委員ちょマジックの謎を追え!

 

 

 

わいわい、がやがや

すでに帰りのホームルームを待つのみとなっている教室は、クラスメートの話声で溢れかえっていた。

「は〜い、みんな〜。連絡があるからちょっと静かにして〜」

そんな中、我らが委員ちょが教壇の上に立って俺達に話しかける。しかし、当然ながらだれも聞こうとはしない。

「ちょっと〜!静かにしてってば〜!」

ペチペチと教卓を叩いて注意を呼びかけるが、効果は全く無し。自分の要求が通らず、次第に涙目になっていく委員ちょ。……そろそろか。

「ムキー!みんな話しを聞けー!!」

プッツンした愛佳がブンブン手を振り回して叫びだす。するとどうだろう、次第にみんなの喧騒が納まっていくではないか。

「はーい、みんなー委員ちょがテンパってるから静かにー」

「そうだ、ちょっと黙ろうぜー」

クラスのあちこちでこのような呼びかけが次々に起こり、いつしか辺りはシーンと静まり帰った。

「えーっと、こほん。では、連絡事項を伝えます。まずは……」

こうして『委員ちょマジック』により、愛佳の演説(?)はスムーズに進むのだった。

 

キーンコーンカーンコーン。

「おーい、貴明。帰ろうぜ……って何ぼーっとしてんだ?」

頬杖をついている俺に対し雄二が声をかける。

「……いや、ちょっと考え事をな」

「なんだよ、考え事って?面白い事なら俺もまぜろよ」

そう言うと、俺の前の奴の席にどっかりと腰を下ろす。相変わらず好奇心の強い奴だ。

「別に大した事じゃないんだけどな……」

「いいからとりあえず言ってみろよ?俺とお前とじゃ価値観が違うからわからないぜ?」

ハリー、ハリーと急かす。ふぅ、しょうがない。

「さっきの愛佳について考えてたんだ」

「委員ちょの事をか?」

「委員ちょの事というより『委員ちょマジック』の事だけどな」

そう言うと俺はまだ教室に残っている愛佳の方を見る。クラスの女子と話しているがあれは頼み事の類だな。手合わせてるし。

「そういえばさっきもえらい騒がしかったのに、何時の間にか静かになってたもんな」

雄二も俺につられて愛佳の方に首を向けた。

「ああ、不思議だと思わないか?これがお前だったら絶対に話は進まなかったね。確実に」

「ま、そりゃそうだ。委員ちょが委員長たる所以は其処にあるんだからな」

てっきり怒ると思った俺の軽口を肩を竦めて雄二は軽く流す。これはそれだけ愛佳を認めているって事だろう。

「でも、なんで愛佳だけこんな事が出来るんだろうなー」

俺は雄二に向けて疑問をぶつける。

「それはお前……なんでだろう?」

腕を組み考え込んでしまう雄二。ホント、なんでだろう?

「これはミステリーのニオイがするわね」

「いや、ミステリーって程じゃ……って会長!!

思わず立ち上がってしまう俺。

「はーい、タカちゃん」

何時の間にか俺席の隣に会長が立っていた。

「なんでこんな所に……」

「ふふふ、甘いわねタカちゃん。ミステリーあるところ花梨ちゃんあり、よ」

本当かよ?という無粋な突っ込みはしない。

「と、いうわけでタカちゃん!ミステリー研究会出動よ!!」

「はいー?!」

会長は俺の手を掴んで凄い勢いで走り出した。

「おー、がんばれよー」

後ろの方から雄二のやる気の無い声が俺の耳かすかに届くのだった。

 

場所は変わって現在ミステリー研究会部室。

「なぁ、会長?なんで俺達ここにいるんだ?愛佳に直接聞けばいいじゃねーか」

「チっチっチ、甘いわねタカちゃん。沖縄名物ちんすこ−より甘いわ」

指を振りながら良くわからない例えを上げる会長。

「あ、ちなみにちんすこーっていうのは……」

「いや、その説明はいいから。それよりなんで俺が甘いのかを教えてくれ」

会長の話は無駄に長いからな。おとなしく聞いていたら日が暮れちまう。

「う〜、つまらんな〜」

「てめー!珊瑚ちゃんの真似なんかするんじゃねー!!」

全然似てやしない。珊瑚ちゃんファンの人に謝れ!!

「ふふふ、いっつジョークよ、ジョーク。タカちゃんはお堅いなー」

危険なネタを使うお前が悪い。

「ま、タカちゃんをからかうのはこれぐらいにして、そろそろ本題に入りましょうか」

俗にいうゲンドウポーズをとって真剣な表情になる会長。

「タカちゃん、『委員ちょマジック』の発動した状況とその効果について言ってみて」

「え?発動とその効果?」

「そうよ、同じクラスにいるんだから、それぐらいわかるでしょ」

うーん、発動と効果ねー。

「そうだな、俺の見た感じでは発動条件は愛佳がパニックに陥る事。そして効果は周りが愛佳のいう事を聞くって事かな」

「そう、私のリサーチでもそういう結果になったわ」

調べたんかい、あんた。

「それでね、タカちゃん。パニック状態の時に発動されてるのよね?」

念を押すように尋ねてくる。

「ああ、そうだろ。会長もさっき肯定したじゃないか」

「パニックになってる人がその時の事をよく覚えているかしら?」

「あ……」

そうか、愛佳は無意識でやってるんだもんな。どうやってなんか覚えているはずが無い。

「と、いう事で本人に直接聞くって意見は却下。やっても意味が無いからね」

ポーズをとき、やれやれといった感じに首を振る。

「じゃあ、どうするのさ?」

「そうねー、まずは聞き込みかな」

頬杖を突きながら会長が答える。

「『委員ちょマジック』って相手の心理に影響を及ぼすみたいだから、周りが小牧さんの事をどう思っているのか調べようと思うの」

「外側から調べていくってことか」

いきなり核心には近づけないのだから、それと関連性のあるものについての情報を集めていきそれらを結びつける事によって核心へと到る道をつくる。推理ものと同じだな。

「そう、その通り!地道な調査こそがミステリーを解き明かす鍵となるのよ!」

立ち上がり、握りこぶしをしめる会長。おお、燃えている。

「ということで早速、彼女のお友達に聞き込みにいきましょ。できるだけ親しく、尚且つ色々な種類の人がいいわ。学年が違ったり、他のクラスだったりね」

「まあ、あいつ異常に顔が広いから相手を探すのは苦労しなさそうだな」

一年から三年まで色々な所に顔がきくのが委員ちょだ。

「よーし、それでは聞き込みにシュッパーツ!」

元気良く手を上げる会長。ま、俺も委員ちょマジックには興味があるから付き合いますか。

そうして俺達は聞き込み調査を開始するのだった。

 

調査中……、調査中……

 

……。

 

…。

 

終了。会長がレポートにまとめろっていうのでレポートを書いた。内容は以下参照。

 

委員ちょ調査レポート  作:河野貴明

 

同級生(同じ部活)の場合

俺:優季さん、あなたのもつ小牧愛佳のイメージは?

優季さん:頑張って回し車を回しているハムスターかなー。かわいくて頑張り屋さんですよね愛佳さん。……ところで貴明さん?お隣にいる女性はどなた?

一言;……俺のした質問より優季さんに会長の事説明してる時間のほうが長かった。なんでさ?

 

同級生(自称宇宙人)の場合

俺:るーこ、愛佳についてどう思う?

るーこ:うーんちょは近年稀にみる良いうーだ。スコーンが上手いぞ。

一言;……るーこ、餌付けされてる?

 

下級生(一般)の場合

俺:このみ、お前のもつ愛佳のイメージを洗いざらい喋ってくれ。

このみ:愛佳さんいい人だよー。このみ、この前お菓子もらっちゃったー。えへー。……それよりタカくん、隣のおねーさんはだれ?

一言;会長がこのみを勧誘していた。こんな怪しい部活に入るのは俺一人で十分なので止めに吐入ったら会長に睨まれた。気にしない方向で行こう。

 

下級生(双子)

俺:珊瑚ちゃん、瑠璃ちゃん。愛佳について何かコメントをくれ。

珊瑚ちゃん:愛佳ちゃんふわふわしててうち好きやでー。

瑠璃ちゃん:郁乃ちゃんと性格が全く似てないのはなんでやろ?人にすごく優しくできる人やな。

珊瑚ちゃん:そんな事より、なぁーたかあきー。そっちの人は誰?もしかして浮気?

瑠璃ちゃん:さんちゃんを悲しませるなー!!

一言;瑠璃ちゃんのキックは痛かった。浮気ってなにさ。

 

上級生(姉)の場合

俺:タマ姉、愛佳の事どう思ってる?

タマ姉:そうねー、彼女の事は気に入ってるわ。明るくて、かわいいしあの天然っぽいところもツボよね。それに誰彼構わず優しくできるのもすごいと思うしね。……それよりもタカ坊、お隣さんは誰かしらー?おねえちゃん、馴れ初めとか聞きたいわー。

一言;会長は途中で逃げ出した。ちょっと酷いと思った。

 

以上、レポート終了。

 

現在会長に書いたレポートを見せている最中。

「……なんというか小学生の作文?」

レポートから顔を上げて会長がそう言いやがった。

「何にもしていないやつが文句を言うな」

会長、傍にいただけで聞き込みもレポート作成も全部俺に任せやがった。

「だってー知らない人とお話をするのってはずかしいーし」

しなを作ってこちらを見つめてくる。

「全然似合ってないから。むしろ気持ち悪い」

「もー、タカちゃん。女の子にそんな事いうのはマナー違反よ?」

腰に手をあて指先を俺の鼻に押し付ける会長。これでは話が進まない。

「ふざけてないで調査結果からわかった事とかまとめろ」

「わかった事ねー」

腕を組みうーんと考え込む。

「とりあえずタカちゃんがもてもてだって事はわかったわ」

「だからふざけるなっつーの!!」

「ふざけてないわよー。タカちゃんがあんなに他の女の子と親しかったなんて知らなかたわ。ちょっと妬けちゃうわねー」

ニヤニヤと笑いながら言う。前々から思っていたんだが、会長って性格がどことなくタマ姉に似ていると思う。人を手玉にとって楽しむところとかな。

「ああ、タカちゃんがこんなにも浮気症だったなんて、花梨ちゃんショック」

ハンカチを目に当てて泣きまねをする会長。ご丁寧に目薬まで使ってやがる。

「……まったく、いい加減にしないと帰るぞ?」

「んー、いい加減にするもなにもこのレポートじゃたいした事わかんないんだよねー」

「あ、やっぱり」

書いてる途中でこれ、意味ないんじゃねーのって思ったもんな、俺。

「わかった事といえば、小牧さんはすごく人に親切で、色々な事に一生懸命な可愛い人って事ぐらいだからねー。そんなのはわかってた事だし」

「そうだよなー、そんなの愛佳を知ってる人だったら誰でもわかる事だしな」

委員ちょマジックの解明には繋がらない。

「ふぅ、しょうがないか」

下を向いて溜息一つついた後顔を上げる会長。

「こうなったら私自ら調べるわ!」

「調べるって?」

「決まってるでしょ!小牧さんに引っ付いて彼女を徹底的に調査するのよ!やっぱりからくりを知るには小牧さんの事を私自身がよく知っておく必要があると思うの」

自分で愛佳を調査し、委員ちょマジックのからくりを解明するって事か。

「でも上手くいくのかねー」

あれはたぶん愛佳独特の能力で調べてどうこうなる問題じゃない気がしてきたんだけど。

「そんなのやってみないとわからないわ。そういうことで私は早速小牧さんと友達になってくるから今日はおしまい。じゃあね、タカちゃん。バイバーイ」

そう言うと会長は走って何処かへと行ってしまった。相変わらず一意専念というか馬鹿の一つ覚えというか……。まぁ、それでこそ会長なんだけどな。

俺は苦笑しながらその場を後にした。

 

それから……

あの後は何事もなくいつもどおりの日々が続いている。……と思ってた。今日、この場面を見るまでは。

「それでねー、昨日テレビでやってたんだけど、水晶ドクロの屈折率がねー……」

「あ、愛佳も見てたんだ。でも、あれってさー……」

なんか仲良さげに廊下で愛佳と会長が談笑してるんですけど?いや、それはいい。問題は話しの内容だ。なんだよ水晶ドクロって。

「あ、たかあきくん」

「何してんのタカちゃん、そんな所に突っ立って?」

あ、気づかれた。こうなったら聞いてみるか?

「なあ、何の話してたんだ?」

半ば祈るような気持ちでたずねる。俺の予想が当たってないようにとな。

「昨日のテレビの事だよ〜。たかあきくんも見た?「必見!宇宙の真理と超常現象」。とっても面白かったよねー」

手をポンと叩きニコニコ顔の愛佳さん。いや、そんな怪しい番組知らないし。

「でもさー面白かった事は面白かったけどちょっとデマが多すぎよねー」

「ええー!そうなの?全然わからなかった」

「ダメねー、修行が足りないわ。そうだ、今度私の持ってる秘蔵ビデオを見せてあげるわ。あんなのとは比べ物にならないくらい面白いわよー」

「本当?郁乃も呼んでいい?」

「もちろんOKよ!同志は多い方がたのしいもんね」

親指をグイっと上げて会長が笑う。

「そうだよね〜、楽しい事はみんなでやらないとね。あたしも花梨に教えてもらうまで全然知らなかったよ。なんか損した気分」

愛佳、損して無いから。むしろ今の状況の方が損してる気がするぞ?

「あ、そうだ!先生に用事頼まれてたんだ。じゃあね、花梨。約束忘れちゃだめだからねー」

「ほーい」

会長が返事するのを確認した後、愛佳は幸せそうに走っていった。

「……ところで会長。聞きたい事があるんだが?」

「ん、なーに?ビデオの事ならもちろんタカちゃんもOKよ。ミス研部員だしね」

「そうじゃなくて、俺の記憶が正しければ、愛佳はミステリーなんかとは全く無縁な人間なはずだったんだけど?」

あんな怪しい番組は見ていなかった気がする。

「ああ、それはね、ほらあたし彼女の事よく知るために友達になるって言ったでしょ?」

「そうだな」

「で、あの後運良く愛佳が困っている場面に遭遇してね、助けてあげた後色々話てたら何時の間にか友達になってたわけなのよ」

うん、それはいい。俺と愛佳が知り合ったのもそういう流れだったしな。

「それでね、相手の事をよく知るためにはこっちの事もよく知ってもらわなくっちゃいけないと思うわけよ。それで……」

「いや、その先は言わなくてもわかる。会長が話しているうちに愛佳も興味をもっちゃってそのままズッポリとミステリーの世界に浸っちゃったって事だろ?」

「なんだ、タカちゃんもわかってきたじゃん」

目をパチクリさせた後、笑顔で会長がそういった。

「それで結局『委員ちょマジック』のからくりはわかったのか?」

「ああ、その事?それはもういいかなーって」

「何!!」

事もなにげに出た会長の言葉に俺は驚きの声を上げてしまった。

「そういう事を調べるよりも、今は愛佳とミステリーの話するのがスッゴク楽しいんだ。あ、タカちゃんと話ているのがつまんないって事じゃないよ?でも、ほらやっぱり女の子同士で話すのとはまた違うじゃない?」

「会長……」

「だからその事はまた今度。今は愛佳と楽しむのが私の最優先事項になっちゃったのよ。ごめんねタカちゃん、期待に応えられなくて」

「いや、会長がそれでいいなら俺はもういいさ……よかったな、愛佳と友達になれて」

「……うん!!」

俺の言葉に一瞬キョトンとするもののすぐに力強く頷く会長。

キーンコーンカーンコーン。

「あ、もう休み時間終わっちゃったよ。じゃあねタカちゃん!あ、今日は愛佳と一緒に出かけるから部活はなしねー」

俺にそう告げると会長はあわただしく去っていった。

「会長、随分楽しそうだなー」

調べた事は結局無駄になっちまったけど、この結末は上々だ。

「さ、次の授業も頑張りますか!」

ちょっとだけ気合の入った休み時間なのでした。

 

                おしまい

 

 

 

あとがき

はい、『委員ちょマジックの謎を追え!』をお送りしました。いかがでしたでしょうか?

いやー、今回も時間が掛かった掛かった。何回ネタを練り直したかわかりません。しかも結局謎は謎で終わってしまいましたし。

でも、私的にこのラストは気に入っています。花梨にミステリーの話ができる友達を作ってあげられて満足です。……真ん中が全然ダメだけど。ま、気にしないで下さい。

ちなみにこのお話で一番の被害者は郁乃。彼女は姉の頼みを断りきれず、一緒にビデオを最後まで見させられます。その上UFO呼びまで一緒にやらされるという始末。出てないのにかわいそうですねー(おい

と、グチグチ書いてきましたが、今回はこの辺で。最近レポートが山積みで更新が不定期になりそうです。それでもできるだけ書いていきますのでまた読みにきてくだされば嬉しいです。ではー

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