河野貴明の憂鬱

 

 

 

今日も今日とて騒がしい我らがミス研の面々

「ちゃる!それはあたしのだー!!」

「早い者勝ち。鈍いよっちが悪い」

「なにをー!!」

「まあまあ、まだ沢山ありますから。ケンカなんてなさらずに」

何時もの如くケンカを始める二人を宥める優季。

「う〜ん、やっぱり優季さんのクッキーはおいしい」

「……お姉ちゃん、食べすぎ。一気に三つも口に頬張るのは止めた方がいいわよ」

「だ、だって美味しいんだもん」

そのちっこい口に沢山詰め込んで物凄く幸せそうにしている愛佳に、そんな姉を呆れ顔で見る郁乃。

「うむ、このクッキーは紅茶によく合うな。うー、紅茶のお替りはいるか?」

「ああ、頼むよ」

コポコポコポ……。

「本当、るーこちゃんのそれは何度見ても凄いわよねー。あたしも覚えようかなー。どう思う、タカちゃん?」

「まぁ、いいんじゃないのか?特技は多いに越した事はないから」

「そーよねー、将来宴会とかで使えそうだもんねー、るーこちゃんついでにあたしのもお願いできる?」

「了解だ」

コポコポコポ……

「つーか、宴会で使うのかよ?自分で飲むために使えよ」

「えー、あたし緑茶派だしー」

「そうなのか?」

「嘘よ。そうだったらこの部屋にお茶セット持ち込むもの」

「……このやろう」

「くっくっく、まだまだ修行が足りないねー、タカちゃん。これじゃあ次期部長への道はまだまだ遠いわよ?」

「そんな道はこっちから踏み外してやるわ!!」

「すいませーん!るーこ先輩、こっちもお願いできるっすかー?」

「任せるがいい」

紅茶のお替りを淹れるるーこに、何時もの如く花梨に突っ込みを入れる貴明。

こんな感じでだんだんミステリーからかけ離れてただの溜まり場になっている気がしてならなくも無いが、そこは会長クオリティー。実は話題がもっぱらUMAとかUFOとかについてだったりする。

しかも職業・宇宙人もいるので色々と他では絶対聞けない話も流れておりやってる事はお茶飲んで喋ってるだけだが、実際は意見交換や知らない知識の吸収、宇宙の裏事情等ミステリーを研究するという意味ではかなり精力的に活動している部活なのであった。

 

「それにしてもさー」

唐突に何を思ったのか顔をニヤニヤさせながら貴明を突付く花梨。

「タカちゃんはあたしに感謝しなくっちゃいけないわよねー」

「は?なんでだよ?」

いつも厄介事ばかり押し付けられている自分が何故感謝しなければならないと思う貴明。

「そういう事は周りを見てからいうものさ」

「?」

怪訝な表情をするも、促されるままに辺りを見渡す。

が、そこには部員達が仲良くお茶を飲んでいるだけでこれといった発見はない。

「何が言いたいんだ?」

「わっかんないなかなー?」

「わからん」

猫のように目を細める花梨に対してぶっきらぼうに答える貴明。

「もう、本当に鈍いんだからタカちゃんは。うちの部活は男の子タカちゃんだけなんだよ?」

「ああ、そうだな」

「こういうの何て言うか知ってる?」

「知らん」

付き合いきれないと紅茶を啜る

もういい加減だるくなってきたのか、態度に投げやり感が増している。

だがそんな事は花梨にとっては予測済み。ニヤリと笑い彼の耳元に口を近づけ囁く様に答えを言い放つ。

「ハーレムっていうんだよ?」

「ぶふーーーーー!!!」

花梨の言葉のあまりにも強い衝撃によって、口に含んでいた紅茶を盛大に噴出す貴明。

「な、な、なに言ってんだ!!!」

「ははは、タカちゃん顔真っ赤だよー、おっかしー」

「笑うなー!!!」

「た、たかあきくん、どうしたの?」

「せ、先輩?」

あまりの声量にのほほーんとお茶していた面々の視線が一気に貴明に集中する。

それに気付いた貴明は慌てて首を振り、

「い、いやそんな対したことじゃ……」

誤魔化そうとするが、そこに花梨が割り込んでくる。

「タカちゃんはここにくれば可愛い女の子に囲まれてウハウハだなーって話」

「て、てめー!!!!」

「……お兄ちゃん、そんな事考えてたんだ」

絶対零度の瞳で貴明にやらしーっと視線を送る郁乃。

「ち、違うご、誤解だ!!」

「そ、そうだよ郁乃。そ、そういうのは男の子の夢だって聞いた事があるし、ね?仕方ないよ」

フォローしようとするも自分も動揺しているためか追い討ちに聞こえなくもない発言をする愛佳。

「ちょっと待て、愛佳!!その情報ソースは何処から!?」

「え、えーっと。向坂君から……かな?」

「雄二ーーー!!!」

今度あったら絶対殴る、いやそれだけじゃたらん、あいつの持ってる写真集とかタマ姉に頼んで全部処分してやる!!と、テンパった頭で復讐を決意する。

そんな貴明を見ながら、

「いやー、先輩そんな事には全く興味ないような顔して意外と……ってあれ?こういうの何て言うんだっけ?」

「……ムッツリ」

「そう、それ!!意外とムッツリだったんですねー」

「ムッツリ……(想像中)……ポッ」

くししし、とグーを口元に持ってきて笑うよっちに何故だか頬に手を当てて顔を赤らめるちゃる。

「失礼な事を言うな!!特にそこのキツネっ子、今何を想像した?!」

「……ここでは、ちょっと(ポッ」

何を考えているのやら。

ここはちょっと問い詰めないといけない所だと六感で判断した貴明だが、

「る?うはうはとはどういう意味だ?答えろ」

俗語がわからないのか疑問符を浮かべ貴明の制服の裾を引っ張る宇宙人によってそれを阻止される。

「……」

ここでるーこに構っている暇は無いのだが、穢れの無い瞳で見つめられて無碍にするのも流石に良心が痛む。どうしたものかと悩んでいると、

「るーこさん、今ちょっと貴明さんは忙しいみたいなので代わりに私が教えて差し上げますよ」

と、柔和な笑みを浮かべて優季が言った。

「む、そうか?」

手に握っていたものを離し、優季の方を向くるーこ。

「(サンキュー、優季さん)」

心の中で感謝し、

「大体、タカちゃんってさー」

「うわっ!マジッスか!?」

「……最低」

「た、たかあき君信じてたのに」

色々とひじょーに貴明の立場が危うくなるような会話をしている残りのメンツの突っ込みにとりかかろうとする。

だが、世の中そう甘くはない。

「で、うはうはとはなんだ?」

「そうですねー、端的にいえば複数の異性に囲まれて鼻の下を伸ばしている状態ってことでしょうか。あ、鼻の下って意味わかりますか??」

「るー。助平な顔をする事と聞いた」

「はい。その通りです。貴明さんがよくする顔ですね」

人差し指をピッと伸ばし、非常ににこやかな顔で致命的な事を言う優季。

ズベシッ!!!

あんまりといえばあんまりな発言に吉本の芸人のように盛大にすっころんでしまう貴明。もうこのまま不貞寝したいという欲求に駆られるが、そんな事をしたら起きた時にどうなってるのかわかったもんじゃないのでボロボロな精神をなんとか起き上がる。

「優季さん!!!」

「ほほほ」

口に手を当てて上品に笑うが前言は撤回しないあたり彼女の本音が見え隠れしている。

「るーこ!これは冗談だからな!!くれぐれも信じるなよ」

「る、何が冗談なのだ?うーがスケベだという事はるーは元からわかっていたぞ」

何言ってんだこいつはという表情で首を傾げるるーこ。

…ブチ…

宇宙人にまでスケベ扱いされて貴明の精神的ダメージが限界点を突破してしまい、とうとう彼の糸が切れてしまった

「はは、はははは……」

「うわ!ど、どったの?タカちゃん?急に虚ろな顔になっちゃって?」

その危うさ大爆発な笑い声にさしもの会長も動揺を隠しきれない。しかしこれは彼女だからその程度ですんでいるわけで、他の連中なんかドン引きである。愛佳にいたっては貴明の笑い声を聞いた瞬間、部屋の隅まで高速移動し、頭を抑えてガクガクブルブルと涙目で震えている。

「何で?何で世界はこうも、こうも……」

だがそんな部員達の姿も今の彼にはアウトオブ眼中でただただ熱で浮かされたかのようにうわ言を言うばかり。そして

「ああ、もう!!誰か俺に優しくしてよ!!」

と、某内罰少年(シのつく人)のように頭を抱えて叫んでしまうのだった。

 

「ね〜、タカちゃん〜」

「……」

「タカちゃんってば〜」

猫撫で声で椅子に座っている貴明の周りをぐるぐるまわる花梨だが、そんな会長の事など全く見えないにないかのように目をとじて拒否る貴明。

あれから時間が経過しその間は皆なんとか宥めようと努力したため一応は貴明の精神も平常運転を再開していたが、先程の事には余程腹を立てているようだ。あれから一切口をきいていない。ぶっちゃけた話拗ねてしまったのである。

「ね〜、タカちゃん、そんな怒らないでよ〜。あたしも反省しているからさ〜」

で、今は宥めるのではなく花梨によるご機嫌とりの真っ最中なのである。多人数でそんな事やられると鬱陶しいと思われてしまうので言いだしっぺの責任という事で今は彼女だけ動いて、後は見てるだけという状況だ。

「ね〜〜」

「……」

……もっともまだ大した成果は出ていないが。

そんな貴明の態度が気に喰わないのか、

「もう!男の子の癖にうじうじしすぎだよ、恥ずかしいと思わないの?」

と逆切れしてみるも、

「……」

貴明には効果無し。どうやら今度の眠り……じゃない不機嫌は長くなりそうである。

「もう……」

お手上げだといった感じで手を天に向け、肩を落とす花梨。

「ふぅ、こうなったら最後の手段を使うしか……みんなちょっとこっちへ集合ー」

そう言って貴明から離れて円を組み、何やらみんなで相談し出す。

無関心を装っていてもこれは気になるのかチラリと盗み見る貴明。だが、ブルブルと首を振り、

「(いかんいかん。ここで折れちゃったらこれから先も会長の玩具にされちまう。)」

と、好奇心を無理やり押し殺しムスっとした態度を続けるのだった。

 

暫くして……

「よし、みんな覚悟完了?この作戦でいくからね」

「了解!!望む所ッス!!」

「……右に同じ」

「まぁ、責任の一端は私にもあるわけですし……」

「うむ、るーに任せるがいい」

「うう、恥ずかしいけどたかあき君を信じてあげられなかったあたしが悪いんだし……」

「はぁ、なんであたしがこんな茶番に……」

「まぁ、それぞれ思うところもあるみたいだけど、今はタカちゃん最優先って事で。じゃあ、オペレーションTDU始動!!」

「「「「「「了解!!」」」」」」

などというやり取りの後、解散して各々が定位置につく。

「うし!それじゃあいっちょー、ヴァーっといきますか!!」

そう自分に気合を入れて、先頭バッターとして貴明の所に赴く彼女だった。

 

「(何を話しているんだ?)」

覚悟完了だの、オペレーションなんとかだの、なにやら嫌な予感がバリバリ感じる言葉を聞いて、不安な気持ちが膨れ上がってくるのだがそれでもなんとか平静を保とうとする貴明。

「(今日は絶対退かないって決めたんだ!!)」

などと拳を握り決意を固めていると、そこに先程からあやしい行動をとっていた花梨がやってきた。

「ねぇ、タカちゃん……」

目を瞑って顔を逸らしていたため彼女の表情は見えなかったが、その口調からはどことなく妖しい色香を感じる。そしてその声を聞いた次の瞬間

フニッ

「!!」

何やら柔らかいものを背中に感じ、目を開けて慌てて振り向く貴明。

「うわあああ!!」

そこで目にしたのは椅子越しから貴明の肩を抱き、その背に自分の胸を押し付けている花梨の姿があった。

「もう、悲鳴あげる事ないじゃない。失礼しちゃうなー」

そう言って笑顔を作るも、その手は逃がすまいとさっきよりも強く貴明の肩を抱きしめている。

「ど、どどどど―――」

動揺のあまり呂律が回らない貴明に対し、『本当、失礼よねー』と思いながらも何が言いたいのかを適当に予測し、答えてやる。

「何、どうしてこんな事するのかって?ほら、さっきは調子に乗りすぎちゃったじゃない?だからちょっとはサービスしてあげようかなーって」

どこかのキャバクラですか、ここは?

「どどどど―――」

「え、違うの?じゃあ、どこ触ってるんだよ!!って?いやだなー、触ってんのはタカちゃんじゃない」

いやんと右腕だけ離し貴明の頭を軽く叩く花梨。

「どどどど―――」

だが、どうやらそれも違ったようだ。

「えー、じゃあどいつの命令だ――――かなぁ?これ発案あたしだから誰に言われたってわけじゃないんよ。進んでタカちゃんの荒んだ心を慰めるけなげな会長!!どう、タカちゃん、惚れちゃった?」

「どどどど―――」

「え?これも違うの。おっかしーなー」

会長の怖い所はこれを本気で言っている所である。

「ううんと……どんどん抱きついてくれよ、この調子で?」

「どどどど―――」

「違うのはわかってるわ。タカちゃんにはそんな甲斐性ないもんねー。でも後は何があるのかしら?どれくらいお礼を言えばいい?」

「どどどど……ど」

この辺りでいい加減息が続かなくなってきたのか、貴明の声が止まる。

いや、声だけでなく呆然とした表情で、貴明はその体の動きを止めてしまった。

シンっと訪れる静寂。

「で、結局いいたい事は?」

「……どぎゃあ」

「……ここまで引っ張っといて流石にそれはないんじゃないの、タカちゃん?」

「いや、こんなパクリ風味なやり取りはどうでもいいんだよ!!」

「うわ、ぶっちゃけたわね」

「そんな事よりも!!

逸れ気味にある会話を戻すため、語彙を強める。

「急に抱きつくなよ!!ビックリするだろ!!」

「あー、まー、確かにビックリしていたわねー」

というかビックリしすぎである。あそこまでどもる奴は普通いない。

まぁ、彼の周りにある特殊な環境がそうさせたと考えればその反応は逆に自然かもしれないが。いつも気を失う寸前まで赤い髪の女性から抱きしめられている彼の環境を考えれば。

「というかいつまで抱きついてんだよ!」

そう言って強引に立ち上がり、彼女を振り払おうとする。

「いいじゃん、役得だと思えばさー。それにタカちゃんやけに肌触りがいいし、あたしは暫くこのままでもOKさ」

うーん、新発見だねとスリスリと貴明に擦り寄る花梨。もはや当初の目的は忘れているようだ。おそるべし、貴明(体のみ)!!流石は環を虜にするだけの力がある。

「俺はOKじゃねー!!!」

いい加減にしろとばかりに、全力を持って立ち上がりにかかる。

「お、ととと」

勢いの押され、肩だけはなんとか掴んでいるものの、ハグ状態から脱出されてしまう。

そのまま体を捻って花梨を振り払おうとする貴明だが、その前に花梨が自分と貴明の間にある椅子を蹴り飛ばし、彼の背中にピタリと張り付くほうが早かった。しかし、

「はーなーせー!!」

何度も何度も体を捻られ徐々に引き剥がされてゆく。

だが、そのまま大人しくしている会長ではない。振り払われそうになるという外的刺激によって最初の目的を思い出し部員に向かって声を上げる。

「みんな、作戦実行!!」

掛け声とともに、今まで事態を見守っているだけだった残りの部員達が貴明に向かって一斉に動き出す。

「うわ!!ちょっと、みんな何だよ!!」

ビビる貴明は無視し、各々はそれぞれ思い思いの位置に抱きつく。

小牧姉妹は右手を二人がかりで押さえ、左手はちゃる&よっちコンビが同じく二人がかりで押さえ込む。そして後ろは会長、前は腰の部分を優季がしゃがみ込んでホールドし、上半身をるーこが優季を貴明とサンドイッチするかのようにがっちりと掴む。

「?!?!?!????!???!???」

そりゃもう皆が皆がっちりと『離さない!!』という意志を込めて掴んでいるので、貴明の体には彼女達の柔らかい部分が当たる、当たる。お陰で貴明の顔はさっき会長に抱きつかれた時以上に赤い上、思考能力も極端に落ちてしまっている。

そう、これがオペレーションTDU(タカちゃんに抱きついてうやむやにしちゃおう)!!

……早い話が色仕掛けである。

だが、その効果は絶大でもう既にパニックで貴明は堕ちる寸前。最近耐性が僅かながらついてきたといってもまだまだこのみ以外からのスキンシップは苦手とする所なのである。

「ねぇ、タカちゃん……」

そんな貴明の耳元で花梨が囁く。いつもの明るすぎる声から何かをねだるかのような甘いねっとりした声質で。

「さっきの事は水に流して機嫌、直してほしいなー。いつものタカちゃんに戻って欲しいなー。そういないと」

「……そうしないと?」

声を何とか絞り出し問いかける。

「離れて、あげない」

ぎゅーっと力一杯抱きしめる花梨。それにつられるかのように他のみんなも力を込める。

「(ああ、やばい。ほんと、やばい)」

気を抜けばその瞬間倒れそうになる体を残っている精神力で必死に建て直し、まだ自分の制御下、もっともいつそれも手元から離れるか解らないが、にある脳細胞を使って必死に打開策を練る。

「(力任せに振り払う。却下。流石にこれだけの人数を弾き飛ばせるほど俺は筋力に自信が無い。話し合い。無理。そんなもので済ませるなら最初からこんな事には残っていない。他に、他に手は……)」

必死になって考えるが、どうやら最高の1手は出てきそう無い。もうダメだ、と脳内でデフォルメされた貴明が白旗をあげている。

そう、白旗。ここでいう降参の意味は会長達の要求を受け入れること。全てを許す事である。それはもう精神が疲れ果ててしまった貴明にとって酷く魅力的な提案に思えてしまう。

早くこの空間から抜け出したい!!他の男、雄二辺りが見たら血の涙を流しながら羨ましがる光景でも、受け取り方は人それぞれ。ムードのある環境で一対一でというなら貴明もやってのけられるだろうが、この状況は彼にとって苦痛以外のなにものでもなかった。

しかし、ここで負けを認めてしまえば彼の元から無い威厳が更になくなってしまう。もう木っ端微塵に。それも避けたい。河野貴明にだって意地くらいは存在するのだ。

「(くそ。俺は、俺は……)」

もう一人の貴明がハリーハリーとギブアップを急かす。打開策もない、このまま耐える事もできない。後残っている道は一つしかないではないか?俺はよく頑張った、もう楽になろう。そういった誘惑が脳内で爆発的に広がっていく。もう、限界は近い。

「わ、わかっ……」

もう許す……そう言おうとした時!

コンコン

何者かがドアをノックする無機質な音が部屋に響く

「(やばい!!)」

もし教師だったらこんな姿を見られたらどうされるかわかったものではない、と思い今まで沸騰していた頭が冷たい感覚で急激に冷やされていく。もっとも一介の教師など花梨が口八丁手八丁で楽々丸め込めてしまえるのだが、そこまで今の彼の脳内CPUは計算できない。やばい!大変だ!!と警報を鳴らすばかりである。

「おい!!さっさと……」

離れろ!!と言う前に、

ガチャ

無情にも部室のドアが開かれてしまう。

「(ああ、終わった……)」

心の中で無念の涙を流す貴明。

だが、まだ救いの天使は彼を見捨ててはいなかった!!

 

 

……いや、この場合は天使のような悪魔がやってきたというべきだろうか?

入ってきた人物とは……

「失礼、部活中悪いんだけど……」

貴明の姉的存在こと環であった。

「……」

予想外の人物の出現に貴明が完璧にフリーズしてしまう。

そんな貴明を他所に環の視線は彼を捕らえ、

「あ、タカ坊。ちょっとあなたに用事があ……」

そのままピシリと表情を停止させる。

瞬間、ゾクッと貴明の体に今まで感じた事の無いような悪寒が走る。

そして流れてくるは……濃密なる『殺気』。

バッ!!

それを感じ取ったのだろう。貴明の体を拘束していた面々が一斉に離れていった。

愛佳と郁乃は部屋の隅でお互いに肩を抱き合って震え、ちゃるとよっちは互いを盾にしようと前後を頻繁に入れ替えている。優季は笑みこそ消していないが完全に動きを止めてしまっており、るーこはるーとしてのプライドからか必死に踏ん張ってはいるが、膝が笑っている。あの傍若無人、唯我独尊を地で突っ走る笹本花梨でさえ、頬に流れる一筋の汗は隠し切れていない。

余波のみですらこの威力。直に殺気の的となっている貴明はというと、

「……(真っ白)」

どうやら精神があっち側に逝ってしまい、何も思考できない状態になってしまったようだ。

「……ねぇ、花梨さん?」

「は、はい!」

環に呼ばれた花梨はピシッと軍人のように敬礼をし、それに応える。

「私ね、ちょーっとタカ坊に聞かなければならない事ができちゃったから、この子、連れて逝ってもいいかしら?」

「サー、イエッサー!!!」

「そう、ありがとう」

ニコッと天使のように微笑むと彼女は棒立ちになっている貴明に近づき、その襟をむんずと引っ掴む。

そのままズルズルとまるでキャスターのついたトランクを運ぶかのように貴明を引っ張っていき、

「じゃあ、お騒がせしました」

と言って、ドアを開けて外へと出て行った。

どなどなど〜な〜ど〜な〜

この時、その場にいた全員がそのような音楽を聴いた気がするという怪事象が起きたが、さしものミステリー研究会会長もそれに関しては調査する気力すら湧かなかったという。

「……きょ、今日はこれで解散ってことでいいかな?」

「「「「「「さ、賛成」」」」」」

引きつった顔で終わりを告げる会長に同じく引きつった顔で部員が答え、その日の活動は終了となるのだった。

 

そして次の日……

貴明達がいつも通りの通学路をいつも通り4人で歩いている。

だが、いつもと違う所が一つだけ。

「……なぁ、貴明さんよ。一つ聞きたい事があるんだが?」

「……なんだよ」

「何故お前は朝っぱらから捕獲された宇宙人のような格好をしているのだね?」

「……聞くな」

そう、違う所とは環とこのみが貴明の両腕をがっちりとホールドしている所である。

何故そうなったのかは、前日のお説教に由来する。

 

「……という事よ。わかった、タカ坊?」

「(長い、長すぎる。正座なんてしてるから足は痺れるし、腹は減ったし、怒鳴られすぎて耳はキーンとするしなんで俺がこんな目に合わないといけないんだ?世の中不条理だ)」

「タカ坊!!聞いてるの!」

「はい!!もちろんです!!」

「今日はこれぐらいにしといてあげるけど、次があったらただじゃ置かないからね?具体的に言うと……潰すわ。確実に」

「(ガクガクブルブル)」

「わかった?」

「(ガクガクブルブル)」

「わ・かっ・た?」

「りょ、了解」

「そう、じゃあ次はタカ坊に対する罰を決めないとね」

「ええ?!(さっきまでの長すぎる説教は違うのかよ!!)」

「……何、文句あるの(ギロリ)」

「無いであります!サー!!」

「そう、じゃあ何がいいかしらねー」

「あ、あの出来れば手加減して欲しいのですが……」

「んー、そうねー。タカ坊も反省している事だし、こういうのはどうかしら……」

 

「と、いう訳でタカ坊は一週間私とこのみの言う事を何でも聞かなくちゃいけなくなったのよ」

一応、貴明の名誉の為に罰を受ける原因は伏せて雄二に事情を喋る環。

「うわー」

今後の貴明の精神的疲労を想像すると心底同情してしまう。

「えへへー、久しぶりにタカくんと腕を組めてこのみは嬉しいでありますよ!」

「そう、良かったわね。このみ。この一週間は何でもお願いしなさい。おばさまの許可はとってあるからタカ坊の家に泊まるのもいいわよ?」

「本当?やたー!!」

このみの幸せいっぱいといった笑顔を見て、自分も頬を緩ます環。

そんな和やかな雰囲気を醸し出す二人の間で貴明はガックリと肩を落とし、死んだ魚のような目をしている。

その姿があまりにも不憫すぎるので、

「ま、まぁ、あれだ。この程度なら恥ずかしさを我慢すればいいだけでどうってことないじゃないか、な?」

だったらこの先もなんとかなるさ、と親友を励ましてやる。

だが、貴明は違うんだと首を振り、

「……これから毎朝タマ姉のジョギングに付き合わなくっちゃいけない」

「げ!!」

なんて無茶なこと言うんだ、と思わず環の事を見るが涼しい顔で受け流されてしまう。

「そしてその時は俺がタマ姉を起こさなくっちゃいけない」

「……」

つまり自分より早く起きて起こしにこい、と環は貴明に言ったのだ。

あんたは鬼か、と姉を睨む弟だが逆に『何よ?』と睨まれてしまい、う!と呻いて尻尾をまいて引き下がり自分では姉に何を言っても無駄だと再確認してしまう。

だが、幼馴染みの疲れきった顔はやはり憐れなので、フォローだけは続けようと試みる。

「だ、だけどよ、部活はどうするんだ?」

部活中までは手を出せないんじゃないかと思った雄二なのだが、

「ああ、それ?会長さんに言ったらタカ坊には迷惑かけちゃったから一週間ぐらいなら休んでいいって言われたから問題無しよ」

環の言葉によってそれも無駄だと悟らされる。

「……もういいんだ、雄二」

「貴明……」

すまなそうな親友の表情に、愛佳に言った事はちゃらにしてやろうと密かに思う貴明。

が、

「あ、雄二。私今日からタカ坊の家に泊まるから」

「まじで!」

環の一言でコロッと態度を変える雄二を見て、やっぱ言ってやろうと決意を新たにする。

「……って泊まるの?!」

雄二に気を取られて気がつくのが遅れたが、意味を噛み締めた瞬間口から叫び声が突いて出た。

「ええ。丁度いい機会だからタカ坊の緩みきった一人暮らしを正そうと思って」

「あ、だからこのみにも泊まっていいよって言ったの?タマお姉ちゃん」

「そうよ。私だけじゃ不公平でしょ?一緒にタカ坊を再教育しましょうね」

「うん、このみ頑張るよ!!」

いや、頑張らなくていいからとおもいっきり叫びたい貴明だが、どうせそんな事言っても無駄なんだろうなーっと心の中で溜息を吐き、空を見上げるのだった。

 

 

 

おしまい

 

 

 

おまけ

地獄の一週間を乗り越え、再びミス研に顔を出したら流石に今回は反省したらしいみんなが凄く優しくしてくれて貴明は涙ぐんでしまったという。ああ、みんな実はいいやつなんだなーっと勝手に感動し、もう思いっきり色んな事を水に流してしまう貴明なのだった。

 

 

 

あとがき

……正直スマンと思っている。

以上(またかよ!

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