そうして俺は自分のクラスへと足をむけた。

 

 

 

なんてことの無い一日(2)

教室に入り、自分の席に座る。

「よっこらしょっと」

つい、そんな言葉が出てしまう。

「ん?あれ?」

何か違和感を感じ、教室を見渡す。そうだ、いつもこの時間には居る人物が見当たらないんだ。

……雄二じゃないぞ。

時間もギリギリだし、今日は遅刻かな。たまにはそういうこともあるだろう。

そういう事にして思考を打ち切り、寝に入ろうとしたとき、廊下からタッタッタと人の走る音が聞こえてきた。

「ふ〜、なんとか間に合ったよ〜」

ぽや〜んとした声を発しながら、我等が委員ちょの登場。愛佳がこの時間に来ることは珍しい。

そんなことを考えながら、級友と挨拶を交わしている彼女をぼーっと眺めていると、視線がぶつかった。彼女はこっちにトテトテと歩いてきて、

「貴明君、おはよ〜」

と、トロ〜ンとした笑顔でいった。

「おはよう、愛佳。今日も目がたれてるな」

「う〜、たれてないよ〜」

ああ、なんか凄く癒されるな。

「そういえば、今日はなんでいつもより遅かったんだ?」

「うん、あのね、今日郁乃と一緒に学校に来て、それで…」

「色々と言葉をかけてたら遅くなったと。」

「すごーい、貴明君。よくわかったね。」

いや、それぐらい誰でもわかると思いますヨ?

「愛佳は心配性しすぎなんじゃない?」

「そんなことよ〜。これでも我慢してるんだから。本当は、一緒の教室で授業を受けたいのに。」

「いや、おまえら学年違うし。」

俺はしごく真っ当なことを言ったのに、なぜか愛佳は目をうるうるさせる。

「貴明君がいじわるだよ〜」

「なんでだよ!」

退院したばかりの車椅子の妹を気遣うとしても、愛佳のシスコンぶりは相当なものだな。郁乃も似たようなもんだけど。

そんなやりとりをしてるうちに、愛佳がキョロキョロしだした。

「あれ、そういえば今日向坂くんは?」

「朝日に向かって走っていった」

不思議そうな顔をされても仕方ない。事実なんだからな。

「太陽に吼えろ?」

それは違う…。

 

 

キーンコン、カーンコン。授業開始の鐘がなる。愛佳との会話で癒された俺は少しは頑張ろうとしたが、しだいに眠気が襲ってきて、いつしか意識が遠のいてしまった。

ZZZ・・・・

「・・・・・・・・ん」

ん?

「・・・・・・・・・くん」

声が聞こえる。

「・・・・・・・・きくん」

女の子の声だ。

「貴明君!」

どうやら俺を呼んでいるらしい。なんだよ、まだ眠いのに。

「・・・何か用?」

「何か用?じゃないよ!もうお昼だよ」

声の主は愛佳だった。寝ていた俺を起こしにきたらしい。

「・・・もう昼か」

「そうだよ〜。貴明君、午前の授業全部寝ちゃってるんだもん。不良さんだよ〜」

「じゃあ、飯に行くか。」

「あ、ちょっと待って。」

席を立とうとした俺を愛佳が止める。

「?」

「もう一回寝た格好してくれない?」

よくわからないけど、愛佳の頼みなら聞かない訳にはいかない。俺はもう一度突っ伏した。

愛佳が息を吸い込んだのがわかる。

「昼休みだよ!貴明!」

どうやら某眠り姫の真似をしたかったようだ。

「・・・・・・。」

「なにかいってよ〜」

俺は無言で席を立ち、廊下へでていった。あきれてものが言えない。

 

 「無視するなんて、貴明君、ひどいよ〜」

うるさい、危険なネタを使うからだ。

「むくれてないでとっと行こうぜ。あいつら待ちくたびれちまうよ。」

郁乃が転入してからというもの、俺たちは一緒に飯を食うようになった。郁乃の転入したクラスにこのみがいて、仲良くなったためである。というかこのみが一方的に纏わりついたんだけどな。あいつの捻くれた言動もこのみには全く通じないから追い払えなかったらしい。で、そのうち仲良くなったという訳だ。

「このみちゃんが郁乃と仲良くなってくれて、とってもうれしいよ〜」

と、愛佳は大絶賛している。やっぱり友達ができるかどうか不安だったようだ。

「あ、そうだね!郁乃を待たせられないよ!」

愛佳が走り出す。

「やれやれ・・・」

俺も愛佳を見失わないよう追いかける。それにしても委員長が廊下走ってもいいのかね。

 

 階段を降り、一年の教室がある通路に出ると、このみたちをみつけた。

「あ、たかくーん!」

このみも俺を見つけたようでこちらに急ごうとする。

「こ、こら!急に押すなー!」

「あ、ごめんごめん。」

「全く、あんなやつのどこがいいんだか。」

「えー、貴明かっこええやんかー」

「はぁ!?あんた眼科いったほうがいいわよ。」

「うち、目はええよ?」

「さ、さんちゃん、そういうことやないと思うで?」

「じゃあどういうことなん?」

「たかくんはかっこいいってことでありますよ!」

「なんや、うちの言うたことであってたんか。」

「だから違うっつーの!」

わいわい、がやがや。女が三人いればかしましいっていうけども、四人いるからよけいに騒がしい。こりゃ早く止めないと昼休みがなくなっちまうな。ちらっと愛佳のほうをみると、彼女はにこにこと郁乃を見つめている。こいつ、止める気ねーな。しょ−がない、

「おーい、早く行かないと飯が食えなくなっちまうぜ?」

「それはまずいであります!早く行くであります!」

食い気のはっているこのみがまず反応し、走ろうとした。…郁乃の車椅子を押しながら。

「だから、急に押すなー!」

「あ、ごめんごめん。」

郁乃、アホな幼馴染ですまん。

 

 階段を上ろうとしたとき、俺は重大なことに気づいた。

「今日は雄二がいなかったんだ」

あいつ、朝に走ったままどこかへ行っちまったんだ。困った。さすがに俺一人では車椅子ごと郁乃を運ぶなんてことはできない。今いる女の子に手伝って貰うとしても俺とでは力のバランスが合わない。どうしたものか。

「ん?まてよ?バランスさえあっていれば…」

「貴明君、私が手伝おうか?」

悩んでいる俺をみかねて愛佳が申し出てくれる。気持ちは嬉しいが、愛佳は力が全然無い。それに俺には一つ案がある。

「いや、ちょっと待ってくれ」

ちょうど4人いるし、いけるだろう。

「よし、郁乃ちょっと立ってくれ」

「はあ?私に階段を上れっていうの?」

「そうじゃない。いいから立ってくれよ。」

しぶしぶ立つ郁乃。俺は彼女に近づき、肩と足に手を置いて持ち上げた。俗に言うお姫様抱っこというやつである。

「わあ!?ちょっと、なにすんのよ!?」

「ちょっと黙っててくれ。よし、車椅子を四人で持ち上げてくれ。左右に二人ずつついてな。」

ぼけ〜っとこちらを見ていた4人が、俺の言葉で動き出した。姫百合姉妹ペアと、愛佳このみペアに分かれたようだ。

「「「「せーの!」」」」

掛け声とともに車椅子が持ち上がる。郁乃も乗ってないし、なんとかなりそうだ。

「よーし、気をつけて運んでくれよ。じゃあ出発するからな。」

そう言って俺は階段を上り始めた。そして、その後をみんながついてくる。うん、これなら屋上まで行けるな。それにしても郁乃は軽いな。重さが無いみたいだ。少し前まで入院していたから仕方が無いのだろうけど。

「いーなー郁乃ちゃん、たかくんに抱っこしてもらって。たかくん今度このみにもやってよね」

「なんでだよ、やってやる理由がないだろ?」

「たかくんのけちー。郁乃ちゃんばっかりずるいよー!」

「そうや〜たかあき。郁ちゃんとばっからぶらぶするのはずるいで〜」

「だ、誰と誰がらぶらぶよ!」

顔を真っ赤にして叫ぶ郁乃。どうでもいいが動かないでくれ、バランスがくずれる。

「瑠璃ちゃんもずるい言うとるで〜」

「さんちゃん!うち、そんなこと言うとらん!」

「え〜、瑠璃ちゃんたかあきに抱っこして欲しくないん?」

「欲しくない!」

「瑠璃ちゃんは照れ屋さんやな〜」

「さんちゃん頼むから人の話きいてーな!」

「でも、本当はしてほしいんやろ?」

「うっ…」

「やっぱり瑠璃ちゃんは照れ屋さんやな〜」

今度は瑠璃ちゃんの顔が真っ赤になってしまった。おまえら、まじめに持たないと危ないぞ?

「たかくん、このみにも抱っこ〜」

「うちらも抱っこ〜」

「う、うちらってうちも入ってるん?」

「当たり前やんか〜」

「ね〜、たかく〜ん。」

「たかあき〜〜」

いかん、収集がつかなくなってきた。ここは委員ちょマジックに期待しよう

「なあ愛佳、何とかしてくれよ」

「ふう、ふう、え、貴明君何か言った?」

一人だけ息があがっている。それに手もプルプル震えていて、はたから見てもいっぱいいっぱいなのがわかる。

「……いや、なんでもない。頑張ってくれ。」

愛佳、力なさすぎ。

 

 何だかんだとあったが、どうにか屋上へのドアの前に到着。

「おーい、このみ。ドアあけてくれー」

「了解でありますよ隊長。」

このみにドアを開けてもらい、屋上へ出る。うーん、今日もいい天気だな。

「ええっと、たま姉はどこかなーっと」

きょろきょろと辺りを見ていると、シートの上に座っているたま姉と目があった。

ぞくっ

背筋に冷たいものを感じた。……何だかいやな予感がする。ここは逃げるに限る。俺が回れ右をしようとしたとき、

「たか坊、なにやっているの?こっちにいらっしゃい」

肩を掴まれた。い、いつのまに!

「何でそんな格好しているのか、もちろん説明してくれるわよね?」

笑顔で言うたま姉。でも、笑顔なのにとっても迫力がありましたマル。

 

 「と、言うわけで全部雄二が悪いんだ」

なんでお姫様抱っこをしていたのかと聞かれたので、とりあえず全部雄二の所為にしておいた。嘘じゃないしな。

「そう、あの子ったら学校をサボるなんて。帰ってきたらお仕置きが必要ね。」

合掌。雄二、強く生きてくれ。

「それにしてもたか坊、女の子が苦手だって言ってるくせに、よくあんなことができたわね。」

にや〜っと笑うたま姉。これは絶対に俺のことをからかおうとしているな。

「そのときはこれしか思い浮かばなかったんだよ!」

「へ〜、そうなんだ〜」

にやにやと笑いながらこっちを見る。

「たま姉、何が言いたいんだよ?」

「べつに〜、ただ、たか坊も色を知る年になったってことを再確認しただけよ〜」

要約すると、このスケベってことらしい。

「もう、そんなことはどうでもいいだろ!飯にしようぜ飯に」

これでは何時になったら飯にありつけるかわからない

「ふう、まぁいいわ。時間もない事だしね。その代わり、今度私にもしてよね!」

「え〜!」

「あの子にはできて、私には出来ないっていうの?」

「滅相もございません」

たま姉の迫力に勝てるわけがない。

「そう、じゃあご飯にしましょうか。」

こうして俺の裁判は終わった。ちくしょ〜!他の奴ら見てない振りしやがって。しかも、もう飯食ってるし。いいや、俺も飯食おう。

「このみ、弁当くれ。」

俺の弁当は春夏さんに作ってもらってる。

「はい、たかあき。」

俺に弁当を渡す珊瑚ちゃん。

「ん、ありがとう。って、ええ!なんで珊瑚ちゃんが!?」

いっちゃんが貴明の分も作ってくれたんやで〜」

「なんで急に?」

今まではそんなことは無かった。

「いっちゃん、瑠璃ちゃんに教わって料理の練習しとったんや。でな、上手になったからたかあきにも食べて欲しいんやて」

イルファさんと瑠璃ちゃんどうやら上手くいってるようだな、うん、俺も苦労した甲斐があったってもんだ。

「そういうことなら頂くよ。ありがとうって伝えておいてね」

二つぐらいなら何とか食えるだろう。

「うん、わかった〜」

「瑠璃ちゃんもありがとう」

「な、何でうちにもお礼言うん?」

「だって、瑠璃ちゃんが教えてあげたてくれたんでしょ?だからありがとう」

「う、うん。どういたしまして……」

「たかあきはやさしいな〜」

はは、照れるぜ。じゃあさっそく頂くとするか。

「お兄ちゃん、ちょっと。」

食べようとしたら郁乃に制服を引っ張られた。

「ほら、おねえちゃん!」

「う、うん。でも〜迷惑かも〜」

「なにいってるの!折角つくったんでしょ!」

「うん、そうだけど〜」

「あーっもう!じれったい!」

そう言うと愛佳の鞄をゴソゴソと漁る。

「い、郁乃〜」

「はい、お兄ちゃんこれ、」

渡されたのは可愛い包みにくるまれた弁当箱だった。

「これって・・・」

「うん、お姉ちゃんがお兄ちゃんの分も作ったの」

「う、うん。いつもお世話になってるから。で、でもやっぱり迷惑だよね!ごめんなさい・・・」

「いや、迷惑じゃないけど」

日が悪い。さすがに弁当三つはきつい。

「そう?じゃあ食べてね。お姉ちゃんが一生懸命作ったんだから残しちゃだめ」

そう言って俺に手渡す郁乃。はぁ、仕方ない、頑張るとするか。

「では、頂き……」

「ちょっと待ってたか坊」

「何だよ、たま姉」

早く食わないと時間が無くなる。ただでさえ量が多いっていうのに。

「雄二がいないから私のお弁当、余っちゃいそうなの。だからたか坊も食べて」

「え〜〜!」

そのお重をですか?!いくらなんでもきつ過ぎますヨ!

「何、私のお弁当が食べられない?」

く、ここで負けたらだめだ。

「いや、ちょっとさすがに……」

「他の子のお弁当は食べれて、私のは食べれないっていうの?」

こ、怖い。でも負けるわけには!

「い・わ・な・い・わ・よ・ね!」

ずずーっと俺の顔に近づくたま姉。

「……いただきます」

負けました。やっぱりたま姉には勝てません。

「よろしい!さあ、早く食べないと昼休みが終わっちゃうわ」

くそー!こうなったらやけくそだ!全部くっちゃる!

「いただきます!!」

そうして俺はみんなの弁当に戦いを挑んだ。

 

 

 

 

あとがき

朝よりも更に長くなってしまいました。だめだ、自分の文才の無さに凹んでしまう。次こそは纏まったものを書けるようにしたいです。

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