続・なんてことの無い一日(9)

 

 

 

キーンコーンカーンコーン

午後の気だるい授業に終止符を打つ鐘の音が響く。

最後の授業は担任が受け持っていて時間内でホームルームは済ませてくれたため、いつもならもう暫く静かなこの教室も今日は学友達の喋り声でざわついている。

会話の内容は「部活だりー」や「今日何処よって行こうか」等、主に放課後の行動に関してだ。

そんな友人達を横目で見ながら帰りの仕度をする。部活なんてダルイものはやっていない俺は放課後の学校には何の用事もないのだ。

仕度を済ませ、席から立ち上がると、

「よう、貴明」

丁度同じように準備を終え、鞄を肩にかけた姿で雄二が俺の机の近くまでやってきた。

そして俺の肩にポンっと手を置き顔を緩ませ、

「今日何にも無いよな。一緒に帰ろうぜ」

と言った。

今日は……うん、何にも無いな。

タマ姉からの厄介事も会長からの強制徴収もこのみのお守りもなかったはずだ。

なら雄二に付き合うのも悪くはない。

OK。行こうか」

「おう、今日は本屋からだ」

「本屋?」

てっきりゲーセン行ってヤックによって帰るといういつものパターンを想定していた俺は、予測の斜め上を行く発言に思わず聞き返してしまった。

「そう、本屋だ。今日は理奈ちゃんの写真集の発売日だからな。初日ゲットはファンとしては当然だろ?」

俺、ファンじゃないんだけど。

「いやいや、そんな事言っていられるのも今の内だって。今回のは本当凄いらしいからな。読めばお前もたちまち理奈ちゃんファンだ。まちがいない」

最後だけ某芸人の真似をしながら雄二がのたまわった。

ちなみに全然似ていない。アクセントの置き方にもっと気を配るべきだ。

「んな事どうでもいいんだよ。さぁ、いざ行かん。俺達のフロンティアへと!!」

「そこでは普通『ユートピア』っていうもんじゃないのか?」

だいたいフロンティアは開拓地という意味だ。何故に本屋がそうなるんだよ。

ガッツポーズをとりながら自信満々に言いきった雄二がとてもアホな子に見える。

「……最近お前ツッコミ星人になっていないか?」

手を下ろし、妙に冷めた目で俺を見る雄二。

「比率的にボケの方が多いんだから仕方ないだろう?」

そんなとぼけた会話をしながら俺達は教室の外へと出て行った。

 

「河野貴明!!」

廊下にソプラノの声が響く。

声の出所を見ると、やたら勝気な表情の由真が腰に手を当てて立っていた。

俺と視線が交差するとズンズンとこちらに歩み寄り、目の前でピタリと止まる。

「約束、守ってもらいましょうか?」

少し屈みながら上目使いがちにそう言う。

はて、約束?何かあったっけ?

見に覚えが無い俺は腕を組み暫く思考の海へ沈み込む。

今日の放課後だろ?特に何も無かったと思うのだが……。いや、でもそう言われると引っかかるものも有るような無いような……。

「トランプよ、トランプ!!」

いい加減痺れを切らした由真が声を苛立たせる。

「あんた、午前中あたしに勝ったでしょうが!!」

ポン

「ああ、それか」

記憶の糸が繋がったため、思わず手を叩いて頷いてしまう。

あの『一位が二位の奴に奢る』という変則ゲームの話か。

あまり思い出したくない記憶だったので、すぐには出てこなかったみたいだ。

しかし……

「あれって今日だっけ?」

日取りも何も決めていなかったはずだが。

「うっさいわねー、敗者は勝者に従うものなのよ」

いや、勝者は俺で、敗者がお前なんだけどな。

「あたしはゲームじゃなくて勝負の話をしているの!!」

ムキになって大声を出す由真。その声に廊下にいた連中の視線が一気にこちらに向かう。放課後とはいえ学校にはかなりの人が残っているのだ。こんなに大きな声を出したら注目されるに決まっている。これ以上話をややこしくして、こいつに怒鳴り声を上げさせるのは得策では無い。

「ちょっと場所を変えよう」

仕切りなおす為、俺は先程出たばかりの教室に入っていく。

「へいへい」

一緒に入っていく雄二。

「あ、ちょっと待ちなさいよ!!」

最後に由真が続いた。

 

廊下で騒いでる間に時間が過ぎ、教室には残っている奴がほとんどいない状態になっている。これなら多少騒いでも平気だろう。

「全く、急に勝手な行動を取るなんてあんた本当に自分勝手な奴よね」

その科白、お前にだけは言われたくないぞ俺。

「あ、それよりも約束……」

「わかったわかった。今日奢ればいいんだろ」

わざわざ繰り返すのも馬鹿らしいので、由真の言葉を遮り、俺の意思を伝える。

「そういうわけでメンバー一人追加だ。別にいいよな」

そう言って俺は隣で成り行きを傍観していた雄二の方を向く。

仮にも由真は女の子なので、こいつが断るわけはない。

「まぁ知らない奴でもないしな。OK、問題なしだ」

こうしてすんなりと由真の同行が決定……

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」

……しなかった。

「なんだよ。『ちょっと待ったコール』なんかしやがって。何か問題でもあるのか?」

「うっ」

俺と雄二に疑問の視線を向けられて一歩さがる由真。しかし、なんとか姿勢を建て直し雄二を指差し、

「こ、こいつも一緒なわけ?」

そう聞いてきた。

「?」

問いかけの意図が掴めず、疑問符を浮かべる俺。

雄二と遊びに行くのが我慢ならないのだろうか?

いや、それはない。雄二と由真の関係は悪いものではないはずだ。ポーカーの時もかなり楽しんでやっていたからな。

「雄二が一緒だとまずいのか?」

考えても解らないので、率直に聞いてみる事にした。

が、俺の問いかけに由真は直には答えず、俯いてしまう。

「ははーん」

隣では雄二がしたり顔で顎を撫でている。

おい、何かわかったのか?

「さて、ね。それは次のあいつの言葉を聞けば解ると思うぜ」

そう言ってそれっきり黙ってしまう。

俺に教える気は無いと言う事か。

どういう事だ、いったい?

 

「あ、あたしは……」

数刻が過ぎた後、由真が口を開く。

しかしその口調にいつもの調子は無く、どこかおどおどした感じを受けた。

「……あんたと二人だけだと思ったのよ」

……。

……ああ、そういう事か。

その言葉を聞いた時、俺の中にあった疑問が氷解していった。

何故、雄二と一緒なのを渋ったのか。

答えは、俺が知っているものだった。

「由真……」

俺は未だ俯いている由真少しだけ近づく。

後ろでは何やら雄二が「いけ、そこだ!」と騒いでいるが、そんなのは今関係ない。

「雄二はそんなに悪いやつじゃないぞ?」

「へ?」

俺の言葉に雄二が何故か疑問符を浮かべる。

「いつもメイドロボの事ばっかり考えていたり、調子に乗ってすぐタマ姉からお仕置きを喰らう阿呆だけど、根は悪い奴じゃない」

たぶん、由真は人見知りをしているんだと俺は判断した。

俺と出会う前のメガネをかけた今と性格が違うらしい由真。

周りにもあまり関心を持たず、仲の良い友人も多くない。俺の知っている限りでは愛佳だけ。

そして、いつもは勝気な態度を取っているが、どこか臆病な所があるこいつの事だ。

知らない奴ではないとはいえ、異性と初めて放課後一緒に遊ぶという事に気後れを感じてしまっているのだろう。人間、慣れない事には不安を感じるのは当然だ。

今の俺にできることはその不安を少し和らげてやることだけである。

「一緒にいると、そこそこ面白いやつだ。だから、男友達としては悪くはないと俺は思う」

「……貴明」

顔を上げる由真。その表情からは、安心の色と寂しげな色が混じった複雑なものだった。

ん、何だ?何か足りないのか?

「だー!!!」

俺の後ろで奇声が響く。

確認するまでも無い。雄二のやつである。

「貴明!そこは違うだろう!!」

俺に詰め寄り、両手を広げ、訴えかけてくる。

「何が違うんだよ?」

俺の方が由真との付き合いは長いんだ。

こいつよりは少しは由真の事を知っていると断言できる。

「ここはもっとこう、ほら色々とやり方があるだろう!」

意味不明な事を一生懸命に言う雄二。

しかし、俺には何がいいたいのかさっぱりわからない。

「はぁ」

程なくして大きな溜息をついた。

「ここまで鈍いとはな。みんなこんな朴念仁のどこがいいのやら……」

「何だと?俺はどちらかというと俊敏な方だとご近所でも評判なんだぞ?」

「……。ま、その発言に対するツッコミは置いとくとしてだな」

放置されてしまった。

雄二のクセに小癪な事をしてくれる。

「俺、やっぱ今日パスな」

「あ?」

人が折角アピールしてやったのに、その努力を無駄にする発言をしましたよ、この男。

「よくよく考えたら、写真集を買ったらすぐ家に帰って読まないといけないと思うんだよ。ファンとしては」

さっきまでの会話と全然繋がっていないんだけど?

だが、そんな俺の疑問は無視して雄二は話を続ける。

「だから今日はお前と遊んでいる暇はないんだよ。悪いな」

そう言って俺の肩をポンポンと叩き、教室を出て行こうとする。

「それに……」

ドアの手前で立ち止まり、こちらを振り向く。

「俺も馬に蹴られて地獄に落ちたくないしな」

「は?」

「ちょ、ちょっと!!何勘違いしてるのよ!!」

意味が解らずボケッと立つ俺と、顔を真っ赤にして何やら反論する由真。

そんな俺達を見て奴はニカッと笑い、

「じゃあな。頑張れよ、お二人さん」

そう言って教室から出て行ってしまった。

「……なんだったんだ?あいつ」

「あたしに聞くな!!」

由真に聞いてみるが、怒鳴り返されてしまった。

なんだか今回はわからん事が多いな。

「でも、ここでじっとしていても仕方ないからな。とりあえず行くか?」

「え、行くって何処に」

「……お前、それ本気で聞いてるの?奢れって言ったのはそっちだろ?」

「あ、うん、そうね」

おいおい、大丈夫かよ。

「うっさいわね!なんか時間喰っちゃったしさっさと行くわよ」

とりあえずは何時もの調子に戻ったらしい。

スタスタと歩いて先に行ってしまう。

「……ま、いいか」

深く考えるのは止め、前を歩いているあいつを追いかけていく俺なのだった。

 

 

つづく

 

 

あとがき

最初にお詫びを。

今回は私の由真に対する偏見がかなり入った作品になってしまいました。

読んでくださった皆様のイメージと大分違うところもあるでしょうが、そこは一人一人の受け取り方の違いということで、どうかご理解頂きたいと思っております。

 

と、まぁ堅い口調はこれぐらいにして。

ぶっちゃけ今回の話、前回とかなり時間が空いてしまいました。

その理由は二つ。

クラナドをやっていたのと、書いていた話をボツにしてしまったからです。特にクラナドの方は小説まで書いちゃったんで時間の喰い方が半端じゃなかったです。

これが、前回から二週間以上も空いてしまった理由だったりします。

……言い訳です。すいません。

次回も結構空いてしまうかもです。クラナド書いてからこっちにうつるんで。

だからクラナドをプレイした方はぜひともあっちも読んでください(宣伝

よろしくお願いします。

 

 

 

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送