この話は「由真ちゃんと雄二君と」を読んでから読む事をお勧めします。

 

色々と

 

 

「よう、貴明」

授業が終わり俺に声を掛けてきたのは、最近とある事情からプログラムの勉強を始めた向坂雄二だ。

「ん?どうした、雄二」

「ちょっとゲーセンへのお誘いを、と思ってな」

ゲーセンか。以前こいつと対戦をする約束をしていたがちょっとした事があって結局行ってないんだよな。

「前回行けなかったからその埋め合わせってことで、どうだ?」

こちらとしては断る理由は無い。が、

「雄二、お前プログラムの勉強はいいのか?」

俺の問いかけに雄二はキョトンするが、すぐに苦笑し片手をぷらぷら振る。

「ああ、いいんだよ。偶には生き抜きも必要だろ?」

「いいのか?」

「いいんだよ、一気に頭ん中入れようとしても駄目だろ?地道にコツコツやるのが正解だ」

おお、雄二が随分まともな事を言っている。今回はどうやら本気らしいな。

「そういう事ならOKだ。ただし……」

「ただし?」

「負けた方が何か奢るって約束、忘れるなよ?」

俺の言葉に雄二がニヤリと笑う。

「上等!!」

「よし、じゃあ行くか」

そうして俺と雄二は教室を後にするのだった。

 

場所は変わり、現在商店街にあるゲームセンター。

「よし、じゃあ早速……」

目的の台も空いていたため、すぐに対戦を始めようとする俺に雄二が待ったをかけた。

「おい、貴明。あっちに新しい台が入ってるみたいだぜ」

雄二が顎でその台を指す。なるほど、確かに今まで見た事無い台だ。

うん?でもあれどっかで見た事あるぞ?

「……なぁ貴明、あれPCゲームの『あれ』だよな」

「……ああ、そうか。『あれ』か」

そういえばアーケードに移植されるって話を聞いた事があるような気がする。

「……やりますか」

「やらいでか」

新しいものの誘惑に耐え切れないのでとりあえず由真対策は今度でいいかなと思いました。

 

「さてさてどいつにするかな……」

やはりここは使い慣れたキャラがいいだろう。俺も雄二もこのゲームはPCでやり込んだからな。とりあえず、俺は学ランの男、雄二は金髪の女を選んだ。

「ラウンド1、ファイト」

それを合図に画面上のキャラが動きだす。

「ちっ……」

俺は自キャラの動きを見て思わず舌打ちをしてしまった。

こいつ、PCの時よりも格段に性能が落ちてやがる。

「ふふふ、この勝負、もらった!」

雄二の余裕の声がこちらに届く。俺のキャラのスピードダウンに気づいたのだろう。くっそー、これが持ち味だったのに。

対する雄二のキャラは見たところ特に変化は無い。いや、攻撃後の隙が減っているものもある。パワーアップしたというのか。

などという事を考えている内に、相手の下段からの連続技をくらい、体力をごっそり持っていかれる。防御力の低さは相変わらずか。ここは、守ったら負ける、攻めろ!

そう決意し、ジャンプしようとしたら、

「星の息吹よ……!!」

その掛け声とともに雄二のキャラの超必殺技が発動。攻めようと動こうとした俺のキャラにヒットした。

KO」

その攻撃に耐え切れず、第一ラウンドは俺の敗北に終わった。

 

そして現在第三ラウンド。

第二は一気に勝負を仕掛けようとした雄二の攻撃を読みきり、なんとか勝てた。が、このラウンドはあいつも慎重に攻めてくるため、お互いなかなか体力が減らない。俺から攻めようにも攻撃判定が貧弱すぎてカウンターをもらうのがオチだ。

(くっ、どうする?!)

内心焦る。時間もタイムアップ寸前だし、体力差も結構ありこのままいけば判定で負けてしまう。

(こうなったら一か八かだ!)

幸いな事にゲージがたまっているため、パワーMAXを発動させてMAX超必を出す事ができる。当たれば勝ちの上、しかもこの技ガード不能である。

だが、強力な技であるため対策も広まっている。そのため、対人戦ではまず当たらない。しかし、ここで使わなければ確実に逃げ切られてしまう。

(よし、いくぞ!!)

MAX発動。この発動も時間が経つと切れてしまうためのんびりはしていられない。雄二もそれは知っているので発動を確認した後は逃げに徹し、時間稼ぎを狙う。

しかしそこが俺の狙いだ。

逃げるなら必ずジャンプをする。しかしジャンプしてから着地するまでの間は回避行動がとれない。つまり相手が飛んだ瞬間に発動すれば決められる。ただし、普通のジャンプでは駄目だ。滞空時間の長い大ジャンプと呼ばれるものでなければ着地までの時間が短くなり、回避が間に合ってしまう。タイミングと、なにより運が重要な分の悪い賭けだ。

そして俺はタイミングを計り……

(……今だ!)

「弔毘八仙……」

画面が暗転しスローがかかる。賭けは……俺の勝ちだ。あいつは大ジャンプをしている。これならば抜けきれない……!!

「無情に服す……!」

そして俺の技が決まり……

KO」

勝利も決まるのだった。

 

またまた場所は変わり、今はゲームセンターを少し出たあたり。

「くっそー!まさかあそこであの技を使ってくるとわな」

悔しそうに拳を握りしめる雄二。

「まぁ、分の悪い賭けは嫌いじゃないからな。それより雄二、約束忘れてないよな?」

あの後雄二には辛勝したものの、次の乱入者にあっさりと負けてしまった。でも雄二には勝ったので約束通り何か奢ってもらうために外に出たのだった。

「わかってるって。どこかにいい店は……」

きょろきょろと辺りを見渡す雄二。俺は別にヤックでも良かったんだけど、あいつが「偶には違うのにしようぜ」と言う為、何にしようか現在検討中である。

「おっ……!」

「どうした雄二?どの店にするか決まったのか?」

「ちげーって。それよりちょっとついて来いや」

そう言うと雄二はどこかに向かって走り出してしまった。

「なんなんだいったい?」

とりあえず奢ってもらうまでは雄二と離れるわけにはいかないので俺は奴の後を追った。

 

雄二の後を追っていくと前方に髪をシニヨンにした小柄な二人と耳にカバーをはめている女の人がいた。

ああ、あの3人組みが見えたから走り出したのか。

「おーい!珊瑚ちゃん、瑠璃ちゃーん!」

雄二が彼女たちに向かって声をかける。そして振り向く彼女達。

「あれ、雄二やんかー」

相変わらずぽややーんとした声を上げる珊瑚ちゃん

「あ、たかあきもおるー」

そう言ってポフっと俺に抱きついてくる。

「えへへ〜」

俺の腰にしがみついたまま顔だけ上にあげ、にぱ〜っと笑う。

「え、えーっと……」

とりあえずどうしようかと俺が困っていると……

「こらー!貴明ー!さんちゃんにえっちぃことすなー!」

「そうだ、貴明!お前だけなんてうらやましい……いやいや破廉恥な事をやっていいと思ってるのか!」

俺に向かって怒鳴りちらす二人。おいおい、ここは商店街なんだぞ?

「る、瑠璃さま、みなさんが注目なさっているのですが?」

何事かと俺達を見るまわりの人々。しかし珊瑚ちゃんは全く気にした様子もなく、俺にスリスリとくっついている。

「と、とりあえず戦略的撤退ということで!」

視線に耐え切れなくなった俺は珊瑚ちゃんを引き離しその手を掴んで走り出した。

「貴明―!さんちゃんをどこに連れて行くんやー!」

「愛の逃避行なんか俺が許さねー!」

「と、とりあえず後を追った方がよろしいですよね?」

俺達の後を3人が追ってくる。そして俺達は逃げるように商店街を後にした。

 

「こ、ここまでくれば……」

商店街を抜けたあたりで一息つく俺。周りに人はちらほらいるが、さっきよりかはましだ。

「なぁ、たかあき?なんで走ったん?」

不思議そうに尋ねてくる珊瑚ちゃん。この娘は本当にわかってないんだろうか?

「さんちゃんをこんな人気の少ない場所に連れてきてどないするつもりやー!」

「そうだぞ貴明!姉貴に言い付けちまうぞ!」

「ま、まぁまぁお二人とも落ち着いて下さい」

まだ興奮冷めやらぬという状態の二人を宥めるイルファさん。そんな二人を俺に抱きついたままじっとみつめる珊瑚ちゃん。

「瑠璃ちゃん、なんで怒っとるん?」

俺から離れ、瑠璃ちゃんに近づく。

「なんでって、そんなの決まっとるやん!貴明がさんちゃんにえっちぃ事しようとするから……」

「でも瑠璃ちゃん、本当はたかあきがそんな事せえへんって知っとるやん」

「え、う、でも……」

返答に困ってる瑠璃ちゃんに珊瑚ちゃんはニッコリと笑いかける。

「本当はうちがたかあきに抱きついとるのを見て羨ましかったんやろ?瑠璃ちゃんは恥ずかしがり屋さんやからなー」

そう言うと瑠璃ちゃんの手を取りトコトコとこちらにやってくる。ちょうど俺の真正面に来たとき、

「ちょっとお姉ちゃんが背中押したる」

瑠璃ちゃんの手を放し、文字道理背中を押す珊瑚ちゃん。

「わ!ちょっと!さんちゃん!」

急に背中を押され、前につんのめる。当然前には俺がいるわけで……。

ポフ

「あ……」

こちらに倒れこんできた瑠璃ちゃんを反射的に抱きとめてしまった。そして彼女も倒れないようにと俺の腰に手をまわす。

「た、貴明……」

少しだけ顔を上げ、上目遣いにこちらを見つめる。恥ずかしいのか顔は真っ赤だ。

「あ、ご、ごめん。抱きとめたりしちゃって……」

俺はパッと手を放す。すると瑠璃ちゃんも俺の体をゆっくり前に押し、俺から離れて行った。

「べ、別にうちを支えてくれただけなんやろ?……それならいいんや」

「あ、うん……」

瑠璃ちゃんは顔をりんごのようにして下を向いてしまった。

「瑠璃ちゃんとたかあき、らぶらぶやー」

両手を天に向かってあげ嬉しそうに言う珊瑚ちゃん。

「本当、妬けてしまいますわ」

頬に手をあてフーッと息を吐くイルファさん。

「まったくだぜ……ってうん?」

雄二が隣のイルファさんに気づいた。

「あれ、君はいったい……?」

疑問の視線を投げかける雄二。その視線にイルファさんも気がついた。実はこの二人って初対面なんだよな。

「あら、すいません自己紹介がまだでしたね」

雄二の方に体を向けお辞儀する。

「初めまして。珊瑚様、瑠璃様のメイドロボ、HMX-17aイルファと申します。よろしくお願いしますね」

そう言うと雄二に向かって二コリと笑った。

「メイドロボ……?」

「はい、メイドロボです」

雄二はイルファさんを上から下までみる。イルファさんもミルファと同じで限りなく人間に近いからな。

「あの……なにか?」

「い、いやなんでもない。俺、向坂雄二。あそこにいる貴明や、珊瑚ちゃん、瑠璃ちゃんとは友達なんだ。よろしく」

そう言うとイルファさんに向かって手を差し出す。握手を求めているようだ。

「はい!」

笑顔でイルファさんは雄二の手を握り返した。そして手を放す二人。

「ね、ところでイルファさん。料理って得意?」

「え、ええ。瑠璃様にはおよびませんが、メイドロボなので一応」

突然の雄二の質問に戸惑いながらも答えるイルファさん。

「じゃあさ、今度うちで料理作ってもらえないかな?俺ってさメイドロボに料理つくってもらうのが夢なんだよ。な、お願い」

手を拝むように合わせ、頼み込む。そういえば前もこいつそんな事言ってたな。

「ま、まぁ、私でよろしければ……」

「本当!?」

雄二の迫力に圧されながらもコクンと頷く。

「〜〜〜!!貴明!」

雄二が感極まった声で俺に話しかける。

「ほら、やっぱりメイドロボは優しいんだ!俺の理想は間違っちゃいなかった!」

そう言うと一人でうんうん頷く。

「前回の乱暴なメイドロボに会ったおかげでちょっと揺らいじゃったけど、やっぱりイルファさんみたいのが正しいメイドロボなんだよな。うん、もう大丈夫、俺は答えをみつけられた」

親指を上に向けてサムズアップ。凄くいい笑顔だ。なんか歯もキラリンと光ったような気がする。

「乱暴なメイドロボですか……?」

雄二の言葉が気になったのかイルファさんが尋ねる。

「そう、ちょっと貴明とじゃれてただけなのにさ、俺の頭掴んで『潰しますよ』とか言うんだぜ?メイドロボが。信じられねぇ。全く、スタイルも顔もいいくせしてえらく無表情な奴でさ、非常というかなんというか……」

やれやれと首を振る。しかしイルファさんは何も言わず口に手を当て考えこんでいる。

「あれ、どうしたの?」

そんな雄二の問いかけを無視し、こちらを向く。

「貴明さん、もしかしてその乱暴者のメイドロボって……」

やっぱり気がついたか。

「たぶん、思っている通りであってるよ」

「ああ、やっぱり……」

あちゃーという感じで顔を手で覆う。

「おい、貴明。どういうことなんだ?」

イルファさんの態度を怪訝に思った雄二が俺に聞いてくる。別に隠す事でもないからな。

「イルファさんはあいつの姉に当たるんだ」

俺の言葉に雄二がポカーンと口を開ける。

「……マジで?」

「大マジだ。ちなみにイルファさんとミルファの生みの親はそこにいる珊瑚ちゃん」

バっと珊瑚ちゃんの方を向く雄二。

「そうや〜、うちがいっちゃんとみっちゃんのママなんや〜」

るーっと手を上げニコニコしている珊瑚ちゃん。

「……え?ギャグ?」

信じられなというように再びこちらを向く

「ギャグじゃねーって」

「さんちゃんはめっちゃ頭がいいんや」

元に戻った瑠璃ちゃんがそうフォローする。

「向坂様すいません。妹のミルファが……」

雄二に向かって申し訳なさそうに頭を下げるイルファさん。

「は、はは。いいよ、イルファさんの所為じゃないし」

そう言いつつも徐々に後ろに後退して行く雄二。やっぱりミルファの事はトラウマのようになっているんだな。姉のイルファさんにもこんな反応をとるなんて。

「それよりも珊瑚ちゃん!」

急に珊瑚ちゃんに近づきその手を握る雄二。

「なんや?」

「俺にプログラムを教えてくれ!!」

真剣な表情で見つめる。

「ぷろぐらむ?」

「ああ、そうだ。俺も自分でメイドロボを生み出したいんだ!」

こいつ、珊瑚ちゃんに先生になってもらうつもりか?

「雄二も友達が欲しいん?」

「ああ、欲しい。絶対欲しい。俺好みのが欲しい」

うーんと少し考えるが珊瑚ちゃんはすぐニパっと笑った。

「うん、ええよ。教えたる」

「ええー!!」

そのこたえに俺は驚きの声を上げてしまった。というかさっきの雄二の言葉聞いてただろ!あいつ、友達が欲しいわけじゃないんだぜ?

「なんや〜貴明。うちが教えたらあかんの?」

「い、いやそう言うわけじゃ……」

「大丈夫や、貴明」

返答に困っている俺に瑠璃ちゃんが耳打ちする。

「たぶん雄二じゃさんちゃんの説明わからへん」

ああ、珊瑚ちゃんって天才肌の人間だからな。確かにそういう人って他人にものを教えるのって苦手な人が多い。

「どうしたん?貴明も瑠璃ちゃんも?」

「な、何でもないよ。それよりしっかり雄二に教えてやってくれ」

「うん!」

頷くと雄二の方を向く。

「雄二、これからはうちの事先生って呼ぶんやでー?」

「はい、先生!」

「いやー、なんか照れるわー」

だったらやらせなきゃいいのに。

「よし、貴明!俺の弟子入り記念に何か食べに行こうぜ!もちろん俺の奢りだ!」

弟子入りできたのがよっぽど嬉しいのか、奴にしては随分太っ腹な事を言う。

「どうする?」

俺は近くにいる珊瑚ちゃんに尋ねる。

「いいんとちゃう?折角奢ってくれる言うとるし」

姫百合家の台所担当がそういうならいいだろう。

「わーい、雄二の奢りやー」

「すいません、向坂

「いいって、いいって。じゃあ、行くぜ!」

こうして俺達はもときた道を引き返すのだった。

 

後日……。

珊瑚ちゃんに弟子入りした雄二は週に何回かコンピューター室に向かい、珊瑚ちゃんに教えを請うている、しかし成果の方は……。

「ここの所はな、こうやってズバーンといってドカーンとやるんや」

「……先生よくわからないんですが」

「だめやなー、雄二は。もう三回めやでー」

「はぁ、スイマセンッス」

「でもそんな弟子に教えるのも先生の務めやな。よし、いくで。今度はしっかり覚えてや」

さんちゃん、その説明じゃ誰もわからんとうち思うんやけど

とまぁこんな感じらしい。

とりあえず、プログラムよりも珊瑚ちゃんの説明を理解できるようになることから始めるべきだと思うぞ?雄二よ。

まだまだ先は長そうだなと考える俺なのでした。

 

おわり

 

あとがき

はい、「色々と」をお送りしました。いかがでしたでしょうか?

今回は題名の通り色々と入ってます。ゲーセンに行ったり、瑠璃が照れたり、雄二が弟子入りしたりと様々。お得なお話しでしたね(おい)纏まりが無いともいいますが、気にしないでくれたら嬉しいです。

というか珊瑚たちが出てくるの遅すぎ。ゲーセンの話を長くしすぎてしまいました。この二人が何をやっているのかはわかる人には解るはず。解らない人は……まぁ、こういうゲームもあるんだなと思って下さい。ここは書いててとても楽しかった。

それから雄二に変な属性がついてきましたね。ミルファを怖がったり、プログラムの勉強をしだしたり。でも基本的に雄二の扱いは変わりません。つまりオチ担当。こういうキャラは貴重ですからね、大事にしないと。

と、いうことで今回はこの辺で。最近更新頻度が落ちてきてすいません。一応私も学生なので課題とかで結構忙しいときがあるんですよ。週3回できたらいいなと思ってます。それではまた次回でお会いしましょう。では。

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送