学校にて(1)

 

 

 

「まぁ、そんなわけで俺は現在学校の目の前にいるわけなのですが」

誰に言うでもなくそう呟いた後、俺は目の前にあるよく知った建物に意識を注ぐ。

俺がタイムスリップして数日。来栖川の方での準備(偽造工作)が終わったらしいので今日から高校生再開な俺。

それにしても学校、か……。

まさか十数年前の母校に来るいうSF小説なみの展開になろうとは、少し前までは頭の片隅にもなかったんだがな。

事実は小説より奇なりとはよくいったもんだと感心するよ、本当。

宇宙人にあったりプチ時間移動者にあったり魔法使いにあったりだもんなー。

今回は本格派時間移動まで経験しちゃったし、なんかもう『奇』のオンパレードって感じ。

これだけ色々起こるともう、あれだね、大抵の事には驚かなくなったんじゃないかな、俺。

……そんな風になるのを望んでいたわけじゃないんだけどな。

「ははは……」

下を向き自嘲的に口を歪める俺。

って、こんな事している場合じゃなかった。

俺はこの時代では転校生なんだから、教室に行く前に職員室へ挨拶にいかないといけないんだった。

「まぁ、内部構造は変わってないから別に焦る必要もないんだけどな」

まだ時間は残っている。ゆっくり行こう。

そう思って俺が歩みを進めようとすると、

「えっ!!もしかして、公君?」

前方にいた女子生徒が目をまん丸に見開いて、こちらを見ていた。

キョロキョロ

辺りを見渡すも彼女の視線の範囲内にいるのは俺だけである。

ということは、もしかして俺の事を言っているのか?

いや、でもそんなわけはない。

だって俺タイムスリップしてきたんだぜ?こっちで藤田以外の知り合いがいるはずがないんだよ。

でもこの人明らかにこっちの事見てるしなー。しかもやけににこやかな表情で。

「もう!忘れちゃったの?」

首を傾げて考えている俺の事などお構い無しに女子生徒はこちらにつかつかと歩み寄って、俺の手をギュッと握った。

「ほら、小さい頃よく一緒に遊んだじゃない。おままごとか、おいかけっことか、かくれんぼとか!」

なんとしてでも思いだしてほしいのか、熱心に子供時代の記憶を述べていってくれているが、生憎とガキの頃に遊んだ記憶があるのはタマ姉やこのみたちだけである。思い出せというほうが無理な話だ。

つーか、あれだな。人違いだなきっと。

大方子供の頃別れた幼馴染に偶然高校で再会しちゃったとでも思っているのだろう。

この熱心さを見るにかなり仲もよかったのだろうが、残念ながらその人と俺は別人である。

その喜びに水を差すのは非常に気が引けるがいつまでもこうしているわけには行かないので、とっとと幕を下ろすとしよう。

「あの〜」

「え、何?もしかして思い出してくれた?」

凄くきらきらとした目で俺の事を見上げる彼女。

その瞳を目の前にして一瞬ぐっ!と口ごもるものの、意を決して次の言葉を吐き出した。

「いや、たぶん人違いだと思うんですけど……」

「えー!!そんな事ないよー!!」

「んなこと言われても……」

すぐ収まると思っていた事態がなんだか変な風にこじれてきましたよ?

「だって君、転校生でしょ?」

「はぁ、まぁそうですけど……」

実は違うんだけど、そこんところは色々と複雑なので黙っておく。

「で、昔ここ住んでいたよね?」

「えっと、それは……」

「ねっ!!!!」

「は、はい。まぁ、そうなりますか……ね」

やばい、何だか逆らえない雰囲気におされて頷いちゃったよ。

でも、なんだ?この人の迫力は?以前どっかで受けた記憶が……

「ほーら、やっぱり公君じゃない!」

「……なんでさ」

流石にそれだけの情報では判断できないと思うんですけど……

「大丈夫、大丈夫!!ゆっくり思い出せばいいよ。私は覚えているんだから、ね?」

「でも、ほら、えーっと……」

くそっ!言葉が上手く纏まらない。

なんでだかこの人の前では調子が狂ってしまうみたいで、先ほどから俺の主張が一向に通っていない。このままでは勘違いされたまま事が収まってしまう!!

「あ、そういえば公君先生の所に挨拶に行った?」

「いや、まだですけど……」

「そう、じゃあ私が案内してあげる。いこ!!」

そう言って、勘違い女子生徒は俺の手を引っ張り走り出していく。

「ちょ、ちょっと?!」

「ほら、早く早く〜!!」

こうして俺は、見知らぬ女の子に連れて行かれるのだった。

……何故に?

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