの現状の衣装―体操服+ブルマ+犬耳+首輪+尻尾―を見て、何となくこめかみが痛むのを感じる貴明。ちなみに環の衣装はとんがり帽子+マントの魔女ルックである。

「……やっぱり体操服をブルマの中に入れるべきだったのかしら?」

「了解でありますよ、隊長〜」

的を42.195`ほど外れた事を呟きつつ首を傾げる環と、それを真に受けていそいそと体操服をブルマの中に仕舞い込むこのみ。

「いや、そういうことじゃなくて……というか二人とも、その衣装はどうしたんだよ?」

「「雄二(ユウ君)の部屋から借りてきたのよ(でありますよ)」」

「……雄二……」

なんか色々と手遅れっぽい親友を思い哀れむ貴明。ふと見上げた青空には「メイド服もいいけど、やっぱり獣属性も捨てがたいよなー」なんていいながらサムズアップする彼の笑顔が幻視できたとか、できなかったとか。

「……確かに俺ら葉っぱ出身なわけだけどさー」

「どうかしたの、タカ君?」

「……いや、何でもない。気にしないでくれ」

「それよりタカ坊、お客様を何時まで待たせるつもりなのかしら?」

お客と呼ぶにはあまりにも図々し過ぎるが、それを口にすると教育的指導逝きが確定してしまうので思っていても口には出さない。というより出せない主人公。

「ああ、そうだね。まぁ取り敢えず中に入ってくれ」

「「お邪魔しまーす」」

「はいはい」

二人が入っていくのを確認した後、自分もドアを閉め、後に続いていく貴明であった。

 

舞台は移動してここは居間。

「で、二人して何の用?」

とりあえずお茶でも出しながら、見慣れていない服装の幼馴染達に当然の疑問を投げかける。それに対し、環は半ば呆れ顔、このみは非常ににこやかに、

「もう、タカ坊ったら。最初言ったじゃない。「トリックアンドトリート」って」

「今日はハロウィンなのでありますよ、隊長〜!」

それぞれの答えを口にする。

「あー、そういえばそんな日だったな、今日は。で、二人してお菓子をたかりに来たってわけか。タマ姉も」

妹分であるこのみにはあげてもよさそうだが、姉貴分である環にあげるというのはどうにも違和感が生じてしまう。こういう行事だと貰うほうではなく、配るほうに属するのが環という人なのだ。

「あら、いいじゃない。こういったのは楽しめればいいのよ」

悪戯っぽく笑い、なんか頂戴、と手を差し出す環。そんな姉の姿と、記憶の中にある悪ガキ達の親玉だった昔の彼女がわずかに重なり、自然と貴明の目と頬の筋肉が緩んでいく。

「わかったよ。でも急な事で何の準備もしてないんだ。その辺で売ってる安いチョコとかアメで我慢してよ?」

「タカ坊にそんな期待はしてないから大丈夫よ。ね、このみ」

「うん!お母さんがみんなで食べなさいって」

そう言って机の上に差し出されたのはカステラの箱。このみが大好きなメーカのものである。

「へー、こりゃ春夏さんにお礼言っておかないとな」

「そうしておきなさい。でもそれは後にして、タカ坊はお茶の準備!ついでに今この家にあるありったけのお菓子も持ってね」

「はいはい、って二人は手伝ってくれないのかよ?」

「私たちはお客さんだからいーの」

「タカ君、早くね〜」

「……ふぅ、了解です」

ニコニコ顔の二人を尻目にいそいそと準備に取り掛かる貴明。

そして数刻後……。

「カステラおいしかったわね、このみ」

「うん!これなら毎日ハロウィンでもいいよ〜」

「いや、それは勘弁してくれ。マジで」

菓子が足りないだの、飲み物が無いだので買出しにまで行かされ、グッタリしている貴明。

「じゃあ、トリートが終わった事だし……」

目を瞑り、腕を組みながらの発言に、ようやく開放されるのか、と心中で安堵の息を漏らす、が

「次はトリックと行きましょうか」

「……は?」

「じゃあこのみ準備してー」

「はーい」

呆けている貴明を他所にこのみが身につけている犬耳と首輪、そして尻尾を取り外す。

「え、なに、どういう……って、タマ姉!!何時の間に俺の後ろに?!」

甘い香りとムニュっという柔らかい感触を背中に受けているが、恐怖が貴明の体を支配しているためそんなシチュエーションを楽しんでいる暇は彼にはない。

そんないっぱいいっぱいな彼を他所に、着実に準備を進めて行くこのみ嬢。カステラが入っていたバックから、次々と、口紅、ファンデーション、長髪のカツラ等を取り出していく。しかし、その動きがふと止まる。

「あれー、タマお姉ちゃん、タカ君用の体操服ってどこだっけー?」

「あー、それはかさ張ると思ってタカ坊の部屋のタンスに昨日詰めといたわ。3段目の奥にあるわよ」

「何時の間に?!」

「わかったー、取ってくるねー」

「うん。ちゃんとブルマも持ってくるのよー。あ、あとついでにメイド服もね、同じ場所にあるからー!」

「了解でありまーす」

タッタッタと軽快な足音を立てて勝手知ったる他人の家の中を走っていくこのみ。犬耳+αは取って現在は体操服+ブルマという格好なのでその後ろ姿に違和感は感じられないが、そんなことを気にしている余裕は貴明にはない。さっきよりも無い。

「ちょ、ブルマって何さ?!」

「ん?タカ坊ってブルマが似合うんじゃないのかなーって思ってわざわざ特注で取り寄せたのよ。雄二に頼んで」

この時程親友に対して殺意が沸いたときは無かった、と後に貴明は苦虫を噛み潰したような顔をしながら語る。

「メイド服は?!」

「それはイルファさん達から借りたわ。タカ坊に着せるっていったら直ぐにサイズも合わせてくれたのよ?流石はメイドロボね」

「そんなの着たく無いってばよ!!」

「あら、駄目よ。借りる条件としてタカ坊のメイド姿の写真を渡すって約束になってるんだから」

「何その密約?!ありえないんですけど!!」

ちなみに、写真の約束を取り付ける時のイルファの顔は非常に鬼気迫ったもので、環が製作者である珊瑚に対し、「この子、本当にロボット?」と確認を取ったほど人間味に溢れていた。

「というか、タマ姉!何でこんな事するんだよ?!菓子あげただろ!!」

悪戯をされたくないから買出しに行ってまでお菓子を献上したのである。これでは先ほどまでの労力が全くの無駄となってしまう。そう思い、なんとかこの危機的状況を脱出しようともがき続ける貴明であるが、それ以上の力で環が後ろから抱きしめる為、全く抜け出せない。

そんな無駄な努力を続ける貴明を諭すかのように彼の耳に自分の顔を近づけて、更にきつく抱きしめながらそっと囁く。

「そうね。お菓子は貰ったわ。でもね、タカ坊。私、言ったわよね?」

チョコのように甘く蕩ける様な声で。

Trick and Treat(お菓子を頂戴。悪戯もするわよ)、ってね」

 

 

 

次の日、今にも死にそうな程やつれた貴明と、やけに艶々な顔をした環&このみが目撃されたが事の真相は本人達以外、誰も知らない。貴明はこの件に関しては黙して何も語らず、環とこのみもニヤニヤするだけで、決して口を開こうとはしないのであった。

ただ、この日を境にイルファがオーバーヒートする回数が増えたと珊瑚が零していたそうな。

 

 

 

おしまい

 

 

 

あとがき

10月に書いていた品がようやく完成しましたよ、っと。

何時までかかってんだって感じですね。ハロウィンなんかとっくに過ぎ去ってるし。

まぁ、一応生存証明の記って事でお願いします。

では、ここまで読んでくださった方、どうもありがとうございました。

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