続・なんてことの無い一日(5)

 

 

 

色々とあったが、なんとか無事に学校に辿り付く事ができた俺。

しかしその代償として、体力をかなり消耗したので現在は机の上でヘバリ中。

「やべー、一時間目の体育もつかなー」

今日はついていない事に1限から体力を使う授業が入っている。

しかも種目はマラソンだ。

……ぶっ倒れたらどうしよう?

などと言う事を心配していると、誰かがポンポンと俺の肩を叩いてきた。

「うん?」

誰だと思い、振り返ってみると、そこには行方不明だった雄二が立っていた。

こいつ、ちゃんと起きて学校にこれたんだ。俺の中では八割方遅刻だったんだがな。

そんな俺の考えなど知る由もなく、奴は脳天気に声をかけてくる。

「いよう、親友。朝からお疲れのようだな」

なんだか凄く良い笑顔でそう言ってきやがった。満面の笑みというやつだ。

余程嬉しい事でもあったのだろう。奴の体全体から「今幸せです」オーラが滲み出ているようにすら見える。

俺はこんな状態だというのに、羨ましい奴である。

「そういうお前は朝から随分嬉しそうだな?お友達」

なので、ついつい声に剣呑さが混じるのはご愛嬌というものだ。

「はは、そう見えるか?」

俺の気持ちには全然気づかないでそんな事を問うてくる。しかも、顔はにやけたまま。

「ま、それはたぶんあれだな。俺が平穏の素晴らしさを理解したからだろう」

そう言って一人で勝手にうんうんと頷く。

平穏か……。そういえばタマ姉が帰って来てからそんな言葉忘れてたなー。

タマ姉は何か行動を起こすとき、必ずと言っていいほど俺達を巻き込む。

それが楽しくないと言えば嘘になるが、もう少しドタバタの頻度を抑えて欲しいものである。こっちの身がもたなくなってしまう。

いや、マジで。

「ああ、傷を負わないで学校に登校できるなんて、なんて素晴らしいんだろうか。平穏とはリリンが求める最高の環境だ。そうは思わないかい?貴明君」

全然似合わない耽美口調でのたまわる雄二。ご丁寧に上を見上げて目を閉じてやがる。

今こいつはさぞ自分に酔っている事なのだろう。

「つーか、お前。何時学校に来たんだよ?今日会わなかったよな?」

人が苦労してたっていうのに一人で呑気に登校してたのか?

友達がいのない奴である。

「ん?お前よりもちょっと早いぐらいかな」

俺の問いかけで我に帰ったのか、普通に返してくる雄二。

「珍しく早起きでもしたか?」

「いんや、逆に遅いぐらいだな。朝起きたら結構な時間になってたから急いできたんだよ。姉貴は先に行くって置手紙してたしな」

「それでなんで俺よりも早く着いてるんだ?」

「それはお前、あんな事やってるんだから遅れて当然……ってハッ!!

自分の言っている事の意味に気づき、声を上げる雄二。

その後、自分で自分の口を塞ぐが、もう遅い。俺はしっかりとこの耳で聞いてしまったのだから。

「……やっぱりな。おかしいとは思ってたんだよ」

肩をすくめて一息吐き、俺はさらに続ける。

「急ぐならいつも俺達が通る道が最短のはずだろ?だったら必ず会うはずなんだよ。俺達は時間的にはいつもの通り出たんだから」

「ぐ、ぐぅ……」

図星を突かれたためか。呻き声を上げる。

「会わなかったって事は、お前は俺達を見つけても見つからないよう先に行ったか、急遽進路を変更したのかしたんだろ?大方俺達が騒いでいるのを見て、自分にとばっちりが来そうだから避けた。違うか?」

「い、いやそうじゃなくてな、ほら、お前達取り込み中みたいだったしさ、いきなり俺が出て邪魔したら悪いなー、っと思っちゃったりして」

顔を引きつらせつつも愛想笑いを浮かべる雄二。

俺はそんな奴の肩を掴み、こちらに引き寄せる。

「まぁ、お前の気持ちもわからない事もないからな。今回は許してやるよ」

「ほ、本当か!姉貴に黙っててくれるのか?!」

このことがもしタマ姉の耳に入ったら折檻は確実だな。

『雄二〜?こそこそと逃げるなんて、そんなにお姉ちゃんと登校するのが嫌なのかしら〜?』

って言いながらアイアンクローをかけられる雄二の姿が俺には容易に想像できる。

「ああ。俺ももう大人だ。これぐらいの事は見逃してやるよ」

「サンキュー!!さすが親友……」

「ただし!」

雄二のセリフを遮り、俺は鋭く言い放つ。

「今回限りだ。お前の事だから、また機会があれば同じ事をするだろ?いや、なくても自分で作るぐらいはやるか」

「うっ!!」

こいつの事だ。タマ姉に、

『暴力的な姉となんか学校にいけねーよ!へへん!』

なーんて言う度胸はサラサラないので、偶発を装って一人で登校しようとするだろう。

ここで釘を刺しておかないと、俺への被害が拡大する。

……いてもいなくても変わらないって説もあるけどな。

しかし、俺一人だけ損をするよりは遥かにましだ。

「は、はは。俺が親友を見捨てるはずがないだろ?」

とか言いながら、視線は明後日の方を向いている。

「目を泳がせながら言っても説得力が無いぞ?雄二」

動揺しているのがバレバレだ。

「ともかく、俺達がタマ姉の言う事を断れない以上、お互い抜け駆けは無しだ。お前も。俺に同じ事やられたら困るだろ?」

「ふー、仕方ないか。姉貴には逆らえないもんな」

「ああ、昔からな」

「んで、これから先もってか」

「……」

「……」

「「はぁ」

ほぼ確定的な未来を想像して、俺達は溜息を吐くのだった。

 

そんな事を雄二と話ているうちに、何時しかホームルームも終わり、そろそろ一時間目を迎えようとしている。

しかし、次の時間は体育だというのに、男女とも教室外に出ようとはしない。

「なぁ、雄二。次って体育だろ?なんでみんな準備していないんだ?」

とりあえず疑問解決のため、隣でぼーっとしている雄二に声をかける。

「あん、お前おぼえてないのか?前回の授業で次回は休みって言ってただろ?研修かなんかでさ」

頬杖をつきながら俺の質問に答える。

あ〜、そういえばそんな事を言われた記憶が無きにしもあらずだ。

「で、どうする?」

「どうするって何がだよ?」

「決まってるだろ、これから何するかだよ。課題も出てないのに、お互い真面目に勉強するようなたまじゃねぇだろ?」

そう言われると、少々ムッと来るものがあるが、事実なので仕方ない。

つーか、課題ないんだ。いいのか、あの体育教師?

「色々考えたんだが、俺的に今日はポーカーだな。ブラックジャックや大富豪もいいが、それは最近このみとやっただろ?」

ああ、さっきこいつがぼーっとしてたのはそれを考えてたからか。

別になんでもいいんだけどな。

「どうよ、ポーカーでいいか?」

「賭ける物は?」

俺とこいつの勝負はほとんど何かを賭けて行われる。

「ヤック辺りでいいだろ。定番だし」

「よし、乗った!」

「へ、そうこなくっちゃな!」

そう言うと、雄二はトランプを懐から取り出し、何時の間にか居なくなっていた前の座席に座る。

「でも、二人だけでやるのか?」

「あ?誰か他に誘ってもいいぞ?」

カードをシャッフルしながら雄二が言う。

「女の子がいいな。女の子。貴明、誘ってこいよ」

「はぁ?お前、俺が女の子苦手だって知ってるだろ?」

「ばっか、一人いるだろ?お前が話せて尚且つ可愛い女の子がさ」

そう言うと、雄二は目線をとある女の子の方へと向ける。

「……愛佳か」

「その通り!幸い一人で本読んでることだし、いっちょ連れて来いよ」

親指でクイクイと愛佳の方を指差す。

「でもあいつ本読んでるしなー。邪魔するのも悪い……って、本?」

「なんだよ、委員ちょが本よんでたらおかしいのか?」

俺が不意に疑問の声を上げたので雄二が反応する。

……おかしくはない。おかしくは無いんだよ。あいつ文芸部員だしな。

でも、俺の勘が何か違うと告げている。

「……ちょっと行ってくるわ」

「お、おお。良い結果を待ってるぜ」

そうして俺は席を立ち、愛佳の方へ向かった。

 

「よう、愛佳」

「あ、たかあきくん」

俺が声を掛けると読んでた本から顔を上げてふにゃーっと笑う。

「なんの本読んでるんだ?」

「あ、これ?」

自分の持っていた本を広げて表紙を俺に見せる。

なになに……『初心者でもわかる世界のミステリー百選!!』

……さすが俺の勘。大ビンゴだよ。

嫌な方にだけどな。

「この本ね、花梨が貸してくれたんだよ〜。『素人はまずこれからよ!』って言ってね」

ああ、そうだろうよ。こんな本持ってるのはうちの会長しかいないだろう。

「とっても面白いから、今度たかあきくんも貸してもらったらいいよ」

とってもいい笑顔でなんだか間違った事を言う。

やばいなー、愛佳の奴。会長と知り合ってからどんどん毒されちゃってるよ。

なんとかしないと、郁乃の奴からまた苦情がきてしまう。

この前も「夜中の公園でべんとらー」事件でさんざん言われたばかりなんだ。

ここは本から気をそらすために上手く誘いださないと。

「な、なぁ、愛佳。俺これから雄二とトランプやるんだけど一緒にやらないか?」

「え、とらんぷ?」

俺の問いかけにキョトンとした顔になるが、目線を本に落とし、

「ごめんね、花梨から借りた本読んじゃいたいから。次郁乃にも読ませてあげたいし……」

と言った。

しかしここで引き下がるわけにはいかない。

「……」

俺はおもむろに愛佳の両手を取り、真剣な表情で彼女の目を見つめる。

いい手が思いつかないので、正攻法の頼みこみだ。

「ふぇ!!」

急に手を握られて驚いたのか、奇声を上げる愛佳。顔も一気に赤くなった。

俺の顔も同じように赤いだろうが、手を放すわけにはいかない。

「愛佳。俺はお前とゲームがしたいんだ。ダメかな?それとも俺なんかとは一緒に遊べない?」

少し首を傾げて彼女の顔を覗き込む。

「……!!!」

更に顔の赤みがました。無理も無い。俺だって恥ずかしいのだから。

「う、ううん!!全然OKだよ!!無問題!」

何故かノータイムでOKを出してくれる愛佳。

「本当か!!」

予想外の返事に思わず身を乗り出して彼女に急接近してしまう。

「わひゃあ!!」

「あ、悪い!」

慌てて手を放し、愛佳の傍を離れる。

「い、いいの。気にしないで。トランプ向こうの机でやるんでしょ?さ、行こう!!」

首をプルプルと横に振った後、俺の背中を手で押して雄二の方へ押す。

「あ、ああ。そうだな。行こうか」

押されるがまま、俺は歩き出す。

まぁ、何にしても上手く誘えて良かった。これだけでどうにかなる問題でもないが、確実に郁乃へと本が渡る機会は伸びただろう。

後は、あの本をどうするか、だ。いっその事こっそりどっかへ捨てるか?

いや、相手はあの会長だもんな。へたに動くとすぐ掴まれる。

さーて、どうしたものか……。

「……さっきのたかあきくん、ちょっと可愛かった」

俺が考え事をしている後ろで愛佳が何かをボソリと呟く。

「ん?なんか言った?」

「え?」

後ろを振り向き、目が合うと愛佳は慌てたように手をバタバタとふりはじめる。

「え、え、何も言ってませんよ。たかあきくんの空耳じゃないですか?ええ、絶対にそうですよ。いやだなー、たかあきくん。その年でもう空耳ですか?とりあえず耳鼻科に行った方が良いですよ?」

……なんか早口でまくし立てられたんですけど。触れてはいけない事だったか?

「だいたいですねー、たかあきくん……」

「あー、はいはい。とりあえず雄二が待ってるから急ごうね」

長くなりそうなので、尚もブチブチ言おうとする愛佳の声を遮り、俺は歩き出す。

「あ、待ってよ〜」

そんな後ろをひょこひょことついてくる愛佳。

その動きが小動物っぽくて俺は横目で見ながら失笑を漏らしてしまうのだった。

 

つづく

 

 

 

あとがき

やばいです。雄二書き易すぎ。つい調子にのって貴明と雄二のみの場面が長くなってしまいました。

しかも由真出せなかったし。由真ファンの方、すいません。次回は出せるようにしますんで。

でもその前にそろそろ姫百合姉妹の短編を一本書けたらなーっと思っています。ほら、もうすぐ誕生日ですしね。つーか明日だけど。

書けるかなー?まぁ、日にちが過ぎてもこれは書こうと思っているので、期待せずにお待ちくださいね。

 

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