スタスタスタと廊下に響く人の足音。

音源は最近授業が終わると帰巣本能が働いているかのようにこの場所に来るようになっている河野貴明から発せられたものである。

もちろん『この場所』というのはミステリー研究会の本部。

以前は閑古鳥が鳴いていた状態だったが貴明の入部後、暫くしてあれよあれよと人が集まり近年稀に見る人材の濃さを誇るようになるまで急成長した同好会である。

そのあまりにも個性的な人々が集まってしまったため、ここでは常に笑いと怒声が絶えまない騒ぎの坩堝と化している。

 

このお話は、そんな愉快な連中が繰り広げる、愛と笑いと感動のストーリーである……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無論だけどね

 

 

 

ミステリー研究会の華麗な日々

 

 

 

「うーっす」

ドアを押して貴明が部屋内に入っていく。

中にいるのは4人。本に目を落としている郁乃&ちゃると何やら原稿用紙に向かって頭を抱えているよっち。

そして、

「あ、ふぉうふぉくん」

真っ先に声をあげた食いしん坊大王ことたれ目がキュートな小牧愛佳、通称委員ちょである。

こもった声になっているのは現在彼女がポッキー箱を片手にハムハムしている真っ最中だったから。

「あれ、会長は?」

いつも強引に視界に割り込んでくる人物が見あたらなく、首をキョロキョロさせて質問する貴明。

「ふーん?ごっくん……あたしが来たけどその時はまだいなかったよ?」

「じゃあ、鍵はどうなってたんだ?」

「あ、それは私が開けました」

本から目を離し、スッと手を上げる眼鏡っこ。

ちゃるが本を読んでいる姿はまさに文学少女といった感じでそこらのマニアには大ウケしそうだが、生憎とその手の趣味はない貴明は彼女の発言に首を捻るだけだった。

「……合鍵なんかあったっけ?」

マスターは会長が所有なので他にこの部屋を開けるものといったら貴明の発言通り合鍵を使うしかない。しかし彼にはそんなものが存在するという記憶はないのだ。

「いえ、そこの窓から入ってちょちょいと」

「ああ、なるほど……っておい」

顔は貴明に向けたまま窓を指で示し、平然と言い放つちゃるにノリ突っ込みを入れる貴明。

「そこの窓って開けっ放しなのかよ」

無用心だなーっと唸る。

その言葉に答えたのはちゃるではなく、

「そういうわけじゃなくって、会長が朝一であたしとちゃるの為に開けておいてくれているらしいんスよ。ほら、私たち他校の生徒ッスから流石に堂々と正面から入るのは拙いだろうってことで」

「へー、あの会長がねー」

花梨の思わぬ気遣いに感嘆の声を漏らす貴明。

同時にその心を少しはこちらにも分けて欲しいもんだとも心の奥底から思うのだった。

OK、理由はわかったよ。で……」

そこで区切り、机の上にある紙を見てから

「よっちはさっきから何をやってるんだ?」

と尋ねた。

「あー、これはッスね……」

困った表情で笑ったよっちが答える前に

「そんなの決まってるじゃない」

また別の所からの声。

声のした方に目をやると、本に視線を落としたままの郁乃に辿りついた。

ちなみに彼女が読んでいる本は先程までちゃるが読んでいたハードカバーの本とは違い、文庫サイズの本である。最近名前がよく聞こえる某変な名前の若手作家が執筆した一品だった。

経由はもちろん姉からだろう。もっとも手持ち無沙汰で惰性的に読んでいるため先程から全く進んでいないのだが。

「あたしもお兄ちゃんも書いたものよ」

「あー、あれか」

自分と郁乃が共通して書いたものなんか一つしかないのですぐに答えが貴明の脳内に浮かび上がる。

「ちなみに私も愛佳先輩も書きましたけどね」

「うん」

仲良く顔を見合わせて笑い合う二人。つい先日知り合ったばかりなのによくここまで仲良くなったものだと、感心する貴明。

「そう、それッス。でも全然進まなくて……」

はぁ、と溜息と共にその肩を落とすよっち。その光景に貴明は苦笑しながら

「まー、それは一種の通過儀礼みたいなもんだからな。俺からは頑張れとしか言いようが無いよ」

「うー、それは解ってるンスけどー」

それでも進まないものは進まないと机に突っ伏す。

「まぁ、よっちは普段から本なんて読まないし当然といえば当然の展開だな」

自業自得だと鼻で笑うちゃる。

それにムカッときたのか、机から顔を離し

「うっさい、ちゃる!!あたしだって本くらい読むわよ!!」

とよっちが怒鳴る。

「どうせよっちが読むのは漫画」

「いいじゃん!!あんただって読むっしょ!!」

「うん、読む。だけど他の文学小説も読んでいる」

「だから偉いっていうの?!漫画を馬鹿にするなー!!」

「馬鹿になんてしてない。でも……」

やれやれと首を振り、

「よっちって絵の無い本を読むとすぐ寝ちゃうから」

……。

「「ああ」」

「……」

声をハモらせて納得する小牧姉妹。貴明も声を出しそうになるが何とか口を塞いだ。

「『ああ』ってどういう意味ッスかー!!」

「いや、あの、えーと、そういう意味じゃあ……」

「見たまんまだなーって思っただけよ」

手を振って誤魔化そうとする愛佳に憮然とした表情でサラリと答える郁乃。

「ちなみにこの姉も同じ事考えているけど、良心の呵責で誤魔化そうとしているだけだからそこんとこよろしく」

「い、郁乃!!お姉ちゃんそんな事……」

「じゃあ、お姉ちゃんにはこいつが文学少女にでも見えるって言うの?」

「え、えーと、それは〜……」

「それはどうなんスか、愛佳先輩!!」

ガバチョと愛佳に詰め寄り、その瞳を覗き込むよっち。

その迫力に目を白黒させながら、

「み、見えないこともないような、そうでないようなー……」

「はっきりとお願いします!!」

「う、う〜〜〜」

「先輩」

そんな困っている愛佳の肩をちゃるが控えめにつつき、

「え、何?」

「大丈夫ですよ。みんな解っている事ですから」

そう言ってあまり緩めない顔の筋肉を少しだけ綻ばした。

「それはどういう意味だー!!!」

「そんなの言うまでもないだろう。よっちと本なんてブタに真珠。いや、この場合はタヌキに真珠か」

言っている内容は意味不明だが、それでもタヌキっ子を挑発するには十分だったようで、よっちは愛佳から離れちゃると向かい合う位置にまで移動した。

「言ってくれるじゃない、このくそギツネ。やっぱりあんたとは一度どちらが上かはっきりさせておく必要があるみたいね」

「それはこちらのセリフ」

一触即発状態で睨みあう二人。

これも一種の親愛表現なのだが、彼女らとの付き合いが短い委員ちょは、

「ちょ、ちょっと二人とも。ケンカはダメだよ」

と言っておろおろするばかり。

それで止まるような二人でもなく、愛佳の言葉は華麗にスルーされてにらみ合いは続けられる。

そんな光景を見ながら郁乃は溜息一つ吐き、

「お兄ちゃん。どうにかしてよ。これじゃ本の続きが読めないじゃない」

「どうにかしてって言われてもなー」

「何よ。この二人とはあたし達よりも付き合いは長いんでしょ?」

だったら止めて見せろと横目で睨みつけるが、貴明は困った表情で頭をかくばかり。

「いつもはほっといても自然と収まるから。ほら、今はケンカしてても次の瞬間にはすぐに仲直りしちゃうんだよ。だから止めに入った記憶なんてないんだ」

「ああ、幼稚園からの幼馴染とか言ってたわね」

「そうだ。だから下手な横槍いれるよりも成り行きに任せる方が案外すぐに収まるんじゃないのか?」

「ふーん。一理ある、か」

そう言って傍観モード決め込む二人。

「二人とも勝手な事言ってないで止めるの手伝ってよ〜」

とヘルプ要請するが二人は、

「ところで郁乃、その本面白いのか?」

「うーん、微妙。まぁ、今までお姉ちゃん読め読め言ってたコテコテの恋愛ものよりはいいかもね。結構斬新な内容だし」

「斬新な内容ねぇ。今度読み終わったら貸してくれよ」

「いいけど、お兄ちゃんも本なんて読まないイメージがあるんだけど」

「失礼な奴だな。愛佳みたくバシバシとまではいかないが、そこそこは読むぞ。国語の教科書に載ってる奴とか」

「……それはどうコメントするべきなの?」

「冗談だ。推理小説とかは結構読むぞ、俺」

「まぁ、その辺りが妥当ね」

「郁乃はどんな本が好きなんだ?」

「あたし?あたしは……」

などと会話を弾ませお姉ちゃんの言う事なんざこれっぽちも耳に届いてはいなかった。

「うう、たかあき君と郁乃が仲良くしてるのになんでだろう?とっても悲しい気持ちになちゃう……」

よよよ、と崩れ落ちる愛佳。それはきっと会話からはぶられているからだろう。

などと唯一のストッパーが無駄な行動をしている間に二人のケンカはヒートアップしていき、

「この性悪キツネ!!貧乳!!メガネ!!」

「黙れ、ポンポコタヌキさんが。大人しく山にでも帰ったらどうだ?」

一触即発から顔を突きつけての罵りあいへと変化していた。

もはや後は流れに任せるしかない、そんな状況になった時、

「はーい、みんな集まってるねー……っておおう?!これはいったいどういう事なのさ!」

笹本花梨がドアを開けて遅めの登場を果たすのだった。

 

 

「ふーん、そういう事ねー」

あれからパンパンと手を叩くだけで鮮やかに二人を止めてみせた花梨は、現在椅子に腰掛けた体勢で手を頭の後ろに組んで事の事情を聞いていた。

「ま、よっちはアウトドア派って思ってたしそんなに大変なら感想文はいいや。うん、そうしよう」

「え、マジッスか!?」

「マジマジ。そんかわし、野外活動ではしっかりと頑張ってもらうからね。おーけー?」

「もちろんですよ!!ばんばん活躍しちゃいますッス!!」

そう言ってその豊満な胸をバシンと叩くよっち。

その様子を見ながら花梨は満足げにうんうんと頷き、ちゃるは会長の決定なら仕方ないと肩をすくめる。愛佳も部室の雰囲気がよくなったのを感じ、柔らかな笑みを浮かべた。

「あ、でも本はエレガントに読めるようになったほうがいいかもね」

「は?読むのはいいとしてエレガントってどういう意味ッスか?」

「ん〜、それはね〜」

意味ありげに視線を貴明に移す花梨。

「なんだよ、会長。そのいやーな目つきは」

花梨がよからぬ事を考えている時は大抵このような目で見るので貴明は嫌な予感を感じずにはいられない。

そんな貴明の問いかけは黙殺し、顔の位置を元に戻した花梨は頬に手を当て、

「タカちゃん、本を読んでいる姿が似合う女の子って大好きだから」

と、のたまわった。

「ほ、本当ッスか?先輩」

すぐさま貴明の方に顔を向け、確認をとろうとするよっち。

残りのメンバーも興味津々なのか、じっと貴明を凝視している。

「ち、違う!!いつもの会長のデマだ、信じ……」

「あれれー、タカちゃん、先週の事もう忘れちゃったのかな〜」

「せ、先週?」

「ゆっきーが一人で本を読んでいる姿に見とれて、るーこちゃんが来るまで部室に入ることが出来なかったのはどこのだれだっけー?」

「あ、あれは優季さんの本を読む姿があまりにも絵になってたから邪魔する気になれなくてだな……って、なんで会長がその事知ってるんだよ!?」

「ははは、壁に耳あり、障子に花梨ちゃんあり、てね!」

「いやな障子だな、おい!!ていうか覗き見かよ!?」

「いいじゃん、部長なんだし〜」

唇を尖らせていじける素振りを見せるが、

「プライバシーはくらいは守りましょうね、こんちくしょう!!」

今の貴明にとってはまったく効果がなかった。

そしてこの調子で貴明と花梨のじゃれ合いが始まるのだが、いつもと違う所が一つだけ。

「「「「(エレガント、か……)」」」」

普段なら生暖かく見守っている周りのメンツがなにやら真剣に考え事をしていたという事だけである。

だがそんな事は露知らず、貴明は元気に突っ込みを入れているのだった。

 

そして後日……。

「あ、どうッスか先輩、あたしの読書姿、中々絵になると思いませんか?」

「は、はぁ?」

「そういうのは私のキャラだと思うのですが、いかがでしょう?」

「あ、あのたかあき君……どうですか?」

「あ、あたしはお姉ちゃんに付き合って仕方なく……」

「うー、るーが一番エレガントだろう?」

「ははは、なんかこういうのも楽しいよねー」

なぜだかミステリー研究会では読書をする『ふり』が大流行。みんなが紅茶を片手に背筋をピンと伸ばし優雅っぽく本を読む格好をするようになるのだった。

不振に思った貴明がこのおかしな行事に参加していない優季に尋ねてみると彼女は笑顔でこう答えたと言う。

「まぁ、みなさん女の子だったって事ですよ」

「いや、そんな事は最初から……っていててて、優季さん、何で俺の脇腹抓るんだよ!」

「さぁ、何故でしょう?」

何やら黒い笑みを浮かべる優季にビビリ、されるがままになってしまう貴明。

こんな感じで今日もミステリー研究会は平和なのでした。

 

 

 

あとがき

あー、今回もやけに時間がかかっちゃったよ。

どうも、最近調子がイマイチなコウトです。

この話、本当は郁乃と愛佳を主軸に添えて書こうとしたんですが、何故かこんなわけの解らない展開になってしまいました。WEB拍手で小牧姉妹がイイ!と書いてくれた方、スイマセン。

展開が書いている最中かなり色々と変化を起こしまくってしまったので突っ込み所満載になってしまいましたが、今回も華麗にスルーしてくださると作者としては有難いです。次回はもうちっとマシなのを書こうと思いますんで。きっと。

次はシルファ出すよ、シルファ。実はもう書き始めているので近いうちに出せると思います。あ、でもその前にタマ姉物一本書くかも。WEB拍手にタマ姉最高!!とかのコメントがあったので。

まぁ、どちらになるかは出来てからのお楽しみ。またのご訪問、心よりお待ちしています。コウトでした。

 

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