夜空が架ける橋

 

 

「貴明さーん!」

下駄箱で靴を履き替えている俺に声がかかる。声のした方を向くと優季さんがこちらに向かって小走りに近づいてくるのが見えた。

「今、お帰りですか」

俺の目の前で立ち止まり、そう尋ねる。

「うん、特に用事も無いからね。そういう優季さんも?」

「ええ、今日は文芸部がお休みなので」

優季さんは転入早々文芸部に入っている。その繋がりで愛佳や郁乃とも仲が良い。

「あの、貴明さん。宜しければ一緒に帰りませんか?」

遠慮がちに言う彼女。俺に断る理由なんかあるはずが無いのに。そんな優季さんを見ていると少しいたずら心が出てきてしまった。

「私でよければお供しますよ、お姫様」

胸の前に右手を持っていき、恭しく一礼する。対優季さん向けのアレンジだ。

「……」

少し戸惑っている優季さん。俺はそんな彼女に向けて笑いかけた。

「御不満ですかな?」

俺の問いにニコッと笑う。

「いいえ、そんなことありません。それではよろしくお願いしますね」

うむ、どうやらうけたようだ。満足、満足。

「じゃあ、行こうか」

「はい」

こうして俺たちは並んで校舎から出て行った。

 

現在正門を少しでた辺り。

「……というわけでみなさんとっても仲良くしてくれていますよ」

「そう、それは良かったね」

俺たちは並んで帰り道を歩いている。話す話題は優季さんの部活について。二年からという少し遅めの入部だが、上手く馴染めている様子。少し心配していたのだがどうやら杞憂に終わったらしい。

「はい、愛佳さんのお陰です」

「愛佳の?」

「ええ、愛佳さんは私が入部して最初に声を掛けてくださったんですよ。その後も他の皆さんとの仲も取り持って下さいましたし、お世話になりっ放しです」

「へぇ〜、さすが愛佳だね」

普段はあんなにぽけぽけしてるくせに人を気遣うのはとても上手い。だからあんなにも人から頼りにされているんだろう。

「趣味も合いますし、今ではとても良いお友達です」

「妹の郁乃にも懐かれてるしね。ホント、あの毒舌家が愛佳以外に懐くなんて珍しいよな。俺になんて皮肉ばっかり言ってくるし」

どうも優季さんと愛佳は似ている部分が多いらしくお姉ちゃん大好きっ子の郁乃はよく懐いている。

「駄目ですよ、貴明さん。そんな事言っちゃ。郁乃ちゃんはちょっと意地っ張りな所もありますけど本当はとっても優しい女の子なんですよ」

人差し指をピンと立てて、「めっ」と注意してくる優季さん。その仕草がちょっと可愛いと思ったのは内緒だ。

「意地っ張り……ねぇ」

あれは意地っ張りと言えるレベルなのだろうか?俺なんか最初にあった時ゴミとして捨ててやろうかと思ったぐらいだからな。

「そうですよ。お姉ちゃんを取られたくないあまりちょっと他の人には素直になれないだけなんですよ。可愛いと思いませんか?」

「まぁ、ね。あいつがお姉ちゃんっ子だと解った時にそう思わなくも無かったけど……」

バレた時の郁乃の慌てっぷりは可愛かったと思わなくもなかった。

「いいですよね、妹。私、一人っ子なのでちょっと羨ましいです」

「ふーん、そういうもんかね」

俺も一人っ子だが兄弟が欲しいとは別に思わなかった。それはこのみやタマ姉がいつも一緒にいたからだろう。特にこのみとはずーっと一緒にいるからな。俺にとってはこのみが妹のようなもんだ。

「はい、そういうもんです。あ、そういえば貴明さんは……」

「おーい!タカくーん!」

優季さんのセリフを遮って後ろから声が聞こえてきた。誰なのかは考えるまでもない。

「おう、このみ」

振り向くとちょうどこのみが俺たちの目の前で止まる時だった。うむ、予想通り。

「えへー、タカくんが見えたから走ってきちゃったよ」

ふにゃーっと笑うこのみ。走ってきたというのに息が全く切れてないというのは今更驚くべき事ではない。

「あれ、タカくんそっちの人は……」

優季さんをじーっと見た後こちらに質問してくる。

「ああ、彼女は草壁優季さんといってな、小学校の頃の同級生なんだ。転校しちゃったけどまたこっちに戻ってきたんだよ。とりあえず挨拶でもしとけ」

「あ、うん!」

優季さんの方に体を向け、ペコリと一礼する。

「えっと、柚原このみっていいます。いつもタカくんがお世話になってます」

「おい、ちょっと待て」

何気に聞き捨てならない発言をするこのみに待ったをかける。

「え、なぁに?タカくん」

「『お世話になってます』ってどういう意味よ?」

それはこのみが言う言葉じゃないだろうが。

「タカくん、お世話になってないの?」

何言ってるのって感じに首を傾げる。

「いや、なってるけどさ……」

お世話どころか優季さんは命の恩人だ。

「じゃあ、このみ間違ってないよ」

「というかお世話になってますなんてお世話してる人が言うんだよ。俺はお前の世話になった覚えはないぞ」

春夏さんには世話になってるがな。

「ええー!このみタカくんのお世話してるよー!」

さも心外というように不満の声を上げるこのみ。

「ほほう、例えば?」

「え!えーっと……。あ!」

「必殺カレーを作ってあげたっていうのは無しだぞ?それだったら俺もお前のこと迎えに行ってやってるからチャラな。それに俺はその他にも色々お前の世話してやってるだろ」

たかがカレー如きで今まで俺が世話した分と釣り合うと思ってもらっては困る。

「うー!タカくん、おーぼーだよー!」

「……一応聞いてやるけど、どの辺がおーぼーなんだ?」

「必殺カレーはね、必殺なんだよ?他のカレーとはわけが違うんだよ?それを作ってあげたんだからこれは凄いポイントだよ。タカくんのお世話ポイントなんて軽く超えちゃってるんだから!」

えっへん!と胸を張り威張る。

「だからね、それを無しにするって言うからおーぼーだってこのみは言ったの。タカくん、わかった?」

「……」

俺は答えず無言でこのみに近づき、その口をむにーっと引っ張った。

「ふぁ、ふぁふぁくん?」

「そんなとんでも理論を言うのはこの口か?ええ?この口なのかー!」

そう言って俺はさらにむにーっと引っ張る。

「い、いふぁいよ!ふぁふぁくん!」

「ああん?何言ってるのか解らないぞ、このみ?言いたい事はハッキリ言いたまえ」

「ふぉ、ふぉれはふぁふぁくんがひっふぁふぇるからふぁよー!」

手をばたばた振って抗議(?)の声を上げる。

「はっはっは。実に愉快だなー」

「ふぇんふぇんふぅふぁいじゃふぁいよー!」

楽しいなー。

「ふふふ」

俺がこのみをからかっていると、優季さんの楽しそうな笑い声が聞こえてきた。

「?どうしたの、優季さん?」

思わず手を止めて、優季さんの方を向いてしまう俺。このみも口を引っ張られながらも不思議そうに見ている。

「ごめんなさい。貴明さんたちがあまりにも楽しそうにじゃれ合ってるものだからつい」

と言いながらも口に手を当てまだクスクス笑っている。

「なあ、このみ。俺たち楽しそうに見えるのかな?」

そう言いつつむにーっとこのみのほっぺを引っ張る。

「ふぉふぉみふぁふぁのしくふぁいよー!」

「このみ、はっきり喋ってくれないと何言ってるのかわかんないぞ?」

俺もさすがにそのバルタンもどきの喋りは理解できない。

「……あの貴明さんとりあえず手を放してあげたらいかがでしょう?」

「おおっと!」

俺は慌ててこのみの口から手を放す。すっかり忘れてたぜ。

「もう、タカくん、口が痛くなっちゃったよ!」

ほっぺをさすりながらブーブー文句を言うこのみ。

「そうですね。今のは少し貴明さんがやりすぎかな?」

怒ってはいないもののちょっとたしなめる感じにこっちを見る優季さん。

「ゆ、優季さんまで……」

これによって俺の立場は一気に不利になった。

「それに、私きちんと柚原さんにご挨拶していないのですから」

このみの方を向く優季さん。

「お話しするのはこれが初めてですね。草壁優季です。さっき聞いた通り、貴明さんとは小学校の時の同級生なんですよ。よろしくお願いしますね」

そう言うと、にっこり笑った。ん、今『お話しするのは』って言ったよな。

「もしかして優季さん、このみの事知ってるの?」

「ええ、昔よく貴明さんと一緒にいた女の子ですよね。覚えてますよ」

ああ、そういえば俺と同級生といえばこのみとも同じ学校なんだよな。だったらいつも俺と一緒にいたこいつの事を知っていても不思議はないか。

「それにしても……」

このみの顔をじーっと見つめる。

「え、え、何ですか?」

いきなり見つめられてちょっと戸惑いぎみのこのみ。

「いえ、あの小さかった子がこんなに可愛らしい女の子になっていただなんて、ちょっとビックリしてしまいまして」

「えー、そうですかー?」

褒められて照れてるのかえへへーっと頭をかく。

「おーい、このみ。お世辞だぞ、お世辞。真に受けるなよー」

「う、わ、わかってるよー」

嘘だ絶対本気にしていた。

「貴明さん!」

ちょっと怒ったような声を出す優季さん。

「私お世辞なんか言ってませんよ。だって本当に可愛いんですもの。ね?」

そう言ってこのみの顔を覗きこむ。このみは見つめられて下を向いてしまった。

「……」

そろそろ〜っと顔を上げると目の前の優季さんと目が合ってしまい慌てて下を向く。

「……(にこっ)」

そんなこのみを見て優季さんは微笑する。それを見たこのみがまた下を向く。ってこれじゃあ先に進まない。

「おーい、いつまでお見合いやってるんだー?とりあえず行くぞー」

「あ、はーい」

まず優季さんが反応して俺の後について来る。

「ま、待ってよタカくーん!」

下を向いていたこのみも慌てて俺達の後を追ってきた。

これでなし崩し的にこのみも一緒に帰る事となった。

 

3人で帰っていると言っても、もっぱら喋っているのは優季さんとこのみだ。二人とも占い好きっていう共通点があったからである。もう話が弾む弾む。俺の入り込む隙なんて皆無である。そして話込んでいるうちに『柚原さん』が『このみちゃん』へ。『草壁先輩』から『優季さん』へと変化していった。何時の間にか二人は『友人』と呼べる関係になっていたのだ。

 

「あ!」

優季さんの話を聞いていたこのみが急に大きな声を上げた。

「ん?どうしたこのみ?」

「このみ、今日お母さんにお遣い頼まれてたんだ!ごめんね、先行くよ!」

そう言うとこのみは走り出す。が、すぐ立ち止まり優季さんの方を向く。

「優季さん、またこのみとお話してくれる?」

このみの問いに優季さんは笑顔で応える。

「ええ、もちろん。今度は紅茶とクッキーを用意しますからゆっくりとお話しましょうね」

「ほんと!やた〜!」

よほど嬉しかったのだろう、このみ万歳をした。

「約束だよ、優季さん。ばいばーい!」

そして今度こそ走り去っていった。

「……騒がしい奴」

このみの後姿を見送りながら俺は言った。しかも俺には何も言わずに行きやがったし。ま、別にいいけどな。

「元気があっていいじゃないですか」

それをフォローするかの様に優季さんがこたえる。

「あいつは元気あり過ぎなんだよ」

「あら、それも長所の一つですよ?」

こういう会話をしていると実際は同じ年なんだがどうも優季さんがお姉さんっぽくみえてしまう。優しい感じの母性的なお姉さんだ。ちなみにタマ姉は姉御。ピッタリすぎて笑えやしない。

「優季さんが言うならそうなのかもな。ま、とりあえず進もうぜ」

「はい」

そして俺達は歩みを再開した。

 

しばらくお互い何も話さず歩いていたが、決して気まずい雰囲気にはならなかった。優季さんと歩いているとなぜか落ち着いてリラックスできたからだ。

「ねぇ、貴明さん」

沈黙を破ったのは優季さんからだった。

「うん?どうしたの?」

「少し、私の話を聞いてくれますか?」

「ああ、いいけど」

そう言うと優季さんは少し間を空けた後喋りだした。

 

「私、引っ越した先では今みたくすぐ友達ってできなかったんですよ」

少し沈んだ声で言う。

「……そう」

でもそれは仕方の無い事だろう。そういうのは運も関わってくるのだから。友達関係というのは決して一方通行では成り立たない。

「でもね、さびしいなとは思ったんですけど、不安には思いませんでした。……不安な時は貴明さんの事を思い出してましたから。」

「え?俺の事?」

「ええ、貴明さんの事を。夜空を見上げながら」

優季さんは上を向いた。

「夜空を見上げて星を見ながら思うんです。私は一人じゃない。この空の下には貴明さんもいるんだって。だから貴明さんに笑われないよう頑張らなくっちゃって思いました。そう思っていたら、何時の間にか友達もできて引っ込みじあんだった性格も良くなっていったんですよ」

そう言うと優季さんは空を見上げるのをやめ、俺の顔をみつめた。

「だから貴明さん、あのとき私に声を掛けてくれて有難うございました。おかげで私は成長することができました。貴明さんのお陰です」

頭を下げる優季さん。

「そんな、俺は別にただ声を掛けただけで……」

「貴明さん」

俺の言葉を優季さんの言葉が遮る。

「自分ではたいした事ないと思っている行動が、人に大きな影響を与える事もあるんですよ?私は本当に貴明さんに感謝しています。だから、私の感謝の気持ちを受け取ってくれませんか?」

「……うん、そうだね」

俺は彼女の顔を真っ直ぐ見る。

「どういたしまして優季さん。あなたの感謝の気持ち、確かに伝わりました。お役に立てて光栄です」

そう言って俺は優季さんに笑いかける。

「はい、受け取ってもらえて嬉しいです」

優季さんも笑った。

俺達は二人して笑っていた。

 

しばらくお互いクスクス笑っていたが優季さんが何かを思い出したかのようにポンッと手を叩いた。

「あ、そうだ貴明さん。また屋上で星をみませんか?」

「屋上で星を?」

「ええ、今度は二人だけじゃなく、愛佳さんや郁乃さんやこのみちゃんも誘って。他に誘いたい方がいらっしゃればその方も大歓迎です」

「みんなで見るって事?」

「ええ、その時は紅茶やクッキーも用意して、お喋りしながら星を見上げるんです。きっと楽しいですよ?」

うん、それは楽しそうだ。

「いいね、いい案だよ、優季さん。俺は賛成だ」

「本当ですか?」

「ああ、本当さ。きっと他の奴らも賛成だろうよ」

「よかった」

優季さんは俺の少し前まで歩き、くるりとこちらに振り向いた。

「絶対に絶対ですよ?」

「もちろん、絶対に絶対さ」

そう言うと優季さんはニッコリと笑った。夕陽に照らされたその笑顔はとても綺麗だと俺は感じるのであった。

 

          おしまい

 

 

あとがき

はい、夜空が架ける橋をお送りしました。いやー、なんか大げさな題名ですね。明らかに内容が負けてます。

まぁ、そこら辺は置いといて(おい)今回の主役は優季さんです。前も書きましたが主役って感じじゃなかったんで改めて書いてみました。サブがこのみ。ちょっと最後が尻切れトンボになっちゃいましたね。反省。だけどこれ以上ネタが出ませんでした。すいません。

それから何気に優季さんが一人っ子だったかの自信がありません。誰か知っていたら情報お願いします。

あとカウンターみたらビックリ。もうすぐ二万ヒットです。いやー早いもんですね。キリバン踏んだひと提示板に足跡残してくれたら嬉しいです。何かしようかな?でもリクエストを受け付けるぐらいしか出来ませんけど。

なにはともあれ今回はこの辺で。お楽しみいただけたでしょうか?また次の作品でお会いしましょう。では。

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