いろいろと辻褄が合わないところがありますが、了承できる方のみ、お読みください
なんてことの無い一日(1)
チリリリン、チリリリンと耳元で目覚ましが鳴っている。
「ん、ふぁ〜あ」
時計を見ると午前七時半。よし、寝坊はしなかったようだ。俺は目覚ましを止め、着替えを済ませ下に降りる。今日の朝飯はシリアルと牛乳だ。昨日もそうだったけどな。
「さてさて、このみは何時にくることやら」
学校に慣れてきたためか、最近あいつは寝坊することが多い。それに比例して俺の学校への全力ダッシュをする機会も増えてくる。どこかの雪国物語の朝の場面を実体験しているかのようだ。 おいて行ってもいいんだけど、そんなことすると今度はたま姉からの愛の鞭という名の折檻を受ける羽目になる。内容は口に出したくない。一つ言える事は全力ダッシュをしたほうが、圧倒的にましということだけである。
なんて事を考えながら仕度をしていて、ふと時計を見てみると時刻は既に八時二十分。歩いて行くためのギリギリの時間だ。
「しょうがない、迎えにいってやるとするか」
戸締りをして家を出た。一人暮らしだからしっかり確認することも忘れない。
ピンポーン、とこのみの家のインターホンを鳴らす。少し待っていると玄関から春夏さんがでてきた。毎回思うことだが、この人は高校生の母親と思えないほど若若しい。その上、スタイルも良い。このみも将来こんな女の人になるのだろうか。なるとしても性格まで似てくれるなよ、怖いのはたま姉一人で十分だからな。
「ごめんね、あの子ったらまだ寝てるのよ。今起こすからちょっと待っててね」
そう言うと、春夏さんは家の中に戻り、二階のこのみの部屋に向かって
「このみー!いい加減おきなさい!たか君が、迎えに来てくれたわよ!」
と、叫んだ。少しして二階が騒がしくなる。
「おかーさんの意地悪!どうして起こしてくれなかったの!」
「何回起こしてもあんたがおきないんでしょうが!」
このやりとりは柚原家の朝の名物だ。観賞者は俺のみだけどな。
しばらく待っていると、このみが玄関にでてきた。
「えへー、今日は寝坊しちゃったよ」
「今日も、だろうが!この寝ぼすけ」
ふにゃっと笑っているこのみの頭をグリグリしながらつっこみをいれた。
「痛いよーたか君、髪が乱れるー」
と、言いつつもこのみの顔は笑っている。かまって貰えるのが嬉しいのだろう。ホント、子犬みたいな奴だ。
「おっと、こんなことやってる場合じゃなかったな。早く行かないとたま姉にどやされる、急ぐぞ!」
そうこのみに言うや否や俺はダッシュする。
「あ、待ってよ、たかくーん」
このみも少し遅れて走り出す。たま姉、まだ来ていないといいんだけどな。
…常々疑問に思うことなんだけど、このみの奴はなんであんなに足が速いのだろう?俺のほうが先にスタートしたというのに、奴は俺をあっさりと追い越し、今は前方で早く早くーと、手を振っている。
「たか君、ちゃんと走ってよー。」
「俺は十分本気だっつーの!おまえが早すぎるんだよ、奥歯に加速装置でも埋め込んでやがるのか?このやろー!」
「またまたー、たかくん冗談ばっかり言うんだからー」
いたって真剣な俺の言葉は笑って受け流されてしまった。前から思っていたけどこいつ、まだガキの頃の感覚のままでいるんじゃないのか?俺のことを買いかぶってもらっては困る。ついて行くこっちの身にもなって欲しい。
「あ、たまお姉ちゃんと、雄くんだ。おーい!」
いつの間にやら集合場所の近くまできていたらしい。たま姉と雄二を見つけたこのみはスピードを上げて二人のほうへ急ぐ。奴め、まだ速度を上げる事ができるとは。柚原のこのみは化け物か!……アホなこと考えてないで俺も急ぐか。
「おはよう、このみ、たか坊。」
到着した俺とこのみに対し、おねーさまはそう言われた。時間にはギリギリ遅れずにすんだらしい。
「オッス、二人とも。にしても貴明、朝からバテバテだな」
「す、好きで、疲れてるわけじゃ、ね、ねーよ」
「わーってるよ。大方、このみが原因なんだろ」
原因を親指でさす雄二。さすがは幼馴染、話がよくわかっている。
「えー!このみじゃないよー!」
このみが反論する。こっちの幼馴染は自覚が足りない。
「そうよ、女の子のせいにするもんじゃないわ。たか坊、あんた、体力が足りないんじゃないの?やっぱり一人暮らしが原因かしら?」
ここで頷こうもんなら、毎朝一緒に走れだの、生活習慣を正すために一緒に住めだのというに違いない。いや、絶対に言う。(反語)
「だ、大丈夫だって!ほら、早く行かないと遅刻するぜ?」
誤魔化すために学校への道を急ぐ。くそー、本当は少し休んでからにしたいのに。
「そう?ならいいんだけど。」
少し不審そうにしているけど、どうやら上手くいったらしい。
「でも、辛かったらいつでも言うのよ?お姉ちゃんがしっかりと面倒みてあげるからね」
ニコッとまがまがしく笑ってたま姉が言う。ここでの面倒を見るというのは俺の生活を一から十まで管理するということだ。訂正、やっぱり誤魔化しきれなかった。
四人で学校へと向かう。喋るのは俺以外の三人で、俺はもっぱら聞き手にまわっている。もっとも、雄二は余計なことを口走ってたま姉からアイアンクローを受けることが多い。
「雄二〜?誰が猫かぶって騙してるって〜?」
「そんなの姉貴に、あだだだだ!割れる割れる割れる割れる!?」
ちなみに今回の原因はたま姉の友達について。転校してきたばかりだというのに、もう多くの友達ができたというたま姉に対し、雄二が「それは姉貴が本性隠しているからだ」というようなことを発言したためである。雄二の奴は良くも悪くも正直な奴なので仕方がないとも言えなくは無いが、こうも頻繁にやられている姿をみていると、マゾかと疑ってしまう。
「くそー、姉貴の奴、頭が割れたらどうしてくれんだよ」
もう復活したのか。最近回復速度が上がってないか?雄二。
「る〜〜〜☆」
「おはようさん」
しばらく歩いていると珊瑚ちゃんと瑠璃ちゃんに遭遇。
「おはよー」
「おはよう」
「うーっす」
みんなそれぞれ挨拶を返す。俺も言おうとしたとき、ぽすっと軽い衝撃を受けた。腰の辺りをみると、珊瑚ちゃんが抱きついている。
「たかあきやー」
子猫のようにすりすりしている珊瑚ちゃん。とっても可愛いけど、早いとこ離れてもらわないとこっちの身がもたない。慣れてきたとはいえ、まだまだ、このみとたま姉以外の女の子は苦手。ああ、体が熱くなってくるのがわかる。顔も赤いだろう。
「さ、珊瑚ちゃん?ちょっと離れてくれるかな?」
「えー、たかあき、うちのこと嫌いなん?」
不満そうに言う珊瑚ちゃん。うう、そういう問題じゃないんだ。
「い、いや嫌いじゃないけど」
「そんならええやん」
この子、本当にわかってないんだろうか?
「う〜、さんちゃんにえっちぃことすなー!」
瑠璃ちゃん爆発。
「さんちゃんから離れろー!」
あの一件以来、すぐ蹴りが飛んでくることはなくなったが、放っておくわけにもいかない。
「ほ、ほら瑠璃ちゃんもそう言ってるし、離れて、ね?」
「もう、瑠璃ちゃん、しゃーないなー」
俺から離れて瑠璃ちゃんのほうを向く珊瑚ちゃん。
「じゃあ、今度は瑠璃ちゃんが抱きついてえーよ?」
爆弾を落としやがった!
「なっ!?」
「うちばっかりたかあき一人じめするのも悪いからなー」
「うちは、その…」
「抱きつかないん?」
「う〜〜〜」
首を傾げる珊瑚ちゃんに、唸っている瑠璃ちゃん。よし、今のうちに…。
「じゃあ、私がもーらい!」
むにゅっという感触とともに背中に重みが加わる。
「た、たま姉!」
「いいじゃないのよ。それとも珊瑚ちゃんはよくて、私はだめというつもりかしら?」
首にまわされている腕に力がこもる。
「言わないわよねー?私はたか坊をそんな男に育てた覚え、ないものねー」
腕の力が強くなっていく。くっ、これじゃあ脅迫だ。
「たまお姉ちゃんずるいよー!このみもやるー!」
このみが前から抱きついてきた。俺はたま姉とこのみにサンドイッチされてしまった。
「ん〜♪さすがたか坊。いい抱き心地だわ。」
「えへー♪たかくんのにおいだー」
く、苦しい。このみもたま姉もそんなに締め付けるな。重くて身動きもとれないし。
「…たか坊。今、失礼なこと考えなかったかしら?」
「め、めっそうもございませんですのことです!」
「そうかしら?」
さすがはたま姉。勘の良さが半端じゃねーぜ。
「ほらー、瑠璃ちゃんがはよーせんから、たかあきとられてしもーた」
「う、うちのせいなん?」
「む〜、しゃーないな〜、横で我慢するわー。ほら、瑠璃ちゃんもやでー?」
「う〜」
そう言うと珊瑚ちゃんは右に、瑠璃ちゃんは左に抱きついてきた。
「えへへー」
「う〜〜〜」
「む、まあ左と右ぐらい譲ってあげるわ。さあ、たか坊出発よ!」
「無理だー!」
「がんばりなさい。男の子でしょ!」
「がんばれーたかくん!」
「たかあきー!」
「う〜〜」
ダメだ!味方がいない!仕方なく雄二のほうを向くと、奴は下を向いてプルプル震えていた。
「雄二?」
「こ、」
「こ?」
「こ、」
「ゆうくん、鶏のまね?」
いや、それはベタだろこのみ。
「こ、この女ったらしがー!!!!!てめーは全世界のもてない男の敵だー!もう、親友でもなんでもねー!」
雄二、大爆発。どうでもいいけど、人を指差すのは行儀が悪いぞ。
「あら、雄二。自分がもてないからってたか坊に嫉妬?かっこ悪いわね。」
「ぐっ!」
雄二、胸を押さえて後退。
「ゆうくん、かっこわるーい」
「ぐぐっ!」
「かっこ悪いでー、にいちゃん」
「ぐぐぐっ!」
「ダサいで〜」
「……!る、瑠璃ちゃんまで…!」
へたっと崩れ落ちる。
「こ、」
「「「「こ?」」」」
「こ、」
「ゆうくん、また、鶏の真似?」
だから、ベタだっつーの!
「これで勝ったとおもうなよーーーーー!」
立ち上がり猛然とダッシュ。でも雄二、そっちは学校じゃないぞ?しかもそれは由真のセリフだ。
「……さあ、たか坊。邪魔者も居なくなったし、出発よ!」
「だから、無理だっつーの!」
なんとか学校に到着。みんなさすがに遅刻は不味いと思ったらしく、どいてくれた。……しばらくは無理やり動かされたけどな。
「じゃあね、しっかり勉強しなさいよ」
「またあとでねー」
「る〜〜〜☆」
「ほななー」
みんなそれぞれのクラスに向かっていった。
「ふー」
溜息を一つ。あ、朝から疲れた。こりゃ午前の授業は全寝だな。
「ま、頑張りますか」
そうして俺は自分のクラスへと足を向けた。
あとがき
本当は朝のワンシーンぐらいの長さにしたかったのに、えらく長くなってしまった。全然リズムが掴めない。昼はもう少しコンパクトに纏められるよう頑張ろう。初心者なもんで、出来はあんまり期待せんといて下さい。
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