続・なんてことの無い一日(1)
「ん、もう朝か……」
目覚ましは鳴っていないが、鳴る前に起きたらしい。時間を見るとまだ出発までには余裕がある。
「ま、二度寝して寝過ごしました、なんて事になったら洒落にならんからな。起きるか」
そう決意したあと、何気なく隣をみると……
何故かこのみが寝ていやがりました……。
「Why?」
……はっ!寝起きの頭にいらん衝撃を受けたから思わず処理オチしてしまった。いかんいかん。とりあえず人の領土で惰眠を貪っているこのみ三等兵に理由を聞かねば。昨日こいつが家に来た記憶はないんだから。
「おい、このみ起きろ。ちょっと聞きたい事があるんだが」
俺は隣で寝ているこのみを揺らす。うん?こいつ制服着てるぞ?
「……むにゃむにゃ。えへへ〜、もう食べられないでありますよ〜」
そう言ってこのみが寝返りをうつ。寝ているのにも関わらす、顔はえへへ〜と笑っている。
「おーい、ベタな寝言を言ってないで起きろー」
とりあえずこのみのほっぺたをプニプニと突っついてみる。む〜、こいつなかなかいい感触してやがる。貴明ランキングでも上位クラスだ。
「む〜〜〜」
寝ているところを邪魔されたためか、眉をはの字に曲げて掛け布団をかけ直すこのみ。
「起きろー」
プニプニ。
「む〜〜〜」
「このみ〜」
プニプニプニ
「む〜む〜」
「朝だぞ〜」
プニプニプニプニ。
「む〜む〜む〜む〜」
こいつしぶといな。これだけプニプニ攻撃をしても起きないとは。時間的にもそろそろ厳しくなってきたし、こりゃちょっと本気を出すか。
「す〜〜〜〜」
息を吸い込み……。
「おい!起きろ!!!」
「うわひゃ!!」
このみの耳元で大声で叫ぶと、奴は奇怪な悲鳴を上げて飛び起きた。
「う〜、耳がキンキンするよー」
ちょっと涙目になってしまった。もしかしてやりすぎたか?いや、このみの事だからこれぐらいしないと起きなかっただろう。……たぶん。
「おはよう、このみ君。良い朝だね」
さっきの事などまるで無かったかのようにこのみに向かって笑いかける。人間誤魔化しは大事だからな。
「む〜、タカくん、起こし方が乱暴だよ〜」
眉を顰めこちらに非難がましい視線を向けてくる。怒っているようだが、全然そんな風に見えないのはご愛嬌。
「こんな起こし方、お母さんでも三日に一回しかやらないよ!」
三日に一回はやるのか、春夏さん。
「まぁ、そんなことより……」
「あ、タカくんが誤魔化した」
こいつ、タマ姉の影響か最近知恵をつけてきたなー。
「まぁ、聞けって。このみくん。君は昨日うちには泊まらなかったよね」
「うん、そうだよ。タカくん、そんな事も忘れちゃったの?」
首を傾げながらこちらの話にのってくる。よし!誤魔化し成功。やはりまだまだ甘い。
「で、昨日うちに泊まらなかった筈のこのみくんがなぜに今朝俺のベットで寝ていたのかね?」
「えっと、それは……」
ちょっと罰が悪そうに視線を俺から外すこのみ。
「それは?」
「……だってタカくんが気持ち良さそうに寝てるんだもん」
「……は?」
おっしゃってる意味がよくわかりませんが?
「今日は早く起きれたからタカくんを起こしてあげようと思ったの」
「ふんふん」
俺はこのみのように寝坊する事はあまりないため余計なお世話だが、話の腰を折るのも何なので、とりあえず聞き流す。
「それで、タカくんの部屋に入ってタカくんを起こしてあげようとしたの」
人の家に勝手に入った挙句、部屋にまで無断侵入。最近プライバシーが無くなって来たなー、俺。……タマ姉が帰ってきてから覚悟はしていたんだけど。
「そうしたら、タカくんとっても気持ち良さそうに寝てるんだもん!酷いよタカくん!あんな顔見ちゃったら一緒に寝たくなっちゃうじゃない!!」
こっちに詰め寄り、俺の顔を覗き込みながら非難がましく言ってくれる。
「……そうか、俺はそんないい顔で寝てたのか」
「……うん、タカくん寝顔ランキングでもかなり上位の寝顔だったよ」
……さっきの俺と似たような事言ってやがる。
「ごめんな、このみ。それなら仕方なかったよな」
「ううん、いいんだよ。タカくんが気づいてくれたから……」
そうして見詰め合う俺達。二人の間には甘い空気が流れる……わけねぇ!!
「なんて言うと思っていやがりましたか!こんちくしょう!!」
こんみのこめかみに拳をあててぐりぐりする。某生意気五歳児にお母さんがお仕置きする時のあれだ。
「いた、いたいよ!タカくん!」
「うるせー!人の寝床に勝手に侵入しやがって!!しかもお前、目覚まし止めやがったな!」
その言葉でグリグリされていたこのみの体がピクンと震える。
「え、えーっと。なんの事かなー?」
額に汗をかきながらもなんとか誤魔化そうとするこのみ。
「ほほー、あくまで惚ける気ですか、このみ三等兵?」
「じ、自分はそんな事してないでありますから、惚けるも何も……」
あくまでもしらを切り通そうとするか。ならば……。
「ふふん、なら、正直に言わないとお前が俺の家に置いてあるお菓子をザ・捨てる」
「!!」
ちょっと前に自分の好きなお菓子がないとブーブー言ってたこのみに、無いなら自分で持ってこいと言った事がある。そうしたらこいつ本当に持ってきやがった。しかも俺が食べると怒るし。
「すいません!つい、出来心でやっちゃいました!」
あっさりと白状してくれるこのみ三等兵。よっぽどお菓子が大事らしい。
「弁解を聞こうか」
捕虜にも自己弁護ぐらいはさせてやらないとな。お仕置きはその後でもできるから。
「うう、タカくんと一緒に寝てるの邪魔されたくなかったんだもん」
「起こしに来た奴が目覚ましまで止めて一緒に寝てどうする!!そういうのは『ミイラ取りがミイラになる』っていうんだよ!」
グリグリ再会。
「う〜、このみまだミイラじゃないよー。ピチピチしてるんだからー」
「例えだ例え!それぐらい知っとけ!!」
グリグリグリグリ。
「いた、いたたたた。隊長潰れてしまうでありますよー!」
「そんな空っぽな頭は潰れてしまえ!!」
俺のお仕置きは暫くの間続くのだった。
「う〜、痛いよ〜。頭がくらくらする〜」
こめかみを押さえながらブツクサ言ってるこのみ。
「ふう、全くこのみのせいで、無駄な時間を消費してしまった。朝の時間は貴重だというのに」
「タカくんがお仕置きなんかするからだよ〜」
「こめかみを押さえながら、恨めしいような目でこちらを見る。
「……確かに少し長すぎたかもしれない。しかしこれがきっとこのみの将来に役立つと俺は信じている。たぶん」
俺はあさっての方向をみながら拳を握った。
「タカくんがまた誤魔化したー!!」
ギャーギャーとこのみが騒ぎだしてしまった。
「えーい、うるさい!目覚ましを止めるお前が悪い!!俺が学校を休んだらどうする?出席日数が足りないと進級できなくなるんだぞ!!」
「えー!タカくん留年して同じクラスになろうよー」
なんて恐ろしい事を言うお子様なんだろう。
「そんなのは雄二とやってくれ。俺を巻き込むな」
手をプラプラ振って追い払うような態度を取る。
「じゃあ、タカくんもユウくんも一緒にってことは?」
「余計嫌だっつーの!!」
なんで留年してまであいつと同じクラスにならないといけないんだよ。
「う〜、つまんない〜」
唇を尖がらせて地面を足で蹴るような仕草を取る。つまらないと言われてどうこうできる問題ではない。
「……ほら、むくれてないでさっさと下で待ってろ。着替えるから。わかったな?」
そう言って俺はこのみの頭をクシャクシャとなでてやる。撫でているうちにこのみの尖がった口もしだいにほぐれてきた。
「はい、おしまい」
しばらく撫でた後このみの頭から手を放す。
「あ、タカくんもうちょっと……」
「ダメだ。もう時間がないからな。また今度だ」
名残惜しそうに俺の手を見つめるこのみにそう言ってやる。
「うー、きっとだよ?」
「ああ、きっとだ。だから下に行っててくれ」
「はーい」
そう言うとこのみは反転し、ドアから出て行った。
「……全く朝から騒がしい」
溜息を一つ吐いた後、俺は着替えを始めていった。
つづく
あとがき
はい、『続・なんてことの無い一日』をお送りしました。如何でしたでしょうか?
前作『なんてことの無い一日』を読んで下さった方ならわかると思いますが、これは貴明君の一日を部分事に分けてだらだらと書いていく物です。内容が違うだけで、形式は前回と同じ。手抜きですねー(おい
まぁ、そんな事は置いといて、文量について述べたいと思います。
今回はいつも書いているのと違ってかなり短いです。量的にいつもの半分かな?でも私の作品ってちょっと長めで途中から読むのがだれてくる傾向があるので、今回はコンパクト(?)にまとめてみました。試験的に。長い方が良い、又はこれ位の量が丁度良い等の意見お待ちしています。あ、あとこの形式に対する意見も。ダメなようならいつもの短編に戻します。今回が終わったらですけど。
と、いう感じで後書きを終わり。それではまた次回でお会いできたら嬉しいです。次はタマ姉が登場予定。ではー
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