続・なんてことの無い一日(2)
「ふー、全く朝から疲れた」
着替えを済ませ、洗面台で身だしなみを整えた俺は、朝食を取るために居間のドアを開けた。
「あら、タカ坊。遅かったじゃない」
既にテーブルの上には『日本人の朝食』がタマ姉によって生み出されていた。
「ああ、あいつ朝から俺を貶めるような行為を取ったんでね。厳重注意をしてたら時間が掛かっちまった」
「まぁ、だからこのみ頭が痛いって言いながらおりてきたのね」
そう言ってタマ姉は現在女の子座りをしながらボケーっとテレビを見入っているこのみの方へ視線を向ける。
「タカ坊。このみももう年頃の女の子なんだから乱暴しちゃダメでしょ?」
このみを暫く見た後、体をこちらに戻す。そして指をピンと立てメッと注意してくるタマ姉。
「年頃ねー」
このみ、まだまだ子供っぽさが抜けてないからな。年頃と言われてもなかなかピンとこない。身長だって瑠璃ちゃんや珊瑚ちゃんよりも低いしな。スタイルにいたっては言うに及ばずだ。
「そう、お年頃。私なんか久しぶりに会った時、このみが随分可愛くなっちゃっててビックリしたわ」
懐かしそうに上を見ながらタマ姉が言う。可愛く、ねぇ。
「本当?」
「ええ、体も丸みを帯びてきてグッと女の子らしくなってきたしね。」
再びこのみに視線を向けるタマ姉。俺もその仕草につられて一緒にこのみの方を向く。
「……?」
そうかなー、俺にはよくわからない。
「はぁ、やっぱりダメねー」
やれやれと首を振ったあと、呆れたような目でこちらを見るタマ姉。
「む、ダメってなんだよ、ダメって?」
タマ姉を半眼で睨む俺。そんな俺を見てタマ姉が苦笑する。
「まぁ、タカ坊だし、期待なんてしていなかったんだけど」
そう言うと胸の前でパチンと手を叩いた。
「さ、そんな事より朝ごはんを食べちゃいなさい。折角作ってあげたんだから」
「うーい」
そうして俺は席に着いた。
現在テーブルに座っているのは俺、タマ姉、そしてこのみである。
「……ちょっと待て。なんでこのみも一緒になって飯食ってるんだよ?」
味噌汁をズズズっと啜っているこのみに対して突っ込みを入れる。
「え、おかしいかな?」
お椀を置き、タマ姉の方を見て不思議そうに尋ねる。
「ううん、おかしくなんてないわよ。それよりこのみ、ホッペにお弁当くっ付いてる」
ニコッと笑ってこのみの顔に張り付いていたご飯粒をとってあげる。
「えへー、ありがとう。タマお姉ちゃん」
「誰も取りはしないんだから、ゆっくり食べなさい」
「はーい」
そう言ってタマ姉は楚々と、このみはハグハグと朝食を食べるのを再開する。……二人とも俺の事思いっきり無視
しやがって。
「……このみ、お前朝飯食ってこなかったのか?」
無視されるのも癪に障るので、再度尋ねてみる
「うんうん、お母さんが『ご飯はしっかり食べて行きなさい』って言うから、ちゃんと食べてきたよ?」
プルプルと首を振った後、こちらを視線を向けて答える。
「そうか、食べてきたのか」
「うん、食べてきたよ」
「じゃあ、なんでここでも飯食ってるんだよ?」
朝からよくそのちっこい体に入るものだ。
「ほら、タマお姉ちゃんのご飯は別腹だから」
「あら、嬉しい事言ってくれるわね」
そのこのみの言葉を聞いて笑みを浮かべるタマ姉。そしてよしよしと頭を撫でてやる。
「だってタマお姉ちゃんのご飯とってもおいしいんだもん!いくらでも入っちゃうよ!」
そう言って二人してふふふっと笑っている。
「……太るぞ」
と、この場で二人を敵に回すような発言はできない、弱気な俺なのだった。
「ふー、お腹いっぱい」
そう言うと、このみは居間床の上にゴローンと大の字になった。
目を閉じ、口を半開きにあけている姿はなんとも言えず馬鹿っぽい。
俺はしょっちゅうこんな姿を見ているので、このみが年頃とは思え無いわけなのだ。
「おーい、このみー。食べてからすぐ寝ると牛になるぞー」
「大丈夫でありますよー。zzz」
野郎、寝やがった。これから学校に行かなきゃ行けないというのに随分な態度である。
「タマ姉、あいつ置いていこう」
冗談抜きの真面目顔でタマ姉に進言する。ああいうアホは一度痛い目にあわないと直らないというのが雄二を見てきた俺の持論だ。
しかし、そんな俺のナイス提案はタマ姉が苦笑しながら首を振る事によって却下された。
「ダメよ、タカ坊。このみが可哀相でしょ?それに、食べた後横になって胃を休める選択は悪くは無いわ」
相変わらずお姉さまはこのみに甘いご様子。
昔っからそうなんだよなー。俺や雄二には色々と無理難題を押し付けてくるくせに、このみに対しては非常に甘い。
まぁ、タマ姉、弟じゃなく妹が欲しかったって言ってたからな。このみの事は本当の妹のように大事に思っているのだろう。実の弟である雄二以上にな。
「もし、あそこで寝ているのが雄二だったら?」
「決まってるわ。食べてすぐ寝るような行儀の悪い奴は、縛って即押入れ行きよ。当たり前でしょ?」
ほら、さっきと言ってる事が違う。哀れなり、雄二。
「そんな事より、タカ坊。食器洗っちゃうから手伝いなさい」
ここで「嫌だ。ダルイ」なんて言えたら俺の人生はもっと別なものになっていただろう。
しかし、子供の頃からの刷り込みによって俺はタマ姉の言う事をほぼ断れない人間となっている。
「了解」
席を立ち、流しへと向かった。
ジャブジャブジャブ。
分担は俺が洗いでタマ姉が拭きである。
「なぁ、タマ姉」
「うん?なあに?」
「今日は何時から俺の家に居たんだ?」
世間話をするような軽い口調で俺はタマ姉に尋ねた。
タマ姉もこのみと同じで昨晩泊まっていった記憶は無い。そして今朝うちにやって来るなんて言われた覚えも無い。
それなのにどうして突っ込みを入れなかったというと、それはひとえに『タマ姉』だからだ。
どうせいちゃもん付けられても最終的には押し切られるんだから、無駄な事はしない方がいいと最近思い始めてきた。
……諦めとも言うけどな。
「そうねー、ジョギングして、家に帰ってからきたから……五時半ぐらいかしら?」
「五時半!?そんな早くから何やってたんだよ?」
「あら、お掃除したり、お料理作ってたりすると時間なんてあっというまに過ぎちゃうものなのよ?」
「いや、それでも早いだろ」
タマ姉はなんでもテキパキできるのだから、何をやってもそうそう時間は掛からないはずだ。
「ええ、少し時間が余ったから……」
そこでいったん区切り、こちらに向かって笑いかける。その笑みは先ほどこのみに向けられた慈愛が含まれていたものとは違い、なんていうか獲物を前にした肉食獣が舌なめずりをするときのような微笑だ。
……なんか嫌な予感がバリバリするんですけど。
「タカ坊のランプ肉のさわり心地を調べてたわ」
「……」
ランプ肉……。確かそれって……。
「尻じゃねえか!!」
この人は朝から人の家に来てなにやってやがる!!
「そうよ。お尻のお肉。さすがタカ坊ね、雄二なんかとは比べものにならないほどの張りと弾力性だったわ。それでいてまったり感もあり……。これは十年に一人の逸材ね」
「まったり感ってなんだよ!!というか、雄二のも触ったのかよ?!それよりそんな逸材っていわれても全然嬉しくねー!!!」
思わず突っ込み三連発だ。
「あら、どんな事であれ、長所は大事にすべきだと思うわ」
「何が悲しくて尻を長所にせなあかんねん!!」
そんな色物キャラに転落するのはご免である。
「もう、タカ坊は我侭なんだから」
そう言ってタマ姉がコロコロと笑う。
……ダメだ。何を言っても通じない。ここはこれ以上の被害を抑えるために、作業に集中するべきか。
「……ふぅ、もういいよ。それより早く洗い物を済ませちゃおう。まだ余裕があるとはいえ、早く済ませるにこした事はない」
「あら、私はタカ坊で遊べるから長引いてもいいけど?」
笑顔を浮かべながら、なんて恐ろしい事を言うんだろう。タマ姉はもしかして赤い悪魔ではないんだろうか?
「……一刻も早く終わらせよう」
俺は手のスピードを可能な限り早めるのだった。
結局洗い物はタマ姉のお陰で長引き、気がつくともう、学校に出発しなければならない時間となっていた。
「二人ともー!用意できたー?」
既に身支度を終えたタマ姉が玄関の方から声を出す。
俺とこのみは二人して家の中の戸締りの点検中なのである。
「おい、このみ。俺の分担箇所はオッケーだ。そっちは?」
「うん、こっちも今終わったとこだよ」
このみの点検ってことで一抹の不安は残るが、もう時間がないのでそうも言ってられない。
「よし、じゃあ行くか」
「了解であります!!」
そうして俺達は学校へと向かって行くのだった。
あとがき
うーん、やっぱりタマ姉をメインっぽくすると時間がかかるなー。
文章量は少ない癖に時間はいつも書いてるものと同じくらいかかりました。やっぱりタマ姉はムズイ。
あ、でも決してタマ姉が嫌いってわけじゃないですよ?むしろ大好きです!(爆
しかし書きにくい。書きにくさランキングの上位クラスです。ちなみに一位は愛佳。
克服していきたいんですけどねー、まぁ、地道に書いてくしかないか。
と、いうこと(?)で今回はここまでです。次回はちゃるとよっちが登場(予定)。間違えないようがんばるぞー。
最後まで読んでくださって、有難うございました。
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