続・なんてことの無い一日(6)

 

 

 

なんとか愛佳の説得に成功した俺は雄二のいる席へと戻った。

当然後ろには愛佳もついてきている。

「よー、遅いお帰りで」

頬杖をつきながら半眼で俺の事を睨んでくる。

その視線からは不機嫌さがひしひしと伝わってきた。

……なんだ?俺何かやったか?

「ホントよねー、連れて来るまでにどれだけの時間がかかってるんだか」

声のした方を向くと、前の席に雄二と同じように頬杖をつきながら俺の事を白い目で見ている由真の姿があった。

「おお、由真。いたのか」

「いたのかって、たかあきくん。もしかして気づいてなかったの?」

後ろにいた愛佳が何時の間にか俺の横に立って苦笑いをしていた。

「向坂君の席の前に座ってるんだから、てっきり気づいてるのかと思ってたんだけど」

「いや、全くわからんかった」

人間は意識しないと気づかないという事が結構ある。今回は愛佳をどうやって会長の魔の手から救いだす方法を考えていたから、由真まで意識がまわらなかったんだろう。うん、きっとそうだ。

「そりゃそうよねー。愛佳の手を握るのに忙しかった人はあたしの事なんて気づかないでしょーねー」

尚も俺の事を白い眼でみつつ、棘のある言葉をこちらに向けて来る由真。

こめかみがピクピクしているのは俺の気のせいだろうか?

「……お前、見てたのか?」

「『見てたのか?』じゃねーだろ、貴明。あんな公衆の面前でやってれば自然に目に入ってくるってもんなんだよ。けっ!羨ましいこって」

そう言って雄二はプイっと顔をソッポに向ける。俺が愛佳の手をとったのがそんなに気に入らないのだろうか。唇を尖らせるなんてこのみみたいな事もやっている。

それにしても人から見られてるなんて全く考えて無かったな。

あの時は頭がいっぱいで気になんてしなかったけど、かなり大胆な事をしたんだよなー、俺。

今更ながらに顔が熱くなるのを感じる。

ちらりと愛佳の方をみると、こちらも俺と同様に顔を赤くして恥ずかしそうに下を向いている。

「まったく、おまえらは初々しいカップルかっつーの!」

「あんなシーンを見せられたこっちの方が恥ずかしいわ。あー、顔から火がでそう」

「大体人前で手なんか握るか、普通?バカップルじゃあるまいし」

「まぁ、愛佳はともかく貴明は大バカだけどねー」

そう言って口々に攻め立てる二人。愛佳を攻める気は毛頭無いらしく、口撃を受けるのは俺ばかりだ。

このままでは時間中ずっと言われ続けてしまうだろう。なんとか流れを断ち切らなければ。

「そ、そういえば由真はなんでこっちの教室にいるんだ?何か用事でもあるのか?」

俺の声によって二人の動きを止め、目線を雄二の机の上へと移す。

俺もつられて目を向けると、そこには一冊の変哲のないノートが置かれていた。

そして、俺の問いに答える代わりに、由真はノートを手に持ち、プラプラと俺の目の前で振る。

「愛佳に借りたノートを返しに来ただけよ。でも、まさかたったそれだけの事で、あんなくっさいシーンを観賞させられる羽目になるとは思ってもいなかったわ」

お手上げのポーズをとり、やれやれと首を振るう由真。

どうやら誤魔化しには失敗したらしい。こいつ、このまま蒸し返す気だ。

このみのように上手くはいかないか。

「だいたいねー!」

俺の方にビシっと指を突きつけてくる由真。腰に手を当て、なんだか怒ったような表情をとっている。

「あんたみたいな大バカが容姿端麗、スタイル抜群、成績優秀な愛佳と手を繋ぐなんて、身の程しらずにもほどがあるわ!!

「!!」

カッチンっと頭の中で何かがはまるのを感じる。

このやろー、大バカだと?言うに事かいてだいばかだと言いやがったな!!

ルビふってないからわからないだろうけど、さっき言われたおおばかなどとは比べ物にならないくらいの衝撃だ。

てめーは、郡青かっつーの!!

「ゆ、由真!大げさすぎだよ〜」

両手を前に突き出していやいやする愛佳。

「そうだ、だい馬鹿はいい過ぎだ!!それに愛佳はなー、そんな凄い特徴も持っているが、ドジっ子属性も付いてるため、親しみ易さも高いんだよ!」

「あ、あたしってたかあきくんの中ではドジっ子なの?」

「貴明!!」

愛佳の声を遮るように雄二の声が鋭く飛ぶ。

「今、おまえいい事言った!!」

ニヤリと笑ってサムズアップ。

「ああ、当然だ」

俺もそれに応えるようにビシッと親指を突き上げた。

「ふん、こんな超基本事項を見落とすなんて、お前の方がよっぽど『ダイバカ』なんじゃないのか?」

いつもるーこが人を見下す時にとるポーズを真似て、由真の事をみてやる。

そんな俺の視線に奴はグググっと拳を握って体をワナワナ震わす。

「くっ!あたしとした事がそんな当たり前の事を見逃すなんて!」

「ゆ、由真まで……。あたし、そんなにドジかなぁ」

「でも、それでも!あんたに『ダイバカ』って言われたくないわ!!」

そういってキッとこちらを睨みつける由真。

「上等だ。なんならカードで決着をつけるか?」

「ふん、いいわよ。で、種目はなに?」

俺の挑発に即効で食いついてくる。負けず嫌いは相変わらずのようだ。

「ポーカーだ。ジョーカーありの変則だけどな」

「よし、その勝負のったわ!!ケリをつけましょう、たかあき」

「ああ、きさまの負けをもってな」

バチバチバチっと二人の視線の間で火花が散る。

「おーし、なんだか色々あったけど、ようやくメンツが決まったな。早速開始しようぜ」

カードをパラパラと切りながら言う雄二。

「あれ、あんたとあたしの勝負じゃないの?」

そんな雄二を見た後、不思議そうに俺に問いかけてくる由真。

「ポーカーなんて二人でやってもそんな面白くないだろ?それに人数増やしても勝負はできる。結果は変わらないからな」

ニヤリと笑って答えてやる。

ようは勝てばいい話である。一人二人増えたところでそれは変わらない。

俺の答えに由真は下を向きながら、クククっと笑いながら

「そーね、あたしがトップであんたがビリって結果になんの変わりもないもんね」

と、のたまわりやがった。

「……」

「……」

無言でまた睨みあう俺達。お互い口元には余裕の笑みが浮かんでいる。

「……仲いいなー、お前ら。」

シャッフルし終えたカードの山をポンっと机の上に置く。

「んじゃー、始めるぞー。貴明も委員ちょも席もってきて座れー」

俺は席をその辺から勝手に拝借して雄二の机の近くに座る。

だが、愛佳のやつは席をもってこようとはしない。

「あれ、愛佳?」

疑問に思い愛佳の方を見てみると、何故かあいつは俺達に背を向け、中腰になっていた。

「ふん、いいんだ、いいんだ。そんな事薄々わかってたことだしー。ショックなんかじゃないもん、ないもん」

床にのの字を書きながら拗ねているようだ。

「おい、愛佳どうしたんだよ?もう始めるぞ?」

こちらにきそうもないので、俺は席を立ちあがり、愛佳の近くに向かう。

「どうせ、あたしはドジだもん。そんなことしってるもん。ふーんだ」

どうやら俺達のドジっ子発言がおきにめさなかったらしい。俺の呼びかけも突っぱねてしまう。

「……」

どうしたものかと二人に視線を向けるが、顎でこちらをさされてしまう。お前でフォローしろという意味だ。

なんて無責任なやつらだ。お前らも同じ事言ったくせに!

と、内心でグチっても仕方がない。とりあえず俺はポンっと愛佳の肩に手を置いた。

「愛佳、よく聞けよ」

刺激しないように極力優しい声色になるよう心がける。

「……?」

不貞腐れた顔のままだが、それでもこちらに顔を向ける愛佳。

「お前は俺達が馬鹿にしたと思ってるだろ?」

「……違うの?」

「ああ、違う。むしろ俺達はドジな所は愛佳の長所だと思っている」

「ドジが、長所?」

わからないという顔で首を傾げる愛佳。

「そうだ。考えても見ろ?愛佳は由真の言うとおり、色々な長所を持っている。普通だと、そんなに凄い所があるやつは妬まれるもんなんだ。でも、愛佳はクラスのやつらから妬まれるどころか、愛されている。何故だかわかるか?」

俺の問いに、プルプルと首を振る愛佳。その仕草がちょっとかわいかったりもする。

そんな事を考えているとはおくびにも出さずに、俺は言葉を続ける。

「それはお前にドジっ子っていう愛嬌があるからだよ。人間は完璧なやつより、ちょっと欠点があったほうが親しみがわくってもんだ。違うか?」

「そう言われば、そうか、な……」

だんだん表情も和らいできた。あともう一押しだ。

「そうなんだよ。しかも、愛佳はドジをしても、それを挽回しようと努力するだろ?そこがまた人を引きつける魅力を生み出すんだよ。ああ、頑張ってるんだなーって」

「本当?たかあきくんもそう思ってる?」

「もちろん、がんばってる愛佳は俺の眼にはとっても素敵に映ってるぜ?」

「す、素敵だなんて……」

照れてるのかポリポリと頭をかく愛佳。顔も若干赤い。

「だから、ドジも悪いもんじゃないだろ?頑張っているドジっ子はなかなか魅力的なもんなんだ。これはもう、立派な長所だと俺は思っている」

「長所……。うん、なんかそう思えてきたかも」

拳を握りながら頷く愛佳。

「そうだろう、そうだろう。じゃ、納得した所で席に戻ろうか。二人とも愛佳の事まってるぜ?」

「うん!」

頷いて愛佳はトテトテと自分の席に椅子を取りに行った。

わざわざそっちまでいかなくてもいいのに。律儀な奴だ。

俺はその後ろ姿を見た後、雄二達のいる席に戻った。

「よ、お疲れ」

「おう、この薄情もんが」

俺が席につくと、雄二がポンっと肩を叩いた。

「そう言うなよ。お前なら説得できると信じてたんだから。で、なんて言って説得したんだ?」

「あ、それあたしも気になる。愛佳の顔チラッとみたけど随分と嬉しそうだったじゃない」

由真もこちらに身を乗り出して俺の顔を見る。

どうやら俺の言葉は耳に入らなかったようだ。

「それは……」

「「それは?」」

俺はフッと笑って一言、

「戯言だよ」

と言ってやった。

みんなが思っている当たり前の事をわざわざ口に出す事に意味なんてない。あの時俺はそれを言ったに過ぎないのだ。

意味の無い言葉は所詮―――――戯言だ。

「はぁ、なんだそれ?はっきり言えよ」

「そうよそうよ。隠すなんて男らしくないわよ?」

不満げな声を上げながら二人が俺に詰め寄ってくる。

「まぁまぁ、ほら、愛佳ももうすぐ来る事だし、さっさともう用意しようぜ。時間もあんまりないんだからさ」

説明するのもアホらしいので話をそらすために雄二を急かす。

「おっとそうだった。早いとこカード配らないとな」

そういうと一枚一枚人数分のカードを配り始める雄二。

「ちょっと、あたしは貴明に勝つんだからいいカード配りなさいよ!!」

「無茶言うなっつーの!!」

「おまたせ〜」

そんな事を言いながら配っているうちに愛佳も到着。

こうして俺達のポーカー大会が始まるのだった。

 

 

 

あとがき

なんか今回も愛佳メインだなー。ま、いいか。愛佳好きだしね(笑

それよりも姫百合姉妹の誕生日小説が書けない事の方が問題です。楽しみにしていた方(いるのか?)スイマセン。

風呂敷広げすぎて話が纏まんなくなっちゃいました。シルファとかも出そうとしたのが原因です。

でも、いつかは書き上げたいとおもっちょります。文章量が凄いことになりそうですけどね。はは(汗

そんなところで今回はおひらき。次回こそはポーカー対決を入れます。確実に。その時にまたお会いできたら嬉しいです。

それでは、またのご来場心よりお待ちしています。では〜

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