続・なんてことの無い一日(3)

 

 

 

「そういやタマ姉、雄二はどうしたんだ?」

しばらくすれば合流するものだと思っていたが、いつもの待ち合わせ地点をすぎても奴の姿はなかった。

「さあ?私が家を出る時には、まだ寝てたみたいだから後の事はわからないわ」

「ふーん」

小首を傾げて言うタマ姉に対し、相槌を打つ。

だとすると、先に行ったか、まだ家を出ていないかのどちらかだな。

どちらにせよ、俺達と合流という可能性は皆無か。

「でも、たぶんまだ家を出ていないんじゃないかしら?あのコ、最近夜更かししてるみたいだから」

そう言うと、タマ姉は顎に手を当て、目線を下に向ける。

何かを考えているようだ。

「全く、最近生活習慣の乱れが目に付くのよね。やっぱりここは一緒に早朝マラソン……」

何やらブツブツと言った後、「うん、これはいい案ね」と一人で頷き、顔を上げるタマ姉。

うわー、嫌な予感がバリバリしてきたぞー

「ねぇ、タカ坊。明日から雄二もつれてジョギングをしようと思ってるんだけど、あなた……」

「そ、そういえばこのみ学校の方はどうだ!」

秘儀、あやふやにしちゃえばこっちのものさ作戦発動。

今回の生贄役は柚原のこのみさんです。

「ふぇ?」

俺達よりちょっと前をケンケンパをしながら歩いていたこのみが振り返る。

……つーかお前ももう高校生なんだから、そんな事しながら歩くのはヤメレ。

「『ふぇ?』じゃない。学校はどうかって聞いてるんだよ。勉強、ついていけてるのか?」

こいつ、こんな体格の癖して中身は運動系だからな。

つまり、勉強は苦手って事さ。

「も、もちろんバッチリでありますよ、隊長」

あははーっと笑いながら頭をかく、このみ三等兵。

「本当かー?お前の事だから授業中寝まくりなんじゃないのかー?」

「ぎくっ」

俺の言葉で、このみが一歩後ろに後退する。

……ふむ、この様子だと、『あの話』は本当のようだな。

「まぁ、このみ、本当に寝てばっかりいるの?」

タマ姉が口に手を当て、驚きの表情を浮かべる。

そんなタマ姉を見て、まずいと思ったのか、慌てて首と手をブンブンと振り回す。

「う、ううん。そ、そんな事はないよ?タマお姉ちゃん」
「そう?ならいいんだけど」

あっさりこのみの言葉を信じ、追及の手を緩めてしまう。

全く、本当にこのみには甘い。これが雄二だったらアイアンクローは確実だろう。

しかし、ここで終わらせてしまうわけにはいかない。

俺の保身……ゲフンゲフン。もとい、このみの今後の為にもな。

「ちっちっち。嘘はいけないなー、このみ君」

ホッと胸を撫で下ろしていたこのみが、俺の言葉でビクンと震える。

「な、何の事でありますかな?別にこのみは嘘なんてついていないでありますよ?」

そう言うと、両手を頭の後ろで組んで、明後日の方向を向き、ピューピューっと口笛を吹く。

凄くベタな誤魔化し方だ。

「ふふん、俺は知ってるんだぞ?お前がクラスの奴から『姫』って呼ばれてる事をな!!

某少年探偵のようにビシーっとこのみを指差しながら、声高に言う俺。

ふふ、ジョーカー、切らせてもらった!!

「な!た、タカくん、何故それをー!!」

身構えながら、驚きの声を上げるこのみ。

これが漫画なら、後ろにベタフラが入っていた事だろう。

「珊瑚ちゃんがニコニコしながら教えてくれたぞ?」

そう、こんな風に……

 

「あんなー、たかあき」

「うん?どうしたの珊瑚ちゃん」

「うちのクラスでのこのみちゃんのあだ名、知っとる?」

「いや、つーかあいつ、あだ名あるんだ」

「うん!『姫』言うんよ。かわええやろ?」

「姫?!……非常に名前負けしている気がする。なんでそんなのになったんだ?」

「このみちゃん、国語の授業でよー寝とってな、先生が『眠り姫』って呼んだからー」

「……なるほど、納得」

 

回想終わり。

 

「ううー、タカくんに言うなんて酷いよー」

「はは、いいじゃないか『姫』」

「うー」

上目遣いにこちらを見てくるこのみ。恥ずかしいのか顔は真っ赤である。

そんな俺達の様子をタマ姉が怪訝そうに見つめている。

「ねぇ、このみ?そのあだ名、可愛くていいんじゃないかしら?なんで酷いの?」

何もしらないタマ姉が首を傾げながら言う。

しかし、このみはそれには答えず、恥ずかしそうに俯くばかりだ。

仕方ない、ここは俺が答えてやろう。

「国語の授業中寝すぎてるから、先生から『眠り姫』と呼ばれたんだと」

「まぁ!」

さしものタマ姉も口から驚きの声を発してしまった。

これでこのみの説教は確定か?

「きっと先生にはこのみの寝顔がとっても可愛く見えたのね」

ズコッ

……やべー、タマ姉があまりにも変な事いうから、思わず古典的なコケ方をしてしまった。

「タマ姉、先生からの皮肉だよ!皮肉!」

「あら、そうかしら?このみの寝顔ってとっても可愛いのよ?『姫』って呼ばれてもおかしくないくらいにね」

そう言うと、タマ姉はさっきの発言でポカーンと口を開けているこのみに近づいた。

そして、微笑を浮かべこのみの頭を撫でてやる。

「このみは本当に可愛いもの。だから、そんなに恥ずかしがらなくてもいいんじゃないかしら?」

「タマお姉ちゃん……」

目をウルウルさせてこのみが見上げる。

その視線に対し、タマ姉は言葉の代わりにニコッとした微笑みで返す。

「でもね、お姉ちゃんは授業中に寝る事は良くないと思うの。折角学校に行ってるんだから、頑張らないといけないんじゃないかしら?それが今のこのみのお仕事なだから」

やんわりとこのみを諭すようにタマ姉が言う。

「うん!」

その言葉を理解したのか、このみは顔いっぱいの笑みを浮かべて、それに応えるのだった。

 

タマ姉の話が終わった後、俺達は何事も無かったかのようにまた、歩き出した。

「それにしてもちゃんと叱らなくていいのか、タマ姉?」

再びケンケンパを始めたこのみを見ながら、俺はタマ姉に尋ねた。

すると、タマ姉もこのみの方へ向けていた視線をこちらに向け口を開く。

「何も、大きな声で怒鳴り散らすだけがお説教じゃないわ。ようは相手が解ってくれればそれだけでいいのよ」

自分の思いが伝わるだけで、ねぇ?

だとすると、雄二の場合はアイアンクローをしなければ伝わらないのか。

……あいつ、本当にマゾじゃないだろうな?

「あーあ、でも、私少しこのみが羨ましいわ」

「え、なんでさ?」

意外なタマ姉の発言に驚き、つい聞き返してしまう。

「だって、あだ名で呼ばれてるなんて、それだけクラスのみんなから親しまれてるって事でしょ?私ってそういう経験ないのよねー」

タマ姉は指で髪をクルクルいじりながら、ちょっとスネたようにタマ姉が言う。

まぁ、タマ姉の場合は『親しみ』というより『崇拝』だからな。

恐れ多くてあだ名なんてみんな付けられないんじゃないのか?

なんて事を正直に言うほど、俺は世渡りベタではない。

「タマ姉はあだ名なんかで呼ばれてなくても、十分みんなから親しまれてるよ。子供の頃からいつもタマ姉の周りには人が集まってきただろ?それが証拠さ」

俺はタマ姉に向けて笑顔でそう言ってやる。

うん、これでフォローはバッチリだ。

「タカ坊……」

タマ姉が胸の前で手を組み、目をキラキラさせる。

「そんな事言ってくれるなんてお姉ちゃん、とってもうれしいわー!」

ガバチョ

感極まったタマ姉が俺の首に抱きついてきた。

「もー、何時の間にそんな事言えるようになったの?全く、可愛い事言ってくれちゃってー!」

俺の頬に頬擦りしながらタマ姉が言う。

しかし、抱きしめる力が強すぎるあまり、俺の首が絞められてしまう。

「た、タマ姉。ぎ、ギブ」

腕をペシペシ叩くものの、一向に気づかない様子である。

も、もうだめ……。

「……(がく)」

「ちょ、ちょっとタカ坊。大丈夫?!」

 

結局俺が目を覚ましたのはそれから5分たってからの事だった。

タマ姉、恐るべし……!!

 

 

 

後書き

……すいません、ちゃるとよっちが出せませんでした。

ああ、予告を破ってしまった。反省。

次では確実に出てくるので、楽しみにしていた方はもう暫くお待ちください。

次回で登校シーンは終わりにしたいと思っています。できたらですけど。

まぁ、予定は未定って事であまり期待しないでお待ちください。

次回も読んでくだされば幸いです。ではー

 

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