続・なんてことの無い一日(11)
自販機のジュースで喉を潤した俺達はそのまま近くのファーストフード店の自動ドアをくぐった。
わいわいがやがや
「えー、ていうかー?」
「ははは、それマジありえねーって」
「……僕には、無理だ」
「いや、わけわからないんだけど……」
etc、etc……
入った店内から耳に入ってきたのは人の声、声、声。
日常会話から意味不明なものまで主に若い世代を中心に様々な話声が飛び交っている。
「うわー、めちゃくちゃ混んでるじゃないの」
視覚に入ってきた光景にげんなりとした声を上げる由真。
「まぁ、仕方ないだろう。みんな考える事は一緒って事だよ」
この時間はちょうど学校の下校時刻とかぶるからな。学生が放課後に寄る場所なんて大体似たようなもんである。
「……困ったわね。これじゃあ座る席が確保できないじゃない」
「じゃあ、今回はあきらめるか?」
この人口密度だ。空いてる席がみつかる確立なんて向坂姉弟対決での雄二の勝率並みにありえない。
「え〜、折角きたのに〜」
「ぶーたれても仕方がないだろうが。立ち食いなんて俺は嫌だからな」
「あたしだってそんなの嫌よ!!」
「じゃあ諦めるしかないな。まぁ、今日は運が悪かったって事で。また次の機会にでも奢ってやるから」
「いや」
何でさ?
「あんたの事だからそのまま有耶無耶にしちゃいそう」
俺を半眼で見ながら失礼な発言をしちゃってくれちゃったりする由真さん。
「……そんな事するわけないだろう?」
「……今、間が空いた気がするんだけど?」
「気のせいだ」
暫し、無言で睨みあう俺達。
……。
……。
「……ふう。ま、いいわ」
先に折れたのは由真の方だった。
息を吐いて肩の力を抜き、眉毛の角度を若干落とす。
「そんな事に無駄な時間使うよりも現状をどうにかする事が先決よね」
「どうにかするっていっても、この混み具合じゃあ手の打ちようがないと思うんだけど」
まさかこの人ごみを蹴散らしていくわけにもいかないしな。
「そこを今から考えるんでしょ」
そう言って手を顎に持っていく由真。思考モードに突入する様子だ。
「考えるのはいいけど通行の邪魔にならないようにしろよ」
今の俺達の立ち位置は自動ドアの真ん前。人が入って来る時にこの上なく邪魔な場所である。こいつは集中するとすぐに周りが見えなくなるタイプだからな。あらかじめ釘を刺しておくに越した事はない。
「うっさいわねー、そんな事わかってるわよ」
と文句を言いながらも少し右側に移動する。
「……ま、早めに決めてくれ」
考え込んでいる由真から視線を外し、手持ち無沙汰になってしまったので何気なく前方の行列に目を向けてみる。
「(それにしても長いなー)」
入り口付近にいる俺達の近くまで伸びている人の列。
そんな人の集合体を眺めていると、
「ん?あれは……」
人ごみにまぎれて一瞬、見知ったお団子頭が目に入った。すぐに人の流れにのってしまったのではっきりとは視認出来なかったが、身長と制服から考えて間違いない、俺の知っている彼女達の『どちらか』である。
「と、いうことは」
彼女が姉か妹かは後姿だけでは判別できないけど一人がいるということは、あの二人の場合必ずもう片方もいるということである。
そう俺は予測し、辺り一体をお団子を目印に念入りに探してみる。
えーと、団子、団子……
「いた」
座って頬杖を突きながらいつも通りニコニコしている珊瑚ちゃんを発見。
と、いう事は並んでいるのは瑠璃ちゃんだったか。まぁ、この手の仕事はいつもあの子の役割だからあらかた予測済みだったけど。
それよりも、
「由真」
「あん、何よ?こっちは忙しいんだから話かけないでくれる?」
「席、何とかなりそうだ」
見た感じ、珊瑚ちゃんしかいないっぽいからな。頼み込めばなんとかなるだろう。由真の事も知らないわけでもないし。
「え!」
「だからお前は食い物確保してこい。俺は適当にセットで。金は後で渡すから」
それだけ言うと、俺は珊瑚ちゃんのもとへと足を進める。この混みようだ。放っておいたら「相席よろしいですか」とかいって誰かが先にわりこんでくるかもしれない。
「ちょ、ちょっとー!!」
納得のいっていない由真に手だけで応え、俺は目的の場所へと向かった。
「珊瑚ちゃん」
「?」
俺の突然の呼びかけに一瞬キョトンする彼女だが、
「あ、たかあきやー」
こちらを認識したとたんにその表情がパッと明るくなった。
「たかあきもご飯食べにきたん?」
「うん、まー、そんな感じかなんだけど席が無くてさ。珊瑚ちゃん邪魔じゃなかったら相席させてくれないかな」
格好悪いお願いだが、現状ではこの手札しかないから正直に用件を伝える。
すると彼女は少しも考える素振りをしないで
「うん、ええよ〜。一緒に食べよ」
と即答してくれた。
「本当?」
「もちろん!たかあきなら大歓迎や〜」
「いや、実は後もう一人連れがいるんだけど……」
「ほぇ?このみちゃん?」
「いや、由真」
「由真ちゃんか〜。うん、ええよ。由真ちゃんにはミっちゃんお世話になっとるからな。ぜーんぜん問題無しや!」
と、これに対しても珊瑚ちゃんは手をぱーっと広げて純度100パーセントの笑顔を展開してオーケーサインをしてくれた。
よかった。由真に自信ありげに言っておいて、もしここで断られたらどうしようかと思ったが、なんとか事なきを得たようだ。
「で、その由真ちゃんは何処におるん?」
「ああ、向こうに買いに行かせてる」
首だけを奴のいそうな場所へと向けて返事に変える。
「ふーん、瑠璃ちゃん達と同じやな」
そこで区切りを入れた後、行列の方へ向けていた視線をこちらに戻し、にぱーっと笑い俺の腕を取る。
「じゃあ、残ったもん同士仲良く待ってよな、たかあき」
そう言って自分の隣を空いている方の手でぽんぽんと叩く珊瑚ちゃん。
どうやらそこに座れという事らしい。
……。
……ま、いいか。こっちが頼み込む立場なんだ。席の指定ぐらい快く受け入れよう。
「たかあき、どうしたん?」
「あ……、ううん、なんでもないよ」
きょとんとしている珊瑚ちゃんに対し軽く首を振った後指定された席へと腰を下ろす。
俺が席についたのを確認すると、
「えへへ〜」
と小猫の如くすりすりしてくる彼女。
その仕草の所為で揺れるお団子を見ながら俺の思うことは唯一つ。
こんな所瑠璃ちゃんには見せられないな……。
目撃された瞬間体重の乗った威力抜群のとび蹴りが俺の頭を打ち抜くだろうという事が経験則から容易に想像できる。
そして倒れた俺を踏み潰しにかかるということも。
本人は気にしているようだが、実のところ彼女の重量は紙、とまではいかないけれども同年代の女性に比べたらかなり軽い部類に含まれるので普通に乗っかられたところでダメージはないのだが、如何せんその踏みつけとなると何処にそんな力があるのかと疑う程の衝撃が俺にかかってくる。
マゾの資質がある雄二なら喜び勇んで踏まれそうだが、生憎そんな性癖を持ち合わせていない俺としてはそうなる未来は極力避けたい。
なのでこのうに〜っとくっ付いている下級生を速やかに離れさせる必要がある。
うん、決して引っ付かれて恥ずかしいからとかそういう理由からくるものではないから誤解しないように。これまで散々この手の事でからかわれてきたんだ、いい加減俺にも耐性というものが出来てきてる……筈だ。
だからこれはあくまでも俺が受ける身体ダメージを減らそうという極めて建設的なだな……
「うん、どうしたんたかあき?顔真っ赤かーやで?」
……。
……それはきっと俺の顔の毛細血管が無意味に活動盛んになってるからさ。
いやー、偶にこういう事があるんだよね。困っちゃうよ、ははは……。
「ふーん。照れてるからやないの?」
……。
「……というか珊瑚さん、わかっててやってませんか?」
「うん!照れてるたかあきかわいいんやもん」
凄くいい笑顔で躊躇い無く言い切る珊瑚ちゃん。
……というか年下にかわいいとか断言されるのってどうよ?
「え〜、ええやんそんな事。だってたかあきほんまかぁいいーかぁいいーんやもん。このままお持ち帰りしたいわー」
「いや、流石にその発言はマズイっしょ?というか持ち帰らないでくれ、頼むから」
捕まれていない方の手で降参の意を示し某斧少女のような発言に待ったをかけるものの、
「じゃあレンタルで」
俺の鼻先をピッと指差し間髪いれずに新たな提案を出されてしまった。
「……ちなみに期間は?」
「もちろん無期限や!!」
小さな手で可愛らしく拳をつくりヤーって感じにそれを天に向かって突き上げる。
なんだか気合いっぱいな彼女になんと言っていいかわからず、
「は、ははは……無期限ね。ちなみに誰からレンタルするのかな?」
とりあえずありきたりな事を口にする。
まぁ、そんなのは大体俺の親だとわかっ……
「たまちゃんから」
「ってタマ姉かよ、おい!」
「え、ちゃうの?」
さも不思議そうに小首を傾げながら俺の顔を見返す珊瑚ちゃん。
「……そんなに自然と言われてもこちらが困るんだけど……つーかタマ姉は関係ないでしょ、タマ姉は」
俺は決してタマ姉の所有物では……。
……。
い、いや、そんなことよりもどこからその発想が出てきたほうの事が重要だな、うん。
「ん〜、だってイッちゃんがいっつも難しい顔して言うとるんやで?『貴明さんをゲットするためにはまず飼い主である環様をどうにか説得しなければなりませんね……』ってな」
「……イルファさんか」
脳内にホホホと笑いながら黒い事を考えている瑠璃ちゃん大好きメイドロボの映像が鮮明に流れてくる。
つーかこの人、もうここまで人間臭くなると『実は私人間だったんです』とか言われても素直に受け入れちゃうよね。あまりにも腹黒すぎて。
「うちもイッちゃんの言うとおりやと思うねん。でな、この前たまちゃんに『たかあきちょーだい!』言うたんや。けど、あっさり断れてしもうた」
「言ったのかよ!!」
残念そうに肩を落とす珊瑚ちゃんに思わず芸人のように突っ込みを入れてしまう。
しかし俺のささやかな抵抗もこのお嬢さんの耳には届いていないようで、スッキリと無視し、
「でも、うちはあきらめへん!!いつかたまちゃん説得してみんなでラブラブラブ〜に暮らすんや!うちお姉さんやから、頑張る!!」
などと未来に向かって新たな闘志をメラメラと燃やしていた。
「だからたかあきも応援してな!」
「は、ははは……」
可愛い顔に決意を秘めた彼女に対し、とりあえず余計な事は言わないほうが良いと察し曖昧に笑うだけにとどめておく。
もう「俺の意思は?!」とかいう突っ込みを入れても無駄だと容易に想像できるからな。
最近人権がなくなってきたなーっとか密かに考えてしまう俺なのだった。
続く
あとがき
はい、続・なんてことの無い一日(11)をお届けしました!如何でしたでしょうか?
え、何、散々出す出す言ってたシルファが出てないじゃないか!って?
ははは、その件ちょっと問題が生じてしまいまして……。
まぁ、問題といっても私が気にしなければそれだけの話なのですがね。それでもやっぱり……。
え、問題を教えろ?
それはですね……
他の方のサイト様とネタが被っちゃったんです!!orz
実はこの後登場させる予定だったシッちゃんには貴明君の事を『パパ♪』とか呼んでもらう予定だったのですよ!!
↓な感じで!
「と、言うわけでこの子がイッちゃんとミッちゃんの妹のシッちゃんや!!シッちゃん、この人がいつも言ってるたかあき。挨拶してな」
「は、はい!は、初めまして。HMX―17cシ、シルファです。よ、よろしくお願いします。パ、パパ」
「どげふ!!ぱ、ぱぱ?!」
「え、だって珊瑚ママがそう呼びなさいって……い、いけなかったですか?(おろおろ)」
「あー、たかあきシッちゃんいじめちゃあかんよー」
「いじめてないって!ていうかパパってどういう事さ!」
「うん?うちがママやんやろ?(自分を指差す)」
「……まぁ、そうだね」
「だからたかあきがパパやん(貴明の方を指差す)」
「いや、そこわけがわかんないから!!」
「えー、そうかなー、瑠璃ちゃん?」
「……さんちゃん。流石にそれはうちも貴明と同意見や。わけわかんない」
「でも、瑠璃ちゃんが『パパはいやー!』って言うたんやで?」
「あ、当たり前や!!うち男やないもん!女やもん」
「せやろ?だからたかあきがパパ。ママだけじゃ寂しいもんなー、シッちゃん」
「え、え!!(おろおろ)」
「ほら見い、シッちゃんも大賛成や!!」
「「いや、それは違う」」
「あ、あう〜、け、ケンカしないで下さい〜(涙目)」
「「いや、してないから」」
「そうや〜、うちらはいっつも仲良しやもんね〜。と、いうわけでたかあきはパパやん!」
な〜っと戸惑う娘の手を何故だかその手を振り回す珊瑚。それに「え、あう〜」言いながら付き合わされるシルファ。
そんな母娘の行動を眺める二人。
「……瑠璃ちゃん、なんとか出来る?」
「……聞くまでもないやないか」
「……ごもっともで」
……。
「「はぁ」」
とまあ、こんな感じのやり取りが書きたかった!
でもね〜、『ぱぱ』ネタはすでに書かれた方がいらっしゃるんですよねー。
どうしようか。いっその事『おにいちゃん』で……。だけど私みたいな下手の横好きが被るだのどうだのと気にする事がおこがましいという感じもするしなー。相手の方と比べるまでもなくネタも貧弱だしこのまま……。いや、でも知ってしまった以上は……。
とまぁ、そんな感じで彼女の方向性を現在模索中なわけなのですよ。
だから彼女の出番はもうちょっと後?速効で決まれば次辺りに書きますが。
ごめんよシッちゃん。全て私の執筆の遅さが原因です。
といった感じで私の懺悔(?)も済みましたので今回はこの辺で失礼させていただきます。
最後に珊瑚ちゃんがなんか変だ!!とか感じた方。久々に出したんで感じが掴めなかったんです。そういうわけで、許して、お願い、プリーズ。
それではまた次回もお会いできたら嬉しいです。作者でした。
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