真紅とジュン

 

 

 

ある部屋に二人の人影があった。

一人は背中を丸めパソコン画面に意識を向けている少年。

もう一人はそんな少年の後姿をじっと見詰める赤い服を着た人形の少女。

二人以外には誰もいない、そう錯覚させられてしまうほどの白い世界。

聞こえてくるのは少年が時折発生させるカチカチというクリック音だけ。

「ジュン」

そんな音の乏しい空間に少女の声が響き渡る。

心の強いものにしか発する事を許されない、凛とした音色。誰をも振り向かせ、誰をも惹き付ける女王の一声。

僅かな雑音も止まった。

「……なに」

「別に。声が聞きたかっただけ」

「そう」

また聞こえ出す意味の無い音。

「ジュン」

「なに」

「……」

「……」

返事が無いので少年が振り向くと、少女がじっと前を見詰めていた。

「……なんだよ」

「だっこして頂戴」

「……わかった」

急な要求にも素直に従い、席を立ち少女の方に向かう。

「やさしくね」

「……わかってる」

以前少女に言われた通りの抱き方をする少年。

「ジュン」

近くなった少年の顔にその小さな手を這わせる。

やさしく、ゆっくりとその頬を慈しむように撫でていく。

「……なんだよ」

「私は今、幸せなのだわ」

「……そう」

そう言って、自分の席へと戻っていく少年。

再会される、無意味な音。

その音を聞きながら、膝の上の少女は少年の胸元へ顔を埋め、幸せそうにその瞳をとじるのであった。

 

「と、いう夢をみたのだわ」

「……」

夢オチかよ、と少年は思う。

「……で、何でそれを僕に言うんだ?」

椅子の背もたれに首を預けながら、目の開き度を半分にし自分の自称・主人の顔を見る。

「察しが悪いわねジュン」

下僕の愚鈍さに金髪ツインテールを左右に揺らした後、溜息を吐き両手を天に掲げる。

「抱っこしてちょうだいってことだわ。夢の中みたいに」

「何で僕が……」

「真紅がそれを望んでいるから」

「……」

ハッキリキッパリ照れなく告げられ、とっさの切り返しが出来なく言葉につまる。

構わず続けられる少女の声。

「さあ、ジュン。抱っこよ。優しく、エレガントにね」

先程までとは違い、今度はちょっと憂いがブレンドさせられた声を受け、頭をかきながら少年が席を立つ。

そして大事な物を守るかのように少女の体を抱き上げる。

「そう、それでいいのよ。ありがとう、ジュン」

微笑みを浮かべ、夢の中と同じように少年の胸へと顔を埋める。

香る匂い。

満足し、少女の瞳が閉じられる。

数刻して聞こえてくる安らかな寝息。

「で、僕は何時までこうしていればいいんだ?」

困ったようでどこか柔らかさの混じった少年の声に、こたえるものは誰もいないのであった。

 

 

 

おしまい

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