お姉ちゃんとメイドロボ
「……よし、こんなものでいいか」
現在場所は商店街にあるスーパーの前。片手に持った買い物袋を見ながら俺は今日の成果に満足する。最近は色々あってまともに買い物できない事が多かったからな。今日はゆっくりできてよかった、よかった。
「んじゃまぁ、帰るとしますか」
家に帰ってのんびりしようと思いながら帰り道を歩く。
しばらく歩いていると見知った後ろ姿に出くわした。
「あれ、タマ姉?」
俺が声を掛けると、くるっとこちらを振り返る。
「あら、タカ坊じゃない。こんな所で会うなんて珍しいわね。なにしてるの?」
「うん、ちょっとね」
そう言って俺は手にもった買い物袋を上に持っていく。それをじっと見るタマ姉。
「へー、買い物してたんだ。じゃあ、ちゃんと自炊してるんだ。うん、偉い偉い」
俺の頭をいーこいーこと撫でる。
「ちょ、ちょっとタマ姉!」
「何?お姉ちゃんに頭を撫でられるのが嫌なの?」
んんーっと撫でながら俺の顔を覗き込む。口ではそんな事言っているが顔は笑っている。
「そうじゃなくて!こんな所でするなよ、恥ずかしいだろ!」
というか、あんたわかっててやってるだろ!
「もう、タカ坊は照れ屋さんねー」
ようやく俺の頭を撫でるのを止める。顔がニヤニヤしているのは俺をからかえたからだろうか。
「そうだ」
何か浮かんだのかポンと胸の前で手をあわせる。俺はその仕草を見たとたんいや−な予感がした。昔っからタマ姉の思いつきには苦労させられてきたからな。条件反射ってやつだ。
「折角ここであったんだから、今日はお姉ちゃんがタカ坊にお料理を教えてあげるわ!うん、我ながらいい考えね」
……まずい。今俺の家はお世辞にも綺麗といえる状況じゃない。というか汚い。ここでタマ姉を家に招きいれたら何を言われる事やら。最悪生活環境が悪いって理由でタマ姉の家に住まわせられるかもしれない。なぜか自分の家に俺を住まわせたがるからな、タマ姉は。でも俺は自由を手放したくない!ここはなんとしても断らねば。
「どうしたの、タカ坊?黙りこんじゃって?」
俺が沈黙しているのを見て不思議そうに尋ねてくる。
「い、いやなんでも無いよ。それよりもタマ姉が料理を教えてくれるって話だけど……」
「うん、いい考えでしょ?どうせタカ坊の事だから自炊してるっていっても栄養のバランスとかは考えていないはずよ?」
確かにその通りだが……。
「で、でもタマ姉も雄二に夕飯作ってやらないといけないだろ?俺のほうにあんまり時間を取るわけには……」
「あら、あの子ももう子供じゃ無いんだからお腹が空いたら自分で何か食べるわよ。タカ坊が心配する事じゃないわ」
ぐっ!さすがタマ姉。手ごわいぜ。しかしここで負けるわけにはいかない。
「だ、だけど……」
「タカ坊」
タマ姉の目がスーッと細まる。それとともに不機嫌ですオーラが全身から発せられるのを感じる。くそ!なんてプレッシャーだ!
「もしかして私を家に入れたくないとか言うんじゃないでしょうねー?」
はい、その通りです。……そう素直に言えるほど俺はタマ姉に対して強くない。
「べ、別にそういうわけじゃ……」
「そう?ならいいわね。じゃ、行きましょうか」
そう言うとタマ姉はスタスタ歩き出してしまった。……俺の家の方へ向かって。
(大変だ大変だ大変だ。いったいどうすればこの危機を乗り越えられる?)
一番思考……無理
二番思考……あきらめろ
三番思考……そういう運命だ
四番しこ……
「って!俺は分割思考なんてできねーっつーの!!」
どうやらパニックのあまり頭が混乱していたようだ。というか分割思考ってなによ?電波か?
「ほら、何ぶつぶつ言ってるのよタカ坊?早く行くわよ」
俺がいつまでたっても来ないのに不満を覚えたのかタマ姉がこちらに振り向く。
「あ、ああ」
くそ、もうダメか?俺が諦めそうになった時……
「あら、貴明さんじゃないですか?」
俺の背後から救いの声が届いてきた。振り向くとイルファさんがこちらを向いて立っている。……もしやチャンスか?
「い、いやーイルファさん。こんなとこで会うなんて奇遇だね」
俺は愛想笑いをしながらイルファさんに近づく。
「ええ、本当に。貴明さんは何をなさってたんですか?」
「うん?買い物帰りさ」
手に持っている買い物袋を見せる。
「まあ、それは残念ですね。私も今から買い物に行こうと思っていたんです。もう少し早く来ていればご一緒できたのに」
シュンっと残念そうに言うイルファさん。
「あ、そういえば俺、買い忘れてた物があったんだ!」
買い忘れなんてもちろん嘘っぱちである。ここでイルファさんについて行くことができればタマ姉の訪問を有耶無耶にできるかもしれないからな。
「え、そうですか?では、よろしければご一緒に」
「ああ、是非ともお願いするよ」
これで俺はイルファさんと買い物に行く事になった。ふっふっふ、これで何とかなりそうだ。
「タマ姉?ちょっと用事ができたんで料理はまた今度に……っていない?!」
振り向いてタマ姉が立っていたところを見ても、タマ姉の姿は見当たらなかった。いったい何処にいったんだ?
「何をキョロキョロしてるのかしらタカ坊?」
「何ってタマ姉を探して……っておお?!」
声がした方を見るとなんと何時の間にかイルファさんの隣にタマ姉が立っていた。イルファさんもタマ姉の姿を見てビックリしている。……いったいどうやったんだ?俺が話している最中こちらに移動してきたのか?まさか知覚できない速度で移動したとかそういうわけではないだろう。でも、タマ姉だからそれぐらいは平然とやってのける気がする。
「別にタカ坊が彼女と話している最中に移動しただけよ?私でも光速で動けるわけないでしょ」
相変わらず勘が鋭い。
「それよりもタカ坊。こちらの綺麗な方はどなたかしら?私まだ紹介してもらっていないんだけど?」
そう言うと半眼で俺を見る。なんか声が棘棘しいですよ、お姉さま?それになんか不機嫌ではありませんか?
「あ、申し遅れました。私、HMX17aイルファと申します」
ペコリと頭を下げるイルファさん。
「ご丁寧にどうも。私は向坂環と言います。えいちていえむイルファさんですか。珍しいお名前ですね。外国の方ですか?」
猫かぶりモード(雄二命名)で挨拶するタマ姉。なんか変な事言ってるが本人はいたって真面目だ。
「え、えーと。外国というか……」
想定外の質問にイルファさんも戸惑いを隠せない様子。
「タマ姉。イルファさんはメイドロボなんだ」
「めいどろぼ?」
「そう、メイドロボ」
俺の言葉を聴いてタマ姉がジーッとイルファさんの事を見つめる。
「……タカ坊。嘘をつくならもう少しましな嘘を吐きなさい。この人どう見ても人間じゃないのよ。すいませんイルファさん。うちのタカ坊が変な事言って」
うちのってなんだよ、うちのって。まぁ、タマ姉は機械関係が全くダメだから。これは予想してたけど。
「い、いえ。嘘じゃなく、私は本当にメイドロボなんですよ?」
「イルファさん、タカ坊のくだらない嘘に付き合う必要は無いんですよ?」
本人が言っても一向に信じようとしない。イルファさんも困った表情で視線をこちらに向ける。
「ふぅ、いいかタマ姉。よーく聞いてくれ」
そして俺はタマ姉に懇切丁寧にわかりやすくタマ姉に説明を始めた。
二十分後……。
「……つまり、イルファさんは最新型メイドロボだからこんなにも人間らしい。そういいたいのね?タカ坊」
「ああ、それだけわかってくれれば十分だ」
というかそれだけを理解するのに二十分近くかかるのはどうよ?
「それにしても……」
イルファさんの顔をじっと見つめるタマ姉。
「見れば見るほど人間にそっくりね。ちょっと触ってみてもいいかしら?」
「え、ええ。かまいませんが」
戸惑いながらもOKサインを出すイルファさん。
「ありがと」
そう言うとタマ姉はイルファさんの体をペタペタ触りだす。
「ふ〜ん、ロボットって言っても冷たいわけじゃ無いのね。柔らかいし。ほとんど人間の肌と変わらないわ。すごいわね〜」
「お、恐れ入ります」
イルファさんの感触に気を良くしたのか今度は顔の方にまで手を伸ばす。
「うわ〜、ホッペもプニプニだわ。いい感触〜」
ムニーっとホッペを軽く引っ張る。
「ふぁ、ふぁの……」
さすがに声を出すイルファさん。
「あ、あらごめんなさい。いい感触だったものだからつい……」
慌ててぱっと手を放す。それからまたイルファさんの顔をじーっと見つめる。
「でも、やっぱり人間にしかみえないわ。ねぇ、やっぱり人間でしたってオチはないわよね?」
「疑り深いなー、タマ姉は。雄二とは大違いだ」
あいつはこういう事に対する適応能力は高い。というよりもタマ姉の偏見が強すぎるだけなんだけど。
「うるさいわねー、あんな弟と一緒にしないでくれる?」
腰に手を当て、こちらを睨んでくるタマ姉。
「え、向坂様のお姉さまなんですか?」
「そうだけど、イルファさん雄二の事知ってるの?」
俺の方に向けていた視線をイルファさんの方へ移す。
「ええ、この前貴明さんと一緒におられるとき、お会いしました」
その言葉を聞いてタマ姉は少し考え込む。
「……」
「あ、あの?」
「……イルファさん。あの馬鹿何か失礼な事したかしら?」
「え?」
突然の質問に驚きの声を上げる。
「正直に答えてくれていいのよ?」
「い、いえ別になにも……」
「本当?」
「ええ。手を握られたぐらいで、後は少しお話をしただけですが」
「あいつ手を握ったの?初対面の女性に?」
あ、やばい。
「はい……」
「ふふ、ふふふ。雄二ったら初めてあった女性の手をいきなり握るなんて、どういう神経してるのかしら?これは教育的指導が必要のようね」
下を向いて笑いうタマ姉。うわー、これは危険だ。
「た、貴明さん?私なにかまずい事いいましたか?」
「……いや、イルファさんは悪くないよ。でも、こうなったタマ姉は誰にも止められない」
雄二、不甲斐ない親友を許してくれ。
「タカ坊!」
「は、はい!なんでありますか!」
顔を上げて俺を呼ぶタマ姉に対し思わず変な口調になってしまう。
「私はちょっと用事が出来たから、先帰るわ。料理はまた今度教えてあげる。じゃあね!」
そう言うとタマ姉は世界を狙えるスピードで走り去って行ってしまった。
「……行ってしまいましたね」
「ああ、行ってしまった……」
呆然とタマ姉を見送る俺達。ハッ!ということは俺、助かった?
「よっしゃー!!」
思わずガッツポーズをとってしまう。
「ど、どうしたんですか?貴明さん?」
俺の奇怪な行動に身を引く。おっと、いかんいかん。あまりの嬉しさのあまり怪しい行動をとってしまった。これでは雄二と同類だ。
「あ、いや。気にしないでくれ。ちょっと嬉しい事があってね」
「はぁ、そうなんですか」
よくわからないという顔をしつつも頷く。
「そうなんだ。イルファさんのお陰だよ。ありがとう」
そして雄二よ。お前の犠牲は忘れない。
「え?よくわかりませんが、私、知らないうちに大活躍ですか?」
「うん。大活躍なんだ」
本当イルファさんが来てくれて助かった。
「うーん?何かしましたっけ……」
「ま、そんな事よりも買い物行くんでしょ」
「あ、そうでした。早くしないと瑠璃様に怒られてしまいます」
今まで首を捻って悩んでいたが、ポンと手を叩き気持ちを切り替えるイルファさん。
「それは大変だ。急いで行こうか」
「はい!」
そう言とイルファさんは俺の横に立ち、自分の腕を俺の腕に絡めた。……ってええ!!
「い、イルファさん?」
「何だか知りませんけど、私がお役に立ったようなのでご褒美を貰おうかと」
ニコッと笑い俺の顔を見る。
「い、いや、でもこれは恥ずかしいというかなんというか……」
「貴明さん、前に珊瑚様がおっしゃってました。受けた恩はちゃんとかえさなあかん!って」
組んでないほうの人差し指をピンと上げてそう言う。
「だからこれは恩返しということで許していただけませんか?」
俺の目を覗きこむようにしてこちらを見てくる。んー、まあ我慢するか。助かったのは事実だし。
「わかったよ。でも、あんまり人の多いところでは勘弁してね」
「はい、心得ています」
こうして俺とイルファさんは商店街へと向かっていったのだった。
翌朝……
「あれ、タマお姉ちゃん。ユウくんは?」
いつもタマ姉と一緒にいる雄二がいない事に疑問を覚えるこのみ。
「このみ、私に弟なんていないわ」
そんなこのみに対して顔を背けながらタマ姉がこたえる。
「へ?」
意味がわからないため、首を傾げるこのみ。そうか、雄二やっぱり……。
「そんな事より早くいきましょ。遅刻するわよ」
俺達は雄二を欠いたまま、学校へと向かった。
結局その日、雄二は学校に来ませんでしたとさ。合掌。
おわり
あとがき
……うわー、やべー超駄文だ。かなり時間をかけたのに。情け無い(泣き
やっぱりタマ姉をメインで使うのはキツイみたいです。ペンが進みません。サブだと結構いけるのに、この違いはなんででしょう?うーん、謎だ。
今回イルファもイマイチだったし、もっと腹黒く書きたかった。次出す時は頑張りたいです。
と、まぁ反省はこの辺で。なんとこの作品で私の書いたToHeart2の小説が二十本に達成しましたー。400字詰め原稿用紙200枚以上。頑張った頑張った。ドンドンパフパフ。
やー、早かったような長かったような中途半端な気分ですね。前半はネタもあり、ガンガン書けたのに対し、後半はネタ切れをよく起こし、手が止まったのが原因でしょうか。
でも、私がここまで書けたのも読者の方がいて下さるお陰です。ありがとうございます。って、二万ヒット達成の時もこんな事書いた気がしますね。まぁ、気にしないでください。本当に感謝してるので。
だけど一週間3本とか言っておいて結局2本しか書けませんでした。反省。ネタが無いんですよ、ネタが。誰と誰を組み合わせたらいいかいつも悩みっぱなしです。なので誰と誰を組ませて欲しいというリクエストをお待ちしています。切実に。そこからネタが生まれるもので。
と、リクエストを募集したところで今回はこの辺で。それでは、また次回でお会いできたら嬉しいです。ではー
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