注:時系列を気にしない方のみお読み下さい。
ここは、毎度お馴染みのミス研部室……
ではなくて、我らが主人公、河野貴明達の通う『学園』の屋上。
時刻にして放課後を少し過ぎた辺り。まだ日も落ちていない昼と夕の間の時間帯。
健常な学生なら部活に精を出したり友人と遊びに行ったりするため、この場所とは大多数は無縁。
しかしそんな用の無いここに、現在二つの人影があった。
どこか真剣な表情の少年と、もじもじしながらその少年をチラ見する少女という二つが。
今回のお話はこの二名―河野貴明&小牧愛佳による、ちょっとした勘違いが入り混じった物語である。
屋上にて
「(い、いきなりこんな場所に呼び出して、たかあき君、あたしに何の用事があるんだろう?)」
ドキをムネムネ……じゃない、胸をドキドキ、頬を染め染めして小牧愛佳が前方の少年―
河野貴明に視線を送る。
対する貴明はそんな愛佳の視線など全く気付かないくらいに、真剣な表情で何かを考えているようだ。
何故、こんな事態に陥ったのか。その原因は今の時間からほんの少しだけ遡った所にあった。
回想……
「あのさ、愛佳」
「ん、なあに?たかあき君?」
授業間の休み時間、貴明が次の授業の準備をしている愛佳に声をかける。
ニッコリ笑いながら貴明の方を振り向いた愛佳に対し、声をかけた方は頭をぽりぽりかきながら、何処か罰の悪そうな表情を浮かべている。
「?」
不思議に思い、「どうしたの?」と声を発しようとするが、貴明が切り出す方が早かった。
「あー、悪いんだけど放課後ちょっと付き合ってくれないか?」
「え、うん、いいよ。また花梨に何か頼まれたの?」
タマゴサンドの買出しかな、と考え軽く引き受ける。
「いや、今回は俺の私用」
「たかあき君の?」
クラスメートとは違い自分にあまり頼みごとをしてこない貴明にしては、珍しい事なので少し間があいてしまったが、すぐに笑顔でこくりと頷く愛佳。
「全然問題ないよ」
「有難う。なら放課後、屋上へと来てくれ。ああ、その際には必ず一人でね」
「屋上へ、一人で……?」
予想外の言葉に何だろうと首を傾げる愛佳。
頬に人差し指を当てている彼女をスッパリ無視し、貴明が用事を告げる。
「……伝えたい事があるんだ」
「え!!」
顔の筋肉を引き締めながらの発言に、自分の目が開くのを感じる愛佳。頬が徐々に熱くなるのを現在進行形で感じる。
理由はアレだ。この今は妙に真剣そうな顔をしている朴念仁の口から放課後、屋上、一人という単語が続いて出てきたためだ。恋愛経験豊富とは言えなくとも、恋愛小説を読んだ経験は豊富な愛佳にはその後の展開の予測がすぐ様、脳内に浮かぶ。
「た、たかあきくんそれは……」
どういう事、と聞こうとしたとき、
キーンコーンカーンコーン
と、お約束のように授業の始まりを告げる音が響く。
「おーっし、席につけー。授業始めるわよー」
担当教員の一声によりバタバタと教室内が暴れ出す。愛佳の目の前に立っていた貴明も「やべっ!」と言いながら自分の席に向かうのだった。
「……」
愛佳は解答者がいなくなってしまい、疑問を己が内で反芻する事しか出来なくなる。
「(どういう意味なんだろう……)」
問いただしたい気持ちに駆られるが、教員がすでに居る為、身動きが取れない。
仕方なく着席し、前を向く。
そして授業が始まった。
回想終了。
ちなみに彼女、真面目な委員ちょにしては珍しく残りの授業は全て上の空。
問題を当てられても、
「あ、えーっと、すいません。聞いてませんでした」
と答え、教員含めクラス全体から心配される始末。余程、貴明の発言が気になっていたようだ。
別に疑問点が残っていたから他の事に集中出来なかったわけではない。状況が状況なので少なからず貴明に対し好意を抱いている愛佳の心臓が勝手に16ビートを叩いて、集中できなかったのだ。
そんなわけで、愛佳としてはこんな所で止まらずさっさと次の行動に移って欲しいと思っている。心臓に悪い為。
「あ、あのたかあき……くん?」
焦れる愛佳。
そんな彼女を横目で見つつ、うーん、と悩む貴明。
もう少し考えたい所だが、愛佳のタレ目が不安色に染まっていくのを見て良心がズキズキと痛むのを感じる。
「(ふぅ、しょうがない、か)」
「な、何の御用かなぁ……」
「愛佳」
「ひ、ひゃい!」
期待と不安で呂律が上手く回らなくなってしまう愛佳。
「ごめん、本当はもっと気の効いた言葉で伝えたいんだけど、どうもそういうのは俺には向いていないみたい」
真剣な顔で愛佳の瞳を見ながら貴明が告げる。
「だから、俺の気持ちをそのまま伝えるよ」
「……」
思わせぶりな発言に愛佳の心臓の鼓動が加速する。
顔が真っ赤だ。息も苦しい。足もガクガクで立っているだけで精一杯。
今にも気絶しそうだが、それでも貴明の言葉の続きが聞きたいので精神を総動員し、意識の手綱を手に掴む。
「愛佳……」
「たかあき君……」
見詰め合う二人。
時が、止まる。
「……」
「……」
この永遠と続くような時間を先に動かしたのは貴明の方からだった。
口を開け、厳かに自分の気持ちを声に乗せる。
「愛佳……」
「うん……」
この時点で愛佳の脳みそを占める思考はこれから訪れるであろう愛の告白に対し、この上のない幸福とミス研その他もろもろのメンツへの少しの罪悪感のみ。
だが、それが仇になる。
「誕生日、おめでとう」
「うん、あたしもたかあき君のこと……ってへ?」
愛佳の口から間抜けとしか形容できない声が漏れる。
え、何、誕生日?え、え、告白じゃなくて?
99%そうだろうと確信していたものをあっさりと覆され、脳内が大混乱を起こす。
だが、理性の欠片はまだ残っており、その残りカスが状況把握の為に何とか愛佳の口をこじ開けた。
「え、え、た、たかあき君。あの、用事ってもしかして……」
「ああ、愛佳におめでとうを言いたくて、ね。」
その言葉で愛佳は体からどっと力が抜けるのを感じたが、それに気付かない貴明は言葉を止めない。
「ほら、愛佳には色々とお世話になってるだろ?だからこういう事はしっかりと一対一で言っておかなくちゃなって思ったんだよ」
その方が気持ちも入るってもんだろ?と愛佳に同意を求めるが、
「た、確かにみんなと一緒におめでとうって言われるより、二人きりの時に言われた方が気持ちは伝わってくるけど……たかあき君、これは酷すぎると思う」
ぐったりとした顔からの半眼ビームを受け、貴明の笑顔にヒビが入る。
「え、な、何でさ?あ、もしかしてプレゼントをゼリービーンズ詰め合わせにしたのが嫌だったのか?!」
と、まだ渡してもいないプレゼントの中身を暴露し、一人慌てる。
「ゼリービーンズ……」
流石にそれはないんじゃないかと貴明に対し視線で抗議する。
「いや、ただのゼリービーンズじゃないんだって!!ほら、前、愛佳が食べたいナーって言ってた店の奴買ってきたんだって!1キロ」
「え、一キロ、本当!?……ってそうじゃなくて!!」
顔を喜色に染めるが、すぐに首をプルプル振りまた不機嫌そうな顔を作る。
「たかあき君、あたしの事食いしん坊な娘とか思ってない!?」
「え、何を今更」
「(がーん!)」
あっさりさっぱりキッパリと告げられ、バックに黒い影を落とす愛佳。
「ふーん、いいんですよーだ。どうせあたしは食いしん坊ですよーだ。誕生日プレゼントもお菓子ですよーだ」
そしてしゃがみ込み、涙目になりながら地面にのの字を書いて凹みだす。
「な、なんで落ち込んでるんだよ!!いいじゃないか、それも個性だって!」
「そんな個性はいらんのでございますよー……」
背を向け、地面と睨めっこしながら乾いた笑みを愛佳は浮かべる。
「ございますよーって愛佳……」
なんだかおかしな方向へ進んでるなーとかなんとか思いつつ、溜息を吐きながら先程の失言に対するフォローをする。
「いいじゃないか別に。おいしそうにお菓子を食べている愛佳は可愛くていいと思うぞ?」
ここでハムスターみたいでとか付け加えると、さらに凹みそうなのでそれは心の中に留めておく。
「……本当?」
「ああ。愛佳の食べている姿はとても愛らしいと周りのみんなからも評判だ」
マスコットみたいでな、という発言も言わないでおく。
色々と経験し、ようやく貴明も「沈黙は金」という言葉を覚えたようだ。
「あ、愛らしいなんて、そ、そんな事ありませんです、なのよ」
いや、いや、と両手を前に出しながら照れる愛佳を見て、もう大丈夫だろうと、そっと安堵の息を貴明が洩らす。
「まぁ、そんなわけでそろそろこのゼリービーンズ(1キロ)を受け取ってもらいたいんだけど」
そう言って、鞄の中から大きめの袋を取り出し愛佳の目の前へと差し出す。
「あ、はいこれはどうも、ご丁寧に……」
「では改めて……」
渡し終えた後、コホンと軽く咳払いをし、
「おめでとう、愛佳」
「うん、ありがとう、たかあき君」
先程はなかった返事に満足し、「うん」と一つ頷く貴明。つられて愛佳もコクリと顎を下に向ける。
「よーし、じゃあ郁乃でも呼んでどっか行こうか。今日は俺のおごりだ」
「うん!」
貴明の歩いていく後ろを愛佳がちょこちょこと続いてゆく。
期待していたものとは違ったけど、貴明からプレゼントを貰う事が出来て、これはこれでいいなーっと思う愛佳なのであった。
おしまい
あとがき
今更ながら愛佳の誕生日があった事を思い出し、急いで仕上げてみました。
なので構成が粗いこと粗いこと。
まぁ、ちょっとブランクもあったんで仕方ないかなーっとか自分に言い訳してみたり。
でもまた次回も空くでしょう。まだ終わってないしねー、色々と。
気長に待ってやってくださいね。
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