続・なんてことの無い一日(8

 

 

 

「はい、貴明くん。紅茶をどうぞ」

現在場所はミステリー研究会部室。

昼飯を食い終わった俺に我らが委員ちょこと小牧愛佳が、花のような笑顔を浮かべ俺の前にティーカップを差し出してくれる。

「ああ、ありがとう」

礼を言って紅茶を口元に持っていと、いい香りが俺の鼻腔を刺激した。

その香りを暫し楽しんだ後、口に含む。

うん、程よい甘さが丁度いいな。

さすが愛佳。いい仕事をしている。

「え〜、そんな事ないよ〜」

いやいやと頭をかく姿がなんとも愛らしい。

その姿を見ているだけで、俺の疲れきった心(主にタマ姉)もジェットコースターなみの高速で癒されていくというものである。

ピリピリとした職場とかに持っていくといいかもしれんな。人型マイナスイオン発生装置として。

きっと仕事の能率もウナギ昇りに違いない。

「うむ、さすがはうーだ。面白い事を考えるもんだな」

「るーこさん。あれは面白いんじゃなくて馬鹿だっていうのよ。大体人間がマイナスイオンを吐けるわけないじゃない」

「ちょ、ちょっと郁乃〜。あんまり直接的な表現はどうかとお姉ちゃんは思うな〜」

「じゃあなんて言えばいいのよ?」

「ええっと〜」

む〜っと腕を組んで真剣に考え込みはじめる愛佳。

こんな阿呆な事にも真面目に取り組めるあたり、優等生の名は伊達じゃないってとこか。

「つーか、元凶のお兄ちゃんがアホとかいうな」

ジト目で突っ込みを入れてくるしすたー。

毒吐きな所は病院から出てもなんの変化もない。

「でも、こういうのを最近『ツンデレ』というらしいな」

「む?うー、つんでれとはなんだ?うーの新しい言語か?」

俺の呟きに自称・うー調査員のるーこ氏が興味を示した。

ご丁寧にメモ帳とペンも装備してやがる。

あれ、でもこれどっかで見たことがあるような、ないような……。

「ああ、それ?あたしがあげたんよ。ミス研入部祝いに」

ミス研に入部……。

入部……。

……。

ぽん

「る?」

何の前触れもなく肩に手を置かれ、るーこが不思議そうに首をかしげた。

その表情はあどけないの一言に尽きるもので、この世の汚れとは全く無縁の位置にいる。

……こんな、無垢な地球外生命体を騙すなんて。

「可哀相に。何も知らなかったばかりにこんな目に合うなんて」

俺はこれでもかという哀れみの眼でるーこをみる。

「でもすまない、るーこ。俺は何もしてやれんのだ。あのオレンジの悪魔に捕まったが最後、奴の好奇心を満たすために馬車馬のように働かされ、断ろうとしたら人の弱みを使って脅迫し、最後には……」

そこまで言いかけて、

ぼす

「ぼへ」

俺の顔にクッションが飛んできた。でかい椅子とかにくっ付いているあれである。

痛みもほとんどないのだが、衝撃だけはきたため、俺は言葉を止めてしまう。

「何するんだよ。せっかく人が話しをしているのに」

クッションを投げた主に非難の視線を向けながら俺は文句を言った。

「うっさいわねー、タカちゃんがある事ある事いうから悪いんじゃない」

「そうね、今のはお兄ちゃんが悪いと思うわ。そんなある事ある事を捏造……ってある事?!

ようやく会長の言った言葉の意味に気付いたのか、俺へと向けていた目線を凄い速さで会長に向ける郁乃。

「いやーね、郁乃ちゃん、じょーくよ、じょーく」

そう言ってどこからか取り出してきた扇子でパタパタと扇ぐ。

しかし、目は俺の方に向いており、しっかりと意思も込めている。

内容は、

(余計な事をいうんじゃないわよ?ね、タカちゃん?)

てな所だろう。

この中では一番会長との付き合いが長い俺だからできる、『哀・コンタクト』というものである。

……決して間違いではない。念のため。

「そ、そーですよね。冗談ですよね。ははは……」

付き合いが短いため視線の意味はわからないが、逆らったら不味いと本能的に感じたため愛想笑いを浮かべる郁乃。

しかし頬を流れる汗が出るあたり、まだまだである。

「うー、るーの質問の答えはどうした?るーはうーみたいに時間をむだに使う習慣はない。迅速に答えろ」

おっと、会長との小技の出し合いでるーこの事をすっかり忘れてたぜ。

にしてもさすがはるーこ。マイペースさで競ったら誰もかなわないんじゃないか?

「世辞はいい。さっさと答えろ、うー」

「うーん、答えろ、つってもなー。俺も雄二から『郁乃ちゃんってツンデレだよなー』という事を聞いただけで、詳しくはしらないんだよな、これが」

「……あのやろう」

何やら拳を握り締めている『ツンデレ』郁乃。

ん?怒るという事は郁乃。おまえ『ツンデレ』の意味知ってるのか?

「知っているのか?」

るーこも真似して首を傾げる。

「知らないけど、あいつに言われると、なんだかセクハラをされた気分になるのよ!!

ああ、それはありえるな。

なんたって授業中もメイドロボの事考えてニタニタしているようなやつだもんな。

「ふむふむ。『うーじはセクハラ』っと」

何やらノートに凄い事を書き込んでいるるーこ。

なんか致命的だなー。

ま、いいか雄二だし。俺の知ったことではない。

「む〜、新しい情報が得られたのは僥倖だが、肝心の答えは解らずじまいということか」

ペンで頭をぽりぽりかきながら、残念そうに呟くるーこ。

そんなに知りたいならあとで図書館にでもいってみたらどうだ?広辞苑とかのでっかい辞書には載っているかもしれないぞ?

「う〜にしては良い考えだな。採用してやる」

こちらに向き親指をグッっと天に向けるるーこ。

「喜んでもらえて幸いだ」

俺もそれに答えるように

この際『にしては』発言には目を瞑ってやろう。

と、俺が大人すぎる事を考えていると、

「あはははは〜!タカちゃん面白い事いうわねー」

会長が笑っていた。

こちらを指差し、大口を開けて。

どうした会長、急に笑いだしたりして。

病気か?

ぼすん

「ぼべ」

今度は二個同時に飛んできやがった。

……何をするんだ会長。

今回は重ね当てだったため少し痛かったんだが。

「タカちゃんが失礼な事言うから悪いんでしょ!ね、郁乃ちゃん」

なぜかそこで郁乃に同意を求める会長。

「え、あ……」

関わりあいたくないのか視線をそらす郁乃。

ふっ、甘いな郁乃。

「じーーーー」

わざわざ席を立ち、郁乃の顔を覗きこむ。

会長はしつこいので有名なんだぜ?

……俺の中では。

「そ、そうですね。うん、お兄ちゃんが悪い!!」

あ、負けやがった。

「ほら、どーよタカちゃん。これで二対一よ?」

無意味に偉そうに胸を張りながらそう言い放つ。

いや、私的にどうでもいいんだけどな、そんな事。

「それよりも会長、なんで笑ってたんだ?箸が転がってもおかしいってわけでもないだろ?」

「……なんかひっかかる言い方ねー」

気にしないで続きをどうぞ。

「だって、二人ですごいボケた事まじめに言ってるんだもん。おかしいに決まってるでしょ」

ボケた……。

会長にボケとか言われたよ。俺……。

ヤバイ、鬱になりそうだ。

「どうした、うー。大丈夫か?」

がっくりと肩を落とした俺に気遣いの言葉をかけてくれるるーこ。

うう、ええ子や。

でも、お前のことも言われてるんだぞ?

「そうなのか、うーかり?」

「ま、そんな事よりも『ツンデレについて』だったわね」

「知っているのか?」

身を乗り出して会長に詰め寄る。

誤魔化されているとも知らずに(泣

「ええ、ツンデレとは色々と意味があるようだけど主に『最初はトゲトゲしい態度を取るものの、時間が経つにつれて態度を変え、好意的な態度に変化していく』というような人を指す時に使うものらしいわ。新しい言葉だから広辞苑にはまだ載ってはいないわね」

そう言った後、郁乃に視線を向ける会長。

「ほー、そういう意味なのか」

「うーかりは色々なことを知っているな。うーにしておくのが勿体無いぞ」

俺達も感心した後、郁乃の方を二人でじーっと見る。

「な、なによ!!」

一斉に見つめられビクッと身構える郁乃。

「いや、これがツンデレなんだなーって」

「データ採集中だ」

「うん、確かに郁乃ちゃんはツンデレ属性よね」

「う〜、じろじろ見るなー!!」

ガーッと怒鳴った後、見つめられるのを避けるため、郁乃は体ごと反対方向へ向いてしまった。

うーん、ちょっとからかいすぎたか?

「あー、そうかもねー」

とそう言いつつも、全然気にした素振りも見せない会長。

「ところで、『つんでれ』とは対象者がいてなりたつものと認識したのだが、うーの(郁乃の事)の対象者は誰だ?」

「ああ、それはね……」

俺はさっきから会話に参加していないでうーんと考えこんでいる愛佳の方を見る。

「うーんちょか?」

「そう。郁乃は本当は『お姉ちゃんスキスキスキ〜』なのに、素直になれなくてついつい刺々しい態度をとってしまうのだよ」

「誰が『スキスキスキ〜』だ!!」

そういうと、顔を真っ赤にし、手近にあったクッションを引っつかみ、俺の方へと投げてきた。

甘い。

ひょい

予測済みだった俺はそれを楽々とかわす。

「わひゃ!」

そのため投げ飛ばされたクッションはその速度を保ったまま、愛佳の顔面へと命中した。

「う〜、郁乃〜何するの〜」

そのショックで思考の海から抜け出した愛佳が郁乃の事を涙目でみる。

「お姉ちゃん、何か悪いことした〜?」

先程までの経緯が全く耳に入っていないため、急にものを投げつけられたとしか認識できない愛佳。

「う、そういうわけじゃなくて……」

姉にうるうると見つめられシドロモドロになってしまう妹。さすがに『ツンデレ』や『スキスキスキ〜』といった事を話すのは抵抗があるようである。

「ははは、本当にツンデレだね〜、郁乃ちゃんは」

「これはいいデータが取れそうだ」

面白そうに二人を見る会長と、熱心に手帳になにやら書き込んでいくるーこ。

二人ともかなり楽しんでいるようである。

「そこの元凶の人たち、なんとかして!!」

自分の手には負えないと判断したのか、郁乃は仲間を呼んだ。

「え〜、だって〜、姉妹のスキンシップを邪魔しちゃ悪いし〜」

「るーはデータ採集で忙しい」

しかし、誰も来なかった。

「お兄ちゃん!!」

俺は郁乃に向かってニッコリと微笑んでやり、口だけを開く。

が・ん・ば・れ

「郁乃〜(うるうる)」

「あー、もう!!誰かなんとかしてよー!!」

こんな感じで俺達の昼休みは過ぎていくのだった。

 

 

 

あとがき

えーっと、言いたい事は一つだけ。

貴明の性格がなんかいつもと違うような気もしますが、その辺は華麗にスルーしちゃってください。

こんだけ。

では、また次回。

今度ほもうちょっと早く出したいと思ってます。

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送