過去にて(2)
「……」
「え、紅茶です?悪いね、先輩」
どこにあったのか知らないが、紅茶の入ったカップを俺に手渡ししてくれる先輩。うん、いい香りだ。紅茶の事はよくわからないが、きっと良い葉を使っているに違いないな。
「……」
「クッキーもあります?いや、本当おかまいなく」
俺達が座っているテーブルの上にクッキーの入った皿を置く。まぁ、召喚なんて荒業を使える人なんだから、これぐらいできたところで驚きはしない。
「って何和んでんだよ、お前ら!!!しかも前回と場面がかわってるし!?」
部屋中に藤田の叫び声が木霊した。
「うるさいなー、近所迷惑だろ?」
細かい事を気にしてはいけないんだぞ?
「……」
「『防音設備は完璧です』だって?へー、さすがオカルト研究会」
「……」
俺がそう言うと控えめにピースサインをする先輩。無表情な人だが、なかなか愛嬌のある人のようだ。
「俺の話を聞けー!!!!」
先ほどよりもビックリマーク一個分大きな声を上げる。おーおー、顔を真っ赤にしちゃって、まぁ。
「わかったわかった。聞いてやるからそう怒鳴るな」
そう言って俺は紅茶を一口。おお!このまろやかな口あたり、これは良いものだ。
「全く、そんなに落ち着いていていいのか?お前は未来からきたんだぞ?」
少しは落ち着いたのか声の調子が元に戻っている。
「まぁ、あれだ。人間諦めが肝心ってね」
「もう諦めてるのかよ!!」
いいねー、こいつとは良いコンビになれそうだ。
「冗談だよ、冗談。慌てても仕方がないだろ?」
優季さんも似たような状況にあっても平然としてたんだ。それを知ってる俺が慌てふためくのはかっこ悪いからな。
「まぁ、それはそうだが……」
「で?実際の所どうなんだ先輩、俺は帰れそう?」
紅茶を行儀良く飲んでいた先輩に声を掛ける。現状で状況をどうにかできるのは俺でも、藤田でもない。先輩だけなんだ。もう打つ手がないと言われたときだけ、慌てればいい。
「……」
「『たぶん大丈夫です。でも、不測の事態なので色々調べたりするため今すぐには無理です。ごめんなさい』?ああ、いいよ頭なんて下げなくても。先輩もわざと失敗したわけじゃないだろ?」
その言葉で頭を下げていた先輩が顔を上げる。
「な、藤田。なんとかなりそうだろ?」
俺は得意顔で藤田に笑いかける。
「……お前って神経が図太いんだな」
呆れ顔で呟く。む、失礼だな。これでも俺は繊細な方なんだぞ?
「だけど暫く帰れないとなると、住む場所の確保が先決だな」
どうしたものか。野宿は嫌だな。
「ふう、仕方ない。暫くはうちに住むか?今両親もいないからすごし易いだろうしな」
「お、それはありがたい」
これで安心だと思っていた時、先輩が俺の袖を引いた
「……」
「え、『私の責任ですのでうちにいらしてください』?だ、だめだって!さすがに女の人の家には住めないよ!」
「いや、先輩の家は金持ちだからな。使って無い部屋も多いんじゃないのか?」
顎に手をあてながら答える藤田。まぁ、確かに天下の来栖川だからな。部屋なんか腐るほどあるって事か。
「それに先輩も何か役に立ちたいんだよな。結構責任感強いし」
「……」
コクコクと首を振る先輩。むー、そう言われては断りきれないな。
「OK、了解だ。先輩の家で世話になるよ」
「……」
俺がそう言うと先輩はどこか嬉しそうにうなずいた。
「おっし、話も決まったところでこれから河野を連れて先輩の家に行くか」
こうして俺達三人は先輩の家へと向かって行くのだった。
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