「おーけー。まずは落ち着こう。そして向かい合って話をしようじゃないか」
尻餅をついた体勢で無様に後ずさりしながらも俺は目の前の捕食者の説得を試みる。
もっともこの相手に対しては説得、というかこちらの意見を通す事が出来る確率はほぼ0に等しいがそれでも万が一という事はある。
非常事態には、冷静な思考で最善の判断をするのが生き残るためには必須の事だ、と俺は身を持って知っている。そして何よりも諦めないのが肝心だという事も。
「ね、それがいい。是非そうしよう。そうする事を勧めます。そうしてくれると嬉しいです。いや、そうして下さいお願いします」
じりじりと四つん這いで寄ってくる相手に対して必死に頼みこむが、向こうに止まる気配はない。これはこちらの都合なんざお構いなしという事を態度であらわしているようなものだ。つまり、説得は無意味。
「(くそ、どうする?)」
切れる手札が思いつかない事に焦りを感じ、背中に嫌な汗が出始める。
ここまでで賢明な方にはお分かりだろう。
そう、俺こと河野貴明は現在非常に危機的状況に晒されていたりするのである。
……そこ!!またかよ、とか思うんじゃない(泣)!!
クリスマスの一コマ
「私は十分落ち着いているわよ?タカ坊?」
ふふふ、と妖艶に微笑み俺を追い詰めていく捕食者―タマ姉はその頬をうっすらと赤に染めていつもよりも幾分も扇情的にそんな事をいってくれちゃったりする。
ぶっちゃけこのお姉さまは酔っておられるのだ。
俺がタマ姉の部屋に来た時点で既にアルコールの臭いはしていたし、なによりも高そうなワインと思われるビンが机の上に置いてあったので間違いないだろう。
で、それが今回の騒動の原因だと俺は踏んでいる。
帰って来てからというもの過剰とも思われるスキンシップをしてくるタマ姉であるが、今日はこれまでの比ではなかった。
俺は少し前に電話で用事があると呼び出され……
「(がちゃ)何、タマ姉用事って?」
「……遅かったわね、タカ坊」
「遅くないって!電話きてから速攻で飛び出してきたんだぜ?」
「そう?私はてっきりまた新しい女の子といちゃいちゃしてるものだと思ったんだけど?」
「ブッ!!な、なんて事を……」
「まぁ、そんな事はどうでもいいわ。もっとこっちに来なさい」
「な、なんでさ?」
「最近のタカ坊の行動は目に余るわ。特に女の子絡みで。というわけで修正(くいくいっと人差し指を動かす)」
「(壮大に後ずさり)そ、そんな事言われていくわけないじゃないか!!だいたいそんな根も葉もない事でタマ姉にお仕置きされてたまるか!!」
「でしょうね。私も本気で言ったわけじゃないわ」
「(嘘だ!!あの目は絶対本気だった!!)」
「もう、疑り深い子ね。本当に本当よ。それともタカ坊はお姉ちゃんが信じられないのかしら?(ニコリと天使のように微笑む)」
「……わかったよ。それよりもタマ姉、用事ってなんだよ?まさかさっきの冗談を言う為に呼んだのか?」
「そんなわけないでしょう。ちゃんとあるからもっと近くにいらっしゃい。そんな遠くにいたら話し難いでしょ」
「……」
「そう、偉いわね。それで私の用件なんだけど……」
「(……?なんだかいつもとは違う臭いが……)」
「私ね、最近……」
「最近?」
「スキンシップが足りていないと思うのよ(ガバッと光速で貴明を押し倒す)」
「?!?!?!?!?」
「ふふふ……」
「?!????!???!!」
と、まぁそういった経緯を経てスキンシップと称されて押し倒されたわけなのだ。
流石にそれは違うだろうと身の危険を激しく感じ、無我夢中で初撃からはなんとか抜け出せたものの、それ以上の環境改善は出来なくて現在の捕食者とその獲物という状況になってしまったのである。
そして原因はたぶん酒。人間酔っ払うと解放的になるらしいので今のタマ姉もいつもよりはっちゃけてしまっているのだろう。
……はっちゃけ過ぎな感じがするけどな。
つーか、酒なんて飲むのかよ。タマ姉。
そんなものは不良が飲むものよ!とか未成年がそんな事しちゃ駄目でしょ!とかまっさきに言いそうなのに。
「あら、酔っ払ってどんちゃん騒ぎするために飲む、ていうならもちろん飲ませないけど美味しいお酒を楽しみたいって言う理由で飲むのは全然構わないわよ?」
私みたいにね、と言って後ろ側にあるビンを一瞥する。
それにつられて俺もそのビンに目を向ける。
先程はちらりとしか確認していなかったが、なんというか年代ものって感じだな。それにタマ姉が好んで飲むんだ。高そうではなく、本当に高く、そして良いものなんだろう。
「ふふ、興味を持ったの?」
何時の間にやら近距離にタマ姉の姿があった。
どうやらこちらが意識をビンに向けているうちにこちらにやってきたもようだ。
「なんならタカ坊も飲んでみる?将来付き合いで飲まなくちゃいけないだろうし、今から悪酔いしない飲み方を身につけるのも悪い選択じゃないわ。もちろん……」
そこで区切り、俺の頬にその綺麗な手を這わせねっとりとした目線でこちらを捉えながら
「私と一緒に、だけどね」
そう、濡れた唇から言葉を漏らした。
「い、いや。俺酒とかあんまり興味ないし……」
それにタマ姉と一緒に飲むという事は常にこの状況にまた立たされる可能性があるということだ。
そんな心労MAXになりそうなことは断固拒否したい。
「それはお酒の美味しさをしらないから言うのよ。ちょっとでもいいわ。飲んでみなさい」
顔を近づけ、頬に当てていない手を俺の胸板に置き妖しく微笑みながらそう告げる。
「そうだわ、いい事思いついた」
「い、いい事?」
「ええ、そうよ。私さっきまでちょっと飲んでいたの」
はい、それは知っていますよ。だからこの状態になったんだから。
「それでね、私の口の中にはまだ少しはお酒が残っていると思うの」
うん、そうですね。そんなのは当たり前の事ですよね。
……なんかいやーな予感がビンビンするんですけど。
「……タカ坊に分けてあげるわ。スキンシップを兼ねて、ね。」
「んむぐう!」
言うが早いか、タマ姉の唇が俺の唇をいきなり塞いだ。
そして、俺の歯茎に舌を這わせてゆく。
「ん、んむぐ、んむ……」
「ん、むう……ぴちゃ、んちゅ……」
全身に痺れるような衝撃を受けて、閉じていた歯と歯もその間に隙間が生じてしまう。
「ん、ちゅ、ぴちゃ……ん」
その隙を突いてタマ姉の舌が俺の口に入り蹂躙していった後、唾液を流し込んでゆく。それには若干のアルコールとおぼしきものが含まれているはずだが、俺にはそんな事を気にする余裕もない。
「ん、むぐ、っむぐう!!」
このままでいいはずが無いので抗議の声を上げようとするが、
「ちゅ、ぴちゃ……ぴちゃ、ちゅ、ちゅる……」
タマ姉の舌に翻弄されて、そんなものは一ミリも出せはしない。
「は……ん!」
「ぴちゃ、ぴちゃ……ちゅ、むぐ……」
嘗めるように、噛むように、弄ぶ様に、俺の口はタマ姉の舌の動きに犯され続ける。
だがタマ姉の動きはそれだけに止まらず、今度は俺の上着の中に手を侵入させ、胸部を直に撫で回し始めた。
「んく、んんっ!!」
そこからも刺激を与えられ、いい加減頭がぼーっとしはじめる。
「はあ……ん……ちゅっ……ちゅるっ」
しかし、そんな事は関係ないとばかりにタマ姉は動きを止めようとはしない。
やばいやばいと脳が警報を鳴らすが、抵抗しようにも口の中と胸からくる刺激によって体が弛緩させられているためうまく抵抗する事などできるはずがない。
このままでは脳も快楽に溶かされて本当にタマ姉の玩具にされてしまう。
心の一部すら俺の制御下から離れ「このままでもいいかなー」と思いはじめているのだ。心身共に堕ちてしまうのも時間の問題といえるだろう。
だが、これはいくらなんでも拙過ぎる。こんな成り行きに身を任せるなんて絶対後で後悔するに決まっているのだ。そうならないためにもなんとしてでもこの場を乗り切らなくては!
そう決意し、残っている理性を全部使ってタマ姉を引き剥がしにかかるが、
「む、んぐぐ?!」
タマ姉の次の行動によってそれも阻止さあれてしまう。
なんと空いているほうの手で俺の股間部分に手をまわしてきたのである。
そこを胸部と同様に撫で回していくタマ姉。
優しく、ゆっくりと。だがとても扇情的に……。
「ん、んむ、ん!!」
「むぐ……ぴちゃ、ちゅ……ちゅ」
そして暫く撫でた後、今度はズボンの中に手を入れて直に触れようする。
上半身とは違い、確実に死守しないといけない部分なのだが、もう体も心も抵抗出来なくなってしまっており、とうとう俺は……
「……って、流石にそれはやっちゃ拙いだろう!!」
そう叫んでベットから跳ね起きた。
ん、叫ぶ?跳ね起きる?
キョロキョロと辺りを見回してみると目に入ってくるのは見慣れた空間。
そう、タマ姉の部屋ではなく俺の部屋である。
そして今俺がいるのは自分のベットの上。
ということから導き出される答えは、
「さっきのは夢、ってことか」
……。
……。
「ふー……」
そう認識したとたん思わず安堵と疲れとが両方入った溜息を吐いてしまった。
安堵といのは夢オチでよかったーというもので、疲れというのは……言わなくてもわかるだろ?あんなものを見たことに対するものだよ。
「にしてもどうしちゃったのかなー、俺。あんな夢を見るだなんて……口にも何処と無く感触が残っているような感じがするし」
まぁ、それはあまりにもリアルすぎたのが原因なんだろうけどな。
コンコン
そんな事を考えているとドアをノックする音が聞こえてきた。
「タカ坊ー?」
音の主はこちらの返答も応えずにドアを開けて、
「あ、まだ寝てたのね。全く、そろそろクリスマスパーティの用意始めるから手伝いにいらっしゃい」
と、呆れ顔でこちらを見ながらそういった。
「あ、ああ……」
先程の夢の所為か、タマ姉の顔が直視できないでいる俺。
そのため顔も背ける形になってしまう。
「ん?どうしたのタカ坊。どこか具合悪いの?」
その態度を疑問に思ったのか、タマ姉がこちらに近づき俺の顔を覗き込む。
「い、いやいやなんでもないって。うん、大丈夫大丈夫。それよりもちょっと寝汗かいちゃったみたいだから着替えてから行くよ。先に下で待ってて」
「そう?なら早く来なさいよ。このみも頑張るんだって張り切っているんだからね」
「了解です、サー」
その言葉に満足したのか、タマ姉は一回だけ頷いた後、ドアから出ていった。
「さーって、俺も気持ちを切り替えて下に行きますか」
今日はクリスマスという事でミス研主催のクリスマスパーティなのだ。メンバーはミス研のメンツに加えて俺の知り合いの女の子殆んど。ちなみにメンバーを決めたのは会長である。会場はうちなのだから少しぐらい俺に裁量があっても良かったとは思うが、あいつにそういったものを求めるだけ無駄というものなので、あまり気にしないようにしている。つーか慣れた。
それよりも色々と感のいい連中が揃っているのだ。早いところいつもの調子に戻さないと何を言われるかわかったものではない。
ここは瞑想でもして精神を整えてだな……
「あ、タカ坊」
目を瞑ろうとしたときに響いてくるのはタマ姉の声。
むー、時間がないというのに。これはさっさと用件を聞いて退場してもらわなくては。
「何、タマ姉」
「……ごちそうさま」
「?!」
思わず駆け寄ってドアを開くが、そこには既にタマ姉の姿はなかった。
「え、ご馳走さまって、ええー!!」
思い出されるのはあの夢と起きた時に唇に残っていた感触。
と、いう事はまさか……。いや、でも流石にそれは……。
悶々と廊下で考え込む俺。
「あれー、たかくんまだこんなとこにいたんだ。もう準備始めるから早く来てよー」
そこにこのみがやってきて俺の腕を引っ張る。
「あ、ああ。わかっている」
「?どうしたの、たかくん?なんだかいつもと……」
「え、全然そんな事ないって。うん、ホントにホントだ」
「そう、ならいいんだけど」
とはいうものの何処か納得のいかない表情を浮かべるこのみ。
「ああ、じゃあとっとと下に行こうぜ。タマ姉が待ってるんじゃないのか?」
「あ、そうだった!!早くいかないとタマお姉ちゃんに怒られちゃうよ!!急ごう、たかくん!」
「おう!」
そうして俺とこのみは廊下を駈けてタマ姉の下へと急ぐのだった。
追伸
このみにも気付かれるだけあって、俺の変調は周りの奴ら殆んど気付きやがりました。お陰で楽しいはずのパーティが……。
内容は後生だから聞かないでくれ(泣)
おしまい
あとがき
やっちゃった。あーやっちゃった、やっちゃった。(季語無し俳句?)
どうも、今回も飛ばしすぎてしまいました作者です。
やばいね、今回。前回(河野貴明の憂鬱)とは違う意味でやばすぎ。
後もう一歩進んじゃったらタマ姉に犯される貴明(18禁)を書くところでした。
いや、実際はそんなの書いた事がないからどうなったかはわからないんですけどね。
まぁ、何とか年齢指定をつけずに済んでよかったとホッとしております。
さて、今回の話はここまでで次回予告。
いい加減シルファを出そうと思います。しかし頑張って書いているのですが、なかなか進みやがりません。くそう、その次の構成も既にできているというのに!!
なので次回も何を出すかはわかんないッス。私としては続なんでシッちゃん予定なんですがねぇ。はてさて上手くいきますやら……。
期待しないでまたーりお待ち下さいね。
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