続・なんてことの無い一日(7)
「もう、みんなチェンジは終わったな?じゃ、せーの!」
雄二の掛け声とともに俺達はカードを場に出す。
「「「……」」」
「えへへー、またあたしの勝ちだね」
愛佳が全員のカードを確認したあとにへらーっと笑った。
「あーあ、今回は勝てると思ったのに〜」
そう言ってカードを中央に持っていく由真。
手札はストレートである。
「それはこっちのセリフだっつーの、俺なんかフルハウスだったんだぜ?」
今回は確実に勝てるだろうと思っていただけに、落胆の度合いではこいつより俺の方が大きい。
「ふん、フルハウスぐらいでいい気になってんじゃないわよ。負けちゃったらどんな良い手でも無意味でしょ」
顔をそっぽに向けへんっと鼻で笑ってくる由真。
……このやろう、言ってくれるじゃねーか。
「おまえ、忘れてないよな、今回はポイント制なんだぜ?これで俺とお前の差はまた一段と広がったわけだ」
この勝負はポイント制である。一位3点、二位2点、三位1点で、最終ゲームまでの合計ポイントの多い奴が勝者なのだ。
「もしかして、このまま圧勝かな?いやー、由真って思ってたほど強くないんだな」
お返しとばかりに鼻で笑ってやる。
「何をー!!あんただって愛佳に全敗じゃないのよ。人の事言えるか!!」
そう言い、愛佳の方をビシっと指す由真。
急に視線をむけられた愛佳は、目をパチクリさせている。
「だってお前、愛佳は規格外だろ」
俺は愛佳の前に置かれているカードを指差す。
そこには2とジョーカーでつくられた5カードが並べられていた。
「しかも一度ではなくゲームが始まってから4連チャン。こんなのにどうやって勝つんだよ」
愛佳は始まってから今まで、全てを4カードやストレートフラッシュ等の高い役で勝利している。
こんな人類の規格外に勝てと言う方がおかしい。
「そ、そんな〜たかあきくん。偶々運が良かっただけだよ〜」
いやいや、っと両手を前に突き出し、左右に振る。
「むー、そう言われると、確かに今日の愛佳は凄すぎるわよね。前あたしとやった時なんかぼろ負けしてたのに」
腕を組み、椅子の背もたれに体を預けて由真が口を開く。
「ぼ、ぼろ負けじゃないよ〜、あの時はただ調子が悪かっただけなんだから!由真ったら変な事いわないでよ〜」
「調子が悪い?」
事の真偽を確かめるために由真に話を振る。
「十回やってあたしの全勝だったわ。愛佳、一人で勝手にパニック起こして、自滅しちゃうんだもん」
それは、調子が悪かっただけではすまされないような……
そう思いながら俺は首を回し、愛佳を見る。
「あー!!たかあきくんが疑ってる〜!!」
「イエイエ、ソンナコトハアリマセンヨ?」
首を明後日の方向へ向け、超自然体で俺は言う。
「……貴明、すごくわざとらしいわ」
なに!!俺の迫真に演技がわざとらしいだと?!……いや、わかってたけどね。
「いいもん!!このまま勝ち続けてギャフンって言わせちゃうからね!!」
愛佳が頬をハムスターのように膨らましながら文句を言う。
はは、ここは愛佳の膨れっ面に免じて一言。
「ギャフン」
「今言っちゃ駄目―!!」
ピギャーっと怒鳴るお姫様。
「……愛佳。最近キャラ変わったわね」
そんな俺達を見ながら、由真は呆れた顔で呟いた。
「ところで、雄二。お前だけ手札見せてないんだけど、どうした?また、ブタか?」
先ほどから黙りっぱなしの雄二に話を振る。ちなみに現最下位はこいつだ。
「うるせー!!そうだよこんちくしょー!!」
「あんた弱いわねー。始めてから負けっぱなしじゃないのよ」
ハンっと鼻で笑いながら由真が言う。
「悪かったな!!今日は調子が悪いんだよ!!」
机をバシっと叩いて雄二が怒鳴る。本人も今日の負けを結構気にしているようだ。
……由真にバカにされたから怒ってるだけかもしれないけど。
「そうなの?」
「ああ、たぶんそうなんだろうな。いつもは俺といい勝負してるんだぜ?こいつ」
実際のところいつもは五分五分。これだけツキがない雄二は珍しい。
「ふ〜ん」
ホントかなーという表情で雄二を見る由真。
まぁ、今日初対戦なわけだから信じられないのも無理はないけどな。
「だー、なんで俺には良いカードが来ないんだよ!」
更にバシンバシンと机を叩きながら雄二が吼える。
そんな雄二を見ながら、俺達は目配せをして、それぞれ一言。
「日ごろの行いじゃないのか?」
「日ごろの行いね」
「日ごろの行いだよ、きっと」
みんな思っている事は一緒だった。
「うるせー!!うるせー!!さっさと始めるぞこんちくしょう!!」
雄二の怒鳴り声を合図に、ゲームは再開されるのだった。
「あ、落ちちゃった」
愛佳の手からカードがすべり、床に落ちる。
それを拾おうとした愛佳のポケットから、何かが転がった。
「あれ、愛佳。ポケットからなんか出てきたぞ?」
ちょうど俺の足元の方に転がってきたので、その物体を拾い上げる。
「石?」
俺が手にしたのは、手のひらサイズの多角形の物体。
色は半透明の緑。重量はそれほどなく、質感は石のそれだった。
「あ、それ今朝花梨からもらったんだ。ぱわーすとーんっていうお守りなんだよ」
「へぇ、お守りか」
得意がってる愛佳に石を返しながら俺は言う。
……出元が会長という所に一抹の不安を感じるな。
「ねぇ、愛佳。これどんな効果があるの?」
興味深そうに愛佳に尋ねる由真。
「うーんちょっと待ってね。確か花梨からメモももらってたから」
暫くポケットをごそごそした後に一枚のメモを取り出す。
「え〜っと、なになに?「これはねー、幸運を吸収する石なんだ。邪な考えを持つ人が近くにいると、その人の運を石が吸いとっちゃって、持ち主に与えてくれるの。あたしもまだ使った事がないから、暫くたったらレポートよろしく!!by 花梨」だって」
「「「「……」」」」
その言葉の意味を頭の中で吟味する俺達。
「邪な考え……」
「邪な考えねぇ……」
「邪な考えですか……」
そして、またもや雄二を除いた三人の思考は一体化した。
「な、なんだよ、みんなして俺の方を見やがって!!」
みんなからの視線を向けられて、大声を上げる雄二。
「いや、別に」
あえてなにも言わない俺。
「あんたの運の悪さもこれで納得できたなーって」
納得した表情を見せる由真。
「ごめんね、向坂君。今日調子悪いの私の所為だったんだね」
すまなそうに雄二を見る愛佳。
言ってる事も表情もそれぞれ違うが、根本にあるのはみんな一緒だ。
「ちょっと待てお前ら!!俺の何処が邪だっていうんだよ」
本人もそれには気付いたらしく、抗議の声を上げる。
「……お前、自覚ないのか?」
「末期症状ね」
「向坂くん、可哀そう」
それぞれが哀れんだ声を出す。
「だー!!!俺は健全だー!!!」
自覚が無いのは本人だけ、とはよくいったものである。
というか、いつもメイドロボメイドロボ言ってるやつは健全とは言えない。
「それよりも愛佳。ちょっとその石見せてくれる?」
雄二の方は一旦放置しておいて、俺は目的を果たす事にした。
「うん、いいよ。はい」
素直に俺に石を渡してくる愛佳。
「てりゃ」
掛け声と共に手にした石を開いている窓から外へ出す。
手首のスナップも利かせたため、石は遠くの方へと飛んでいった。そのため落下地点はわからない。
よし、任務完了。あんな怪しげな物体を愛佳に持たせておけないからな。
「あー!!!たかあきくん、何するのー!!!」
席から立ち上がり、批難の声を上げる愛佳。
そんな愛佳を見つめ、俺は極力真剣な顔を作り口を開く。
「いいか、愛佳。ズルはよくない」
「え、ズル?」
意味がわからないという顔をする。
「そうだ。あの石を持っていたら、近くに雄二がいれば誰でも勝てるだろ?そういうのはズルと言わないか?」
「おい、こら、ちょっと待て」
とりあえず外野は無視の方向で。
「そんな状況で勝っても嬉しくないだろ?違うか?」
「……」
俺の言葉を聞いて、下を向く愛佳。
しかし、すぐ顔をあげいつもの笑みを張り付かせる。
「……うん、そうだよね。勝負は正々堂々とやらなきゃね。そうじゃないとたかあきくんにギャフンって言ってもらえないからね」
「愛佳、わかってくれたか……」
また一つ良い事をしてしまった。雄二とは違って善人だなー、俺って。
そんな感慨に耽っている俺に対し、愛佳が人差し指をピンと立てて、
「あ、だけど石の件はたかあきくんから花梨に言ってね。投げちゃったのたかあきくんだから」
と言った。
「うっ!!それは……」
そんな事した日には会長からどんな無茶な要求を突きつけられるかわかったもんじゃない。
一晩でUMAを見つけて来いだの、宇宙人の生態を調べてこいとか言うに違いない。
……後者は割りと簡単かもしれないがな。
いや、だからと言ってわざわざ自分から地雷を踏むような真似はしたくない。ここはなんとか愛佳を言い包めて……
「よ・ろ・し・く・ね、たかあきくん」
「反論は認めねーぞ、このやろう」という意思が強く滲み出ている愛佳の声。顔がにこやかな分、余計に威力がある。
「……はい」
愛佳にこんな声を出されたら逆らえません、私。
蚊の鳴く様な声で俺はそう返事をするのだった。
「……愛佳、本当にキャラ変わったね」
それは俺の所為じゃない。たぶん、いや、きっと。だったらいいなー。
そしてゲームも終盤戦。
「ふふふ、やっぱり最後はあんたとあたしの対決になったわね」
あの後、石を無くしたためか愛佳のツキはめっきり落ち込んで、一位から転落。雄二の方は運が来たようだったが、それまでの負けが響いて、トップ争いには食い込めない。
つまり、勝者は俺か由真かのどちらかに絞られたのだ。
「ああ、そろそろ時間も無いし、次でラストだな」
二人して睨みあう俺達。その視線の間では火花が散っているように見える。
「うわー、たかあきくんも由真も燃えてる〜」
「こいつら俺達の事、もう完全に眼中にねぇな。ま、どうでもいいけどよ。んじゃ、始めっぜ」
「「勝負!!」
掛け声と同時にカードが配られる。
「ちっ!」
俺は自分の手札に舌打ちをしてしまう。役がまったく無いのだ。くそ、最後の最後でついてねーぜ。
「あたし、チェンジ無しでいいわ」
「!!」
俺の苦悩をよそに、由真からそんな声が上がる。こいつ、交換しないって事は余程の手か。
……ヤバイな。
「ふふん」
悩んでいる俺を見て余裕の表情を浮かべる由真。
勝利を確信しきった者の笑みである。
「……雄二」
ここは俺も腹を括るしかないか。
「おう、何枚だ?」
「全部頼む」
「全部ってお前。いいのか?」
「ああ、腹は括った」
俺は全ての手札を捨て、新たに雄二から五枚のカードを受け取る。
「無駄なあがきをしちゃって、潔くないわよ?」
「違うね。俺は自分の勝利を信じているだけさ」
単に分の悪い賭けが嫌いじゃないからともいう。
「ま、どうでもいいけど。勝つのはあたしだから」
ふん、言ってろ。
「よーし、それじゃあオープン!!」
「……4カード、か」
由真の手札を見て、俺が呟く。なるほど、これならあの自信も納得だ。
「どう、あんたにこれ以上の手がだせる?」
「それはあけてのお楽しみだ!!」
そして俺はまだ自分でも見ていなかったカードを表に晒す。
俺のカードは……
「……うそ、5カード。ありえないわ」
そう、今俺の手札には1が4枚とジョーカーが揃っている。
「うわー、たかあきくん、すごい」
「よく、土壇場で引き当てられたな、貴明」
驚きの声があげる二人。だが、この二人以上に俺の方が驚いている。
本当に勝てちゃったよ俺……。
しかし、そんな感情は一切出さず、
「ふっ、これが日ごろの行いの差というやつさ。な、由真」
と、由真に言ってやった。
「く、くやしー!!」
カードを放り投げ、頭を掻き毟る負け犬。
ふ、慢心しているからこういう結果になるんだ。
「と、いうことで俺が一位だ。悪いな、雄二。奢ってもらっちゃって」
雄二の肩を叩きながら、約束、そう最下位が一位にヤックを奢るという約束を持ち出す。
「は?お前何いってんだ」
呆れたような表情でこちらを見返す雄二。
「え?」
予想外の出来事に俺の思考が一瞬止まる。
「たかあきくん。今回のルールでは一番の人が二番の人に奢るんだよ?いつもと同じじゃつまらないからって、たかあきくんが決めたんじゃない」
……。
「あ……」
言った。確かゲームが始まる前にそんな変なルールを提案した記憶がある。
「ふっふっふっ……」
不気味な声を上げながら、先ほどまで凹んでいた人物が俺の肩を叩いた。
「悪いわねー貴明。奢ってもらっちゃって」
「由真……」
さっきの表情は何処へやら。ニヤリと由真が笑う。
「勝負では負けたけど試合では勝ったってやつ?ま、あたしはあんたに一泡ふかせられれば、それでいいんだけどね」
「ぐぬぬぬ……」
絶対おまえも忘れてただろう!!
そう言いたいが、提案したのが俺なため、何も言えない。
くそう、なんで俺はあんなトンデモルールを提案したんだろうか?
しかも勝負に熱中するあまり、その事を忘れてしまうなんて無様としか言いようが無い。
「さぁ、貴明!あたしに勝った責任、とってもらうわよ!!」
「……ぎゃふん」
思わず、そんな言葉が口から出てしまう。
その後ろで「やった〜、たかあきくんがぎゃふんって言った〜!」と小躍りしている愛佳の姿なんて俺には見えない。
見えないったら、見えない。
……はぁ。
溜息しか出てこない俺なのだった。
あとがき
なんか今回は微妙に長いなー。コンパクトを目標にしているこのシリーズではあるまじき行為ですね。
でも、まぁ、そこら辺はブランクがあったからと言う事で目を瞑ってください。キャラがイマイチなのもきっとそのせいです。目を瞑って下さい。マジで。
それにしても随分と時間が経ってしまい申し訳ない。リアルが忙しかったためです。でも、その辺も片付いたので、これからはまた活動していきたいと思っているのでよろしくお願いします。
次回は……うーん、優季さんかタマ姉の短編になると思います。でも、もしかしたら東鳩以外のを書くかも。何気にラジアータやメダロットの話を書いてみたいと思っている今日この頃です。って、メダロットなんて書いてもみなさんしらないでしょうがね(笑
そんなこんなで今回はこの辺で。また次の作品でお逢い出来たら幸いです。ではでは。
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