過去にて(5)

 

 

「着いたわ、ここよ」

「ここって……ここかよ!!

目の前にある超オンボロアパートを指さして俺は突っ込む

なんていうか、あれだ。築30年くらいでもうすぐぶっ壊れますよーって感じが壁の色合いからにじみ出ている。

しかも明らかに人の住んでいる気配は無しだ。

「まさか、ここに住めと?」

結論はわかりきっているが、それでも聞かずにはいられない俺。

「そうだけど、何か問題ある?」

「ありまくりじゃボケー!!!」

不思議そうに首をかしげている綾香に力一杯突っ込みをいれる。

「なんだよここ、何時崩れるかわからないくらいぼろっちいじゃねーか。ここに住めと?本気で住めと?あんたは俺に死ねと言ってるんデスカー?」

綾香の顔至近距離で睨みつけながら言う。

そんな俺の迫力に綾香は手でガードしつつ、一歩後ろにさがりながら愛想笑いを浮かべる。

「あ、あははは。か、仮にも私たちの秘密基地なのよ?こんななりだけど、その辺の対策はバッチリだって」

「だったらもっと外装にも力を入れろよ!」

「だってそんな事したら秘密基地っぽくなんないじゃないのよ」

俺の至極当然の言葉にも綾香は首を傾げるのみだった。

「意味ねえ事やってるんじゃねー!!『後ろ向きで前進だ!ただし、ムーンウォーク』みたいな!!」

「?何わけのわからない事言ってるのよ?」

俺のハイブローなギャグはどうやら過去の奴には通じないらしい。

……パクリだからいいけどな。

「とにかく、ここは私達が『秘密基地がほしいー」って言ったときに、わざわざセバスチャンが一生懸命探してきてくれたところなの。大丈夫、中はちゃんとしっかりしてるから」

……これが?」

一度アパートに視線を向けた後、再び綾香に視線を戻し尋ねる。

こんな歩くだけで床抜けしそうな雰囲気を纏ってるところがか?

「もちろん。内身だけ入れ替えるのは大変だったってセバスチャンも言ってたし」

「ちなみにおいくら?」

「うーん、そうねー。このアパート壊して、新しいの建てたほうが全然安いって言ってたわ」

顎に手を当てながら、何かを思い出すよな仕草を取りつつ綾香が言った。

……なんて金の無駄遣いなんだろう。金持ちのすることはわからん。

「うん、大丈夫よ。私達が昔使ってたときも全然平気だったし。もっともすぐ習い事で忙しくなっちゃって、ほんの少ししか使ってないけどね」

……」

目線を下にむけ、少し寂しそうに言う。

そして、それに同意するようにコクコク頷く先輩。

……そうか、お嬢様も大変なんだな。

「と、言うわけではい、これ」

そう言って何かを俺に手渡す。

これは……鍵だ。

「そこに書いてある番号の部屋を使ってちょうだい。あ、でも全然使ってなかったから掃除ぐらいは必要かも」

俺に鍵を渡した後、綾香が付け足すように喋る。

「つーか、なんでお前鍵なんか持ってるんだ?」

「ん?思い出の記念に持ち歩いてただけよ。まさかこんな所で役に立つなんて思っても見なかったわ」

お手上げのポーズをとり、軽く息を吐いた。

……」

「えっ『すいません、私の責任です』?あ、別に姉さんを責めてるわけじゃないのよ?」

しゅんとうなだれる先輩に慌ててフォローする綾香。

しょうがない、助け舟を出してやるか。

「ま、そんな事を言ってないで、とりあえず中に入ろうぜ?掃除しないといけないんなら、手伝ってくれるんだろ?」

「あ、ごめん。私も姉さんも今日は用事があるから無理なんだ」

……」

両手を目の前であわせ、謝ってくる綾香。

先輩もペコリとお辞儀する。

……まぁ、いいか。こちらも戦力がないわけでも無いし」

つつつって一人傍観していた藤田の方に視線を向ける。

「俺もかよ!!」

「当然だろ、フレンド」

そう言って俺は奴の肩を無理やり掴む。

「んじゃ、俺らは掃除しにいくから」

「うん。掃除用具ぐらいは部屋のロッカーにあるから。後、水と電気やその他もろもろもついてるから、心配しなくていいわ」

「うん、了解」

そう言って俺達は綾香たちに背を向け、アパートの中に入ろうとした。

が、その前に綾香が声をかける。

「あ、お金の方はあとで助っ人に持たせるからー」

その言葉に俺は前を向きながら手を振り、中に入っていった。

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