そうして俺はみんなの弁当に戦いを挑んだ。
なんてことの無い一日(3)
「う〜、もう食えね〜」
結局、俺はあの後弁当を全部完食した。そう、俺はあの苦しい戦いに勝ったんだ。おめでとう俺!よくあのプレッシャーの中食べきれたと思う。その代償として今は机に突っ伏しているけどな。
「もう、貴明くん食べすぎ。お腹、大丈夫?」
心配してくれるのは嬉しいが、この状態の原因はおまえの妹にもあるんだぞ?愛佳。
「なんとかな。確かに食べ過ぎたけど、みんな美味かったし、なにより残すのは勿体ないじゃないか。」
「だけど、苦しくなるまで食べるのもどうかと思うよ?」
「うむ。だから俺は寝る。と、いうわけであとよろしく〜」
そう言って俺は再び机に突っ伏す。
「貴明君!授業は真面目に受けないといけないんだよ〜!それに、午前中も寝てたでしょ〜!」
俺を揺らして起こそうとするが、愛佳は非力すぎて全然効果がない。むしろその振動が心地良いくらいだ。電車やバスの中で眠くなるのと同じな。そして俺の意識もだんだんと遠くなっていき……ZZZ。
「貴明君!おきてよ〜!おきてってば〜!」
ZZZ……。
キーンコン、カーンコン。……鐘の音が聞こえる。そうか、授業が終わったのか。
「ふぁーあ。よく寝た。」
天井に向かってのびをする。不安定な姿勢で寝ていた所為か、体が少し痛い。
「ほんとだよ〜。貴明君寝すぎ」
呆れ顔の愛佳がこちらにやってきた。
「まぁ、確かに今日は寝すぎたな。」
なんせ今まで全寝だからな。
「でも最後の授業はしっかり受けるぜ!」
終わりよければすべて良しってやつだ。授業を一つも聞いていないせいか、今の俺は珍しく勉強に対してやる気がある。
「はぁ〜」
「なんだよ、溜息なんかついて。どうしたんだ?」
「もう、呆れちゃって。貴明君、さっきのチャイムってホームルームの終わりのなんだよ。」
「なに!五時間目の終わりじゃなかったのか?!」
なんてこった!折角やる気がでてきたのに!
「貴明君休み時間に起こそうとしても全然起きないんだもの。一生懸命揺すったのに」
すねたようにいう愛佳。でも、それはしょうがないと思うぞ?愛佳が揺すってもマッサージ程度にしかならないからな。
「ふー。まぁ、過ぎたことをどうこういっても仕方が無いな。もう帰るか」
しょうがない、このやる気はゲーセンにでも向けるとしよう。
「あ、じゃあまた明日ね。私今日、部活があるんだ〜」
ぽやーんと笑う愛佳。
「なんだよ、随分楽しそうじゃないか。」
「うん!だって郁乃と一緒に部活ができるんだもの!」
郁乃は愛佳によって強制的に入部させられている。本当は帰宅部が良かったらしい。でも、あいつも相当なシスコンだからな。内心は嬉しいに違いない、と俺は思っている。前は病院でしか逢えなかったんだ。一緒にいる時間が長いにこしたことは無い。
「そうか、楽しんできてくれ。」
「うん。また明日ね。」
「ああ、郁乃によろしくな」
そうして俺は下駄箱へと向かっていった。
下駄箱に到着すると俺は見知った顔に遭遇した。
「!」
向こうもどうやら気づいたようだ。
「河野貴明・・・」
「よう、由真。今帰りか?」
「そうよ、あんたは…ってきくまでもないか」
「おいおい、どういう意味だよ?」
「だってあんた、部活や委員会の活動に力を入れるってタイプじゃないでしょ。」
む、確かにその通りだけど、それはお前にも当てはまることだと思うぞ?
「まぁいいわ。ちょっと付き合いなさいよ。」
「なんだよ、あの爺さん絡みの事は嫌だぞ?」
「違うわよ!それは一応決着がついたって、あんたも知ってるでしょ!」
確かに。色々あったが、爺さんも由真の将来の為に考える時間が必要だということを理解してくれた。……本ッ当に色々あったけどな。
「じゃあ、なんだよ?」
「いつもの所に新しい対戦台が入ったらしいわ」
「ほう、つまりいつかのリベンジってわけか。」
ちょうどいい。俺もゲーセンに行くつもりだったからな。
「どう、この挑戦受ける気あるかしら?」
随分自信満々に言うなこいつ。さては、もう触ってるな。しかしここで後ろをみせるわけにはいかない。
「いいぜ、受けてやるよ。」
「いいの?吼えづらかいても知らないわよ?」
「ふん、そっちこそ後で後悔するんじゃねーぞ?」
「決まりね。じゃあ行きましょうか。」
「おう!」
俺たちは二人揃って商店街の方へ向かった。
「お、これ新作がでたのか。」
「その口ぶりだとやったことがあるようね」
「ああ、前のだけどな。それにしてもこのシリーズも長いな。もう十年ぐらいになるか。」
「そうね。でも、そんなことはどうでもいいわ。さっさと始めるわよ!」
俺たちが対戦しようとしているゲームは3対3で戦うやつだ。この変則的な対戦方法がうけて、かれこれもう十年ぐらい続いているシリーズものだ。でも、ラッキーだな。このシリーズは毎回毎回システムが少しずつ変わっているけど、キャラの性能の大きな変化はあまり無い。それに俺は前作をかなりやり込んでるからな。今までの経験上、ちょっとやそっとじゃあ負けない。
「さあ、いくわよ!」
「ふん、返り討ちにしてやるぜ!」
「ふふふ、それはどうかしらね」
なんだ、こいつの余裕は?でもいいや、対戦したらわかるだろう。
「ええっと、お!俺が前回使ってたやつらはみんないるな。」
このゲーム、メンバーの入れ替えが激しいけど毎回出ている固定メンバーもいる。俺の使うキャラはそういうのが多い。
「由真はっと。新キャラばっかしか。」
いかにもあいつらしい選択だ。でも、これで俺の勝利の可能性は高くなった。システムが少々違うとはいえ、錬度の差は出るものである。
キャラをお互いが選び終えた時、試合のゴングがなった。
「あっ!何で途中からキャラが変えられるんだ?!」
「ふっふっふ、今回からそういう仕様なのよ!しかも、こういうこともできるのよ!」
「交代しながら攻撃だと?しかも、その攻撃!判定強すぎだろ!」
「驚くのはまだ早いわ!」
「なっ!MAXも繋がるのかよ?!」
「これで一人目撃破!一気に決めるわよ!」
「くっそ〜!ちょっとまて!俺にもやり方教えろ!」
「まったなーし!」
「卑怯だぞ!」
「なんとでもいいなさい!勝てばいいのよ!」
結局、俺はぼろ負けした。
「あー、気分最高!悪いわね奢ってもらっちゃって」
「おまえが奢れ奢れってうるさいからだろうが!」
「ふふーん、勝者には当然の権利よ。」
「殆んど騙しに近いけどな。」
「勝てば官軍!」
「ふん、言ってろ。」
あの勝負の後、俺たちはヤックに来ている。何でも敗者である俺が、勝者の由真様に奢らなければならないんだと。
「あ〜、おいしい。人に奢ってもらったものって、なんでおいしいのかしらね?」
嫌味だ。しかし負けた手前、強気にでれない。
「言ったでしょ、眼鏡があれば負けないわよって」
「あ〜そうですね。」
「うん、わかればいいのよ」
どうやら、こっちの嫌味は通じないようだ。
「それにしてもお前、随分と新キャラを使いこなせてたな」
「そうよ。由真ちゃん様はあんたなんかとは格が違うんだから」
おまえ、そのネタは非常に危ないと思うぞ?
「さって、食べたら次どこにいこうか?」
「なんだ、どっかいくのか?」
「当たり前でしょ、折角勝ったんだから。」
「おい、ちょっと待て。それはまだ俺に何か奢らせるって意味か?!」
「当然っ!敗者は勝者に従うものよ!どこにしようかな〜」
にこにこ笑いながら考え始める由真。こいつ、本気だ。
「ん〜やっぱり水族館?でも遊園地も捨てがたいし」
ふー、もう仕方ないか。由真も楽しそうだしな。俺は由真の考えが纏まるまで外を眺めていることにした。
「ん?あれは…」
みょ〜にガタイのいい爺さんが歩いきながらきょろきょろと辺りを見ている。どうやら誰かを探しているらしい。
「おい、由真!」
「なによ〜、今考え事してんだから邪魔しないでよ」
「そんなことより外だよ。外、見てみろ。」
「外〜?いったい何があるって…げっ!」
「あれ、お前の爺さんだろ?やっぱりお前を探してるのか?」
「うん、たぶん……」
「だぶんって、おまえの考えをわかってくれたんじゃないのか?」
「そうなんだけどさ〜、やっぱり諦め切れないらしくてね。たぶん説得しに来たんだと思う。」
「でっどうするんだ?」
「もちろん逃げるわよ。だってお爺ちゃんの話しながいんだもん。ダニエルは素晴らしいとかそんなことしか言わないのにさ。」
喋っている間にも由真は荷物を纏め、店を出る準備をした。
「じゃあね。見つかんないうちに行くわ。あんたはどうするのか知らないけど、お爺ちゃんがいなくなってからでたほうがいいと思うわよ。」
「ああ、そうするよ」
由真はマウンテンバイクできている。一人のほうが逃げやすいと思ったんだろう。
「じゃあ、ごちそうさま」
「由真!」
去ろうとする由真を呼び止める。
「なによ、急いでるのに」
「この続きはまた、な」
そう言うと、由真の顔がパッと明るくなった。
「忘れるんじゃないわよ!」
「はいはい」
「じゃね!」
由真は大急ぎで店を出ていった。
「騒がしい奴」
その後、俺は爺さんが周りにいなくなったのを確認してから店を出た。
あとがき
今回でなんでも無い一日は一応終わるはずだったんですけど、由真との場面が予測より長くなりすぎてもう一本作ることにしました。次回はたぶん、るーこが出てくると思います。お暇があれば読んでください。
最後に、このサイトを開設して既に1000人以上の方が訪問して下さって、非常に嬉しく思います。ど素人ですけど、これからも頑張っていくのでどうかよろしくお願いします。
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