過去にて(4)
「拙いってどういうことだよ、綾香?」
顎に片手を当て顔を顰めている妹さん―綾香に藤田が尋ねる。
「うん、ほら、貴明って姉さんが魔法で連れてきちゃったじゃない?うち今、魔法が知られると拙い人がいるのよねー」
「ああ、おまえの家のじいさんか」
「そう、おじいさま。あの人姉さんの事溺愛してるから、姉さんの客人なんて言ったら絶対身元とか調べられると思の」
それは拙い。俺は『この』世界では身元を証明するものなんかないのだから。
「確かにそれは拙いわな」
「でしょ?貴明に被害がいくのはもちろんの事、姉さんにもとばっちりは絶対行くわね。魔法関係禁止は固いわ」
「……!」
その言葉で先輩がピクリと震えた。
「ばれないように、って方法もあるけど、屋敷内にいる限りどうやっても他の人に見つかるからね。まぁ、貴明のいる部屋を完全封鎖にしちゃえば問題はないんだけど。でも、そんなのは嫌よね?」
「ああ、ごめんこうむりたいね」
即答する俺。何かに縛られて生活するのは誰だっていやだろう。
「そうでしょ?招く私達としてもお客様にそんな窮屈な思いをさせるのは気が引けちゃうもの」
「河野を住まわせるって事は双方ともにかなり大きいリスクを背負っちゃうって事か」
その言葉にコクンと頷く綾香。
「そう、それが私が拙いって言った理由よ。姉さんも貴明にもリスクが大きすぎるからね」
「と、なると先輩の家に住まわせてもらうって案は却下か」
残念だ。実はあの来栖川と聞いて少し楽しみにしていたんだけどな。
「そうなると残りは……」
目線をツツツと藤田の方向へ向ける。
「はぁ〜、結局こうなるか」
大きく肩を落とし、溜息を吐く。
「なんだよ、そのあからさまな溜息は?」
むっとした表情になる藤田。
「だってお前、可愛い女の子とならともかく、なにが悲しくて男と一緒に暮らさなくちゃなんないんだ」
「それはこっちのセリフだっつーの!!」
即突っ込みを入れてくる。まぁ、こいつもなかなか面白いキャラなので実は不満はさほどない。今のやるとりは俗に言うお約束ってやつだな。
「へー、貴明って女好きだったんだー」
面白そうに目を細めてこちらを見る綾香。
「む、別にそんなことはないぞ?どちらかと言うと女の子は苦手な部類に入る」
「それにしては私や姉さんとは普通に話せてるじゃない?」
首を傾げたずねてくる。お前、その答えを俺に言わせたいのか?
「それは……」
「それは?」
「……タイムスリップなんて規格外の出来事があったんだ。もうそんな小さい事どうでもよくなっちゃって」
俺は肩を落とし、暗い表情で言った。本当、なんで俺がこんな目にあわなきゃならないんだろう?俺なんか悪い事やったか?
「あ、あ、そうなんだ……」
拙い事聞いちまったーって感じで苦笑いをする綾香。……ちょっと気分が沈んじゃったな。いかんいかん。
「ま、気にするなよ。貴重な体験ができてラッキーって気持ちもあるんだから」
これは帰ったら会長に自慢できるネタだ。くくく、今から会長の悔しがる姿がめに浮かぶ。
「……」
「『タイムスリップなんてしたことがないので羨ましいです』?はっはっは、そうだろそうだろ先輩わかってるようじゃないか」
「……なんか無理して笑ってるわよねー」
「ああ、気の毒にな」
「そこ、外野煩い!!」
二人の方をビシッと指差して注意する。……無理やりなんかじゃないさ。はは。
「ま、まぁ、そんな事よりもう帰ろうぜ?河野には色々うちで住むにあたって言わないといけない事もあるし」
「そ、そうね。もう遅いし早く帰った方がいいわよね」
まだ四時過ぎなんですが。
「ふう、まあいいさ。じゃあ出発しますか」
俺達が歩きだそうとしたとき、先輩が綾香の袖をひっぱった。
「……」
「え、なに姉さん?『やっぱりこのままお役に立てないのは心苦しいです』?う〜ん、そういわれてもね〜」
「……」
「『なんとかなりませんか?』う〜ん、姉さんの頼みでもこればっかりは……」
うんうん唸っている来栖川姉妹。だが、暫くして先輩がぱっと顔を上げた。
「……」
「『私達の秘密基地はどうでしょう』って?……!!いい!姉さんそれいけるかもしれない!!」
興奮気味の綾香。先輩の顔もどこか誇らしげだ。
「二人とも、浩之の家に行くのは中止!」
こちらをバッと振り返り、そう告げる綾香。
「行き先を変更して私達の使っていた秘密基地に向かうわよ!!」
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