タカ坊の抱き心地
ここ二、三日俺は愛佳からの視線を感じることが多くなった。本人はバレていないつもりでいるが、もうバレバレのバレまくりだ。ほら、授業中だが今も――――
「……(ちらっ)」
「!!」
俺が愛佳の方を向くとあいつはすぐに教科書で顔を隠す。そしてこちらが前を向くとそろそろと顔を上げてまたこちらを見てくる。
最初は俺の顔に何か付いているのかと思ったが特に何も付いていない。愛佳に見られる事をやった覚えも無い。原因不明。さて、どうしよう。
放課後。
「……っというわけでどうしたら良いと思う?雄二」
自分では判断し難い状況なので俺は雄二に相談してみることにした。
「け!んな事知るかよ!」
凄く不機嫌そうに答える雄二。どうしたんだろう?きっとあれかな、カルシウム不足。だったらここは親友として心配してやらねば。
「―――雄二、カルシウムの貯蔵は十分か?」
「はぁ?何言ってんだお前?」
「イライラにはカルシウムが良いっていうだろ?」
「人の惚気話しなんて聞かされたらもてない男は誰でもイライラするんだよ!」
「惚気話?」
そんな話をした覚えは無いんだけど?
「委員ちょがお前に熱視線送ってるって言いたいんだろ?へっ!もてる男は羨ましいねぇ。少しはこっちへまわせってんだ」
「愛佳が熱視線?何言ってんだお前?」
遂に頭がおかしくなったか?まぁあれだけタマ姉にアイアンクローを喰らってればな。仕方ない。
「だって、委員ちょがお前の事見つめてくるんだろ?」
「違うぞ?俺は『見てくる』って言ったんだ。」
聞きたいことがあるけど聞き難いとかそう言う感じだな。
「……ふーん。甘い展開じゃないって事か」
雄二は少し考える素振りをしたが、俺の意図を読み取ってくれた。
「当たり前だろ。で、どうしたら良いと思う?」
「そんなの直接聞いたらいいじゃねーか」
それは俺も考えたが聞き方がわからない。
「なんて聞くんだよ?」
「最近俺の方みてるよね、どうしたの。ぐらいで良いんじゃねーの?」
それなら自然な感じだな。よし、それでいこう。
「なるほど。参考になったよ。有難う」
「つーかそれぐらい少し考えればわかるだろ?」
「そんな呆れた顔するなよ。人間、得て不得手があるだろ?」
俺は女の子が苦手なんだ。
「じゃあ早速聞いてくるよ。」
「ああ、そうして来い」
そうして俺は愛佳を探しに行った
「ホント、なんであんな奴がもてるのかね。世の中おかしいぜ」
雄二がなにか言ったようだったが俺にはよく聞き取れなかった。
「お、いたいた」
幸い適当に廊下を探しまわっていたら愛佳を発見することができた。
「おーい、愛佳。聞きたい事があるんだけど?」
「……。」
「愛佳?」
返事が来なかったので近づいてみるとなにやら下を向いてブツブツ言っている。
「…たかあきくんって……って言ってたけど……でもそんなこと」
「愛佳、愛佳聞いてる?」
肩をポンポンと軽く叩く。
「うひゃあ!」
ビクッとして奇声を上げる委員ちょ。なにもそんなに驚かなくても。
「どうした?大丈夫?」
「あ、た、たかあきくん……」
「なにかあったの?」
「や、や、なにもないよ〜。」
ふにゃ〜っと笑いながら手を振ってみせる。
「それより、たかあきくんこそまだ帰ってなかったの?」
「ああ、ちょっと愛佳に聞きたいことがあって」
「あ、あたしに?な、何かな?」
ええーっと確か雄二は……
「『最近俺の方みてるよね、どうしたの。』」
「え、え、な、何のこと?」
白々しく首をソッポに向けて惚ける愛佳。
「惚けないでよ。今日も授業中俺の方見てたでしょ。目も合ったし。俺になにかあるの?それともなにかした?」
「……もしかして気づいてた?」
「当然」
あれで気づくなって方がどうにかしている。それぐらい愛佳の行動はバレバレだった。
少し躊躇ったあと愛佳が口を開いた。
「じ、実はたかあきくんに聞きたい事があったり無かったりしちゃったりするんだけど、聞き辛いというか、聞いてもいいものか、判断に困ってしまいまして、でもあたしは決してそのなんていうか……」
愛佳が放っておけば永遠と止まりそうのない勢いで喋る。慌ててるのかほのかに顔も赤い。
「ちょ、ちょっと愛佳落ち着いて!」
「は、はい!!」
「深呼吸」
「すーはー、すーはー」
大きく息を吸って吐くという行動を繰り返す。
「どう、落ち着いた?」
「う、うん……」
「で、要約すると何?」
「……たかあきくんに聞きたい事があるんだけど」
「……それだけ?」
「うん、それだけ」
「……まぁいいか。で、何?」
「本当に聞いていい?」
不安げに首を傾げながら聞いてくる。おいおい、何を聞くつもりなんだよ。
「とりあえず言ってみて」
「……怒らない?」
嘘も方便という言葉がある。
「(たぶん)怒らない」
「……。」
少し黙った後、もじもじしつつも意を決したように口を開く。
「あ、あのね。たかあきくんってだ、抱き心地が良いってほ、本当?」
「はぁ?!」
いきなり何いいやがりますかこの娘は!
「ご、ごめん。意味がよく解らない」
「え、だ、だからたかあきくんの抱き心地って……」
空耳じゃ無かったか。
「……あのさ、愛佳って自分の抱き心地ってどうだか解る?」
「え?え?そ、そんなの……わからない」
「だろ?そんなのは自分じゃ解らないんだ。というかなんでそんな事思うの?」
「えっとそれは郁乃が……」
回想
「ねぇ、お姉ちゃん」
「うん?何、郁乃?」
「今日このみちゃんや珊瑚ちゃんにね、あいつのどこがいいのって聞いてみたのよ」
「フンフン。あ、郁乃。たかあきくんをあいつなんて言っちゃだめでしょ?」
「それより面白い答えが返ってきたわ」
「面白い答え?」
「そう。優しさとかもあるけど、なによりあいつの匂いや抱き心地がいいんだってさ。ぷぷ、笑っちゃうわよね。」
「!!(そ、そういえば環先輩もそんな事言ってた。そ、そんなに良いのかな?たかあきくんの抱き心地。珊瑚ちゃんやこのみちゃんがいつも抱きつきたくなるくらい……)」
「抱き心地よ、抱き心地。男に向かって言う言葉じゃないわ……ってお姉ちゃんどうしたの?ぼーっとしちゃって?」
「……たかあきくんの抱き心地」
「ちょ、ちょっとお姉ちゃん?!」
「抱き心地……」
「お、お姉ちゃんしっかり!」
回想終り
「っというようなことがありまして」
「あ、あの二人は〜(怒)」
「そ、それで気になっちゃって。で、でもこんなこと聞くのはどうかなとも思っちゃった訳でして、そのため……」
「俺の方を見てたってか」
「うん……」
愛佳は一つの事に熱中すると周りが見えなくなる節があるからな〜。
「でも、これはさっきも言ったように俺自身じゃわかんないことだから」
どうしよもないって言おうとしたら、
「あら、タカ坊の抱き心地なんて極上に決まってるじゃない」
背中にむにゅっとした感覚とともに何かの重みと声が聞こえてきた。こ、この声は……!
「た、タマ姉!」
「はーい、タカ坊」
俺の背中にしがみ付いたまま俺の顔の近くでそう答える。っていうかいつのまに!
「ん?いつのまにって顔してるわね。タカ坊あるところお姉ちゃんあり、よ」
察しが良すぎるのではございませんか?お姉さま。
「それよりも愛佳ちゃん」
俺の背中から降りて愛佳の正面に立つ。
「は、はい!」
いきなり話を振られてちょっとビックリな愛佳さん。
「タカ坊の抱き心地について聞きたがってたわね?」
「そ、そうです」
「タカ坊の抱き心地に目を付けるなんてあなた、なかなか見る目があるわね」
「ええ、そんな〜」
えへへ〜と頭をかく。嬉しいのか?そんな事で褒められて本当に嬉しいのか?
「そこに敬意を表してタカ坊抱き心地研究の第一任者たる私が直々に話してあげるわ」
「おい!抱き心地研究ってなんだ!何時の間にできたんだ?!」
「お、お願いします!」
律儀にもペコリと頭を下げる。
「よろしい。では早速……」
「俺は無視かよ!」
「タカ坊?」
タマ姉の声色が変化した。それとともに周囲の温度も少し下がったきがする。
「お姉ちゃんがこれからお話しをしてあげようっていうの。黙ってきいてなさい。聞かないと……わかるわよね?」
「は、はい!了解であります!」
逆らえば何をされるかわかったもんじゃない。
「では、改めて。まず、タカ坊の抱き心地の良さの原因と思われるのは……」
それから長ーい説明が始まった。
15分後―――
「でね、やっぱりしなやかさが……」
「へ〜」
30分後―――
「小さかった頃にも、大きくなった今にも……」
「フンフン(メモ取り中)」
45分後―――
「やっぱり抱きついた時の感触と香りが……」
「と、言うことはつまり……」
「あら、飲み込みが早いわね。そう、それでね……」
一時間後―――
「まぁ、そんな訳でタカ坊の抱き心地は極上ってわけ。本当はまだまだ語り尽くせてないけど、初心者にはこれぐらいで、ね」
初心者ってなんだよ!つーか説明長すぎ!と、突っ込みを入れたいがタマ姉に黙ってろと言われたんでそんなことは出来ない。
「はい!勉強になりました!」
いや、そんな事を勉強されても……。
「そう、良かったわ。じゃあ次は実際にやってみましょう」
何か今すごい不吉な事が聞こえた気がする。
「え、タマ姉、実際ってなにを?」
「そんなの決まってるでしょ?」
ニヤリと笑う。ぶ、不気味だ。
「実際にタカ坊に抱きついて確かめようってことよ」
「え〜!!!」
本気と書いてマジと読むんですか?お姉さま?
「い、いいんですか?」
「ええ、本当は会員にならないと駄目だけど、今日は特別サービスってことで」
「と、特別サービス……」
やばい、愛佳はこういう言葉に弱い。いや、それよりも会員ってなんだよ!他にもいるのか、研究者?
「た、たかあきくん?」
「え、あ、何?」
「よ、よろしく、お、お願いします!」
「マジですかー!!!」
超ビックリ。
「だ、だって特別サービスだし」
そこか?そこが原因なのか?
「い、いやでも……」
「ほら、タカ坊、男らしくないぞ?愛佳ちゃん、私が抑えておくからその間に」
そう言うと、俺の肩を後ろから抑えて固定。
「ちょ、タマ姉!」
動こうとするが身動ぎすらとれない。いったいどれ程の力を持ってるんだ?タマ姉って。
「ほら、早く」
「は、はい!」
ごくっと喉を鳴らした後、愛佳はこちらにゆっくりと歩いてきて、
「し、失礼しま〜す」
そう言ってぽすっと俺に身を預けてきた。そして俺の背中に遠慮がちに腕を回す。
「!」
愛佳のサラサラな髪が俺の顔を擽り、シャンプーのいい香りが漂ってくる。当の愛佳はというと、俺の胸に頬を当てて目を閉じている。顔も赤い。でも、今の俺の顔の方が真っ赤だ。見なくてもわかる。心臓もバックバックだ。
十秒、いや、二十秒ぐらいたっただろうか。
「はい、そろそろおしまい」
タマ姉の言葉に目を瞑っていた愛佳がパッと目を開け慌てて俺から離れた。
「う〜〜〜」
さっきまでの行動を思いだしてか、顔を赤くして恥かしそうにもじもじしている。
「どう、愛佳ちゃん?タカ坊の抱き心地は?」
そんな愛佳にニコニコしながらタマ姉が尋ねた。あんた絶対楽しんでるだろ?
「あ、あのなんというか、あったかくって、安心する匂いがして、そのホッとしてずっとこうしていたいって、それに……」
「それに?」
「……男の子に抱きついてるって感じがあまりしなかったというか、い、いやあたしが他の男の子に抱きついた事があるって言ってる訳じゃなくて、あの、その、うう〜何て言えばいいの〜」
両手で頭を押さえてフルフルと首を動かす。顔は真っ赤なままだ。
「いいのよ、あなたの言いたいこと、ちゃんと解ってるから」
凄く良い笑顔で肩に手を当て、愛佳を諭すタマ姉。
「……環先輩」
「でも、一つだけ聞かせて。タカ坊の抱き心地は?」
スウッと息を吸い込み、
「最高でした!」
はっきりきっぱりという愛佳さん。
「……。(ポカーン)」
俺はどうして良いかわからず、ただただ呆然とするだけだった。
その後、俺が偶に人気が少ない廊下を歩いていると―――
「えへへ〜」
声と共に俺の背中に重みが加わった。この声の主はあいつだ。
「……愛佳くん、何やってるのかね?」
「え、たかあきくんに抱きついてるんだけど?」
さも、当然のように言われました。そう、この人あの一件から人の見ていない所では俺に抱きつくようになったとです。
「というか愛佳さ、男が苦手じゃなかったけ?直ったの?」
「直ってないけど、ほら、たかあきくんは男の子って感じがあんまりしないから平気と言いますか……」
それは男の俺に対してかなりの侮辱なのですが?
「それに、あたしも会員になったわけですし」
聞いてませんよ、そんな事!
「だから、これかも宜しくね、たかあきくん!」
そう言って愛佳はニッコリと笑うのでした。
とりあえず、俺に人権は無いかもしれないなーと思わずにはいられない今日この頃です。
おわれ
あとがき
……逃げてもいいですか?え、駄目?わかりましたよ、やりますよ。
ということで『タカ坊の抱き心地』をお送りしました。色々と突っ込みがあると思いますが、全てスルーして下さい。ええ、二次創作なんですから固い事は言いっこ無しの方向で。特に貴明と愛佳の身長差に関しては気にしないで下さい。私も気にしません(おい
一応今回は愛佳を甘えさえてあげたいと思って書きました。それだけです。いつも頑張ってる印象が強いですから。
さてさて、タイトルが『〜と〜と』っていう形から変りましたが、特に意味はありません。しいていうなら五月だからです。ちょっと文体が変ったのも五月だからです。
あと、最近気づいたこと。友人が私の作品を読んで感想を言ってくれました。
「ほのぼのしてて良かった」
ショックです。ちょーショックです。ジャンル分けするなら、私の作品は殆んどがギャグのつもりで書いてました。決してほのぼのとしたものを書きたいと思ってわけではありません。まぁみなさんから感想を頂いて、薄々気づいてはいたんですよ。ギャグと思っていたのは私だけって・・・・・。解ってますよ、自分の文章力が低いくらい。でも、とんだピエロですね。だけど、感想を頂けると凄く嬉しいです。製作速度も上がります。一言だけでもいいです。待ってます。
それと、私の作品色々とネタが仕込んであるのにお気づきでしょうか?今回ならカルシウムの部分がそうです。指摘をくださる方がほとんどいないので、もしかして無駄?と最近思い始めています。というか邪魔ならそう言ってください。絶対誰も気づかない様なのしか今後仕込みませんので(でも結局はやる
無駄に長い後書きですが、最後まで読んで下さった方、本当に有難う御座います。もし、気分を害された方がいらしたらごめんなさい。ではでは今回はこの辺で。また、次の作品(リクエスト随時募集中)でお会いしましょう。koutoでした。
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