一騒動

 

 

昼休みの屋上。

ここではスキル・校則無効化(限定)をもった水越姉妹が鍋フィールドを展開しており、それに純一が便乗させてもらっているといういつもの光景が広がっている。

……広がっているのだが、

「どうしたのよ、朝倉。なんか元気が無いじゃない……食べるペースは変わってないけど」

「うん、そうか?」

鍋の具をガツガツかきこんでいるもののその顔にはいつもの感じはなく、どことなく疲れの色が浮かび上がっていた。

「そうよ。なんか今日は朝から様子が変だったし、どうかしたの?」

「んー、眞子ぴーに言ってもなー」

折角心配してくれた悪友の顔を見て失礼にもはぁっと溜息をつき、また料理をかっこむ純一。

どうやら自棄食いのようである。

「何よ人が……って眞子ぴーとか言うな!!」

「あら、眞子ちゃん。可愛いと思うわよ?キツネさんみたいで」

頬に手を当てながらのほほん大王水越姉がおっとりと危険発言をする。

「お姉ちゃん!!世界の修正がきても知らないわよ?!」

「く〜〜」

「ご飯食べながら寝るなー!!」

そんな姉妹漫才が繰り広げられているなか、一人黙々と食べていた純一が

「まぁ、一人でかかえこむよりましか」

と呟き、顔を上げてツッコミの方に顔を向ける。

「おーい、眞子ぴー。叫んでばっかりいないで俺の話を聞いてくれよ」

「あんたが元凶でしょうが!!」

「実はな……」

「ああ、もうなんか勝手に話始めてるし!!」

「眞子ぴーちゃんは元気ね〜」

「お姉ちゃん、さり気に眞子ぴーを定着させようとしない!!」

なんだかもう大忙しな眞子であったがそんな事を気にしている余裕は今の純一にはなく、構わず言葉を続ける。

「音夢に彼氏ができたみたいなんだ、眞子ぴー」

「眞子ぴー言うなって言ってるでしょ!!……って今何て言った?!」

眉を吊り上げて純一を睨むが、すぐにその発言の重大さに気付き彼女の目がまん丸に見開かれる。

「眞子ぴー」

「その前だっつーの!!」

「音夢に彼氏ができたって言ったんだけど?」

「……」

事も何気に帰ってきた言葉に対し、眞子は何の反応もできずに固まってしまう。

しかしそれは一瞬だけで、次の瞬間にはカタカタと震えだしてしまった。

「眞子ぴー?」

「どうしたの眞子ぴーちゃん。プルプル震えちゃって?おトイレ?」

不思議そうに眞子を見る二人だが、姉の方の発言はちょっと的がずれている。

ここでいつもならビシッと突っ込むのだが、

「な、なんだってー!!!」

「……今更MRネタもどうかと思うぞ?」

「そうね〜、ちょ〜っと芸がないかしら?」

「そ、そんな事はどうでもいいのよ!!つーかなんであんたらはそんなに冷静なの?あの音夢に、あの超ブラコンな音夢に彼氏ができたってゆうのよ?これは大事件でしょうが!!」

「そうかー?音夢も年頃だし彼氏の一人や二人ぐらいできてもおかしくはないだろう?」

「そうですよねー、音夢ちゃん、眞子ぴーちゃんと違って可愛いから、そういう人も出来るでしょう」

柔和な笑みを浮かべながらもさらりと毒を吐く姉。

そんな彼女を妹は半眼で睨みつけ、

「お姉ちゃん、実はあたしの事嫌いでしょう?!」

「ふふふ」

「ああ、ちなみに付け足しておくと音夢はブラコンじゃないぞ?ちょっと兄思いが過ぎる妹なだけだ」

何気に訪れている姉妹仲の崩壊を丸っきり視線から除外し、純一は平然と自分の主張を述べた。

「そういうのをブラコンっていうのよ……って何かもう疲れたわ」

ぐったりとうなだれる眞子を一瞥し、「むむむ、やはり眞子じゃ駄目だったか」などと元凶にあるまじき失礼な事を脳内スクリーンに投影したあと、彼は残っている人物へ助言を求めるため口を開いた。

「それよりも先輩、聞きたい事があるだけど?」

「はい、なんでしょう?」

「もし妹が彼氏を家につれてきた場合、俺はどういう態度をとったらいいと思う?」

「うーん、そうですねー。私なら眞子ぴーちゃんに彼氏ができたら……」

「出来たら?」

ゆっくりと首を動かし、へたれている眞子の方を見る萌。それにつられて純一の視線も彼女へと移動する。

「あん、何よ」

こっち見るんじゃねーよとガン付けられるが、萌はニコッと笑うだけ。

そして顔を純一の方へ戻し清清しいまでの笑顔で、

「ノシつけて〜その方に上げちゃいますね〜。至らない妹ですがよろしく〜って(ニコッ)」

「お姉ちゃん!!流石にそれは酷くない?!」

あまりといえばあまりの言い草にガバチョ!!っと体を起こした眞子が姉に詰め寄る。

だが、詰め寄られた姉は少しも顔を変えず、否、その表情に少しだけ意地の悪い物を含ませ、

「あら〜、彼氏に朝倉君を想定したんだけど、それでも?」

妹の乙女心をクリティカルにえぐってやった。

「!!」

その口撃のダメージで顔の表面温度を一気カーッと上昇させてしまう眞子。もう真っ赤かの真っ赤かである。

もうここまでくれば彼女の気持ちなどばればれのばれまくりなのだが何せ相手は鈍感キング。

「はは、先輩ジョークはよしてくださいよ。俺結構真剣に聞いているんですから」

手をパタパタ振り、華麗にスルーしてみせるのだった。

「じょ、ジョーク……。ふっ、そうよね。朝倉にとってはジョークにしかならないか」

わかってたとはいえ、結構な衝撃をくらい地面に手をつきorzの姿勢をしている眞子。

「あらあら。でも朝倉君どうしてそういうことを聞くんですか?いつもなら〜『かったるい』の一言で済ませてしまうところですのに〜」

「いや、ほら、俺とあいつ二人だけの兄妹じゃないですか。それに二人で暮らし始めてからというもの、あいつの世話に成りっぱなしだったし。やっぱりここは兄としてしっかりとした態度を取るのがせめてもの妹孝行かなっと」

そう言った後で照れ隠しに頭を書く朝倉家長男。

彼は限りなく人、特に異性からの好意には鈍いくせに、こういう気配りは人一倍所有していたりするのだ。

そのマメさをもっと別の方面で発揮しろと小一時間ほど問い詰めたいところである。

もっとも今彼の目の前にいるお姉さんキャラは頬に手を当て

「妹さん思いなんですね〜」

とおっとり笑うだけであるが。

「ははは、そんな事ないですよ」

そんな朗らかに笑っている純一を見て何か思いついたのか、彼女はポンと手を叩き意見を提示する。

「では、妹さんを安心させてあげるというのはどうでしょう?」

 

その後……

「ちょっと兄さん!!これはどういうことですか?!」

家に帰るなり兄から『俺の彼女の萌センパイだ』と寝耳に水な説明を受けた音夢は目尻を吊り上げて怒りを大爆発させていた。

「え、どういうことって俺はお前を安心させようとだな……」

萌の考え、それは彼氏が出来た(らしい)妹に気を使わせないために自分も彼女を紹介するということだった。

「不束者ですが、よろしくお願いしますね?」

「にいさ〜ん?」

「ちょ、ちょっと音夢さん、六法全集はマジでしゃれになりませんってゲフ!!」

「あらあら大丈夫ですか〜」

 

「……あきれた」

事の詳細を聞いて音夢の口から最初に出たのがこの一言。

こめかみに指を押し当て、頭痛を押し殺すかのように顔を顰めている。

「あ、あきれたってなあ、兄ちゃんは、兄ちゃんは……」

六法の破壊力で出来たこぶを撫でつつ、いいわけじみた事を呟く兄貴。

「どうして私が男の人と歩いていただけでそういう発想に行き着くんですか!!」

「ついに音夢にも春が来たと思ってつい早とちりしちゃったんだよ!!」

「逆切れしないで下さい!!まったく、こんなできの悪い兄を残したまま、だれが恋愛事にうつつを抜かしていられると言うんですか?」

「……それは流石に酷くないか、マイ・シスター」

妹からの容赦ない一言を受けて一気に気落ちするヘタレな兄。

しかしそれでも手加減しないのがこのお方。

「これまでの自分の行動を振り返ってからそういう発言はしてください!!」

「……はい」

ガクッと肩を落として敗北宣言をする純一であった。

 

それからしばらくしてほとぼりも冷めた頃。

「……でもよ、音夢」

「……なんですか」

「本当に好きな人とかできたら、ちゃんと言えよ?俺、応援するからよ」

「……」

どこまでも鈍く、そして何処までも自分を思ってくれる優しい兄に対し、なんと言っていいかわからず押し黙る。

「それとも、やっぱり俺なんかには相談できないか?」

それを信頼がない為の行動と取ったのだろう。先程とは違い声に寂しさを含ませ穏やかに尋ねる純一。

「……兄さんは」

「ん?」

「兄さんは好きな人とかいない、の?」

「俺かー。うーん、そうだな今の所はこれといった人はいないかな」

「でも結構女の子と仲良さそうにしてるじゃないですか」

「そうか?」

のほほーんと答える兄に対し、ついつい沸点が低くなってしまう音夢。

「そうです!!だから私がいつも……」

「いつも?」

問われハッと我に返る。

ここで勢いに任せていってしまえば関係も多少なりとも変化があるかもしれないがそうはいかないのがこの兄妹。

結局口からついて出たのはいつもの怒ったときの声。

「な、なんでもありません!!それより兄さん!!この騒ぎの落とし前、どうつけてくれるつもりですか!!」

「落とし前ってお前……何処のヤクザだよ?」

「と、とにかく!!謝罪と賠償を要求します!!」

「お前、その物言いは流石に……」

「う、煩いですよ!兄さん!!とりあえず今度の休みは一日中私に付き合ってもらいますからね!!もちろん全て兄さんの奢りで!」

「あー、はいはい。全く、金がねぇっていうのに……」

頭をポリポリと掻き困ったような表情を作るが、すぐにまぁいいやと思い直す。

「ま、偶には妹孝行も悪くはないか。色々世話になってるからな」

「……」

「うん、どうした?」

「いえ、これなら暫くは問題ないかなって……」

「はぁ?」

「なんでもありません。それよりも、約束しましたからね。ちゃんと覚えててよ?」

「おう!兄の記憶力を信じろ!」

「それがあてにならないから念を押してるんじゃないですか」

「……信用ねぇな、俺」

「ええ、信用はありません。でも」

いつか私の気持ちに気付いてくれるって

「期待はしていますよ?兄さん?」

ニッコリと笑って言葉を紡ぐ音夢。

それに対して純一は「おう」と力強く頷くのであった。

 

 

おしまい

 

 

 

あとがき

DC2、面白そうだよね。何気に欲しいかなーっとか思っている今日この頃。

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