続・なんてことの無い一日(4)

 

 

 

「全く、情けないわねー。あれぐらいで落ちちゃうなんて」

腰に手を当て、呆れ顔で俺を見てくるタマ姉。

あれぐらいって……まるで万力でしめられたかのような圧力を受けたのですが?

あんなのには、耐えろと言う方が無理だ。

「……はは、タカくん大丈夫?」

「ああ、なんとかな」

首をこきこきとまわしながら、心配そうな顔をしたこのみに答えてやる。

まったく、俺は雄二ほど頑丈じゃないんだから、もう少し手加減を希望する。

……タマ姉にそんな事期待するのは無理か。愚問だったな。

「……なんか失礼な事考えてない?」

不振そうな目でこちらを見てくるお姉さま。

鋭さは相変わらず一分の衰えも見せていない。

「い、いや別になんにも……」

もう一度気絶するのはゴメンなので、首を横に振っておく。

「そうかしら……ならいいんだけど。あ、それよりも」

少し俺との距離を近づけて、俺の顔を覗き込むようにするタマ姉。

 

……タマ姉、黙ってれば美人なのになー。

タマ姉の顔を近くでみながら、俺の頭の中ではそんな考えがよぎる。

「沈黙は金」などと、昔の人は上手い事をいったものだ。タマ姉はまさにそれに当てはまるだろう。

確かに掛け値無しの美しさを誇る、我らがお姉さまであるが、いかせん我が強すぎると思う。

これで優季さんなみのおしとやかさがあったとすれば、学園のアイドルなんていう漫画の中でしかありえなさそうな存在になる事も夢ではなかっただろう。

まぁタマ姉の唯我独尊さがいいという奴らも少なからずいるということは、俺がこの身をもって知っているのだけれども。

 

などと言う事を考えているうちに、タマ姉との距離は更に縮まり、何時の間にか俺の目をタマ姉が覗き込むようになっていた。

「タカ坊、あなた、不摂生な生活で体力が落ちてるんじゃないの?ちょっと頬もやつれた気がするし」

そう言って、俺の頬に手を伸ばし、慈しむような表情を浮かべながらその手を上下に動かす。

「痩せちゃって、この極上のさわり心地を落とすなんて事があったらダメなんだからね」

……俺の存在価値って触り心地だけなんだろうか?

タマ姉に聞いてみたいところだが、間違っても頷かれたらたまったものじゃないので、その疑問はスルーする。

「そうならないためにも、やっぱり私と一緒に……」

走りましょうという声が聞こえる前に俺はタマ姉から顔をそらし、大きな声を上げる。

「おおっと!!あそこに見知った人影が!!」

タマ姉のセリフを防ぎたいあまり、適当に前方を指し示す俺。

……ふっ。先送りしたに過ぎないと言う事はわかってるさ。

しかし、人間とは弱い生き物なのだよ。

「あ、ホントだー。ちゃるとよっちがいるよー。おーい!!

「なぬ?」

このみの言葉で前をよーく見てみると、見知った後ろ姿を発見。

二人ともこのみの声に気づき、こちらを振り向く。

あ、よっちが手を振りながらこっちに来た。その後ろにはちゃるも続いている。

「おはよー、このみ」

「このみ、おはよう」

程なくして二人が俺達の近くに駆け寄ってきた。

よっちはニッコリと、ちゃるはほんの少しだけ笑い、このみに挨拶をする。

「うん、おはよー、二人とも!」

そんな二人に対し、満面の笑みで応えるこのみ。

「あ、先輩方もおはようございますッス!!」

「おはようございます、環先輩に貴明先輩」

「おはよう、二人とも」

「よーっす」

タマ姉は優雅に微笑みながら、俺は軽く手を上げながらそれぞれ二人に挨拶した。

何気にちゃるからの呼び方が変わっているが、これは少しだけ親しくなったからだろう。

俺もちゃるも前にちょっとした出来事に巻き込まれたからな。

かなり混乱したけど、それのお陰でちゃると以前よりは親しくなれたので良しとしよう。

「相変わらず、仲がいいみたいで羨ましい」

何時の間にやらこちらに近づいていたちゃるが、俺の顔を見上げ微笑しながら言う。

その後、何か気になる事でもできたのか、辺りをキョロキョロと見渡し始めた。

「うん?どうしたんだ?」

「……雄二先輩は?」

いつものメンツに一人足りないのが気になったらしい。

雄二か……。ふむ……。正直に言うのも面白くないよな。

……ボケてみるか。

死にました

「ええ!!」

俺の突拍子のない一言に、ちゃるにしては珍しく大きな声を上げる。

「ほ、本当ですか?こ、この前書店で見かけた時は、あんなに楽しそうにメイドカタログを読んでたのに」

信じられないといった表情を今、浮かべているのだろう。あんまり変化がなくてわからないんだけど。この娘は基本的に無表情である。

「メイドに情熱を燃やしすぎて死にました」

あえて淡々と語る俺。

「そ、そんな雄二先輩がそこまでの人だったなんて」

よろよろと後ろに後退しながら呟くちゃる。

「ああ、いつかはこうなると思っていたんだけどな。あいつ、メイド(妄想)に抱かれて溺死しやがった」

「……おしい人を亡くしましたね」

下を向きながら言うちゃる。

「ああ、あれ程の漢は他にいないんだけどな……」

俺も下を向きながら答えた。

 

……しばしの沈黙。

俺とちゃるはもちろんの事、周りも展開についていけないらしく、ただ呆然とつったっている。

そんな中で俺とちゃるは同時に顔を上げる。

「ま、嘘だけどな」

「ええ、知ってましたけどね」

俺のサラッとした嘘発言に対し、ちゃるもサラッと知ってた発言をしてくれた。

う〜ん、さすがはよっちの相方。なかなか喰えないお人だ。

「なんだ、嘘だとわかっていて付き合っててくれたのか?いいやつだな」

「あんな嘘に引っかかるなんてよっちやこのみぐらいなものでしょう。それに相手のノリに合わせるのも、円満な人間関係を気づいていく為には必要な事だと思います」

そう言ったあと、少し目線を下に向け俺の顔から視線をはずす。

「せ、先輩は私の大事な友人ですから……」

照れているのか顔にほんのり赤みがさしている。

友人……面と向かってそんな事言われるとこちらもなんだかこちらも照れてしまう。

「……」

「……」

ちゃるは今だ下を向き、俺は上を向きつつ照れ隠しに頭をかく。

なんだ?このむず痒い沈黙は?何者かからのスタンド攻撃か?

「って!!何いい雰囲気になってるんスかー!!!」

そんな二人の間に流れていた妙な沈黙をよっちの一言が吹き飛ばす。

「そうよ、いきなりの出来事で思わず止まっちゃったけど、私の目の前で他の女の子といちゃいちゃするのは気に食わないわ!!」

「ねぇ、タカくん、ユウくんがメイドに抱かれて溺死したって本当?」

よっちやタマ姉がプリプリ怒っているのに対し、このみだけは泣きそうな顔で俺に問いかけてくる。

……このみ、信じてたのか。

「いや、このみ、あれは嘘だって先輩も言ってたっしょ」

おいおいというようにこのみの肩を叩き訂正してやる。

「なーんだ、そうかー。心配して損したよ」

ホッと胸を撫で下ろすこのみ。

天然にも程がある。

そんなこのみを苦笑しながら見届けると、一転しよっちはちゃるに鋭い表情を向ける。

「それよりもちゃる!!このあたしを差し置いて先輩と漫才をするなんていい度胸ね!!何気に『貴明先輩♪』なんて呼んでるのも気に喰わない!!」

ちゃるの方を指差し、声高に叫ぶ。

「ふん、よっちのようなおバカでは、貴明先輩の相方などとても無理だ」

ふふーんっと鼻で笑い、よっちを見下すように見る。

さっきの照れは何処かへ吹き飛んでしまったようだ。

「なんだとー、このメガネキツネ!!やってみないとわかんないっしょ!!」

「やる前から結果がわかりきってる事になど、やる意味は無いと思う」

「こんのー!!言わせておけばー!!」

「ふん、やるというのか?」

ピーチクパーチク、わーわーぎゃーぎゃー。

毎度恒例のキツネとタヌキの化かし合いが始まった。相変わらずいいコンビである。

「……ねえ、このみ。彼女達っていつもこんな感じなの?」

「う〜ん、今日は大人しい方だと思うよ?」

「そ、そう」

顔を引きつらせながら頷くタマ姉。見慣れていないからな、無理はない。

「つーか、どうする?このまま終わるまで待ってると確実に遅刻するぞ?」

見ている方としては面白いのだが、今回は時間がない。

「そうだね。早く二人を止めて学校行かないと」

そう言うとこのみは前方へタタタっと走り出す。そしてある程度までの距離を稼いだらこちらに振り向いた。

「二人ともー!早く来ないと追いてっちゃうよー!!」

「「!!」」

その呼びかけに二人はすぐに喧嘩をやめ、顔を見合わせる。

「ちょっとこのみー!!待ってよー!!」

「私を置いて行くのは許さない」

二人は俺達を通りすぎ、少し前の方にいるこのみに駆け寄っていく。

そしてこのみを真ん中に挟むような形で3人は歩き出した。



「……あの三人って本当に仲がいいのね」

腕を組みながら少し羨ましそうに3人の後ろ姿を見つめるタマ姉。

「さびしい?」

「ふふふ、ちょっと、ね」

昔は俺達の後ろばかりをついて来たこのみが、今では親友と呼べる友を見つけ、前を歩いている。

それはとても、そう、とてもよい事なのだろうけど、何故か少し寂しい気もする。

「でも、私にはタカ坊がいるからいいわ」

そうニヤリと笑うと、俺の腕に自分の腕を絡め、歩き出してしまった。

「ちょ、ちょっとタマ姉!!」

「いいじゃない、このくらい。偶にはサービスしなさいよ」

サービスって……。

……ま、いいか。時間も無い事だしな。

「さ、急いでこのみ達に追いつくわよー!!」

「了解」

そう言って、俺とタマ姉は走り出して行くのだった。

 

続く

 

あとがき

はい、なんてことの無い一日(4)をお送りしましたー。

いやー、わけがわからないですね。色々と詰め込みすぎました。

今回のメインはちゃるの予定でしたが、某サイト様の影響でタマ姉がでしゃばりすぎてしまいました。

いや、タマ姉が書けて満足なんですけどね?でも、もうちょーっとちゃるを書いてあげたかった。

次から学校の中を場面にしようと思ってたんですけど、もう一個はさむか?姫百合姉妹もだして。

……なんか凄く大変そうになりそうなんですけど。

まぁ、どうなるかはその時の気分しだい!(おい

続けるなら姫百合姉妹、校内に入ったら愛佳や由真がでる、予定。

期待せずにお待ちくださいね。それではこの辺で。ではー

 

 

 

 

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