過去にて(7)
「うーっす。ただいま」
家に帰ってきた俺は、いまだ律儀に掃除をしている奴にジュースの缶を投げてやる。
ヒョイ
パシ
うむ、我ながら見事なコントロールだ。
「おう、おかえり。随分と遅かったんだな」
プルトップを指で開け、缶を口元に運びながら浩之が告げる。
遅かった?ほんの十数分しか出ていなかったんだが。
「あれ、そうだっけ?なんか俺一ヶ月以上掃除しっぱなしだった気がするんだけど」
「……浩之さん。楽屋ネタは修正の対象ですよ?」
後から部屋に入ってきたセリオが俺の言おうとしたことを淡々と代弁してくれた。
「あれ、セリオ。なんでここに」
「なんかこの人が綾香のよこした助っ人なんだと。さっき玄関を出たらあった」
「なるほど。そいつはナイスな人選だな」
セリオを見ながらこくんこくんと頷く浩之。
ちなみにそのセリオさんはしゃがみ込み、床をじーっと見ている。
「……お二人とも」
首を上げ、色の無い視線をこちらにむける。
「拭き方が雑なようですね。まだかなりのよごれがこびり付いています」
「うっ、そうか?これでも結構気合いれてやった方なんだけどな」
「駄目だなー、藤田君は」
僕みたいにしっかりと掃除しないと。
こうきゅっきゅっってね。
「うっせー!!お前も似たようなもんだろうが!!セリオ、こっちも見てやってくれ」
そう言ってセリオを俺が拭いた地点へと導く。
「……」
じーっと点検するセリオ。
ああ、なんか嫌だなこの感じ。テストを返される前と同じ気分だ。
「……どっこいどっこい、というところでしょうか」
「な、なんだってー!!!」
セリオの応えに俺は、思わずM○Rっぽい叫び声を上げてしまった。
これでも、タマ姉に言われて自分で掃除とかはしていたんだ。
こんな幼馴染に頼っている奴なんかと同レベルな筈が無い!
無いったら無い!!
「ふ、これが現実というものだよ」
髪をふぁさーっとかきあげながら、えっらそうに藤田が言ってくれちゃったりした。
つーか、それ全然様になってねーのな。
なんの真似だよ。
「うちの学校にいる某金持ち君の真似。結構似てると思うぜ?」
「へー、そっちの学校そんな奴がいるんだ」
俺の周りにはいなかった人種なので少し興味がわく。
「ああ、金持ちで顔も良く、オマケに勉強もスポーツも出来るっていうスーパー超人だ」
「そりゃすげー」
なんかタマ姉みたいだな。
「だから女にはもてるが、その嫌みったらしさから男達からは嫌われてるんだ」
「まぁ、そんだけ凄ければ周りからいらん反感をかってもしかたないだろうなー」
「そうだな。そう考えるともてる奴も大変だ」
「まったくだ」
「……お二人とも」
はっはっはと笑いあってる俺達にセリオが呆れた声を投げかける。
「阿呆なお話をしていないでとっとと、掃除を再会してください。まだまだ汚いんですから」
今までの俺達の努力を台無しにする一言を吐くと、メイドロボ様は雑巾を片手に窓拭きに取り掛かる。
その手際はさすがの一言で、曇っていた窓ガラスに高速で光が戻ってくる。
たぶん触るとキュッキュッという音がするに違いない。
「はー、さすがセリオだな。マルチとは大違いだ」
藤田も関心しながらしきりに頷いている。
ん?マルチ?どこかで聞いた気がしないでもないんだが。
「……お二人とも」
三度目のセリオの呼び声。
窓ガラスを拭いているため、表情は読めないが声に些かの感情が含まれているので、今の気持ちは少しわかる。
つまり、怒っているというのだよ。
「……藤田君」
「……なんですか、河野君」
「セリオさんは怒らすと怖いかね?」
「無表情で、難しい言葉で攻めてきますな」
うわー、それはきついな。
ていうか知っている藤田は怒らせた事があるのだろうか?
「とりあえず掃除をしようか、河野君。もうあんなのは二度と勘弁してほしい」
「うむ、了解だ」
結構苦労しているんだな、藤田。
少し親近感が沸いた俺なのだった。
あとがき
セリオがやけに感情豊かという突っ込みは無しの方向で
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