過去にて(6)

 

 

「なぁ、河野。掃除を始めてからかなり時間がたった気がしないか?具体的には一ヶ月ぐらい」

「はっはっは。楽屋ネタはいかんぞ藤田。世界からの修正を受けてしまう」

「なんだよ、修正って?」

「ま、気にするな。それよりも手を動かせ手を。これじゃ今日中には終わらないぞ?」

綾香から渡された鍵。それで開いた部屋は長年の埃でかなり汚れていた。本当に全然使っていなかったという事が実感できる汚さだ。

それでいて電気もガスも水道もすぐ使えたのだから、基本料金は払い続けていたのだろう。

なんて無駄。

「にしてもなかなか落ちないなー。この床の汚れ。藤田、なんかいい方法知らないか?お前一人ぐらしなんだろ?いっちょ生活の知恵とか出してくれよ」

床と格闘する事に飽きてきた俺は、隣で同じように床を磨いている藤田に声をかける。

お前も一人暮らしだろうが!という突っ込みはスルーの方向で。

「あん?そんなの知らなねーよ。だいたい俺は掃除なんてあんまりしないからな」

「ほう、そうするとお前の家は単身赴任中のお父さんのアパートなみに汚いという事か」

まぁ、男の一人暮らしなんてそんなもんだ。藤田が真面目に掃除するタイプでないなんて事はわかっていたしな。

「違うっつーの。俺の家は、その、なんだ。幼馴染がいつも掃除してくれるんだよ」

頬をポリポリかきながら照れくさそうに言う藤田。

ほほう、幼馴染が掃除とな?……この野郎、中々羨ましい環境にいやがるな。少しからかうか。

「彼女が掃除してくれるとはねぇ。それは惚気ですか、藤田さん?」

「な!!あいつとはそんなんじゃねーよ!幼馴染って言っただろうが!!」

予想通り慌ててくれる藤田くん。こいつはホント、からかいがいがあって良い。

「でも、一人暮らしの男の家に掃除に来てくれる上、おいしい手料理までつくってくれるんだろ?これを恋人と呼ばないでなんと呼ぶのかね?うん?」

奴の方に近づきその肩をガシっとつかむ。空いている手で脇を突付くのも忘れていない。

「た、確かにあいつは掃除や、料理を作ってくれるけど、それは家族ぐるみの付き合いってやつでな……ってなんでおまえが料理の事知ってるんだよ!!」

「カマかけてみただけだよ。でも、本当に当たるとはな」

こいつ、自爆属性もあるようだ。こりゃ、綾香とかには相当からかわれているな。

……同情はしないけど。

「で?そんなことより料理のお味の方はどうなんだ?うまいか?」

「……まぁ、あいつはいつも俺好みの味付けにしてくれるからな」

その言葉は肯定の意味をもっている。

「ふう」

俺は藤田の肩から手を放し立ち上がり、スタスタと玄関の方に向かう

「お、おい。どこいくんだよ?」

「ん〜、ちょっと惚気話を聞かされてやる気がなくなったからな。外の空気でも吸ってくらー。十分ぐらいしたらもどるから」

振り返りながら俺はいった。

「の、惚気話ってお前……」

「はいはい、『まだ』恋人じゃないんだろ?わかってるって。休むための口実とかでも思ってくれればいいよ」

「……ったく、しょうがねーなー。すぐ戻って来いよ?」

息を吐きながら藤田が言う。

「了解ですよ、隊長」

そう言うと、俺は奴に背を向けて外へと出て行った。

 

「……ふぅ、幼馴染ねー」

ドアに寄りかかりながら俺は呟く。俺の幼馴染といえばこのみである。

今何してるんだろうあいつ。俺が消えた事をもう知っているだろうか?

「……ってそんな事考えても仕方ない、か」

俺に出来る事は先輩を信じて待つ、それだけだもんな。

「それじゃあジュースでも買いに行くか。ついでにあいつの分もな」

財布の中身を確認。……よし、金は大丈夫だな。最近出回りだした小銭は使えないだろうが、古いのも入ってるし何とかなるだろう。

「あ、そういえば俺自販機の場所しらねーや。……ま、その辺にあるだろう」

そう結論を出し、俺は歩き出す。

しかし、コツコツコツという誰かが階段を上る足音が聞こえてきたので歩みを止める。

「……ここ、他に誰か住んでるのか?」

住んでいるとすれば、きちんと挨拶をしなければならない。俺も暫くはここに住む事になるんだ。近所付き合いはあったほうがいいだろう。

そんな事を考えているうちに足音の主が姿を現した。

服装は寺女の制服。髪を腰の辺りまで伸ばした無表情な女性である。

背はタマ姉ほどあり、女性としては高い部類に属するだろう。その上スタイルもよい。

ただ、残念な事に耳に付けているなんだかよくわからないカバーが、少しバランスを乱している。

……うん?耳のカバー?

「少しお尋ねしたい事があるのですが?」

俺の思考は彼女の淡々とした声によって中断された。

「あ、はい。なんでしょう?」

「あなたが河野貴明様ですか?」

「え、そ、そうですけど」

見知らぬ女性に自分の名を言われ、少々戸惑ってしまう俺。

「そうですか。綾香お嬢様のおっしゃる通りでした」

「え、綾香だって?!」

今度は知人の名を告げられ、驚きが増してしまう。

しかし、そんな俺を無視し、彼女はペコリと頭を下げる。

「初めまして、河野貴明様。私、綾香お嬢様から河野様のお世話を任されたHMX-13セリオと申します。セリオとお呼びください」

なんて事をオレンジ色の髪をした女の子は言ってくれちゃうのだった。

 

つづく

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