続・なんてことの無い一日(10

 

 

 

学校という閉鎖空間から離れ、俺とその他一名は現在商店街の喧騒の中を目的地に向けて前進している。

目指す先は某有名ファーストフードショップ。

数時間程前にやらかしてしまった忘我によるミスの罰ゲームとして、俺は由真に奢らなくてもよい飯をわざわざ提供しなくちゃならないのだ。

月末の金がないこの時期にはとてつもなく迷惑な話である。

こいつんちはメイドロボも買えるほど金を持っているのでハンバーガーぐらいは自分で買えと声を大にして言いたい。もう本気で。

もっともこの件に関しては俺が一人で自滅したようなものなのであまり文句を言うのも格好が悪い。ここは笑顔で奢ってやるのが俺の流儀的に正しいんだけどな。

 

「ふぅ」

そう理解はしていても、俺の頭は勝手にあの時の事を巻き戻し再生してしまい、肺の空気を外へと押し出してしまう。

「やっぱりあれは無様すぎるよなー」

そう呟き、また溜息一つ。

ゲームに熱中するあまり自分で出したルールを忘れて自爆した、なんて由真ならともかくまさか俺がやる羽目になろうとは……。

唯でさえ凹んでしまう内容なのに、その相手が自爆の女王様ともなれば惨めさにゴットスピードで拍車がかかってしまう。

くそ、あの時の由真の間抜けな高笑いが耳にこびりついて離れやしないぜ。

あれで良かったのは愛佳のあやしげな喜びのダンスを見れた事だけだな。

俺が負けて無意識にやったというのには少し癪に障る所あるが、それを差し引いてもあんな滅多に見られない委員ちょを網膜にしっかりと投影できたのだけが唯一の救いと言ってもよいだろう。

その幸運もボスボロット並みの自爆率を誇る由真に負けたという極大不幸と比べたら、まだまだポイントが足らなさすぎる。

「……そこはかとなくあたしを馬鹿にしているのは気のせいじゃないわよね?」

隣に並んでいる由真が冷然とした視線をこちらにむけてくる。

おお、そういえばこいつと一緒に歩いてたんだっけ。自分の世界に深く沈みすぎてすっかり忘れてたぜ。

「奢る相手を忘れるな!!」

ガーッとしたいつものツッコミに俺は二本の人差し指で耳を塞ぐ。

相変わらず騒がしい奴である。

もう少し芸風を穏やかにしてくれないと、いつか俺の鼓膜が破れそうで心配な今日この頃。

最近なんだか声量も増してきように感じるし、本気で検討してほしい所だ。

「あんたがいちいちあたしの神経を逆撫でするから悪いんでしょ!!」

こっちはそんな気全然ないんだけどな。

俺はただ……

「ただ、何よ?」

睨みつけるような視線に対して「ふっ」と笑って応えてやる

「少し、からかってるだけ」

「なお悪いわー!!!」

さっきよりもビリビリと振動が耳に伝わってくる

由真に対するからかい癖の抜けない俺も悪いといえば悪いのだけど、何故かやめられないんだよなー。

それよりも本当に大丈夫かね、俺の鼓膜は。

 

それから時間は少しばかり流れ、俺達の立ち位置も少し変化した。

……ってぶっちゃけあの場所から移動しただけなんだけど。

「ま、全く、あんたの所為で余計な体力使っちゃったじゃないのよ……」

「そ、それは悪かったな……」

お互いにハァハァ言ってるのは由真の大爆発によるご近所の方々の視線に耐え切れず全力疾走した為である。

暫くお互いに息を整える為に時間を費やす。

すーはーすーはー。よし、なんとか酸素が体にまわったな。疲労感は残っているがもう呼吸は整っただろう。

隣を向くと由真のやつもすでに息を整えており、ちょうど顔を上げた所だった。

そして俺と目が合うと、

「ふぅ、走った所為で喉もカラカラだわ。あー、もうこの渇きはお店についたらジュースニ、三本ぐらい頼まないと癒せないわね」

ニヤリとしながら喉をワザとらしくこほこほしながら言ってきたのだった。

おいおい、唯でさえ高い飲み物を二、三本だと?

は、馬鹿も休み休み言ってもらいたいもんだな。

「何よ、それくらいいいじゃない!!この甲斐性なし!!」

先ほどで懲りていないのか、またもや大声を上げる由真。

これだけさっきからギャーギャー騒いでるんだ。走らなくても喉が水分を求めるのは当然だろう。

しかしこいつの事だから自分の非は認めず、俺の所為にするのは確定事項だろうな。しかも今日は勝利者というアドバンテージもある。是が非でも俺に奢らせようとするだろう。

そうすれば俺の財布の中身も自然現象のように消えていくに違いないので、それを避けるためにもなんとかここでこいつを宥めたい所である。

「といらえず落ち着けって。別にケチってこんなこと言ってるわけじゃないんだ」

実際ケチってるわけなのだけど。しかしそんな事を素直に言えばこいつを抑える事なんてできないので、某総理のように都合の悪い事はだんまりの方針をとるとしよう。

「ふん、そんな事言っても今回はあたしが勝ったんだからね!!あんたには是が非でも……」

「お前、ああいう店の飲み物の原価って知ってるのか?」

偉そうに胸を張っている由真のセリフを全て言わせないうちに遮ってしまう俺。

「え、原価?」

急な問いかけにリズムを崩され由真の目が丸くなる。

「そう原価。……ってまさか原価を知らないなんて事は言わないよな?」

「ふん、舐めてもらっては困るわね。こちとら極悪メイドロボに強制学習させられているのよ?それぐらい知ってて当然!!」

某ツインテール乙女のような勢いで一気にまくし立てる由真。

しかしこれ位の知識、俺達程度の年齢には常識なので威張るほどのものではない。

しかし折角のってくれたんだ。ツッコミ魂をみせるよりはこのまま話を続けていくのが得策といえる。

「ならいい。それよりもジュースの値段だ。だいたいあそこって一本150円以上するよな?」

「まぁ、確かに」

そうファーストフードの飲み物というのは例外なく無駄に高いのだ。

缶よりも明らかに量が少ないくせに値段が高いっていうのはいったいどういう了見なんだろうね。

まぁ、それはいいとして。

「材料費は幾ら位かかると思う?」

「う〜んそうね〜……」

俺の質問に腕を組み、暫し視線を空に彷徨わせるがやがて自信なさげに

「半分ぐらいかしら?」

と由真は言った。

「残念。ぶぶー」

「な!効果音付き?!」

「ああ、悪い悪い。あまりにも的はずれな答えでな」

「なんですってー!!」

「騒ぐなって。またダッシュしたいのか?」

「う、それはちょっと……」

流石に学習したようで大声を上げるのだけは止めたようだ。

「じゃあ、いったい幾らになるわけ?」

20円以下」

「は?」

信じられないといったように間抜けな顔をさらす由真。

無理も無い。俺も初めて知ったとき似たような顔をしたからな。

「嘘でしょ?」

「いや、本当」

内情を知らない人間にとっては結構サプライズ的な事だったりもするこの内容。

でも本当の驚きはこれからである。

「ちなみに容器と氷と中の飲み物、どれが一番高いと思う?」

「え、そんなの中身じゃないの?」

当たり前でしょ?ってな感じで答えて来が現実はそうでなかったりする。

「一番高いのは氷で二番目が容器。三番目が中身といった内わけになっております」

「うわ、何そのぼったくり」

うん、その感想には激しく同意だ。

「ちなみに原価を15円と仮定した場合一番高い氷が8円。飲み物が3円になるな」

3倍近く違うじゃない!!」

「そういう事だ。これからは気を付けろよ?氷無しなんて言ったらさらに店側を得させる事になっちまうからな」

まぁバイトの人なんかはそんな事気にも留めないだろうけど。

でも氷を減らす事により店側が更に儲かるのもまた事実である。

「で、どうするんだ?店の飲みものを馬鹿飲みして更にいい思いをさせてやるか?」

「そんな事聞かされた以上できるわけないじゃない。何か買ったらすごい負けな気がするし」

「じゃあどうする?」

「う〜ん、そうねー……」

腕を組み思案にくれた『ふり』をする由真。

答えはもう出ているのに、素直に自分の発言を撤回できないからこういう態度を取るのであろう。まったく本当に意地っ張りなやつである。

ま、だからこそこちらも助かるというものだけれど。

「ま、お店に得させるのも癪だし今回は自販機ので我慢してあげるわ」

こちらをビシッと指しニヤリと笑う。

「さ、喉がカラカラなんだからさっさと向かうわよ」

そう言ってスタスタと自販機に向かって歩き出すのだった。

 

「ふぅ、なんとかなったか」

由真の後ろ姿を見ながらとりあえず余計な出費を抑えられてホッと一息を吐く。

あのまま店に行ったら2杯3杯も4杯も5杯もそれこそ腹壊すまで頼みそうな勢いだったからな。缶ジュース一本で済むのであればかなりの費用削減といえるだろう。

会長と無駄話を知っている時に聞いたどうでもいい知識だったがどうやら役にたったようで何よりである。

「それにしても珍しく会長が役に立ったなー……」

いつもの苦労が少しばかり還元されたような気分になる。

……本当に少しだけだけど。

「何してんのー、早くきなさいよー!!」

「……はいはい」

知識の出所に一応は感謝しつつ、俺は赤い自販機に向けて歩いて行くのだった。

 

 

 

あとがき

はい、みなさまお久しぶり。最近課題でてんてこ舞いなコウトです。

本当はもっと早くアップする予定だったんですけどね。思いのほか手がかかったのでズルズルと伸びてしまいました。拍手導入で励ましとかもらったのにホントすいません。反省。レスは日記で返します。

反省といえば今回はシルファ出すとかいっておきながら影も形も出てきませんでした。すいません。由真ちゃんが頑張りすぎたのが原因です。次回の続なんでは出したいと思ってます。

ああ、それと今回の飲み物ネタ、あれ一応実話です。みなさんもジュースを頼むときは是非とも氷は入れてもらいましょうね(余計なお世話だ

とまぁ反省ばかりな内容ですが今回はここでお開きです。また次回もきてくださるととても嬉しいです。コウトでした。

 

 

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送